小説 | ナノ


可愛いヤツ来る!!





「…どうしよう…」
「元気出して。ほら、教室行こう?」

学校に着いてからずっとうなだれている綱吉をなだめながら、なんとか教室に着き、ドアを開けると、思わず全員(女の子以外)殴り倒したいぐらい五月蝿い騒ぎ声が聞こえ、思わず顔をしかめた。

「パンツ男のお出ましだー!」
「ヘンターイ!」
「電撃告白!」

などと口々に好き勝手言い、あげく「付き合ってくださーい」などと告白の真似までする奴まで出て来た。
というか、人が頑張ってした告白をバカにしたり、あまつさえ笑い者にするとはどういう事だ。

「………(大体、綱吉はパンツ一丁だろうか何だろうが可愛いのよ…ったく、これだからバカは……)」
「は、初音…?とりあえず、落ち着こう?」

イラついていた所為で無意識に殺気立っていたらしく、綱吉が少し青ざめながらなだめてくれたので、すぐにさっと殺気を引っ込めて笑いかけた。

「ごめんごめん、つい殺気立っちゃった」
「(立っちゃったって…!!)」

何か綱吉が唖然としてるけど軽くスルーして、声をかけた。

「どうする? 帰る?」
「あ…、えっと、そうするよ」
「そっか。じゃ、一緒に帰ろうか」
「うん」

そう言って2人揃って踵を反すと、さっき騒いでいた内の1人に道を塞がれた。

「おっと、帰るのは早いぜ」
「「!?」」
「道場で持田先輩がお待ちかねだ」
「ちょっ、ちょっと!」
「あ、ちょっ、綱吉!?」

そのまま剣道部の部員達に担がれて、道場へ行ってしまった。


というか、なんでただの中学校に道場なんてあるんだろうか。

「おはよ、初音。朝から大変ねー」
「あ、花。お早う」

いつの間にかひょっこり教室のドアから顔を出した花に挨拶をし、その後ろにいた京子にも挨拶をした。
みんな面白がって見に行ってるのを横目で睨んでいると、花に話し掛けられた。

「持田センパイ、昨日京子がうけた侮辱をはらすため勝負するんだって」
「はぁ?」
「え?」
「「京子を泣かせた奴はゆるさん」だって」

なんて馬鹿なんだろう。彼は多分病院に行った方が良いと思うんだが。
それから京子の反論と花の冷やかしをBGMに、道場へ行った。

「きやがったな変態ストーカーめ! おまえのようなこの世のクズは、神が見逃そうがこの持田がゆるさん、成敗してやる!!」

その言葉に、思わず青筋を立てる。
「おまえのようなクズ」だ? どっちがクズだっての。
しかも綱吉「そんなあっ」って言って怯えてるじゃない、コイツ闇討ち候補リストに載せなくちゃ。

「………初音、殺気立ってるから…」
「へ? あ、ごめんね。あの人のクズ加減に思わずやっちゃった」
「(やっちゃったって…)」

花と話してると、また持田が何か言い出した。

「心配するな、貴様のようなドアホでもわかる簡単な勝負だ。貴様は剣道初心者。そこで10分間に1本でもでもオレからとれば貴様の勝ち! できなければオレの勝ちとする! 賞品はもちろん、笹川京子と桜龍寺 初音だ!!!」
「しょ、賞品!!?」
「最低の男ね」

全くだ。しかも何故か私も賞品になってるし。
綱吉に対する数々の暴言、おまけに私と京子を賞品扱い…ふうん、良い度胸じゃない。しかもまだ何か悪巧みしてるみたいだし。これはもう完璧に………

「闇討ち決定」
「アンタね、笑顔で指ボキボキ鳴らすのいい加減止めなさい? 恐いから……」

花がまた何か言ってるけど気にしない事にする。
そして反論しようとしている京子の肩に、ぽんと手を置いた。

「大丈夫よ京子。あの下種野郎は私が殺っとくから」
「……? うん」

にっこりと笑って言う私に、京子は不思議そうに首をかしげた。分かってないみたいだけど、まあいいや。むしろこの子は解らない方がちょうどいい。
そんなやり取りを2人としてりると、綱吉の姿が見えなくなった。
隣の馬鹿2人(という名の男子)がトイレに逃げたとか言ってるけど、多分リボーンに死ぬ気弾を撃たれて戻って来るはずだ。
そう思っていると、綱吉がパンツ一丁で恐い顔して戻って来て、持田をつるっパゲにして勝利を収めた。
それによしっ!とガッツポーズをして、綱吉の所へジャージを持って行った。



「ツナ君ってすごいんだね。ただ者じゃないって感じ!」
「!」

ジャージを持って綱吉の所へ行くと、ちょうど京子が綱吉を褒めてる所だった。
それに一瞬驚いた顔をして、すぐに顔を真っ赤にして笑う綱吉に、何故かズキリと胸が痛んだ。
それに首を傾げながらも綱吉の前に行き、ジャージを差し出す。

「はい、ジャージ。そのままだと風邪引いちゃうよ?」
「あ、ありがとう、初音」

そう言って京子に向けたのとはまた違う笑顔をした綱吉に、何故か一瞬窒息しそうなくらい胸が痛んだ。











「………ふう」

学校から帰って来た後、鞄をほうり投げてベッドにダイヴした。

「それにしても、なんであの時胸が痛くなったんだろう……」

そう呟いて枕に顔を埋めていると、いきなりガラ、という音と一緒に、少しだけひやりとした冷気を感じた。
それに反応して、枕から顔を上げて音のした方を見ると、窓の桟の所に黒スーツを着た赤ん坊…リボーンが立っていた。

「……どちら様? 私に赤ん坊の知り合いは居ないと思うんだけど」
「ちゃおっス。悪ぃな、じゃまするぞ」

外用の笑顔を張り付けて対応する私に彼はしれっとそう言うと、ちっとも悪く思ってなさそうな顔で部屋の中に入ってきた

「早速だが、オレの名はリボーン。ツナのかてきょーをやってるんだ」
「そうなんだ。私は「知ってるぞ。桜龍寺初音だろ?」…そうだよ」

そう言ってちらりとリボーンを見る。
会う前はただの憎たらしいガキだと思っていたが、実際に会ってみると、なんていうか…………。

「可愛い……」
「ん?」

可愛い仕草で小首を傾げてるリボーンを見て、ついきゅんとしてしまう。
元々、可愛いものには弱いのだ。
それに、リボーンは黙っていればとてつもなく可愛い。ちょっとくらい心奪われたっていいじゃないか。

「で、そのリボーンくんはどうして私の所に来たのかな?」
「その取って付けたようなくん付けは止めろ。リボーンで良いぞ」
「あ、ありがとう? で、リボーンは私に一体何の用?」

そう言って笑って見せると、リボーンは真剣な顔になって聞いて来た。

「お前…何者なんだ?」
「…………どういう意味かな」

いきなり核心をついてきたリボーンに一瞬動揺しながらも、かろうじて平静を保ち、にこりと笑いかける。

「オレは、ここに来る前に、ツナの友人関係は全て調べ上げた。だが、ツナと1番親しいお前のデータだけは、中学生より前のがねぇんだ。だが、戸籍はきちんとつくられているし、調べていないだけなのか、誰も疑問に思わねぇ。そんなの、誰かが隠蔽工作をし以外考えられないだろ。お前、一体何者なんだ? もし、ツナの命を狙うのが目的なら「ちょっと待って」…なんだ」

今まで黙って聞いていたが、流石に命を狙ってるなんて疑われたら黙っちゃ居られない。


「1つ、私は綱吉の敵じゃない。むしろ、中学に入ってから今まで、綱吉に害をなす、またはなしたと判断した奴は1人残らず闇討ちして廃除して来たくらいだし。2つ、私が綱吉の命を狙う?冗談じゃないわ。むしろ貴方が綱吉をマフィアなんかに巻き込んで危険に曝すなら、私は全力で阻止するわ。最後に3つ」

そこで一旦言葉を切って、リボーンに苦笑を向けた。

「…私が本当は別の世界の人間だって言ったら…どうする?」
「…話してみろ」

それから私は、リボーンにトリップしたいきさつを全て話した。
信じてくれる確立は限りなくゼロに近いけど、この赤ん坊はただの赤ん坊じゃない訳だし。
話し終えると、リボーンがさっきとは違いにっ、と笑って見せた。

「信じるぞ」
「………え、本当?」
「ホントだぞ。相当ありえねぇ事だが、お前の言葉には、何だか妙に説得力がある。それに、お前がツナの事を大事に思ってるってことは、十分伝わったからな」

仮に嘘だとしても、それはそれで面白い。
そうどこか自信あり気に言い切るリボーンに、ふっと苦笑する。
きっとそれは本当の理由じゃないんだろう。私の説明は、あまり要領を得ないばかりかかなり胡散臭い事だらけだし。
それでも信用してくれたのは、きっと目とかを見て判断したんだろう。彼は読心術が使えるらしいし。
それが何だか嬉しくて、思わず笑顔になった。

「ふふふ、そっか。信じてくれてありがと、リボーン」
「おう。じゃあまたな、ちゃおちゃお」

そう言うだけ言うと、リボーンはすたこらと綱吉の家に戻って行ってしまった。
その後ろ姿に小さく手を振り、それからベッドに仰向けに寝転がった。

「…ふう、今日は1日大変だったな〜」

それは恐らく、明日からの日常になって行くんだろう。
でも、とりあえずは




可愛いヤツ来る!!
(今は眠りにつくとしよう)(にしてもリボーン可愛いかったな〜)






4.7 更新
加筆 2011.7.2