小説 | ナノ


出会った大空





とりあえず、ドアの前に居た子狐と扇を回収して(ドアを閉めようとしたらうるうるした目で見られてしまったので、そういうか弱い表情に弱いのだ)、さてどうしたものかと思いながらリビングに行くと、日付も一緒に表示されるタイプの時計が目にはいった。その時計によると、今日は4月3日らしい。
そして、ついでとばかりにその時計の斜め右にあるカレンダーには、下手くそな字で4月3日の欄に「入学式」と書いてあった。


………。
え、行けってか、この制服着て学校行けってか?
するとタイミングが良いのか悪いのか、ちょうど先程洗面所で発見した私のケータイのアラームが鳴り、開いてみると、「入学式まであと30分!!」と表示してあった。

「……………」

どうやら私を此処に連れて来た人は、是が非でも私を学校へ行かせたいらしい。
それにため息を付き、よし、行ってやろうじゃないかと覚悟を決めて、鞄を持ち、靴を履いて家を出た(扇と小狐は置いて来た)。




玄関の横の棚にあった鍵で戸締りをして、そう言えば並中ってどこなんだろうと思いながら何と無しに歩いていると、左側から強い衝撃を受けた。

「きゃっ…!」
「うわぁ!!」

とっさの事で反応が遅れ、自分が誰かとぶつかったと解ったのは、お尻に鈍い痛みを感じてからだった。
イタタ…とお尻を摩っていると、上から焦ったような声が聞こえた。

「あ、あの、大丈夫ですか…?」
「あ、ええ、私は大丈……、………っ!!」

おろおろと露骨に狼狽した雰囲気のその人に苦笑して、上から聞こえて来た声の主にに応えようと顔を上げると、その顔に驚愕した。

「…? あの…?」

この目の前で緩く小首を傾げてる華奢な男の子は、家庭教師ヒットマンリボーン!!の主人公、沢田綱吉にそっくりだったのだ。

「(おいおい、マジですか…)」

予想外の事に、思わず顔が引き攣る。
これが噂(?)のトリップってヤツなのだろうか。
たまたま見つけた夢小説というもので、そういうものは何回も見たことあるけど、まさか自分が体験するなんて思ってもみなかった。というか、この状況がまったくもって理解できない。
度重なる自身の理解と常識をふっ飛ばすこの現象に、もういい加減泣きたくなるしもういっその事軽卒倒してしまいたくなるが、なんとか意識を保ち、情報を整理する。

「(まてまてまて、ストップ。じゃあ此処はリボーンの世界で、私はトリップして来たという事で、そして目の前に居るのはそっくりさんでもドッペルゲンガーでも何でも無くて、本物の沢田綱吉その人だと…そういう事か………?)」

本当に何が何だか、原因も未だにわからないが、とりあえずこの場を切り抜けなければいけない。
よし、となんとか状況を把握して、目の前の沢田綱吉に笑顔を作る。
こうなりゃ自棄(ヤケ)だ、この状況を思いっきり楽しんでやろうじゃないかと思い、差し出された手を掴み、立ち上がった。

「よそ見していてごめんなさいね。あなたも新入生? 私は桜龍寺 初音っていうの。貴方は?」

にっこり笑って言うと、沢田 綱吉(もうめんどいから綱吉でいいや)は一瞬ほうけていたが、すぐにハッとして自己紹介し出した。

「あ、えっとこちらこそぶつかってごめんっ!
オレは沢田 綱吉って言うんだ、“も”って事は、君も新入生なの?」
「ええ、よろしくね。私の事は初音って呼んで」
「うん。じゃあ、オレの事は綱吉って呼んで。……よろしく、初音」
「こちらこそ、よろしくね」

そうして、私は無事綱吉と友達になれたとさ。





出会った大空
(その笑顔に)(顔が熱くなったのは秘密)






2010.0604 加筆