小説 | ナノ


球技大会





「おっ早う、綱吉!!」
「うわっ!? い、いきなり入って来るなよ!!」

朝、今日もいつものように窓から綱吉の部屋に入ると、着替えの途中らしく、顔を真っ赤にして急いでシャツのボタンをとめていた。

「いいじゃない、減るもんでもないし」
「頼むからもうちょっと恥じらいってモノを知ってよ」

そう言って顔を赤くしながらベストを手に取る綱吉に、苦笑をもらした。
だいたい、恥じらう私なんて私じゃ無いだろう。

「初音ちゃーん、つーくーん、ごはんですよー」
「分かった! 今行くよ! ほら、行こう、初音」
「はいはい」

そうして着替え終わった綱吉と一緒にリビングに行き、いつものよいに朝ごはんをご馳走になった。
ただいつもと違うのは、朝ごはんを食べる人が1人多いということだ。

「お早う、リボーン」
「ちゃおっス。ママンのメシは最高だぞ」
「もう食ってんのかよ!!」

綱吉の鋭いツッコミに笑いながら、席に着いてごはんを食べた。

「じゃ、行って来るね」
「行って来まーす!」

玄関で行ってらっしゃいと手を振っている奈々さんに手を振りながら、綱吉と一緒に学校へ行った。






そういえば、持田を倒してから、綱吉に対するみんなの態度が変わった。
不気味がる奴もいるけど、ダメツナって誰も言わなくなったし、私としては闇討ちする人数が減っておおいに結構。
けど、本当は………

「ツナ!」
「「!」」

突然の声に2人揃ってびくりと肩を奮わせて振り向くと、クラスメートA(名前忘れた)がいた。
話によると、今日の球技大会に出る予定だった男子が1人欠席してしまい、代わりに綱吉に出てほしいらしい。

「え、でも……」
「オ、オッケー」
「! 綱吉!?」

そう言ってOKしてしまった綱吉に、驚き、止めるように言う前に、Aは去って行ってしまった。

「綱吉、大丈夫なの?」
「へーきだって、初音は先に体育館に行っててよ」
「でも…」
「いいからいいから」

嫌に自信たっぷりな綱吉に不安になりながらも、渋々体育館へ行った。


体育館へ行き、綱吉が来るのを待っていると、いつの間にか京子と花が両脇に座っていた。

「え、ふ、2人とも」
「聞いたよ。沢田、球技大会のバレーボールで助っ人として出るんだって?」
「大丈夫だよ、ツナ君ならきっと」
「でも…」
「大丈夫大丈夫。いざとなりゃ、アンタが乱入すれば良いのよ」
「ええ、それは流石に嫌だよ」

花の意味不明な励ましに苦い顔をしていると、さっきとは違い元気なさ気な綱吉が入って来た。

「(あ、これはもしかして…)」

思った通り、リボーンの死ぬ気弾をあてにしていたらしく、綱吉はミスの連続で、第1セットが終るとみんなに責められていた。
それから、声は聞こえなかったが、雰囲気からしてサボろうとしているらしく、悲しくなってしまったが、体育館を出る前に何かに気付いた様子だった。


聞こえて来る悪口に軽く睨みながら、私も体育館を後にした。











リボーンに死ぬ気弾撃ってもらってなんとかしようと思ってたけど、今のオレは後悔なんてまるでしてないから、撃ったら死ぬだけだとリボーンに言われてしまった。
初音にも自信満々に大丈夫と言ってしまったし、どうしよう。
思えば、初音は死ぬ気弾なんて知らないだろうけど、こうなると思って心配してくれたんだろう。
嗚呼もう、仕方ない、バックレよう。
そうして帰ろうとすると、幸か不幸か京子ちゃんに見付かってしまい、体育館に来てしまった。


それから予想通りミスばかりしてしまい、ボールこっち来るなと思えば思うほどこっちに飛んで来て、第1セットはボロ負けしてしまった。

みんなの言う事はもっともだと思いながら大人しく下を向いていたけど、「やっぱお前はダメツナだな!」という言葉に、オレの中で何かが切れた。
オレだって、出来ないなりに一生懸命やってるんだ。もーたえられない。

「あの…ちょっといいかな」

そう言うとギロッとみんなに睨まれたが、気にせず言った。

「実は、持田センパイとの一戦で足をくじいてたんだけど、また痛みだしてきちゃって…」
「えっマジで?」
「だから調子悪かったのか」
「うん……、ちょっと保健室に行ってきていいかな?」
「しょーがねーよ」
「5人になっちまうけど、行ってこいよ」

みんなの返答に心の中でガッツポーズをした。

「(大成功! 悪いけど帰らせていただきます)」

そうして体育館から出て行こうとすると、ふと腕の傷が目に入った。見ると、みんな傷だらけのボロボロだった。

“どーしても勝ちたいんだ”

“オレたちゃマジでやってんだよ!”

みんなの言葉が蘇って来る。

「ほら、早くいってこいよ」
「ムリなら休んでいいからな」
「ん…じゃあ」

こんなウソに騙されて優しい声をかけてくれるみんなに涙が出そうになる。
そのまま顔を洗いに、体育館を出た。











「綱吉」

ジャージャーと水道で顔を洗っている綱吉に声をかけた。

「…帰らないの?」
「…うん」

そう言って、綱吉はふにゃ、と困ったように振り向いて笑った。

「…オレ、恥ずかしいや、調子に乗って安請け合いした事も、みんなが努力してやってきた事を、ズルして楽してやろうとした事も。それに………」

そこで言葉を切って、私の目を真っ直ぐ見ながら言った。

「初音に、そのズルがバレるのを怖がっていた事も。………ダメだね、悪い事したらその報いが来るのは当たり前なのに。ごめん、初音。やっぱオレダメツナだよ」

そう言った綱吉は、どこか吹っ切れた感じがして、思わずそっと綱吉の手を包み込んだ。

「…綱吉、こんな事言ったら怒るかもしれないけど、私は、綱吉が人気者になるなら、何かの力でなるんじゃ無くて、自分の力でやり遂げて人気者になってほしいな」

それからはい、と綱吉にタオルを渡すと、一瞬驚いた顔をしてから、やっぱりふにゃっと笑った。

「やっぱり凄いや、初音は。いつでもオレの欲しがってる言葉を、物をくれるんだもん」

ひょっとして初音ってエスパー? なんてふざけて聞いて来る綱吉にクスリと笑った。

「行こ? ヒーローが行かなきゃ、話が進まないじゃない」
「ぷっ、なんだ、それ?」

2人でクスクス笑ってから、手を繋いで一緒に体育館へ行った。





体育館に戻ると、私は花と京子の所へ、綱吉はコートに行った。
綱吉は、やるだけやって、後で謝るらしい。
今までとは違う綱吉の言葉に、嬉しくなった。

「綱吉ーっ、頑張れー!!」

手をメガホンみたいに口に当てて応援すると、こちらに手を振ってくれた。
その直後、2発の銃声が聞こえて来たと思ったら、綱吉が後ろに倒れていた。
一瞬焦ったが、すぐにジャンプ弾を撃たれたんだと解って、安心した。
すると試合がまた再開し、ボールが綱吉の方に飛んで来て、ブロックしようと綱吉がジャンプすると、ネットよりも高く飛び上がった。
そうして、たくさんの歓声とともに、うちのクラスは優勝を手にしたのだった。

「やったぁー!! やったね、綱吉!!」
「ちょ、分かったから、抱き着くなよ!!」

嬉しくて思わず抱き着くと、案の定顔を、真っ赤にさせて怒鳴った。




球技大会
(それでも)(次には笑顔をくれるんだ)







おまけ



その後、初音はバスケの助っ人として大会に出ていた。初音いわく、「綱吉頑張ったんだし、私も頑張るよ!!」らしい。
しかも、初音が気を回してくれたのか、京子ちゃんと一緒に見れる事になった。

「(京子ちゃんと一緒に観戦出来るなんて、感激だーっ!)」
「あっ、ツナ君、始まるよ!」
「あ、うん」

試合が始まると、初音のチームが押されていた。
せっかく黒川が取ったボールも、すぐに敵に囲まれて、取られそうになる。が、

「初音!」
「OK!!」

黒川が初音目掛けてボールを投げて、初音はそれを見事にキャッチすると、物凄い速さでドリブルをして行った。
慌て敵チームがブロックに入るが、初音はプロ顔負けのドリブルで擦り抜けて行き、最後にゴールの前、2人掛かりで止めようとしたが、その上を軽々飛び越えて、綺麗にダンクシュートを決めた。
それを見た瞬間、ふわりと風が吹いて来た気がした。
それからすたっ、と着地した初音と目が合い、にこりと微笑まれた。

「ツナ君、どうしたの? 顔が真っ赤だよ?」
「え、な、なんでも無いよ!」

不思議そうな顔をする京子ちゃんに、慌てて笑顔を作って手を横にふる。
そう、なんでも無い。なにかある筈が無い。
頬が熱いと感じるのは、きっと気のせいだ。

だってオレが好きなのは、京子ちゃんなんだから。






加筆 2011.7.2