「“女の子に見える”って。良かったね、ハル」 私がそう言ってハルに笑いかけると、彼女はホッとした様に胸を撫で下ろした。 「はひ…良かったですー。……あ、ちなみにイーピンちゃん、初音ちゃんはどんな風に見えますか?」 ちゃんとシューマイ呼びを撤回してもらえて嬉しかったのか、にこにこと元気に笑って、ハルが言った。 それにイーピンはコクリと頷いて、今度は私をじっと見ると、イーピンが私を指差して言った言葉に、また私は自分の顔が引き攣るのを感じた。 「初音、イーピン何て言ってんの?」 「えっあ……一緒よ一緒! ハルと同じで“女の「ウソ言ってんじゃねーぞ初音」う゛っ…」 はははーっと笑って言おうとすると、リボーンにそう言われ黙らざるおえなくなってしまった。 それがちょっと悔しくて、リボーンをじぃっと恨みがましく見つめると、なんとも意地悪く笑われた。 「え、えー…。何でウソつくの…初音……」 「ええっ。い、いや綱吉、決してつきたくて嘘をついた訳ではなく……」 目尻をさげ、しょぼーんと顔を暗くする綱吉に、慌てて弁解する。 うう…それすらも可愛いと思うとか、私もう絶対末期だ。 「いやあのだってこの娘がイーピンが私の事見て“美人”とか何とか言うからそれを通訳して自分で言うのって恥ずかしいなぁーって思って(以外略)」 顔が熱くなっていくのを感じながらぶーっとぶすくれてそう言うと、綱吉はぽかんとした顔をした。 そしてハルは何故かキラキラとした目をして、手を胸の辺りで組んで私を見ている。 「〜〜〜〜っ初音ちゃん可愛いですー―――!!!」 「ふあっ!? えっ、ちょっ、何っ!?」 突然ぎゅぎゅーっと抱き着いて来たハルを慌てて受け止めて目を白黒させていると、ハルが興奮したように言った。 「あーもー! 初音ちゃんは何でそんなに可愛いんですかー!! ハルもードキドキですー!!」 「へっ!? か、かわっ………!?」 きゅうきゅうと抱き着きながら言うハルの子供に、かぁっと顔を赤くする。 とりあえず、ヒートアップしたハルを宥め、体を離してもらう。 ハルは物凄く不服そうにしていたが、まあそれはスルーの方向で。 「まったくもう。ちょっと4人共、私お茶淹れてくるから、ランボ達よろしくね」 そう言って、綱吉の部屋を出て行こうとしたら、不意に誰かにがしりと腕を掴まれた。 振り向くと、綱吉がまるで捨てられそうな仔犬のようにうるうるとした目でこちらを見つめている。 「(行かないで行かないで行かないで行かないで。オレをこの空間に1人にしないで初音!!)」 「(えええ、そんな事言われましても)」 「(おーねーがーいぃぃー。オレじゃ獄寺くん達の暴走は止められないんだよ)」 「(頑張れ頑張れ。ボスでしょ貴方)」 「(ボスじゃねぇぇぇぇぇ)」 と、心のでお互い言い合いをしていると、さっきまで大人しかったランボがまた騒ぎ出した。 今度は、体をくねくねとちょっと気持ち悪い動作で動かしている。 「つかまえるぞ〜!!!」 「………イーピン、あれは何に見える?」 「◇£☆□&〆〇!」 「何だって?」 「「バカが見える」つってるぞ」 「(大正確!!)」 「…あ、あはは………」 近眼用のメガネを掛けて、意外とずばずば素直にモノを言うイーピンに、頬を引きつらせる。 …この子、見かけや態度とはちがって、結構歯に絹着せないタイプなんだなぁ……。 なんて思いながら苦笑いしていると、ふと山本くんがイーピンに話し掛けた。 「なぁ、何で今までメガネ掛けなかったんだ?」 「そーだよバッチリなのに」 「〇*☆∇$〒□£∂」 「「耳がないから」って。確かに、こんなにつるつるしてたら眼鏡なんて掛けられないよね」 山本くんの質問にイーピンの代わりに代弁して答えると、紅い中華服をひょいと抱き上げ膝に乗せ、何処までもつるんとして触り心地の良い頭を撫でた。 うん。すべすべだ。やっぱり小さい子は良い。 「コラ新入り!! ランボさんを無視するなー!!」 イーピンの頭のすべすべを余す事なく堪能していると、今まで大人しかったランボが、何故かいきり立ってイーピンに突っ掛かってきた。 そんなランボの子供特有とも言える理不尽な文句を言われたイーピンは、急に立ち上がって私の膝から下りると、ぱっといかにも中華拳法風な構えをとった。 あ、ちょぉーっとヤバいかも。 「ブロッコリーの化け物じゃないって解って、攻撃するつもりだ!!」 「っ、イーピン! ランボに乱暴しちゃダメ!!」 隣接体制に入ったイーピンを見て、綱吉がランボに踏まれてぐちゃぐちゃになった粘土をこねなおしながら驚いたみたいにそう言った。 確かにこの状況からしてそうなのだけど、流石にそれはマズいと思って、イーピンに制止の声を掛ける。 っていうか綱吉、止めないって事は、実は粘土ぐちゃぐちゃにされたの恨んでる……? さりげなく酷い綱吉に内心苦笑いしていると、イーピンは私が早口に言ったので解らなかったのか無視をしたのか(前者だと信じたい)、制止の声を聞かずに餃子拳を発射した。 「ぐぴゃっ!」 訳も解らずそれをもろにくらったランボは、餃子エキスの詰まった見えない空気砲によって1m程吹っ跳び、ぺしゃんとカーペットの下に仰向けに落ちると、数秒きょとんとしてから、せきを切ったように泣き出した。 ていうか皆さん、イーピンの餃子拳に感心してないで、ちょっとはランボに感心持とーよ。 ……でもイーピン、1mしかランボが跳ばなかったって事は、手加減したんだ。偉いね。 「よしよしランボ。痛かったねーびっくりしたねー」 とりあえず、泣いてる子供を放っておく訳にはいかないので、ちょうど私のすぐ傍に落ちたランボを膝の上に乗せた。 よしよしとランボのもじゃもじゃを撫でて慰める。 でも、ランボはぐずぐずと鼻を啜るだけで一向に泣き止んでくれない。 困った…と思っていると、その潤んだ目が僅かに悔しさをにじませてるのに気がづいて、思わず苦笑した。 きっと、同年代の、それも女の子にこてんぱんにされて、悔しいのだろう。間借りなりにも、自称だけどもヒットマンなのだ。悔しくない訳がない。 「お前なんかしっぽ頭ー――!! しっぽあたまあぁあ!!!」 おっと。どうやら武力では勝てないとふんで、精神攻撃に移ったようだ。………しかし、女の子に向かってその発言はいただけない。 お陰でイーピンが汗をたんまりかき、額にいちにいさん…9個の丸を浮かばせてしまった。 うん、ますますいただけない。 「ちょっ…ヤバイヤバイ!! ピンズ時限超爆のカウントダウンが始まったぁ!!」 「ああ、これが綱吉の言ってた」 「感心してる場合じゃないからな初音!!!」 うわーうわーと慌てている綱吉には大変申し訳ないのだけど、何と言うか、あまり危機的状況に陥っているという実感がないのだ。 だってこの子、だぱだぱ汗顔から汗流して額に丸浮かべてから、ずっと立ったままだし。 未だ実感がわかないまま、まだえぐえぐ言ってるランボの頭を撫でていると、不意にその腕にイーピンが引っ付いてきた。 「あら」 「あーっ! おいこらしっぽあたまぁ!! おれっちの初音からはなれるんだもんねー!」 「こらこらランボ。女の子にそんな事言っちゃだめよ」 「初音和やかに注意してる場合じゃないー――!!」 キッとイーピンを睨みつけてぶーぶー文句を言うランボをゆったりと諭していると、ズバリと綱吉につっこまれた。 それだけならまだ良かったんだけど、ランボにしっぽあたまと呼ばれたイーピンは小さく方を揺らすと、恥ずかしさからか一気に丸が2こ減ってしまった。 「あーっ! あと二ピンしかないっ!!」 「まあまあ綱吉、そう焦らないで。ほーらイーピーン。たかいたかーい」 「だから何で初音はいつもそんなに落ち着いていられるの!!?」 とりあえず照れて汗をかきまくってるイーピンを落ち着かせようと体を抱き上げて高い高いをすると、綱吉に今度は半泣きでつっこまれた。 なにもそんなにいきり立たなくても。 「とっ、とにかく何とかしなきゃ!!」 「10代目!! 窓から外に!!」 綱吉はイーピンに引っ付かれてる本人(私)よりも慌ててイーピンを抱き上げる。 それから隼人の言葉に大きく頷くと、彼が開けた窓の外に勢い良く彼女をぶん投げた。……が、屋根に刺さっていた画鋲にイーピンのおさげの先が引っ掛かった。 そのままイーピンは、窓のそとにてるてる坊主みたいぷらりとぶら下がった。 ………可愛い。ちょっときゅんとしてしまった。 「ああああ髪引っ掛かったー!! ……うっ、やぁっ…!! とっ、届かないーっ!」 「逃げましょう10代目!!」 イーピンが引っ掛かったのを見て大きく目を見開くと、背伸びをしてイーピンに手を伸ばす綱吉。 懸命に手を上下にふるが、どうやら彼の腕ではリーチが足りないみたいだ。 「イーピンちゃんに何してるんですかツナさん!!」 「それどころじゃないんだって! 頭のピンズが1つになったら大爆発だ!!」 「まあまあ2人共落ち着いて。ここはお姉さんが取ってあげるから」 「いやだから初音も待って!? それよりダメダメ! 初音女の子なんだから!!!」 切羽詰まった雰囲気出してるくせしてキャンキャンと言い争う2人を適当に宥め、イーピンに手を伸ばす。 そのままイーピンのおさげが引っ掛かってる画鋲に手が触れるか触れないかの距離で、顔を青くした綱吉に腕を押さえられた。 まったく、心配性なんだから綱吉は。 「ああーっ!! もう3ピンしかない! ヤバイ逃げよう!! おいランボこんな時に何やってんだ!!」 屋根にぶら下がったイーピンの額の丸が残り3つになったのを見てさらにあわてふためく綱吉。 逃げなきゃと言って慌てながらも泣きながら10年バズーカをを向けるランボに的確なツッコミを入れる綱吉に、ひっそりと苦笑した。 とか何とか言ってるうちに、額の丸はあと2つになってしまったのだけど。 「あーもう時間がない! どーしよー――!!」 「こーしろ」 うわーっと言いながら頭を抱える綱吉に応えるように、リボーンはランボが今まさに発射した10年バズーカを叩いてぐるりと方向を変え、額の丸が1つになったイーピンにその弾を当てた。 「………わお、凄いねリボーン。本当に」 「だろ。一流のヒットマンてのは女を危険なめに遭わせねーもんだ」 ドガアン! と大きな音を立てて爆発したバズーカを見ながら言うと、何処か得意そうにリボーンがニヒルに笑った。 「え…じゃあ……」 「ああ。これで爆発は未来に持ち越されたぞ」 「え! じゃああそこにいるのは10年後のイーピン!?」 「そーなるね」 もくもくと煙が立ち上っている屋根を綱吉達と一緒に眺める。 すると、少しずつ煙が晴れ、中から白い何処かの店の制服を着て、頭に布巾をつけ、両手に岡持ちを持った髪を2つのおさげに結った少女が立っていた。 左胸にある小さなポケットには「楽々軒」と店の名前が書かれている。 「あり? 何で? 何で出前の途中のはずなのに、屋根の上にいんのかな?」 少女は、鈴の鳴るような可憐な声で不安そうに首をを傾げる。 その仕草といい容姿といい、女とはたった10年でここまで変われるモノなのかと心底感心させられる。 にしても、可愛くなったなぁイーピン。 後ろで綱吉がイーピン女の子だったんだとか失礼な事言ってるけど、まあ今は特別に怒らないでいてあげよう。 「いけない、ラーメンのびちゃうわ。川平のおじさんうるさいのよねー」 「しかも日本語ぺらぺら!」 腕につけた時計を見て困ったように眉をハの字にするイーピンに、綱吉は思わずといった感じて率直な感想を言った。 まあ確かに、私も彼女の変化っぷりをじかに見てびっくりしてるけど……。 「あっ、沢田さんに初音さんっ!」 2人揃ってぼけーっとしている私達を見ると、(大人)イーピンはふふっと嬉しそうに笑った。 そんなイーピンに、綱吉が怖ず怖ずと話し掛ける。 「い、イーピン…あの…女の子らしく…なったね」 「うん。というより、可愛くなった」 「へっ!? なっ、なんですかぁ、薮から棒に! おだてたって何にも出ませんよーっ」 「ふ、普通に恥ずかしがってる……!」 カァーっと顔を赤くするイーピンに、綱吉はまた目を丸くして呟く。 「じゃあピンズ時限超爆は? っていうか拳法は?」 「いやだ沢田さん、もうやめだじゃないですか。今は大学行く学費を貯めなくちゃいけない時だから」 そう言って話によると、ピンズ時限超爆は拳法をやめる時に中国にいる師匠にキーワードとともに封印してもらったらしい。 それを聞いて皆で感心していると、やっと泣き止んだのか、ランボがとことことこちらにやって来た。 「ねぇしっぽ頭は!?」 「あ、ランボ。今のイーピンはあとちょっとしたら戻って来るよ」 「はぐっ」 どこか拗ねたようにするランボに苦笑して宥めていると、急にイーピンがブロッコリーの化け物と呟いて頭を抱えた。 ………あ、やっぱりキーワードってそれだったんだ。 そうこうしているうちに、イーピンは光を放って大爆発。 ちなみに、私が前に出て咄嗟に風でシールドを作ったので、こちらに被害はあんまりありませんでした。まる。 リアルに爆弾 (うわ、意外と疲れる…)(あっ、初音ありがと…ってうわちょ血ぃ出てるー!!) 出前に出ていると、いつの間にか小さい初音さん達がいて、久しぶりにお話しをした。 そしたらブロッコリーの化け物がやって来て、意識が遠くなって、気がついたらさっきまでいた所に戻っていた。 ただし、何故かそこはさっきより焦げていたのだけど。 「あら、イーピンじゃない」 「ぇ、あ……っ初音さん!」 不意に誰かに声を掛けられて前を見ると、かっちりとした黒いスーツを着た初音さんが、軽やかに手を挙げていた。 今日は、黒地に白いストライプが入ったシュシュで、髪を高く1つに結っているみたいだ。 「お久しぶりです初音さん! 実はさっき、小さい初音さんに会ってたんですよ! 沢田さん達も一緒でした!」 「あら本当。その小さい私は元気だった?」 「はい!」 ぴんと背筋を伸ばして元気良く答えると、初音さんは緩く首を傾げて微笑むと、優しく頭を撫でてくれた。 この人は、10年前から変わらず強く優しく美しい。 初めて会ったあの時だって、ぼやける視界の中で本当に女神だと思ったのだ。 「それでイーピン。もしかして、今は出前の途中なのかしら?」 「へ? ………あっ!!」 「ふふ、忘れてたの?」 初音さんに言われて出前の事を思い出して声を上げると、初音さんは小さく笑って、自分の斜め後ろに留まっている車を指差した。 「?」 「良かったら、そこまで送って行くわ。川平さんのお宅でしょう?」 「はい。でも…良いんですか?」 「もちろん」 それはとても嬉しかったのだけど、少し不安になって眉を下げて聞くと、初音さんはまた綺麗に笑って、わたしの岡持ちを持っていない手を取った。 “彼女の様になりたい” それは、初めて会った時から10間ずっと思っている事で。 でも、やっぱりわたしはまだまだ初音さんには全然敵わない。 それを悔しく思いながらも、同時に何故かそれを誇らしく思う矛盾した考えの自分に苦笑して、初音さんの手をそっと握り返した。 せっかく初音を風紀委員(代行)にしたのに全くそれを生かせていなかったので、次回は雲雀さん及び風紀委員を出そうと思います。 1010.8.13 更新 加筆 2011.8.19 ← |