小説 | ナノ


忠犬ボーイ





「イタリアに留学していた、転入生の獄寺隼人君だ」

球技大会から数日、やっと獄寺隼人がやって来た。
女の子達が帰国子女だなんだと騒いでいるが、私ははっきり言ってそんなのどーでも良い。たしかに顔は良いけど………。
ちなみに、綱吉はその言葉を聞いて、慌てて京子の方を向いている。それにまた、何故かズキリと胸が痛んだ。

「獄寺君の席はあそこの…獄寺君?」

先生が席に案内しようとしたが、何を思ったかズンズンと綱吉の所へ行き、ガン、と思いきり綱吉の机を蹴り上げた。

「(なにすんだよっ、目があっただけじゃないか!)」

そのまま獄寺は通り過ぎようとしたけど、私がそれを許さず、がし、とその腕を掴んだ。(私の席は綱吉の隣なのだ)

「ああ゛? 何しやがる」
「「何しやがる」はこっちのセリフよ。いきなり彼の机蹴り上げてそれはないんじゃない?悪い事をしたらその人に謝る。これ、世界共通の常識よ」

軽く笑って(でも目は笑ってない)、さらに手に力を込めると、チッと舌打ちし、無理矢理腕を引き離して席に着いた。

「ったく、何だよあの転入生。感じ悪いなー」
「本当よね。身の程を弁えろっての」
「…初音、それちょっと違う……」

休み時間、気分転換に綱吉と獄寺(もーフルネームで言うのめんどくなった)の愚痴を言いながら廊下を歩いていた。

「でも初音、さっきみたいなのはダメだよ?」
「へ? さっきのって?」
「ほら、転入生がオレの机蹴り上げた後、腕掴んだでしょ? あんな事したら、目ー付けられちゃうかもしれないじゃん」
「ああその事? だーいじょうぶ。私これでも義兄に鍛えられてるから、結構強いのよ?」
「そういう問題じゃ無いよ…(お兄さん…?)」

そう話しながら歩いていると、誰かにぶつかってしまった。

「おーいて、骨折したまったかも」

何かキモい顔した人が3人いた。

「(んげ〜〜っ、3年の不良だーー!!)」
「(ムカ)ちょっとぶつかったくらいで骨が折れるなんて、どんだけ骨脆いんですか? もっとカルシウムとった方がいいですよ」
「ちょっ、初音…!! ごめんなさい! ごめんなさい! 本っ当すみません!!」

そう言って私の首根っこ掴んだと思ったら、それはもう常日頃ダメツナと呼ばれている人間かと疑うくらい素晴らしいスピードで中庭に移った。

「ったくもう! ダメだろ!? 不良なんかに突っ掛かっちゃ。それこそ目ぇ付けられるよ!!」
「…むう。だって……」
「「だって」じゃない!」
「はあい……」

渋々頷くと、何処からか声が聞こえてきた。

「目に余るやわさだぜ」
「! き…君は転入生の…!」
「………(むっ)」

綱吉の悪口に、獄寺を睨んでいると、獄寺はジッポで煙草に火を付けた。
綱吉がその今まさに一服しそうな様子に急いで立ち去ろうとするが、「10代目」という言葉に足をとめた。

「え!? なんでファミリーのことを!」

驚いて聞き返す綱吉。
というか、ファミリーって言ってるけど、君はボスにはなりたくなかったんじゃ無かったのか。

「オレはお前を認めねぇ。10代目に相応しいのはこのオレだ!!」
「な!?」

驚く綱吉、眉を寄せる私。
てかあれ、私マフィアとか知らない事になってるのに大丈夫なのかな?

なんて1人考えると、獄寺があろう事か綱吉に向かってダイナマイトを投げやがった。
それには流石に慌てて前に出て火を消そうとすると、一発の弾がダイナマイトの導火線の火を消した。

「ちゃおっス」

その声に振り向くと、やっぱりと言うか何と言うか、リボーンが居た。

「リボーン!」
「思ったより早かったな、獄寺隼人」

綱吉は驚いて声を上げたが、リボーンはそれを軽く無視して獄寺に話し掛けた。

「あんたが9代目が最も信頼する殺し屋、リボーンか。沢田を殺れば、オレが10代目内定だというのは本当だろうな」
「はぁ?何言って…」

綱吉はそんなはず無いと言う風に言ったが、リボーンはそれを肯定した。
が、それは最初から綱吉を殺そうとした訳でわなく、戦えと言う事らしい。
それに慌てて逃げようとしたが、獄寺に先回りされてしまった。
そのまま大量の煙草をくわえ火を付け、その火から大量のダイナマイトに火を付けた。

「獄寺隼人は体のいたる所にダイナマイトを隠し持った人間爆撃機だって話だぞ。又の名を、スモーキン・ボム隼人」
「そ! そんなの尚更冗談じゃないよ!!」
「リボーン、大丈夫なの?」

獄寺の攻撃から必死に逃げている綱吉を見ながら、リボーンに問い掛けた。

「ああ、大丈夫だぞ。もしもの場合はダメっつってもお前が助けるだろうからな」
「当たり前でしょ? もしもの時は…」

そういいながら、セーターの内側に忍ばせてある“得物”に手を伸ばそうとすると、何故かリボーンに制された。

「まて、それを使うのは禁止だぞ」
「は?」

おいおいリボーン君、君は一体何を言っちゃってんの? みたいな視線を向けていると、リボーンが説明してくれた。

「お前、トリップ初日に淡い桜色の扇と金色の子狐を拾ったっつってたよな」
「うん。一応扇は毎日スカートのポケットに入れてあるし、子狐は授業以外は殆ど私の肩に乗っかってるよ」

一応この子の名前は目が綺麗な瑠璃色をしているのでルリと名付けていて、何故か懐かれてしまい、気が付くと何時も私の肩に乗っかってる。
ちなみに、扇は伸縮自在になっているので、何時も12、3pぐらいの大きさにしてポケットに入れている。
それが何? と聞くと、意外にもちゃんと答えてくれた。

「その扇は、きっと何時か必要不可欠な時が来るはずだ。
だから、しばらくはそのセーターの内側に忍ばせてあるモノじゃなく、扇を使え」
「…? うん」

と、リボーンと話して居ると、不意にリボーンが「そろそろだな」と言って、レオンを銃に変形させた。
見ると、ちょうど綱吉が壁に追い込まれている所だった。

「死ぬ気で戦え」

そう言った瞬間、綱吉は後ろに倒れ、完全に倒れる前にグンッ、とシャツが引っ張られた。

「リ・ボーン!!! 死ぬ気で消火活動!!!」

最早聞き慣れた台詞を叫び、獄寺が投げたダイナマイトの導火線の火を次々と消して行った。
それにしても、死ぬ気になってまでしようと思う事が彼を倒す事じゃなくてダイナマイトの日を消す事だなんて、つくづく優しい子だね。私にはとても真似出来ないよ。

「なっ、2倍ボム!」

これには驚いたのか、さっき投げた倍の数のダイナマイトを綱吉に向けて投げるが、また綱吉に消されてしまう。
それに更に焦り、「3倍ボム」と3倍の数のダイナマイトを持つが、手が滑ったのかダイナマイトを1つ落としてしまい、それがきっかけとなり、火の着いたダイナマイトを全部落としてしまった。

「しまっ(ジ・エンド・俺…)」

が、その落としたダイナマイトも綱吉が消し始め、全部消し終わった時ちょうど綱吉の額の炎が消えた。

「はぁ〜、なんとか助かった〜〜」
「大丈夫? 綱吉、怪我とか無い?」
「うん。…あっ(そういえば、初音マフィアの事なんて知らないじゃん!!)」

何を考えているか分かりやすすぎる顔をしている綱吉に苦笑していると、後ろから膝をつく音がした。

「御見逸れしました! あなたこそボスにふさわしい!!!」
「!?」

綱吉は突然の事にビクッと肩を震わせ、私は口角を少し吊り上げる。

「10代目!! あなたについていきます!! なんなりと申し付けください!!」
「はぁ!??」

訳が分からないという顔をする綱吉にリボーンが説明する。

「負けた奴が勝った奴の下につくのがファミリーの掟だ」
「ええ゛!!?」
「良かったね、綱吉」
「全然良くないよ!! って……」
「言い忘れていたが、初音はマフィアの事もボンゴレの事も全部知っているぞ」
「ぇえ!? そうなの!?」
「うん」

しまったと言う顔の綱吉にまたリボーンが説明して私がにっこりと笑って頷くと、綱吉は目を見開いた。
が、獄寺は空気を読まず、そのまま私事情を話し出した。

「オレは最初から10代目ボスになろうなんて大それた事考えていません。ただ10代目がオレと同い年の日本人だと知って、どーしても実力を試して見たかったんです……でもあなたはオレの想像を超えていた! オレのために身を挺してくれたあなたに、オレの命預けます!」
「そんなっ、困るって命とか……。ふ…普通にクラスメートで良いんじゃないかな?」
「そーはいきません!」
「ひっ(こ…怖くて言い返せない。つーか何なのこの状況って…)」

綱吉が獄寺のいきなりの変わり身の早さに驚き、なんとか部下を止めさせようとしたが、多分無自覚だろうが獄寺に睨まれてしまい、怯えてしまった。

「綱吉、獄寺君が部下になったのは綱吉の力なんだよ。凄いじゃない」
「な、何言ってんだよ! 困るよ〜〜〜っ」
「ふふっ、まぁ何とかなるよ。…で、獄寺隼人くん」

困った顔する綱吉に微笑むと、獄寺の方を向いた。

「あ? 何だよ」

不審そうな顔をする彼に、朗らかに笑ったまま一言。

「とりあえず、1発殴らせなさい」
「は?何でんなこ……だっ!!」

返事も待たずに、私は思いっきり獄寺の頬をぶっ叩いた(ちなみに平手打ち)。
赤くなった頬をおさえて眼を丸くする獄寺に、笑顔を取っ払って言い募る。

「貴方は今はもう違うとはいえ、1度は綱吉に敵意を見せた。それは、今は本当に無いのね?」
「ったりめーだ。オレは今この時から死ぬまで、一生10代目について行く!」

大声でそう宣言した獄寺に、満足してにこりと笑った。

「そっか。あ、殴っちゃってごめんね? んじゃ…よろしく、隼人!」

そう言ってにっと笑うと、一瞬呆気に取られた顔をしたが、すぐにはっとして私に怒鳴った。

「てめぇ! あんなに思いっきり殴っといてそれだけかよ!!! つーか、何勝手に呼び捨てにしてんだ!」
「だって、同じファミリーなのに苗字だと他人行儀でしょ?だから、これからはフレンドリーに隼人って呼ぶね。あ、私の事は初音で良いから。私を名前で呼べる人なんて、指で数える程しかいないのよ?」
「てめぇっ…」
「まぁそういう訳で……よろしくね、隼人?」

そう言って目を細めてふふっと笑うと、何故か隼人の顔が赤くなった。あれ、風邪でも引いたのかな。
そうやって隼人と話していると、いかにも下種そうな声が聞こえ、眉をひそめた。

「ありゃりゃ、サボっちゃってるよこいつらこりゃお仕置きが必要だな」
「サボって良いのは3年からだぜ」
「お、何その子かわいーじゃん。その子置いていけば見逃してやっても良いぜ?」
「え!? だ、ダメですよ!!」

ニヤついた顔をして歩いてくる3年に、綱吉が慌てて私の前に出たが、隼人がそのまた前に出た。

「オレに任せて下さい。消してやらー」
「ちょっ、待ってよ獄寺君! ダイナマイトはダメだって!!」
「やっちゃえ隼人」
「こら初音は煽らない!!」

だがこの後、綱吉の制止虚しく中庭には見事に黒焦げになった3年が居た。






忠犬ボーイ
(綱吉は忠犬を手に入れた!)(てゆうか、初音まで部下気分なわけー!?)






4.11 更新
加筆 2011.7.25