小説 | ナノ


綱吉side





だんだん寒くなってきて、そろそろ屋上で食べるのもきつくなってきた今日この頃。
オレは、いつものように獄寺君と山本と屋上で一緒に昼飯を食べてるんだけど、今日は、ここに初音の姿はない。
この前ヒバリさんと仲良さそうにしてる初音を見た時から、なんでか上手く初音と話せなくなっていた。
いつまでそんなの引きずってんだって、自分でもしつこいしきもいと思ってるけど、これがなかなか上手くいかない。
一応、ちゃんと話そうとはしてるんだけど、いざ話そうとすると、彼女に何を話せば良いのか解らなくて、きちんと会話を用意しないと話しちゃいけない気がして、結局何も話さずじまいになってしまう。
それに、あの山の一件で、初音が手が届かないくらい遠くにいるように感じてしまったのも、オレが初音に手を伸ばしきれない要因だと思う。
だいたい、初音はいつもはうざいくらいにオレに話しかけてくるのに、最近はそういうのめっきりないし。
初音が何時もの調子で話しかけてくれたら、俺だっていつも通りに出来るかも知れないのに。
何て責任転嫁をしながら、母さんが持たせてくれた弁当のアスパラのベーコン巻きをぱくついた。

「(おいしいけど………おいしくない)」

冷凍食品に一切頼らない母さんの作る弁当は、1つ1つにきちんと下味が付けられていて、すごく美味い。
いつもなら初音もオレと一緒に食べていて、一口食べるなりおいしいおいしいって嬉しそうに言う。けど、ここ数日初音は自分で弁当を作って持って行ってるらしい。
らしい、って言うのは、ここ数日初音はオレを起こしに来る事なく支度ができ次第さっさと学校に行ってしまって、オレが起きる頃にはすでに出て行ってしまっているからだ。
ここにきて、オレはどれだけ初音に頼り切っていたのかを思い知って、ちょと落ち込んだ。
それに、授業中に話しかけても来ない。それに応接室に出入りする頻度、前より少しずつ増えてる気がするし。

「(…………やっぱり、ヒバリさんの方が良いのかな)」

そう思ってしまうと、この前見たヒバリさんと初音を思い出して、より一層気分が落ち込んだ。
………正直言って、あの2人が一緒にいる姿は、すごく絵になっていた。それこそ、常々月とすっぽんだといわれるオレとは比べ物にならないくらい。
悔しかったんだ。どんなに背伸びをしても、元々のスキルがオレと初音とは違うって、そしてヒバリさんは初音と肩を並べられるような人だって、改めて思い知らされてしまって。

はあ、と重い溜息をつく俺に、獄寺くんと山本が困ったように顔を見合わせるのを申し訳なく思いつつ、もそもそ弁当の中味にはしを付けていった。

「なあツナ、悩んでるのは、桜龍寺の事か?」
「…………うん」

隠してもしょうがないし、それに山本のその訊き方は確信してる訊き方だったから、素直に頷く。
山本はそっか、と言ってしばらくうーんと惣菜パンを握りながら考えていると、やがていつものようににかっと笑った。

「オレはさ、難しーことはよくわかんねーけど、ツナと話せてない桜龍寺も、桜龍寺と話せてないツナも辛そうだって事くらいは、見てて解るからさ。だからどうしろって言えるわけでもないけど、一回だけ、一回だけで良いからさ、腹割って話してみろよ。それだけで、きっと何かが変わるからさ」
「山本…………」

ま、ほんとはオレが口出ししていー事でもねーんだろうけど、と笑う山本に、じーんときて涙ぐむ。
ありがとう、山本。確かに、こんなに鬱々とした気持ちでいたって何にも変わらないよね。

「そうっすよ10代目! それに、あの桜龍寺に限って、10代目に対する気持ちが変わるなんてことありませんから!」

にっ、と明るく笑ってみせる獄寺くんにも勇気づけられて、こくこくと頷く。
うん、ありがとう2人とも。オレ頑張るよ!
勢いづいてそう言ったオレに嬉しそうに笑ってくれる2人に、知らず心があったかくなる。
よし。そうと決まれば、今日絶対、何が何でも初音と話しを付けてみせる!!
決意を新たにするオレに口々に頑張れと言ってくれる友達に感謝しながら、ばくばくと弁当にはしをつっこんで口に放り込んでいった。











…………って、決意してみたは良いものの。

「………初音、帰ってこないんですけど」

自分で言った言葉にダメージを受けて、ちょっと落ち込んだ。
昼に山本と獄寺君の言葉に勇気づけられて、じゃあ勝負は放課後だ! って勝手に意気込んでいたオレは、1番大事な事を忘れていた。
そう。肝心要の初音が、いつ家に帰ってくるか知らなかったのだ。
先回りしようと早く帰って初音の家の門の前に陣取ったは良いものの、初音が全然帰ってこない。
京子ちゃん達と買い物に行ってるのかも知れないし、もしかしたら風紀委員の仕事で応接室でヒバリさんと一緒に仕事してるのかも知れない。………後者はまた胸がむかむかするから、取り敢えず今は考えないでおこう。
で、そういう可能性を考えていなかった俺は、この寒空の下、北風が吹くたびに折れそうになる決心を胸に、がたがた震えながら初音の帰りを待つ事になった。


結局、初音の姿を見つけたのは、初音の家の前で待ち続けて2時間くらい経った時だった。
やけにとぼとぼ歩いている初音が曲がり角を曲がってきたのを見つけて、逃げられないように門の所まで引き付ける、という当初の作戦なんて頭からすっぽ抜けて、ただ会えたのが嬉しくって、何も考えずに駆けていた。

「初音っ!」
「えっ? ………やだ、綱吉!?」

反射的に声をかけると驚いたように元々でかい目をさらにまん丸くする初音に、勢い込んで話をしようとしたけど、それよりも先にぶゎっくしょん! とオレの口からは盛大なくしゃみが飛び出して、とっさに口を押さえたオレに、ぎょっとした顔の初音が駆け寄ってきた。

「どうしたの、こんなに冷えて……またリボーンが何かしたの? すごく冷たい。早く温かくしないと、風邪引いちゃう」
「い、いい。良いから、初音。これはその、初音を待ってたんだ」
「私………?」
「うん、そう。…………初音と、話がしたくて」

痛ましそうにオレの腕をさすって暖を与えようとしてくれてる初音にそう言うと、初音は軽く瞠目して、少ししてから、こくんと決意を決めた顔で頷いた。
それを見て、オレの方も改めて決心が強くなる。
オレだって、何時も初音がいないと何もできないわけじゃない。これでも男なんだ。初音相手に、少しでも逃げるような事は、もうしたくなかった。
だから。

「「ごめんなさい!! …………へ?」」

寸分たがわずはもった初音に向けた言葉に、お互いお辞儀した状態のままで、顔だけ上げてぽかんとした顔で見つめ合った。

「………え、えっと。初音、何で?」
「つ、綱吉の方こそ、どうして……」

あっけにとられながらしばらく顔を見合わせて、何だか全部ばからしくなって、おかしくって、2人同時にぷっと噴き出した。
やっぱり、初音とオレは近くて、遠くにいても心の距離は変わらなかったんだなって思うと、何だかたまらない気持ちになった。

「…………ごめん、初音。オレさ、前に入院してた時、初音とヒバリさんがすごく仲良さそうにしてるのを見て、嫉妬した。オレだって怪我してるに、何で初音はオレじゃなくてヒバリさんの方にいるんだよって。何でオレの所に来るよりも先に、ヒバリさんの方に行っちゃうんだって。それを知られるのが怖くて、初音がオレよりもヒバリさんと仲良くなっちゃうのかとか、知るのが怖くて。それでオレ、初音から逃げてた。本当にごめん!!」
「ううん、私の方こそ。私、綱吉のこと大好き。この並盛にいるみんなの中で、1番好き。………でも、それと草耶さんとどっちって恭弥に訊かれた時、一瞬どっちか解らなくなった。私の1番は、絶対草耶さんじゃなくちゃならないのに。それで、綱吉にどう接していいのか解らなくなっちゃって。でもね、私、綱吉の事が大好きなのは本当なの! 嘘なんかじゃないの。だから、私………」
「うん。解ってるよ、初音」

話しているうちに、段々と顔を俯かせて暗い顔になる初音に、首を振って、その両手をそっと自分の手で包んだ。
顔を上げた初音が、まるで迷子になって泣き出しそうな子供みたいで。
それが愛しくて、オレは自分が出来るめいいっぱいの大好きの気持ちを込めて、にっこりと、初音に笑って見せた。

「良いよ、1番じゃなくたって。1番なんていらないからさ、ずっとオレと一緒にいてよ、初音。オレは、初音と一緒にいられさえすれば、それで良いから。それが良いから。オレは、初音が1番大事だ。それ以上に大事な人なんかいない。初音の1番がオレじゃなくたって、オレの1番は初音なんだから、それで良いんだ。何にも気にする事なんかない。初音はオレが君を大好きだって事だけ知ってくれさえすれば、それで良いんだから」

だからそんな、悲しい顔をしないでほしい。初音にとって、「草耶さん」が1番大事だって事は決定事項で、君にとって変えちゃいけない事なら、無理に変えようなんて思わない。
だってオレは、その「草耶さん」が1番好きな初音をひっくるめて、お前が大好きなんだから。だからそんなの、初音が気にする必要なんて、どこにもないんだよ。
思った事をそのまま口にすると、初音はおかしそうにくすくす笑って、変な綱吉、と言った。

「そういう台詞は、京子に行ってこそでしょう? もう、私に言ってどうするの」

そう言ってなおも面白そうに、どこかすっきりとした顔ですくすくと必死に爆笑するのを我慢するみたいにお腹を押さえて笑う初音を見て、オレも、ちょっとだけ笑った。
だってさ、本当の事なんだよ、初音。
本当のホントに、初音以上に大事な人なんて、いないって。初音と一緒にいられるのなら、たとえこの先初音がヒバリさんと付き合ったって我慢する。ずっと初音の隣にいられるのなら、もう、それ以外に何にもいらない、って。
心から、そう、思ったんだよ。

小指にはめた初音にもらった指輪が光に当たって綺麗に煌めいたのが、何だかどうしようもなく誇らしかった。





オレの1番
(オレは初音が大好きだから)(それだけで充分なんだよ)






両片思い、というか、お互い大好きって言い合う付き合ってない男女が好きです。
何だそりゃって感じなんですけど、友達以上恋人未満が一番おいしい時期だと思っている管理人にとっては、付き合わないまま「お前ら付き合ってるんじゃないの!? さっさと付き合えよ!」って言いたくなる関係が一番甘酸っぱくて好きなんです。
なんでこの子たちのこの関係はまだまだ続きますが、最終的にはどうせくっつきますんで、暫し見守っていて下さい。
というか、絶対こいつら無意識にお互い以外と付き合う事なんて考えてませんので(笑)





2013.12.30 更新