ガラガラッと教室のドアを開け、何処かで服を大量に買って来た女性のように、両手に大きい紙袋を提げて入って来たのはジェイド先生。
普段なら荷物に愚痴を零しているが、今回はそんな事はなかった。
「皆さん、昨日はよくやりましたね。約束通り、プリンですよ」
ジェイドは床に紙袋を置き、プリンの名称をあげながら教卓の上に並べた。
プリンは焼きプリン、練乳プリン、コーヒープリン、クリームの乗ったイチゴプリン、此方もクリームの乗ったカスタードプリンの計5種類。
何故ジェイドがクラス全員にプリンを呉れるのかというと、昨日クラス対抗の大会があって、それに俺達は見事優勝、ジェイドとは優勝したら皆にプリンを奢るという約束をしていた。
「コーヒープリンって苦そうだよね…」
斜め前の席に座っているナマエが腕を組み、眉間に皺を寄せて呟いた。
「ガイはどれにする?」
参考にね、と付け加えたナマエ。大方コーヒープリン以外で迷っているのだろう。
「俺はカスタードプリンかな」
「じゃあイチゴプリンにしようかな…」
「そろそろ決めますよー、イチゴプリンの人」
頃合いを見計らったジェイドがプリンの名称を言い、それがいい人は手を挙げる。
最初はイチゴプリンだからナマエだ。そんな彼女は何時にも増して腕を真っ直ぐにしていて、元気に笑っていた。
イチゴプリンは5個だったが、手を挙げた人は4人でナマエは無事にイチゴプリンを貰えた。
「最後にカスタードプリン…、ジャンケンで6人決めなさい」
生憎俺の場合、カスタードプリンを選んだ人は8人で勝てそうだったが負けた。
自分の運の悪さを呪いつつ席に戻るとナマエが励ましてくれた。
「ティアも負けたんだ、どれにするの?」
「まだ決めてないわ」
目尻を下げ、物惜しそうに焼きプリンを眺める。
「ガイは?」
「俺もまだだ」
「じゃあ私と一緒にしようよ。丁度1個残ってるし」
お揃いだね、と微笑みながら言うナマエは天使のようで、俺の頬は熱くなった。
「ジャンケンで負けた人、取りに来なさい。因みに早い者勝ちですよ」
語尾にハートでも付きそうなジェイドに若干引きつつも、ナマエと同じプリンを食べたいが為に一番乗りで教卓に着いた。
イチゴプリンの場所を確認するすると、ティアがやって来た。ティアは何の迷いも無く、1つのプリンを持ち去っていった。
「ナマエと一緒にしたのよ!」
「うん、良かったね」
余りの速さに唖然としているとそんな2人の会話が聞こえてきた。
ナマエと同じ、それはつまりイチゴプリンという事だ。
嘘であってほしいと願いながらイチゴプリンのあるはずの場所を見ると、既に無かった。
「ガイはどれにしたの?」
「練乳プリン…」
「それも美味しそうだね」
ナマエがプリンの事を褒めるも、今の俺には届かない。
自分の運の無さに情けなくなってくる。
ナマエはまじまじと俺のプリンを見つめ、顎に手を置き、何か考えているようだった。
「ねぇ、ガイ。分けない?」
「安心して?ガイが食べる分は全部私が食べさせてあげるから!」
「ぅ…ん?」
両手を握りしめているナマエは今の俺の言葉を了承と受け取ったのか、俺のプリン封を開けた。既に配られていた小さなスプーンでプリンを掬い、俺に向けた。
「はい、あーん」
俺はされるがままに差し出されたプリンを食べる。
ふと我に返った俺はナマエから後退る。その時椅子を大きな音を立てて倒してしまい、クラスの注目を浴びてしまった。
「どうしたの?」
勝手に俺が椅子を倒したのを不思議そうにして、再びプリンを掬って俺に向けた。
そんな光景を最後まで見られていた俺にはプリンの味なんて分からなかったし、ナマエが何かを言っていても正面な返事が出来なかった。
敢えて言うならば、ずっと思い続けてきたナマエに食べさせてもらえたのは天へ羽ばたきそうな思いだった。