小説 | ナノ


01





それから、私はディーノさんとその部下さん達に、彼等の故郷を見せてもらった。

彼等の暮らしている所は、本当に素晴らしかった。
シマの人は皆喜作で楽しい人達ばっかりで、ディーノさん達マフィアにも怖がる様子を微塵も見せずに、まるで家族の様に接していた。
それから、ディーノさんが言っていた赤い屋根の家はピザ屋で、彼の言っていた通り、そこのおばさんが作るピッツアは本当にとても美味しかった。
それに、私が美味しいですと言ったら、すごく嬉しそうに笑ってくれて。それが何だかむず痒くって、けれど不思議と嬉しかった。

………けど、そこで少し早めのディナーをいただいているうちに、町中の人達が集まってさながら宴会の様になってしまい、9代目との面会時間…というか、屋敷へ向かう時間を大幅に過ぎてしまっていたみたいで。
それに気づいたディーノさんは、まさに顔面蒼白と言った感じで、携帯片手に店から飛び出して行った。
まあ…幸い、9代目はさして怒った様子も見せずに、私を屋敷に送るのを翌日にするというのを快く承諾してくれたらしいから良かったけど。
そんなこんなで、イタリアに来て2日目、とうとう現ボンゴレボス・9代目に会う事になりました。

「ディーノさん、送っていただいてありがとうございました」
「はははっ。そんなの気にすんなって! 俺はこれから仕事が入ってるから一緒に中まで行けないけど、中に案内してくれる人がいるから」
「はい。解りました」
「おう。じゃあ元気でな、初音」
「ディーノさんも、お元気で」

ボンゴレの屋敷の前まで送ってくれたディーノさんに笑顔でお礼を言う。
最後に両頬にキスをすると、ディーノさんは爽やかに笑って、颯爽と車に乗り込んで去って行った。
…………さて、と。私もそろそろ動かなきゃね。

「すみませーん。リボーンの紹介で来た、桜龍寺 初音という者ですがー」

屋敷の私の3・4倍はある巨大な扉の前で大きな声でそう言うと、ギギギ…という音を立てて扉が開いた。
それにちょっと驚きつつも、そうっと屋敷に中へ足を踏み入れた。

「やあっ! 君が桜龍寺 初音ちゃんかい?」
「――――っ!!!」

不意に頭上から聞こえてきた大声に、大袈裟なくらい肩がふるえた。
慌ててバッと上を見上げると、入り口の真正面にある階段の上に、金色の無精髭を生やし、何故かくすんだオレンジ色のつなぎを着たおじさんが立っていた。
って、いうか…この人………。

「つっ、あっ、綱吉っ…くんのお父さん……!」

失礼ながら思わず彼を指差してそう言うと、綱吉父(ええと…確か名前は家光さんだ)は一瞬驚いた顔をして、それからすぐにくしゃりと破顔した。

「はははっ、本当に君は俺達の事をよく知っているんだね。リボーンに連絡をもらった時は、敵のファミリーからの回し者かと思ったものだけど」
「………ふふっ。随分と、嘘がお上手なんですね。まだ未だに信じてないって顔してますけど?」

一見朗らかに笑っているように見えても、その細められた眼から覗く鋭い眼光は隠しきれていない。
あれは、敵を見る眼だ。
………よく知っている、あそこで、草耶さんに引き取られた頃によく見た、馴染みの深い…眼だ。
それを指摘すると、家光さんは先程より大きく目を見開いて、優しいおじさんの皮をかぶるのを止めたらしい。
しっかりと敵意を持った、いかにもマフィアらしい眼を私に向けた。

「………よく分かったね。やっぱり君は、他のファミリーの回し者なんじゃないのかな。……ひとつ聞くけど、君はボンゴレファミリーにとって、毒となる存在になるのかな?」

家光さんのその問い掛けに、私は喉までせり上がってきた嘲笑をすんでのところで抑えこんだ。

はっ、妻と子の心配よりも先に、まずファミリーときた。
笑わせる。そんなだから、実の息子にろくに信頼をよせられないんだ。

「あなた方の出かた次第で、毒にも薬にもなりますよ。あっ、誤解の無いように言っておきますけど、私は敵ファミリーの回し者でも無ければ、マフィアですらありませんよ。私は単なる一般市民です。どこにでもいるね。」

マフィアとしての本性を除かせた彼に、にこりと微笑んでそう言ってやる。
只の一般市民だという事を告げると、家光さんは露骨に疑いの眼を向けてきた。
……うたぐり深い人だなぁ…。まあ、強いて言うなら。

「強いて言うならば、私は綱吉の味方です。あなた方が綱吉にとっての毒となるなら、私もあなた方にとっての毒となりましょう。その逆もまたしかり。まあ、これは全然私の独りよがり、っていうか、単なるワガママに過ぎませんけどね」

私は家光さんに殊更明るい笑みを見せて、一歩ずつ彼に近づいていく。

「ああ、本来なら、私はあなた方なんかに毛ほども興味なんてないんですよ? でもほら、綱吉がマフィアとかになっちゃうと、私が綱吉の傍に全然いられなくなっちゃうじゃないですか。だから」

階段を登りきって、家光さんの目の前に立ち、そこで初めて全ての表情を消し去った。

「だから、今日はそこら辺のお話をしたいなあと思って」

唇からこぼれ落ちた音は、まるで自分のモノじゃないくらい、つめたく冷えきっていた。
家光さんの頬に、つぅ、と一筋汗が流れる。
それを見て、嗚呼、マフィアって結構たいしたことないのかなぁ…と他人事みたいに考えた。

多分、今の私はとても冷めた目をしているんだと思う。
…………私はきっと、今の彼の姿に失望している。マフィアという生き物は、プライドと誇りを常に胸に抱いた人間達だと、リボーンに聞いていたから。
だから、こんな小娘1人にこうも簡単に余裕を崩してしまうボンゴレのNo.2が残念でならなかった。

「……………何か、言ったら如何ですか? 私は、あなた方とお話する為にわざわざイタリアまで来たんですから」

もう一々笑顔を形作るのが面倒臭くて、顔から表情を消したまま、淡々と家光さんにそう告げた。
けれど、家光さんは額に脂汗を浮かべたまま、一向に口を開かない。
それに流石にしびれを切らして、私の方から口を開こうとした時、不意に第3者の声が入った。

「そのくらいに、してやってくれないかな」

怒気を孕まない、穏やかな声。
その声のする方を見ると、白髪の初老の男性が立っていた。

「きゅ…9代目!!」

そのおじいさんを見て、家光さんが驚いたように目を見開いてその人をそう呼んだ。
………嗚呼、この人がボンゴレ9代目か……。
失礼だけど、優しそうな濃い空色の眼と笑顔と、その手に持った杖を除けば、どこにでもいそうな普通の老紳士だ。
そう思ってまじまじとその老紳士さんもといボンゴレ9代目を見つめていると、その人はゆっくりと私達に近づいてきた。それから私に向かってにこりと穏やかに微笑むと、少し申し訳なさそうに苦笑した。

「………………?」
「すまないねぇ。家康は人より少し心配性なものだから。リボーンから君の話は常々聞いていたのだけれど、彼はそれをあまり信じていなかったようで……。本当に、不快な思いをさせてしまってすまなかったね」

そう言って本当にすごく申し訳なさそうにする9代目に、逆にこっちが焦ってしまう。
確かに、家光さんの言葉にカチンときたのは事実だけれど、それに対して私が彼に不躾な態度を取ってしまったのも、また事実なわけで………。
だからそんな風な態度をとられると、逆に困ってしまう。

「いっ、いいえっ! あの、私の方こそ、あんなあなた方を愚弄するような事を言ってしまって、すみませんでした! …………冷静になってみると、随分と大人げの無い、失礼な態度を取ってしまいました。………えと、ごめんなさい。反省しています」

9代目のその態度と言葉に、家光さんにムキになっていた事が途端に恥ずかしくなって、慌てて彼に頭を下げた。恥ずかしくて、つい顔が赤くなる。
次いで、家光さんの方を向いて、そっちにも頭を下げた。

「先程はついムキになってしまい、失礼な事を言ってすみませんでした」
「い、いや、こちらこそ。すまなかった。女の子相手に、大人げ無い事を言ってしまったね」

深々とお辞儀をして謝ると、家光さんは驚いたような顔になって、それから、少しきまり悪そうに笑って謝ってくれた。

「私の方こそ。本当にすみませんでした。………じゃあ、仲直り、ですね」
「ああ、そうだね」

お互い最初のぎすぎすとした雰囲気を和らげて、恥ずかしさから照れまじりに改めて挨拶を交わした。

「改めて、よろしく。知っていると思うけど、俺の名前は沢田 家光だ」
「はい。よろしくお願いします。改めてまして、私は桜龍寺 初音です」

彼に次いで軽く自己紹介をしてぺこりとお辞儀をして、家光さんと握手を交わした。家光さんから、さっきまでのような敵意は感じない。
きっと、9代目が私に敵意を持っていなかったからだろうと思う。
つくづく、ボスの存在は偉大だ。

「さてさて。2人共仲直りしたところで、行こうか、初音ちゃん」

私と家光さんが一応とりあえず仲直り(なのかな…?)すると、9代目が優しく微笑んで、私に手を差し延べた。

「折角来てくれたのだから、少し場所を移動しようか。ここで立ち話もなんだしね」

そう言ってどうたろう? と私に聞く9代目に、私も小さく笑って頷いた。

「はい。………それでは、エスコートをお願いしてもよろしいですか?」

少し照れ臭さを感じながらそう尋ねると、9代目はにっこりと笑って、返事の代わりに、差し出したその手で私の手を取った。











「さあ、こっへどうぞ」

9代目に手を引かれて着いたのは、下から綺麗な薔薇が見える小洒落たテラスだった。
そこには白い円いテーブルと椅子と、その上に、色とりどりのデイジーの入った花瓶が置いてあった。

「年頃の女の子の好きなものなんて何も解らないものだから、色々と雑誌を読んだりして調べてはみたんだけどねぇ………」

そう言う9代目は、少し恥ずかしそうにして、私に椅子を引いて座るように促した。

「初音ちゃんが喜んでくれるかどうか、心配だったんだけど………」
「いっ、いいえっ! とんでもないですっ! とっても、とっても素敵ですだと思います」

申し訳なさそうにする9代目に、慌てて手をぶんぶんふって否定すると、9代目はほっとしたような顔をしてくれた。

「良かった。そう言ってもらえると、メイド達に相談した甲斐があったよ」
「へえ…そうだったんですか。私は好きですよ、こういうの。……それに、何だか懐かしくって」
「懐かしい? 昔、こういった所にでもいたのかい?」

私の言葉に不思議そうに首を傾げる9代目に、私はふるふると首を横にふった。実のところ、私は草耶さんに引き取られてから1度も国内から出た事がない。
お金持ちって言ったら皆海外に頻繁に行ってるってイメージだと思うんだけど、草耶さんは昔外国でゲイの人に襲われたのがトラウマらしくって、「初音には絶対海外には行かせない! 外国コワイ!!」って言って、結局最期まで連れて行ってもらえなかった。
綱吉にも驚かれた事だけど、私にとって、これが初めての海外旅行なのだ。
…………なんだけど、こういう洋風の、っていうか、イタリアとか中世っぽいモノを見ると、何故だか酷く懐かしい気持ちになる。あと、お菓子とかを作ってる時も。理由は解んないんだけど。

多分、9歳以前の記憶とかのモノだとは思うんだけど。
でもそこまで今日会ったばかりの他人に言う必要は無いと思って、9代目には不思議ですよねーとだけ言ってごまかした。

「まあ、何はともあれ。来てくれて嬉しいよ、初音ちゃん」

にこりと微笑む9代目に、私も同じ様に笑って私もです。と短く答えた。
それから何処からともなくメイドさんが現れて、9代目には珈琲を、私には紅茶を煎れてくれた。
それと苺のショートケーキを2つを置いて、一礼をしてから下がって行った。

「さあ、どうぞ。遠慮しないで食べるといい」

9代目の笑顔に圧されて、フォークを取ってケーキを1くち口にした。
ケーキは、ふわふわとして柔らかくもしっとりとしたスポンジと、程良い甘さのクリームが程よく合っていた。うん。凄く美味しい。
このケーキは冷蔵庫に入っていた感じはしないから、きっとこの屋敷のパティシエとかが作ったのだろう。ボンゴレは腕の良いパティシエをお持ちのようだ。
…………って、そうじゃなくて。

「……あの、9代目」
「ん? 何だい初音ちゃん」

怖ず怖ずと遠慮がちに声を掛けると、穏やかそうに見えて隙の無い微笑を返された。
何だい、って、貴方………。

「今回、私は貴方に会う為に(12時間程かけて)ここに来たのですが。一体何故、私をわざわざイタリアまで?」
「おや、リボーンに聞いていなかったのかい? 私は沢田 綱吉君の最初の部下となり、そして異世界から来たという君を彼が紹介してくれると言うから、その言葉に甘えて、君にここへ来てもらったんだよ」
「ええ、存じております。……でも、それは結局、只の建前でしょう? 本当の理由は何なんですか」

相変わらずにこやかに笑う9代目にそう返すと、9代目は驚いた様に目を見開いた。
それからゆっくりと手に持っていたカップをソーサーの上に置くと、にこりと優雅に微笑んだ。
その笑顔は、先程見た家康さんの様な敵意の見え隠れしたものではなくて。
まるで、何もかもを見透かすかのように、恐ろしい程に綺麗に澄んだ空色の眼をしていた。

「……………ああ、そうだね。確かに、私が君にここへ来てもらったのは、ただリボーンに紹介してやると言われただけじゃないよ」

9代目のその言葉に、私も当然だろうという意味を込めて頷いた。
そうだ。いくら彼が最も信頼しているらしいリボーンから言われたからって、わざわざ天下のボンゴレボスがこんな小娘の為にスケジュールを空けるとはとても思えない。
確かに、異世界から来た、自分達ボンゴレやその周辺の未来を知る人間なんて、興味を持つには十分だと思う。
だけど、それだけじゃ多忙だろうボンゴレボスの予定を空ける理由には不十分だ。
それに、そんな常識的に考えたら何て下手な嘘なんだろうと思う事を素面で言い切る女の事を普通は信じないだろうし、せいぜい気味悪がるのが関の山。
それなのに、彼は私をボンゴレの総本部であるこの屋敷へ招いた。
そこが問題なのだ。

イタリアへ行く前や、昨日ディーノさん達に彼らのシマを案内してもらった時は色々あって特に気に止めなかったけど、よくよく考えてみたらやっぱりおかしい。
だって、いくら探しても、9代目が直々に私に会う理由が見つからない。
未来の様子を聞き出したいのなら、別に自分が聞かなくても、部下に頼めばそれでいい(教える気は無いけど)。家光さんみたいに私を敵マフィアのスパイだと思うんなら、それはなおさら。
なのに、9代目は私をここへ呼んだ。その意図が解らない。

「まあまあ、そう、警戒しなくても良いよ」

紅茶もケーキも1くち口にしてからじっと黙ったままでいた私に、ふと9代目が穏やかに微笑んでそう言った。
私は、自分でも気付かないうちに険しい顔をしていたらしい。
けれど9代目はそんな態度の私を咎めず、穏やかな顔で見つめて、ゆっくりと口を開いた。

「……………リボーンにね、よく、綱吉君の事を聞くんだよ」
「は?」

9代目の口から出た見当違いな言葉に、つい間抜けな声を出してしまった。
目の前にいるこの老紳士は、そんな私の様子を特に気にするそぶりを見せず、そのまま続ける。

「私は彼を次期ボンゴレ10代目候補に選んだ張本人な訳だから、やはり彼の日々の様子が気になるだろう? それで、1週間か2週間に1回の割合でリボーンに彼や彼の周りの様子を聞くんだよ。そうするとね、リボーンからは必ずと言って良い程、綱吉と一緒に、君の、初音ちゃんの話が出て来るんだよ」
「……それが何か」

やけに勿体振った言い方をする9代目に、少し苛ついて、不機嫌な声色を隠せずにそう返すと、まあ聞いていてと宥められた。

「綱吉君と一緒に君の話が出るのは、何もそこまで気にする事ではないと、私も思うよ。けれど、気になるのはその頻度だ。リボーンからの話を聞くと、綱吉君が過ごしている時間には、殆どと言って良い程君が共にいる」
「それだけ綱吉と私の仲が良いから。……とは、思っていただけないんですね」

9代目の言葉に小さく笑って返すと、残念だけれどね、と少し申し訳なさそうに言われた。

「……………私はね、##NAME1##ちゃん。君が、綱吉君をどう思っているのかが気になるんだよ。先程の家光とのやり取りを見て、君がボンゴレに敵意を抱いていない事は解った。けれど、好意を抱いているわけでもないという事も、同時に解ったよ。
私はね、初音ちゃんが綱吉君をどう思っているのかが知りたいんだ。大切に思っているのかどうかが、ね」

ゆったりとした口調で語る9代目に、私は小さく自嘲気味に笑った。

要するに、この人はどちらも心配なのだ。ボンゴレの事も、自分がその10目候補に選んだ綱吉の事も。
中途半端にでなく、本当に、心から。……どうやら、私は相当彼を見くびっていたようだ。
これはきちんと自分の本当の気持ちを彼に話さなくてはいけない。
そう思って、膝に手を置いて少し深呼吸してから、しっかりと9代目の目を見て口を開いた。

「大好きですよ。私は、綱吉を誰よりも大切に思っているという自信があります。少なくとも、綱吉をボンゴレ10代目の候補から外して下さいとお願いする為にイタリアまで来るくらいには」

にこ、と愛想良く笑って言うと、9代目はぱちりと目を瞬かせて、困った様に笑った。
まるで、孫に無理難題を言われたおじいちゃんみたいだなと思って、場違いにも少し笑えた。

「………それは」
「ええ。無理、ですよね。貴方の今までの動作を見れば、それは解ります。でも、私は綱吉に普通の日常を過ごしてほしいと願ったんです。血とか、硝煙の臭いとか、腹の探り合いとは無縁の。彼が恋い焦がれる、ごくごく普通の日常を」

笑顔を保ったままでいる私を見て、9代目は申し訳なさそうに眉を下げる。そんな顔をするくらいなら、最初から綱吉を選ばなければ良かったのに。…………そう思うのは、私の単なるエゴでしかないのだろうけれど。

「あなた方の事情を無視して言ってしまえば、私は、貴方達の組織の跡取りが私に関係の無い人間ならば、誰だって良いんです。ボンゴレ10代目なんて、XANXUSがなればいい。私は今までもずっとそう思っていたし、これからも、その考えはきっと変わりません。私はマフィアが大嫌いです。私から綱吉を遠ざける存在なんて、みんなみんな大嫌い。だけど」

驚きと哀しみが半々になった顔をする9代目に、私は少しだけ困ったように笑った。

「だけど、貴方やディーノさんやリボーンの事は、嫌いになれないんです」

だって、マフィアがただ理不尽な事を突き付けている訳じゃないと、知ってしまったから。
そう打ち明けた私に、9代目は優しく微笑んで、そっと頭を撫でてくれた。なんだか少し気恥ずかしくて、でもそれと同じだけ、心がほっこりと温かくなったような、そんな気がした。






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