小説 | ナノ


01





まあ、前回は色々と暴動が起こりましたが、それもなんとか治まって、いよいよこれから午前の目玉“騎馬戦”の始まりです!
我が校の“騎馬戦”はA・B・Cそれぞれの女子は全員参加で、土台に男子3人を用意し、騎馬を組ませてその上に女子が乗り違う組の女子がつけたハチマキを奪い合うというモノだ。

ルールは至ってカンタン。
アナウンスによる「始め」の言葉で、一斉にそれぞれの陣地からスタートする。
後は、またアナウンスから「終了」の言葉がかかるまでハチマキを取り合い、結果的に1番多くハチマキを取った組が勝利する。
なお、総大将のハチマキを取られた組は、どんなに多くハチマキを取っていても、その時点で失格とされる。

「と、いうワケで、いざ出陣!!」
「何が「いざ出陣」だ! これ完璧オレ達が総攻撃受けるに決まってるだろ!! 下手に動いたらお前が真っ先にハチマキ取られるわ!!!」

まあ、なんてキレの良いツッコミでしょう。
なんてちょっと感心しながら、私は前にいる綱吉を見下ろした。

たしかに、綱吉の言う事はもっともだ。
前回B・C組の怒りを勝った私達は、間違いなくその2組に総攻撃されるだろう。
そして、総大将である私のハチマキを奪えばその時点でA組は敗退。総大将のハチマキを取られた組は0点どころか50点減点されるので、優勝出来る可能性はほぼ皆無。
だから、私が特にハチマキを奪うターゲットになるのは当たり前だ。

「でも私、総合的にはどうであれ、自分が出場する競技は絶対負けたくないの。大丈夫。ハチマキは取られないし、騎馬戦に勝つのもA組よ」
「そーゆーことじゃなくて…」
「?」

綱吉を見ながらにっこり笑って言い切ると、綱吉は首をふって「違う」と言った。さらに呆れたようにため息をつかれると、なんだかちょっと不安になってくる。

「何が違うの……?」
「………オレが言いたいのは、勝つか負けかは問題じゃなくて、初音がケガするかしないかっていのが問題ってこと」
「へ……?」

意味がよくわからなくて、きょとんとして綱吉を見ると、綱吉は顔を段々赤くしながら言った。

「だからっ……初音は女の子なんだから、顔とかにケガしたら大変だろ?勝つ負ける以前にそっちを気にしろよ」

びっくりして目を見開くと、綱吉が赤い顔して私を見上げて「何だよ」と少し不機嫌に言った。
…………優しいなぁ、この子は。
この子は何時だって仲間を優先する。仲間が傷つくくらいなら、勝利なんか要らないって考えてる。
優しい、優しすぎる、聖者のような子。
こんな純粋な子に、マフィアなんて血塗られた場所は似合わない。
もっと、綺麗なトコロで生きてほしい。
前にリボーンにそんな事を言ったら、リボーンは「だからこそ」と言った。

何と無く理由は解る。
だけど、やっぱりイヤだ。
マフィアが具体的にどんな事をするかは知らない。解らない。
―――――だけど、綱吉の為になら、私はいくらでも彼の身代わりになる。

この子に血は似合わない。
血生臭い所じゃなくて、そんなのとは無縁の、平和な所で暮らしてほしい。
ボンゴレのボスなんか、XANXUSがやればいい。
お願いだから、この子をそんな世界に巻き込まないで。
この子が何よりも大切で、愛しい。
私の世界に色をくれた、愛しい子。

「…………? ちょっと初音、解った?」
「うん、解ったよ。自分の安全を最優先にする」

そう言って笑って、綱吉にぎゅっと抱き着く。なんか照れて暴れてるけど、それは無視の方向で。
まあとりあえず、まずは騎馬戦に勝たなくっちゃね。




〔それでは、これより午前最後の種目、“騎馬戦”を開始します。よーい…………開始!!!〕

それと同時に、思いっきり鳴るホイッスル。
さらにそれに続くように走りだす全校生徒の女子と、その下で騎馬を組む男子達。そして、もちろん私達も。

「よっし! 先手必勝どんどん行くよー!!」
「お前オレの言ってるコト全然解ってないだろ!!!」

綱吉の肩に手を置いて言うと、早速綱吉にツッコミを入れられた。

「解ってるよ。でもどんなに気をつけたって、私が総攻撃にあうのは避けられないんだから、ただ黙ってやられるよりは多少なりとも攻撃した後にやられる方がスカッとするじゃない」
「お前なぁ……」
「まあまあ。それより来るよ、綱吉」

ぽんぽんと肩を叩いて前を向かせると、そこには砂埃を立てながら走ってくる騎馬達がいた。

「キャー―――――!!!」
「ほら、早く行かなくっちゃ。獲物がわざわざ自分から来てくれてるのよ?」
「アレ獲物ととりますか!! いやいやムリだって逃げよーよ!!」
「なーに言ってるの。逃げたってすぐに追いつかれるよ。さぁさぁ行くわよ3人共!! 飛んで火に入る夏の虫とは正にこの事!」
「いやだぁぁぁぁぁあぁあ!!!」

半泣きで叫ぶ綱吉を見てひそかに笑うと、しっかり前を見て戦闘態勢に入った。
ドドドドド…と地響きと共に来るB・C組を前に、じっと見ながら構えた。

「いけェェェェェ!!!」
「A組の総大将をぶっつぶせぇぇぇぇぇ!!!」
「おお、大量大量」

組まれた腕の上に正座して(靴は脱いである)、綱吉の肩に手を置いて身を乗り出した。
そのままちょっとだけ屈んで、綱吉にそっと耳打ちする。

「……じゃあ、行くよ」

後ろを振り向くと、隼人と山本くんが頷いた。
それを確認してから、私達に向かって来る騎馬を見て、組まれた腕から跳び上がった。
1番近くにいた騎馬に着地すると、その上に座っている女子のハチマキをバッと奪う。

「えっ!?」
「ごめんね、これ貰うよ」

Cと書かれたハチマキをひらひらさせながら苦笑して言うと、また違う騎馬に乗り移る。

「わっ」
「きゃっ」
「ああっ」
〔おおっ! A組総大将が、物凄い勢いで敵のハチマキを奪い取って行くー―――!!〕
「ごめんねーっ。私総大将だから、そー簡単に負けるワケにはいかないのよーっ」
「よく言うよ。総大将なんて関係無いくせに」

一塊になっていた所のハチマキを一通り取った後、また自分の騎馬に戻ると、綱吉が不機嫌そうに目を細めてボソリと呟いた。

「そんな怖い顔しないでよ。どのみち勝ち残らないと色々困るじゃない」
「負けちまったら意味ねーもんな」
「そうそう、その通りよ山本くん。勝たなきゃ戦う意味がないわ」
「あーはいはいそーですね」

心底呆れたようにため息をついた綱吉を見て、クスリと笑う。
敗者の末路なんて、フルボッコに決まってる。でもそれは勘弁願いたい。私痛いの嫌いだし。

「勝つしか生き残る道は無いのよ、綱吉くん」
「はいはい」

軽口を叩きながら進んでいると、目の前に来た的に目を見開いた。

「んなー―――!?」
「うわっ。何コレ……」

多分相撲部の人達だと思うんだけど………。
目の前には、達磨みたいな体形をした男子が騎馬を組んでいて、その上に小柄な少女がちょこんと乗っていた。

「ほら初音……早くハチマキ取りに行けば? っていうか取りに行ってください」
「いや…その…個人的にあーゆー人には近づきたくないっていうか……」

目の前の男子3人を見てひくりと頬が引き攣る。何て言うか…近寄りたくない。うん。切実に。

「んなコト言ってる場合じゃないって! 早くしないと囲まれるよ!!」
「10代目…もう既に囲まれてます」
「うそー――!?」

隼人の言葉に慌てて周りを見渡すと、なるほどたしかに囲まれてる。四方八方見渡せば周りはB・Cと敵だらけ。今にも飛び掛からん勢いだ。

「…………山本くん、B・Cの総大将、いる?」
「おう。あそことあそこ。勝てるって思って見物してるって感じだな」
「なーる」

無用心なことだ。私さえ捕まえれば全て終わるのは確かだけど、私は自他共に(特に綱吉が)認める筋金入りの負けず嫌いなのだ。
とりあえずまずは…あの達磨3兄弟みたいな騎馬さんから行きますか。

「さぁて……行っくよーっ!」
「はいよ」
「了解っ」
「ちっ……」

上から綱吉、山本くん、隼人と了承と取れる返信が返ってくる。
隼人には舌打ちされたけど、まあ聞かなかった事にしよう。

「3人共、足狙って!」

その言葉に、綱吉はこっくりと頷く。
次いで彼から発せられる「せーのっ」の掛け声で、私を乗せた騎馬が動き出した。
そしてあの達磨3兄弟騎馬に近づき、隼人と山本くんが正確に3人の足を蹴って転ばせ、騎馬を壊した。

〔おおー――――っと! ここで、絶体絶命と思われたA組総大将反撃に出たーっ!!まずは相撲部の「達磨3兄弟」と恐れられる3人が組んだ騎馬を破壊!さて、彼女達が次に狙うのはB・Cの総大将か!?〕
「もち、あたぼーよ」

熱く語る実況者の声を聞きながらにんまりと笑う。
ていうか、あの3人のあだ名本当に「達磨3兄弟」だったんだ……。

「さあ皆、2つの大将一気に叩くよ! 走って走って!!」

私が大声でそう言うと、両総大将(が乗ってる騎馬)は慌てたように逃げ出そうとしたが、周りに騎馬が多すぎて上手く進めないみたいだ。

「(ふふーん…チャンスとーらーい♪)」
「うわ、悪そーな顔っ」
「うっさい。………っと、ちょっとゴメン肩借りるよ」
「ハッ!? ちょおっ………!」

B・C総大将を見ながらにんまり笑っていると、綱吉の言葉にべっと舌をだしてから、気持ちを切り替えると綱吉の肩をバネにして思いっきり跳んだ。

〔おおっと、これは高い、高いぞ桜龍寺!!まるで空中を飛んでいるかのように優雅に舞うっ!!!〕
「一々うるさいなぁ解説の人」

イヤに耳に響く実況者の声に眉を寄せる。
いや、実況するには調度良い高さだとは思うよ? 将来はサッカーの実況中継者にでもなればいいんじゃないかな。

なんて事を思いながら、新体操を意識して空中で一回転し体勢を整えてB組の総大将の所へ降り立つ。

「もーらった……!」
〔っ!? なんと! 華麗に宙を舞っていたと思えば次の瞬間B組総大将のハチマキをゲー―――ット!!! 素晴らしい…いや凄まじいぞ桜龍寺 初音ー―――――!!!
なお、B組は総大将がハチマキを取られてしまったので、現時点をもってして失格とされます。他の組の勝負の邪魔をしないよう速やかに退場して下さい!!〕

何が起きたか解らないといったように呆然と辺りを見る私と綱吉達を覗くA・B・C組。ハチマキを取られたB組の総大将ですら、訳が解らないという顔をしてぼーっと私の顔を見つめている。
実況者の声を聞いてようやく何が起きたのか理解出来たらしく、あちらこちらで「よっしゃー」とか「ウソーっ」等の声が聞こえてくる。

このままC組の総大将のハチマキも頂いてしまおうと、さっきと同じようにその辺にいた男子生徒の肩を踏み台にして跳ぶ。

「初音ちゃーん頑張ってー!」
「はーい!」

にこにこと笑って大きく手をふる京子を見つけて、にこやかに笑いながら返事をした。
そして、C組総大将の目の前に降りて、にーっこりと笑う。

「では、頂戴致します」

合掌してそう言ってから、カチンと固まっている総大将の頭からハチマキを取った。
それから、少しばかり沈黙が起こる。

〔しゅ…終了ぉぉぉー――――!!!B組総大将と同じく、C組総大将もあっという間にハチマキを奪い取られてしまいました!!
この勝負に勝ったのは…A組!! スゴいぞA組!! スゴいぞ総大将ー――――!!!〕

実況者の言葉で沈黙は終わり、そのかわりわっと校庭中に歓声が沸き起こった。私は騎馬の海から降りて、綱吉に走って抱き着いた。そりゃあもぉ思いっきり。

「きゃー――っ。綱吉、勝ったよ勝った!!」
「なっちょっ! 離れろって!」

じたじたと動く綱吉を無視して、さらにきゅうきゅうと抱き着く。

〔A組の総大将ー! こちらに来て下さーい!!〕
「ちっ」
「黒っ!!」

いいとこだったのに。
実況者の声に舌打ちして綱吉から離れると、言われた通り実況者のいる所へ行った。

〔おめでとうごさいます桜龍寺さん!! 最後に、敵に周りを固められた状況でありながら、何故諦めなかったのかを教えて下さい!!〕
「(え、そーゆーの言わなくちゃいけないんだ…)えっと、負け戦(イクサ)にはしたくなかったからです」

実況者にいきなりマイクを向けられ戸惑いながらも、笑顔でそう言い切った。











午前の競技は全て終わり、今はお昼休み中だ。

「初音ちゃん、ベリービューティフルでしたっ! ハルもーどっきどきです!!」
「はいはい、ありがとうねハル」

きゅうきゅうと私の首に腕を回して抱き着くハルに苦笑して、彼女の肩を軽く叩いた。

「とりあえず、ご飯を食べなさい。せっかくの奈々さんのお弁当がもったいないでしょ」
「はひ、解りました! いただきまーす!」

そう言うと、私からパッと離れてお弁当を食べ始めた。
まったく、切り替えが早いねこの子は。

並中のグランドの一角に茣蓙をひいて、その上に沢田家、私、ハル、リボーン、ビアンキ、ランボで座って昼食をとっているのだが、いかんせん周りの視線のせいで落ち着いて食事がとれない。
もぐもぐと奈々さん特製のだし巻卵を咀嚼しながら周りの視線耐えていると、ハルが急に立ち上がり、ちらちらとこっちを見ている男子生徒を仁王立ちしながら睨みつけた。

「何なんですかあなた達! さっきからジロジロ見て!!」
「まったくもって彼女の言う通りですわ。身の程を弁えなさい」

ハルの後を次ぐように発っせられた、どこか威圧感のある声。
その声に振り向いて、その声の主を見て綱吉と一緒に目を見開いた。
きゅっと引き締まって整った顔、キレイな金髪に見覚えのありすぎるボリュームのあるポニーテールとその毛先と前髪につくタテロール。

「「…や、山吹先輩……」」

その完成された顔と髪に、体操服がまったくと言っていい程似合ってない。
彼女、山吹 山茶花先輩は、ハルと同じく仁王立ちをし腕を組み、威風堂々といった感じで言い放った。

「このわたくしの可愛い可愛い後輩達に、その不躾な視線を向けるのをお止めなさい。さもなければ、あなた方に荒療治を施さねばなりませんわ」

そしてギロリと周囲に向けられる先輩の目。
その眼力に圧されるようにして、野次馬達が去って行った。

「えと…あ、ありがとうございます。山吹先輩……」
「いいえ、礼には及びません。この山吹 山茶花、愛しいあなた方の為ならば、たとえ悪にだってなってやりますわ。桜龍寺 初音さん」
「はあ………」

半ば呆然として、自信あり気に笑う先輩を見上げた。「方」ということは、綱吉も入っているんだろう。

「皆川」
「はっ」

先輩が一言呼び掛けると、スッと彼女の後ろに黒髪の前髪を綺麗に切り揃えられたいかにも和風美人そうな女子生徒がどこからともなくやって来た。