『…っく、……ひっ』




どうしても止まらない。止まれって思うのだけれども、こればかりは自分ではどうにもならない。

あ、別に泣いてるわけではないよ?これは誰しも一生に1回は必ずやる、所謂吃逆というもので決してシリアスな話じゃない。




彼此この吃逆が始まって3時間になる。
吃逆を100回すると死んでしまう。なんて噂があるがあれは嘘だ。此処に既に100回以上した人間が居る。そもそも世界には数億回吃逆をしたという人が居るらしい。


そんな話はどうでもよくて、いい加減に吃逆が止まってほしい。
さっきからすれ違う神託の盾兵がクスクス笑ってくる。いいよね、書類を書かなくてもいい普通の神託の盾兵はあんな兜被って、こういう時に顔が分からないから。



吃逆って本当に困るの、普通に喋れないし、六神将補佐なんて仕事やってると支障が出るし…

そんなに困るなら皆のお父さん、ラルゴに助けてもらえって?
残念ながら今日は任務でダアトにも居ないんだよ!
勿論リグレット達にも聞いたよ?
だけど駄目だった…、あれは駄目だった。



リグレットの場合…

「吃逆が止まらない?……驚かせば治ると聞いたな」


さすがリグレット!と言おうとしたが叶わなかった。
大きな銃声と共に弾丸が私の真横を掠めていったからだ。


「どうだ?驚いたか?」


自信に満ちたリグレットに対し、私は恐怖のあまり首を上下に振るしかなかった。


『…ひっく……っ』


恐怖もあり、驚きもあったがリグレットの策は失敗した。


アリエッタの場合…

アリエッタのペットに聞いてくれるらしい。魔物は人間より多くの事を知っているかもしれない。


「ナマエ、殴られれば治る、です」


確かに魔物は人間以上の事を知っていた。殴られれば治るなんて初耳だ。
アリエッタのパンチなら弱くて可愛らしいだろうがきっと治らない。かといって魔物に殴られるとなると、運が悪ければ死ぬかもしれない。


アッシュとディストは……
2人共別の意味で怖いから嫌だ。



こうなると残るは1人しかいない。私が最も今会いたくない人物。

その人物の部屋の前まで来ると、ドアノブに手をかける。会いたくないはないけど、このまま吃逆が止まらないというのも困るので仕方がない。
意を決してドアをノックし、入室許可を得て部屋に入る。




「吃逆が止まらないんだって?アリエッタから聞いたよ、御愁傷様」


アリエッタ…!
いかにも人を嘲笑うような態度で接してくるシンク。
仮面で顔全体は見えないけど、唯一見える口角が上がっている。



「治してあげようか?」


すくっと座っていた椅子から立ち上がり、私の方へと近付いてくる。
その際、何故かいつも付けている仮面を外して。


シンクが私の目の前に立つと、手を振り上げた。
ふと“殴られれば治る”というアリエッタの発言が頭を過る。
勿論殴られたくない私は後退るが、シンクの振り上げていない方の腕を背中に回され逆に密着してしまった。

来るべき衝撃に備えて眼を堅く閉じると、振り上げていたはずの腕で後頭部を固定された。それに驚いていると唇に温かいものが触れた。



『…んっ』

「治ったでしょ」

『…………』



シンクと唇を重ねたことに驚き過ぎてシンクの問いに答えられなかった。
体感で数時間、実際は約1分だけども。
今はきっと顔が赤いだろう。



「その顔は、もう1回?」

『へっ?!あ、ぇ?』



よくよく考えてみれば吃逆が治っている。けれどもそれとこれとは別だ。この美形シンクに流されるな、自分!しかもまだ密着している…。



『…シンク、離して』

「駄目」

『はぁ!?』

「治してあげたんだから、ご褒美。まだ貰ってない」



ご褒美はナマエで、耳元で囁かれた私はせっかく平静を装っていたのに前以上に赤くなってしまった。



No matter what I tried,I could not get rid of my hiccups.
 




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