※捏造過多注意








目を閉じれば、瞼の裏に映るのはいつだって赤と橙の光景。

全てを焼きつくそうとせんばかりの勢いで炎が全てを燃やしていく。それが、自身に残された唯一の記憶である。
他には何も覚えていない。元々は誰の腰に居たのか、自分は何処で産まれたのか、当然ある筈の記憶が残っていない。
炎の記憶だけが、自身が焼かれてしまったということを案に仄めかしていた。


人の身を授かり幾日か過ぎても尚記憶は曖昧で、時折、そんな唯一の記憶である炎が広がる光景を夢に見る。
そこには臭いや音、温度はなく、あるのは轟々と揺らぐ炎と飛び散る火の粉が見えるだけであるが、その炎が、光景が、全てが恐ろしい。数百年と経った尚も消えない焼けることへの恐怖。
せっかく人の体を得ても、夢というのは身動きが出来ないらしい、相変わらず逃げることも出来ぬまま燃えていくのを眺めているしかなかった。




「…ばみ、骨喰、大丈夫?」

誰かの自分の名前を呼ぶ声が意識を現実へと呼び覚ます。

「ん……。」
夢の余韻なのか荒くなった呼吸に苛立ちを覚え、思わず顔をしかめながら重い瞼を持ち上げると、自分のものとそっくりな深い藍色の瞳とかち合った。

「なま、ずお…?」
「うん、俺だよ。苦しそうにしていたけど大丈夫?」
心配そうに下げる眉に骨喰は返事の代わりに数回瞬きをし、一度しっかりと鯰尾の顔を捉えると安堵したように落ちてくる瞼に抗うことなく目を閉じた。
「……ほらほら、また寝ようとしない、起きて、骨喰。」
相変わらず寝坊助だな、そう笑って骨喰の頬を撫でる鯰尾の手は刀を握る手とは思えぬほど優しいものだった。
世話好きな彼はいつもこうして記憶がない骨喰の世話を焼く。聞く所によると彼も記憶が一部ないらしいが、それを感じさせぬほどの前向きさが彼には備わっており、それが骨喰には少し羨ましく映った。

「………夢を、見たんだ。焼ける夢を。」
掠れた声で呟いた言葉は存分弱々しくて幼子のようだと自覚する。







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