小説 | ナノ


Get back hear!





イタリアから帰ってきた次の朝。
肌を刺すような寒さにふるりと身震いしながらぐぐ、とベッドの上で伸びをした。
やっぱり、イタリアと日本だと、同じ季節でも全然違う。

「制服着るのも、久しぶりだなぁ……」

鏡の前でネクタイを調節しながら一人ごちる。
私服と違ってどこかきゅっと引き締まる感じのする並森中の制服を身に纏って、おかしい所がないか鏡で確認した。
よし、OK。

「あ、そうだ。恭弥にも帰って来たって電話しなきゃ」

ついでに髪が乱れていないかを確認し終えると、ふと気がついて枕元に置いてあったケータイを手に取った。
なんやかんやで、恭弥には直接イタリアに行くって言えなかったしね。
リボーンが言っておいてくれるって言ってたから全部任せちゃったけど、今更ながらちょっと不安になってきた。

そうと決まれば早速かけてみようと思って、枕元に置いてあったケータイを手に取って電話番号のメモリーを開く。
恭弥は見た目にそぐわず早起きで、なんやかんや言いながらも毎日最低6時には起きているから、もう電話をかけても大丈夫だろう。
今7時半過ぎだし。

「あ、もしもし、おはよう恭」
「……………初音?」

ケータイの向こうから聞こえてきた地の底を這うような声に、謀らずも身体がびくりとふるえた。
あ、めちゃくちゃ怒ってる。これ。

「う、うん、そう。ひ、久しぶりー恭弥ぁ〜。数日間ろくに連絡とれなくてごめんねー」
「そう思っているのなら、並盛の空港に着いた時点で連絡を入れるのが普通じゃないの?」
「ぁう……おっしゃる通りです…」

珍しく正論を言ってくる恭弥にもう1度謝ると、電話越しにはあ、と溜息をつかれたのが解った。

「ぅ……恭弥、ほんとにごめんなさい…」
「………もういいよ。君にも何かしらの理由があったっていう事にしといてあげる」

すみません。昨日は銭湯に行ったり綱吉と窓越しに夜通し話したりして思いいっきり日常を謳歌してました。

「ただ……」
「ただ?」

急に言い淀んだ恭弥を不思議に思いながら雄武返しに聞き返すと、3拍程間を空けて、ぽつりと小さな声をもらした。

「……ただ、毎日とまでは言わないけど、僕は君の声が聴きたいし、逢いたいんだよ」
「え……っ?」

恭弥の言葉に目を見開いて聞き返すと、何でもないよ、と少し早口に言われた。

「とにかく、今日はちゃんと学校に来る事。良いね」
「はぁーい、委員長さんの仰せのままにーっ」

ちょっと茶化して言うと、恭弥が電話越しにくすりと笑うのが聞こえて、そのすぐ後に切られた。
教科書の詰まった鞄を肩にかけて家を出ると、家の前にはたくさんのディーノさんの部下さん達がいた。

「Bonjorno.皆さん朝から武器のお手入れですか?」
「おや、初音のお嬢さん。おはようございます。やはり我々マフィアにとって、朝一の武器手入れは欠かせないものですからね」
「あはは、でも、こんなに堂々と武器出してたら、ご近所の人達が怖がっちゃいますよ」

くすくす笑って指摘すると、これは失礼、と言って、みんな武器をしまってくれた。
ふふふ、やっぱり皆さん良い人だ。

「あっ、初音、おはよう」
「おはよう綱吉。今日は寝坊していないようで、大変よろしい」
「ちょ、子供扱いすんなってばっ」

笑ってわしゃわしゃと綱吉の頭を撫でると、少し顔を赤くした綱吉に手を振り払われた。

「ふふふ、拗ねない拗ねない」
「拗ねてないっつの」

綱吉の反応が可愛くってくすくす笑っていると、いつの間にかいたディーノさんに話し掛けられた。

「あら、ディーノさんおはようございます。何時からそこにいらっしゃったんですか?」
「おう、おはよう初音。ちなみに最初っからツナと俺は一緒にいたぜ」
「え?」

少し苦く笑うディーノさんにこて、と首を傾げる。

「そうでしたっけ?」

素直に尋ねると、ディーノさんはちょっと苦く笑って肩を竦めた。
まあ、言いたい事は大体解る。
すみませんね。でも最近綱吉不足だったんだから仕方ないじゃないですか。
それから綱吉や早朝散歩していたらたまたまここに着いてしまったらしいディーノさんと一緒にこっちに来た全員の部下さん達と談笑していると、黒ずくめの大群に訝しみながらもガンを飛ばしながら隼人がやって来た。

「おはよーございます、10代目! 何だか今日は朝早く目が醒めてしまいまして。ぶらぶら散歩してたらいつの間にかここに来ちゃいました!」

毎回恒例の綱吉限定のペカーっとした笑顔を引っ提げて爽やかに挨拶をする隼人を、酷く懐かしい気持ちで見つめていると、ばち、と隼人と目が合った。

「あ…………」
「桜龍寺…………?」

お互いにそう言ったっきり黙り込み、何とも言えない空気が流れる。
綱吉の時は、何かを言う間もなく突撃されたからこんな空気にはならなかったけど、隼人は何が起こるか解らない時限爆弾みたいな所があるから、思わず身構えてしまう。
隼人は気位の高い鳩が豆鉄砲喰らってそのまま横っ面を殴られたみたいな顔をして私を見ていると、段々眉と目を吊り上げた。
ひ、と小さく息を飲むのと同時に、隼人に両肩を掴まれる。

「てんめぇ桜龍寺!! 今までどこほっつき歩いていやがった!!!」
「ぇえっ!? イ、イタリア…。ボンゴレの、総本部に……」
「なぁにぃ!!?」
「ちょ、ちょ……は、隼人、顔怖いよ………?」

完璧にチンピラみたいになっている隼人にちょっと引きながら控えめに告げる。
今頃になって、綱吉が毎回隼人に過剰に怯えるのかが解った気がする。
この人に(無自覚とはいえ)間近で凄まれると、怖い。すごく。
とりあえず引き攣った笑顔で眉間とんでもなく深い皺を刻み込んだ隼人の顔をあまり見ないようにしながら彼の胸に手を置いて押すと、上で隼人が息を飲んだのが解った。

「…………? はやと?」
「い、や……何でもねぇ」

不思議に思って見上げると、何故か非常に気まずそうな顔をして目を逸らされた。
そのままぐい、と腕を目一杯伸ばされる事で離されて、隼人はゴホン、と小さく咳ばらいをすると、ほんのり顔を赤くさせてびし! と私を人差し指で指差した。

「と、とにかく……。次からは絶対、10代目と俺に教えろよ!」
「………う、うん」

隼人の勢いに圧されてこくこくと頷くと、よぉし! といやにテンション高く返された。
なんなのもうこわい。

「つーか何すか10代目、この集団は」
「あ、えっとこの人達は……」
「よぉ、悪童スモーキン・ボム。会うのは初めてだな」

やっといつもの調子に戻ったらしい隼人に内心安堵しながら説明しようと口を開くと、それを途中で遮る形でディーノさんが隼人に声を掛けた。

その綱吉の家の塀に腕を置いてニヒルに笑う彼を見た隼人は、途端に先程よりも眉間に深く深くシワを寄せて睨みつけた。

「そのタトゥー…跳ね馬ディーノ……!!」

ディーノさんを見た途端私を見た時よりも深く眉間にシワを寄せる隼人に早く諌めなきゃと思っていると、背中に温かい何かがずしりと乗った。

「……………………ぇ」
「おっ、はは! 桜龍寺じゃねーか! ひっさしぶりなのなー!!」
「ああ……うん。おはよう山本くん」

ペカペカーっとした笑顔を惜しみ無く辺り一面に振り撒く山本を横目で確認して、何だか妙にげんなりした。
何で朝っぱらからこんなに疲れなくちゃならないんだろう………。
それからディーノさんに軽く挨拶をして綱吉と隼人の肩を組んで歩き出す山本くんの胸に押され、仕方なく歩き始める。
「ところでこの数日間どこ行ってたんだ?」「イタリア」と他愛もない会話を続けながら、学校への道を、3人でのんびりと歩く。
話は段々逸れて行って、いつの間にかディーノさんの話になった。

「…………それで、あの代のキャバッローネが先代の傾けたファミリーの財政を立て直したのは有名な話なんす。
今じゃ同盟ファミリーの中でも第3勢力ですしね」
「へー」
「詳しいねぇ隼人。っていうか、やっぱり2人共私がイタリアに行ってたの知らなかったんだね。リボーンに頼んどいたんだけど……」
「うっせぇ。だから次からはちゃんとお前が言えっつったろ」
「はいはい」

相変わらずむっつりとした表情を崩さない隼人に苦笑する。
この子の好意は、相変わらず解りづらい。多分、付き合い初めて暫くしないと解らないんじゃないだろうか。
好意を抱いていても、すぐつっけんどんな態度を取ってしまうから、要らない誤解を受けるんだよ。
まったくもう。えっと…あれだ、今時流行りのツンデレ、っていうの。
まあとりあえず話題を変えようと思って、綱吉に話をふってみた。

「それにしても、経営者としてもやり手なんてディーノさん凄いよね」
「うん。格好良いよな」
「どっちにしろ、俺は好かねーっすけどね」
「え…な…何で?」
「年上の野郎は全部敵っすから」

今にもケッとでも言いそうな顔をする隼人に、何だかむしろ少し呆れてきた。何でそう自分から進んで敵を作りに行くかなぁ。あと範囲広すぎるよ。
このツンデレの一体どこが「萌え」なんだろうか。綱吉萌えなら大いに理解出来るんだけど。
肩に乗っているルリの顎下をうりうりと撫でてやりながらつんでれの魅力を考えていると、後ろから赤いスポーツカーが来るのが見えた。

「あ、3人共、車来たから端によって…………」

言いかけた言葉は、そのスポーツカーの助手席の窓から伸びた縄を見た事によって最後まで口から出る事はなかった。
ぽかんとしている間に縄はぐるぐると綱吉に巻き付いて、そのままスポーツカーと共に曲がり角を曲がって行ってしまった。

「え……えっ?」
「あれはここら一帯を締めてるヤクザ、桃巨会の車だな」

驚き過ぎて思考を停止させていると、どこからかひょっこりとリボーンが現れた。

「ヤクザと言ったらジャパニーズマフィアだ。大人マフィアに中学生のお前達がかなうわけねぇ。ここは警察に任せろ」

リボーンの言う事は尤もだ。けど、2人はそれを無視して行ってしまった。
………桃巨会がある場所知ってんのかなあの子達。

っていうか、リボーンが尤もらしい事を言う時点で、怪しめないようじゃあまだまだだ。
彼という人間を全く理解出来ていない。

「いつものリボーンなら、ノリノリでそのトラブルの本拠地に乗り込むもんね」
「やっぱりお前はノらなかったか。……未来を知っていたからか?」
「どっちかって言うと、リボーンっていう人を良く知っていたから、かな」

リボーンに悪戯っぽく笑ってウインクした所で、後ろの角から先程のスポーツカーが現れた。
最初は混乱してたせいで解らなかったけど、あの車は、私が空港からここに来るまで乗っていたモノだ。

「ちぇーっ、やっぱ初音は無理だったかー」
「いきなり何するんですかディーノさん!」

ぶつくさ言いながら、縄でぐるぐる巻にになった綱吉と一緒にスポーツカーから出て来るディーノさ。
子供みたいに口を尖らせる彼に、思わずふっと吹き出した。

「ふふふっ、残念でしたぁー。何事もまず冷静になってから対処する。それが基本でしょう? あんなのにころっと騙されるんだから、2人共可愛いわよねまったく」

ふう、と息を吐いて彼等が走って行った方向を見る。
綱吉に巻き付いた縄を外してやると、そっちはそっちで不服そうな顔をしてディーノさんを軽く睨んだ。

「ははは、その通りだな」
「そんな事よりっ! 獄寺くんと山本はどこ行ったんですか!?」
「悪いなツナ。どうやらあいつら、さっき話した桃巨会に行ったらしいな。心配すんな。桃巨会なんて架空のヤクザ、どうせ探したって見つからねーよ。今に諦めて帰って来るさ。
けどツナ…お前は幸せ者だな。あんなボス思いの仲間、そうそう巡り合えるもんじゃねーぞ」
「い、いや…だから2人は友達で…………」

無駄にキラッキラした笑顔で言うディーノさんに、ちょっと満更でもなさそうな顔をする綱吉を無言ではたいておいて、何となくイラッとくる2人に水を差す事にした。

「悪いけど、そんなのんびりしてる暇は無いよ」
「言い忘れてたが、桃巨会ってのは本当にこの町に実在するヤクザなんだぞ」
「ねー」
「なー」

ぴょんっと肩に乗ってきたリボーンと一緒になって言うと、2人共全く同じタイミングでキレた。
まあ息ピッタリ。流石は兄弟弟子。

「何やってんのお前ぇー――――!!!
じゃ、じゃあ何!? あの2人本当にヤクザに乗り込んでっちゃったの!?」
「ああそうだぞ」
「何考えてんだリボーン!!」

そのまま怒涛の勢いでリボーンリボーンに文句を言う2人。
その文句は当人に大して響かずにしかも桃巨会が武闘派でかなり強いとか要らんベビーな譲歩だけ与えて彼は寝てしまったんだけど、だからと言ってこれから何もしないわけにはいかない。

「はーい2人共ちょっと黙る! リボーンには尽きない文句があるでしょうけど、それはあの子達の事をどーにかした後にしてね。
そんな事より、まずディーノさんは部下さん達に連絡。桃巨会の場所を調べてもらって。まあディーノさんが知らないようなら全国規模じゃあないんでしょ。それなら何とかなるよ。ほら行くよ、2人共」

ぱんぱんと手を叩いて促すと、2人はぼけっとした顔をして頷いた。








ディーノさんの部下さん達に場所を調べてもらって辿り着いた所は、一見普通のオフィスビルだった。

「うわあぁ…どーしよう……来てみたは良いけど、やっぱ怖ぁー……」
「良いから行くよ」
「お前ちょっと男前すぎるだろ!!」

わあわあと叫ぶ綱吉の腕を取って、半分強制的に連れだって扉を開けた。

「ああ、やっぱりね」

その先にいたのは、案の定組の下っ端(多分)をボコボコにしてる隼人と山本くんだった。

「隼人ー、山本くーん。綱吉なら無事だから。っていうか私のすぐ横にいるから。だからもう止めてあげなさい」

はたから見ると、良い年した男の人が中学生にボコボコにされるっていうのは、なかなかに同情を誘うものだ。
しかも、相手はヤクザなんだから、それなりにプライドあるだろう。
10代目!! なんて喜び勇んで綱吉に向かって行く隼人はとりあえず置いといて、この惨状を見回した。

「えっぐ……。山本くんよくこんなに人殴れたね。貴方こういうの嫌いそうなのに」
「いや、殆ど獄寺が。俺はその後にツナの場所聞く係」
「ふうん」

何はともあれ、この光景はあんまり目に良いものじゃない。
これ以上もう見なくてすむようにルリを鞄の中に入らせていると、奥の扉から柄の悪そうな人達が出て来た。
先頭に解りやすく組長と書かれた法被を来た人がいる。探す手間が省けた。
その人は部屋の周りをぐるりと見回して、次に私達を見ると、思いっきりガンを飛ばしてきた。

「何してくれてんだ? ガキ共が…」

ああん? とでも言いそうな組長さんを見て、ディーノさんが私達の一歩前に歩み出た。

「こうなったのは、全て俺の責任だ。すまなかったな。俺はキャバッローネファミリー10代目ディーノだ。全員の治療費と備品の修理費は払う。それで手を打ってくれ」

昨日の駄目駄目っぷりを帳消しにするくらい、堂々とした態度でゴールドカードを見せて組に交渉に臨むディーノさん。
………それでも、世の中はそう簡単に上手くは行かないものだ。

「はっ? ファミリー!? 何わけの解んねー事言ってんだ? ここは日本だぜ?」

組長さんは、ディーノさんの提案を鼻で笑って一括すると、後ろの幹部らしき人達に顎で指示をした。

「金はいただく。そしててめーらは帰さねぇ! それに………」
「や…………っ」

突然腕を掴まれて、虚をつかれてろくに抵抗出来ずに引っ張られた。
小さく悲鳴を上げると同時に、肩にかけていたルリの入った学生鞄が床に落ちた。

「ガキにしちゃあイイ女じゃねーか。こいつぁあと5年もしたら食べ頃だなぁ。なぁおい?」

幹部らしき人に背中で両腕を固定されて、動けなくされた状態で組長さんの前に突き出される。
無遠慮に頬に手を滑らされて、背筋に嫌悪からくる悪寒が走った。
更に人を馬鹿にしたように品定めをして、部屋中が下卑た笑いで溢れる。

「まあ…まずこのガキは俺等のとこで一生飼い殺しは決定だなぁ」
「てめぇ………!!」

組長の言葉に、ディーノさんや綱吉達の雰囲気が変わったのが解った。
目の色を変えて、完全に怒ったディーノさんが鞭をふるって要らん被害を出していても、どうにかしたくても、両腕を固定されているから動きたくとも動けない。
けれど、そろそろ、私の中の沸点はそろそろ限界に近づいてきた。
4人をハラハラしながら見ていると、組長が私の耳に顔を近づけてきた。

「オナカマの心配してる場合か?安心しろ、お前から先に可愛がってやるよ」
「っ! 止めろ!! それ以上彼女に触れるな!!!」

嫌らしい手つきで私に触れようとする組長に、綱吉が真っ先に反応して噛み付いた。

「なんだぁ? この女がそんなに大事か? ああ動くなよ? 1歩でも動いたら、こいつの命はねぇからな」
「っく、ああそうだよ! 大事だ!! だから頼むから止めてくれ!!!」


綱吉が必死に制止をかけるけれど、それを聞かずに手を私に伸ばす組長に、綱吉はもう一度叫んだ。

「お願いだから彼女に触れるな!!!」
「なあツナ、少し落ち着………」
「止めろ、初音……………っ!!」

ディーノさんの諌める声と、綱吉の必死の叫びを聞き終えた時には、もう体が勝手に動いていた。

1に、両腕を押さえ付ける男の急所を後ろ足を使って蹴りつける。怯んだ隙に、手首を巧みに翻して拘束を解いて、体を回転させ、真っ直ぐに首筋に向かって爪先を減り込ませる。

「いーち」

2に、手前にいた男の頭に右で肘鉄を打ち込み、左の手の平で脳を揺さぶる。ついでに止めとばかりに後頭部に踵を突き刺す。

「にーい」

3に、スカートのポケットから“双優”を取り出して、言霊を唱えると同時に腕を大きく振るって、身の丈程の大きさになったそれを、開かずに組長の頭にぶち込んだ。
更に腹部に蹴り2発、背中に肘鉄と踵落としを1発ずつ。

「さーん」

これで、私の近くにいた男はとりあえず全部沈んだ。

「だから綱吉の忠告大人しく聞いてればよかったのに。大して強くもないくせに、不必要に意気がるから」
「初音……だからってこれはやり過ぎだろ。相変わらず容赦の決片もないな…………」

顔をしかめる綱吉の言葉は聞かなかったふりをして、床に落ちた鞄を拾いに行く。

「だってやっぱり苦手なんだもん。ああいうガタイのいい人って」

むぅ、とむくれながら鞄からルリを出して怪我が無いか見ていると、ディーノさん達がぽかんとした顔でこちらを見ていた。

「…………? なあに?」
「い……いや、何でもねぇ………」

不思議に思って尋ねると、気まずそうに言った隼人を筆頭に、3人共みんな一様に目をうようよと泳がせた。

「なあにもう。失礼だなぁ」
「みんなびっくりしてるんだよ」
「何で?」
「何でって………」

妙に歯切れの悪い綱吉に首を傾げていると、他の幹部らしき人達が、組長に駆け寄った。

「てめぇこんガキャア! 何しやがる!!」
「あんたらのボスこそ何するのよ。女性に触れるマナーもなってない下種に、情けなんか要らないわ」

目くじらを立てて怒鳴る幹部らしき人達にはっと吐き捨てる。

「ほら後ろ、何ボサッとしてるのよ。この下種共さっさと片付けるよ」
「えっと…初音………」

後ろで何もせずに突っ立ってる男性陣に声をかけると、綱吉がげんなりとした顔をして溜息を吐いた。

「あーあもう、しょうがないなぁ。付き合ってやるよ」

がしがしと頭を掻いて諦めたように言うと、それに促されるように隼人達が頷いた。

「解りました! 行きましょう10代目!!」
「後ろは俺達に任せろ! 桜龍寺はツナと一緒にいてくれ」
「はいはい」

さりげなく綱吉を真ん中にするように隼人達3人で構える。
私は鞄から代理と書かれた腕章を取り出して、素早くそれを腕に装着した。

「並盛中学風紀委員代行桜龍寺 初音。これより代理業務を執行します。…………貴方達全員、私に手を出した事を、後悔させてあげる」

にこりと笑って言って、3人でヤクザ達を蹴散らしていく。
暫くすると、ディーノさんの部下さん達も駆け付けて、やっと使い物になったディーノさんも加勢に入った事によって、その日のうちに桃巨会は壊滅した。
まあ、悪く思わないよね。











「ごめんねぇ、綱吉。やっぱり今回も我慢出来なかった」
「謝るくらいなら、最初からやらないでほしいんだけどな、初音」
「まあまあ。でもほら、本来なら鼻の骨でも捩り折ってる所を、1本も体の骨折ってないんだから、別に良いじゃない」
「ちっとも良くない!!」

機嫌悪そうに怒鳴る綱吉に、ちろりと口から舌を除かせてそれをごまかす。
桃巨会を無事(?)に壊滅させてから、気づけばもうお昼近くになってしまった。
かと言ってこれから学校に行く気にもなれず、部下さん達は帰らせて、ディーノさんを含んだいつものメンバーで並盛の商店街をふらふらと歩いていた。
というか、今から学校に行って恭弥に会うのが怖いだけなのだけれど。

「んーっと、とりあえず、これからどうする? 私は恭弥に見つかりたくないから、出来れば人通りの多い場所は避けて行きたくないんだけど」
「それはオレ達だって同じだよ。こんな所で咬み殺されなんてしたらたまんない」

ぐぐーっと伸びをして尋ねると、綱吉がげっそりとした顔で言った。隼人と山本くんもそう思ったのか、何とも言えない顔をししている。
彼を知らないディーノさんだけが不思議そうに首を傾げていたけど、どうせあと1年もしないうちに家庭教師として会う事になるし、わざわざ言ってやる必要もないだろう。
けれど、学校をこのままサボるという事に関しては、綱吉や隼人は慣れから、山本くんは純粋な好奇心からか、特に止めようとする気配は見当たらなかった。
ディーノさんも、学生時代はやっぱり綱吉寄りの生活を送っていたんだろうから、止めようとはあまり思わないんだろう。

「というか、結局リボーンはどこに行ったんだ? まあどうせどっかでオレ達の事見てるんだろうけど」
「3時にはいつも家に帰って来てるよ。おやつの時間だから」
「そんな所だけ普通の子供らしいな!!」

以前奈々さんが言っていた事を思い出して口にすると、綱吉から予想通りのツッコミが飛んできた。

依然として歩き続けながら繰り広げるその会話のテンポを心地良く感じて少し頬を緩ませていると、不意に頭上が陰った。
何となく予想をつけて、足を止めて上を見ると、茶褐色の学ランを着たパンチパーマの男が立っていた。

「よォ、久しぶりだな、桜龍寺 初音」
「…………………………………ええっと、どちら様?」

何やら私を知っている様子のその男の人に、悪いと思いながらも首を傾げて疑問を問い掛けると、その人は怒りからか顔を真っ赤にした。

「こっ、こ……この青巻中の薮坂を覚えてねぇだとおッ!? くそっ! ここで会ったが100年目!! 今日こそお前を殺ぶふぉっ!?」

よく解らない事をべらべらと言っているその人に、台詞を最後まで聞かずに回し蹴りを飛び出た腹部に叩き込んだ。

「最後まで言わせてやれよ……可愛いそうだろ」
「だあってああいう男の人苦手なんだもん」
「初音はガタイの良い男苦手なのな?」
「うん…普通の体型の人でも、初対面の人はちょっと苦手」
「えっ、じゃあ俺の部下と一緒にいるの、もしかして嫌だったか?」
「ううん、それは別。だって皆さん優しいもん」

痛みに悶絶している薮坂とか言う人そっちのけで会話を交わしていると、復活したらしい彼が大声を張り上げた。

「おいてめぇ! 何しやがる! 覚悟は出来てんだろうな!!」
「はあ? 何で私が覚悟しなくちゃいけないの? 貴方をボコボコにする覚悟? そんなの一々決める必要何か無いよ」

ぎゃあぎゃあとまた喚き散らす薮坂にイラッとしながらも、鞄からマジックペンで「代行」と書かれた腕章を装着した。

「午前11時56分。並盛町のゴミと判断すべき人物と遭遇。即刻排除すべきと判定。
風紀委員代行桜龍寺 初音。これより制裁を執行します」

そう誰に言うでもなく宣誓して、彼に攻撃を仕掛けようとした瞬間、彼の身体がぐらりと傾き、地面に倒れた。
それが倒れて彼がその姿を現す前に、反射的に綱吉達をすぐ横の角に押し込んだ私は、本当によくやったと思う。

「やあ、初音。こんな所で委員会だけでなく学校までサボっているなんて、驚いたよ」
「………ぼ…ぼんじょるのー、恭弥………」

棘の出たトンファーを構えたまま不敵に笑う恭弥に、引き攣った笑顔を何とか返す。
とはいえ、内心冷汗だらっだらだ。これから何をされるのか。恐ろしくて見当も付けたくない。とりあえず咬み殺すのは勘弁してほしい。

「まったく……本当に君は仕方のない子だね。さっさと学校に行くよ。今日は放課後過ぎても帰してあげないから」
「へ? わ、わあっ!」

訳が解らずぽかんとしていると、いきなり腰から下の感覚が無くなった。
驚いて、自分の1番近くにあったものにしがみつくと、それは恭弥の学ランだった。それを見て、やっと彼の肩に担がれているとはっきり理解すると、それと同時に恭弥が歩き出した。

「うわっ、ひゃっ、し、下の感覚がないの怖いっ! っていうか私、重いよっ!」
「黙って」

わあわあと慌てる私を余所に、恭弥はてくてくといつもと変わらない様子で歩いたままだ。
恭弥に担がれたまま、心配そうに角から顔を出す綱吉達には恭弥に解らないようにジェスチャーで謝っておいて、大人しく恭弥から逃れるのを諦める事にした。





Get back hear!
(宙に浮いてるの怖ぁ〜…!)(…………当たってるんだけど)







男嫌いな初音と、その彼女と平気で一緒にいられる数少ない男達。
実は風紀委員の取り巻きたちにも内心ビビりまくりなヒロインでした。





2011.3.22 更新
2011.12.10 加筆