小説 | ナノ


ダブルバースデー





とある日曜日の午後、プルルルルと音を立てて私の家の電話が鳴った。

「はあいー? ……あ、リボーン? どうしたの?」
[おう。ちゃおっス初音。
実は来週辺りにオレの誕生日パーティーがあってな、各自プレゼントか出し物を用事して来んだ。忘れたら死刑だからな。んじゃな]

プツッ。言いたい事だけ言って、さっさと切ってしまった。
ていうか、死刑ってどんだけですか。相変わらず発言がデンジャラスだ。

そんな事を考えながら、私は当日用意する誕生日プレゼント……というか出し物をいくつか思い浮かべる。
琴……はダメだな。言っちゃ悪いが、綱吉の部屋はそれ程広くはない。
主役の綱吉とリボーンの他に、隼人に山本くんにハルにフゥ太。
それにビアンキイーピンランボ+私を入れて、更に琴を置くスペースなんて多分無い。
あれ、そーいえば京子や了平さんは来るのかなぁ。
………………まあいーや。とりあえず、日本舞踊踊るのもさっきと似た理由で却下。あとは…………………。

「あっ、リボーン等身大ケーキなんて良いかもしれない」

斬新だし、面白いし、何より私が作ってみたい!
うん、決定!

「んーっと、帽子はビターチョコで作って、胴体と手足はビターとミルクチョコを混ぜたケーキにして、顔は………肌色ってどうやって作るのかなぁ。
お菓子の専門店に行ったらそれ用の材料売ってるかもしれない。あと、綱吉の誕生日プレゼントも考えなきゃ。何がいーかなーっ」

ケーキの創案図を頭の中で組み立ながら、薄手のパーカーを羽織り、財布を入れた斜め掛けバックを持って、あの私の誕生日の日に草耶さんに貰ったヘッドフォンを装着して、意気揚々と商店街に出掛けた。




「ええっとー………ケーキの材料はこれくらいで大丈夫かな……。小麦粉はまだ2袋くらい家にあった筈だし、卵もまだ、何パックか…………」

並森商店街の、ちょっと大きめのスーパーの中で、家にあった物を思い出しながら、買い物カゴ片手にカゴの中を見ながら1人でぶつぶつと呟いてみる。
うわ、これは結構頭のイタイ人に見られてしまいそう……。

「っと、とりあえず、こっちは一回お買い上げして、綱吉の誕生日プレゼントの材料買わなくちゃ」

うんうんと頷いて、よいしょとカゴを持ち直してレジに向かった。
よし、次は雑貨屋さんだ。




…………と、言うわけで少し飛んでとある雑貨店。
一応目当てのも買えて、さてじゃあそろそろ帰るかなと思っていると、、一対のペアリングに目を止めた。

「これ…………………」

そのペアリングというのがちょっと特殊で、リング自体は何の飾りっ気もないシルバーリングだが、何故かその2つのリングが鎖でがんじがらめにされていて、尚且つ鍵まで掛けられていた。

「………? あの、すいません。このペアリング、何で鎖で縛って、しかも鍵までしてるんですか?」

気になって赤茶色の長い髪を緩い団子状に結っている大学生くらいのお姉さんの店員さんに声を掛けてそう聞くと、その店員さんはああ、と小さく呟いた後、まるで内緒話でもするように悪戯っぽく笑って教えてくれた。

「このペアリングのデザインはね、例えこの先どんな事があったとしても、絶対に私達は離れない。
何故ならば、私達の心はこの鎖にがんじがらめにされたリングのように絡められ、施錠さえされているのだから。っていう意味が込められているそうよ?」
「ふぇー………。何と言うか、凄いですね………」

にこにこと微笑みながら説明するお姉さんの顔を見て、若干顔を引き攣らせてそう言った。
何て言うか、情熱的と言うか束縛的と言うか。

「まあでも、実際は「私達ずっと一緒だよね」とか、「離れていても心は1つ」みたいな意味合いで買って行く人が多いかな」

お姉さんがカラカラと笑って言う言葉に、ちょっと苦笑い。
………………でも、本当の意味は前者なんでしょう、お姉さん。

「…………それで? この束縛リングに目を止めたって言う事は、お嬢さん誰か離れたくない人が居るんじゃない?」
「えっ、こ、これ「束縛リング」って名前なんですか!?」
「いいええ。私が勝手に呼んでいるだけよ」

腰に手を当てて私の顔を覗き込むお姉さんに驚いてそう聞くと、お姉さんはまたカラカラと笑って否定した。

「……………で、どうなの? お嬢さん」
「うぇっ? え、えっとあの、何て言うか、実は、私の友達に今すぐって訳じゃないんですけど、何年後かに私の手の届かない、ずっとずっと遠くに行ってしまうかもしれない人がいて。
何とかして引き留めたいんですけど、私は、その人を留める術を知らなくて………。その人はとても優しいから、えと…………」
「その遠い場所へ行ったら潰れてしまう?」
「そ、そう。そうなんです。それで私、どうしたら良いか解らなくて………」

言ってるうちに段々気持ちが暗く成ってきた………。
ちょっと泣きそうに成りながら恐る恐るお姉さんを見ると、バッシーン! とお姉さんに背中を叩かれた。
その力が思いの外強く、こほこほと咳き込む。

「けほっ。ちょ、お姉さん…………」
「嗚呼もうっ! 何て可愛らしい事を言うのよお嬢さん!!」

そう言って、お姉さんはまたバッシンバッシンと私の背中を力いっぱい叩く。
だから、痛いですってば。

「それって彼氏でしょう!? もうお嬢さんったら! 「友達」なんて言ってごまかさなくっても良いのにーっ!」
「えっ、いやあの、確かに男の人ではありますけど、彼氏ではなくて……」
「良いのよ良いのよ。何も言わないで。お姉さん感動しちゃった。このペアリング、お嬢さんに譲るわ」
「譲っ…………!? え、い、いえそんな訳にはっ……」
「良ーのよ良ーの。実はこのリング、そんなに売れ行き良くなくってね、今日売れなかったら処分される予定だったの。
どうせ処分されちゃうモノなんだから、お嬢さんに貰った方が、このリングも幸せよ」
「でも…………」
「良いから。それじゃ、レジで包装しちゃいましょ」

そう言って束縛リングとやらを持ってルンルンと鼻歌を歌いながらレジに行くお姉さんを、慌てて追い掛ける。

「っい、良いのかなぁ…………」

そんなこんなで、私は気さくな美人定員さんからペアリングを譲ってもらってしまった。
ちなみに、その雑貨店の名前は「snow*flower」と云って、以後贔屓にしようと思いました。
……………あれ、作文?











そして、誕生日パーティー当日。
やっぱり皆綱吉が明日誕生日だという事を忘れていたみたいで、綱吉はかなり落ち込んでいた。

「ままっ、元気出してよ綱吉っ。私はちゃんとプレゼント用意したからさ」
「そうっスよ10代目……。オレも、ちゃんと覚えてました………」
「……あ、ありがとう。初音、獄寺くん…。って、獄寺くん、ビアンキ居るのに大丈夫なの?」

隼人と2人で慰めていると、さっきまで涙目だった綱吉が隼人にそう聞いた。

「い、いぇ…実は、もう限界、で……………無念っス」
「今日これでおしまいー――――!!?」

パタリと倒れた隼人を見て、綱吉は驚きつつもアグレッシヴなツッコミを入れた。

「っていうか、そんなムリしてまで来なくたって………」
「そうはいかねーぞ。ボンゴリアン・バースデーパーティーでは、不参加は不利だからな」
「はあ? 何だよ、ボンゴリアン・バースデーパーティーって」
「うちのファミリーでは、奇数才の誕生日に伝説のボンゴリアン・バースデーパーティーをしなくちゃいけないんだ」
「(また何か変なの出たー―――!!!)」

隼人を心配して綱吉がこぼした言葉に、リボーンが反応して口を出してきた。

「ルールは簡単だぞ。誕生日を迎える主役が、参加者の用意した“プレゼント”や“出し物”に点数をつけるんだ。そして見事1位を獲得した参加者は、主役から豪華プレゼントを貰えるんだぞ。ま、最下位は殺されるんだけどな」
「んなー―――――!? 何だよそれっ! 何で祝いに来て殺されなきゃなんないんだよ!!」
「掟だからだ」
「納得出来るかぁー!!!」

リボーンがキッパリとそう答えると、その直後に綱吉がキレの良いツッコミを飛ばした。

「何だか綱吉とリボーンって、夫婦漫才してるみたいだよね」
「初音は初音で何言ってんのー!? 嫌だからオレそんなの! シャレんなんないから!」

別にシャレで言ったつもりは無いんだけどなぁー…。
まあとりあえず、そんなこんなでボンゴリアン・バースデーパーティーはスタートした。
あ、ちなみに山本くんはお寿司を持って来てくれたので80点だそうです。初っ端から高得点とか、スゴいなぁー。
得点はこのムダに豪華なボンゴレジャッジボードに付けられるらしい。

「それじゃあまずはハルからです。ハルはプレゼントを作って来ました。何時もリボーンちゃんは黒いスーツなので、白いスーツです」
「おーっ」

ハルがごそごそと白い紙袋を漁りながらそう言うと、山本くんから歓声が上がった。
そしてハルが紙袋からスーツを取り出すと、それは白地にターゲット柄が沢山付いたスーツだった。

「ターゲット柄のスーツです!」
「狙われまくりじゃん!!」

にこにこ笑いながら言ったハルに、綱吉は思いっきりツッコんだ。

「はひ…そー言われてみれば……」
「サンキュー、ハル。オレはこーゆースリリングな服は好きだぞ」
「リボーンちゃん……」

リボーンの優しさにジ〜ンと感動するハル。ちなみに、ハルは85点を頂きました。
綱吉が採点に何か文句言ってたけど、気にしない気にしないっと。

「次はビアンキねー」
「了解したわ初音。私は本場イタリアのピザ生地投げで、リボーンの誕生日を祝うわ」
「ビアンキさんすてきーっ!!」

30p程のピザ生地を持って微笑むビアンキに、今度はハルが歓声を上げた。
そして、ひょいと生地を投げ、プロ顔負けのテクニックでピザ生地を回し始めた。
どうしてこんなにも技術が高いのに、彼女の作る料理は出来上がった途端毒物へと早変わりしてしまうのだろう。
勿体ない事この上ない。

「凄いねぇ……ビアンキ」
「うん………。オレ、ピザ投げなんて初めて見たよ」
「私も……」

綱吉と2人でぽーっとビアンキのピザ投げを見ていると、不意に綱吉の頬が切れた。

「え」
「ひっ!?(しまった始まったぁー―――!!!)」

ヤバイ止めなきゃ、と思ったのもつかの間、ビアンキの回したピザは綺麗に丸く大きくなりながら、綱吉の部屋のあらゆるモノを切り刻み始めた。

「きゃあー――――!! ビアンキっ、お願いだからストップストップ!」
「……………? あらそう? 初音がそう言うなら止めるわ」

頭を庇いながら必死にお願いすると、ビアンキはきょとんとした顔をして止めてくれた。
…………自覚が無いっていうのが、この女(人)の1番怖い所だと思う。

得点は90点。
ビアンキは「YES!」と頬を赤らめてガッツポーズをした後、ピザを焼きに下へ降りて行った。

「それじゃあ、次は私ね。私はリボーン等身大ケーキを作って来ました〜っ」
「へえっ、すっげーのな桜龍寺。これ全部菓子?」
「うん。帽子はブラックチョコで、顔はプリン。胴体はブラックチョコを塗ったスポンジケーキ等々っ。味はばっちり保証するよ。あ、あとね、このボルサリーノの上にはちゃんとレオンも居るんだよ」

プラックチョコで出来たボルサリーノに乗った飴細工で出来たレオンを指差して言うと、レオンが嬉しそうに私の指を舐めた。

「サンキューっつってるぞ。にしてもスゲー完成度だな、背の高さまでオレと一緒だぞ」
「これけっこー苦労したんだぁー。
お菓子の雑誌片っ端から読み漁って人間の形のお菓子の作り方調べたり、専門店に行ってよりリボーンの肌とか身につけているモノに近い色の材料を吟味したり」
「サンキューだぞ、初音。98点だ」
「やったっ!」

今のところの最高得点に、パンッと手を叩いた。

「じゃあこれ、溶けちゃわないように冷蔵庫に入れておくね」
「おう。後で美味しくいたたくぞ」
「ありがとー」

ニッとニヒルに笑うリボーンに苦笑して、リボーン等身大ケーキを箱に戻して、ケーキを冷蔵庫に入れるべく1階に降りた。

そして、ケーキを冷蔵庫に入れて2階に戻ると、大きい箱に入った綱吉がアクロバティックな格好で泣き叫んでいた。
その後、綱吉は並森中央病院に運ばれ、翌日の誕生日は病室の中で過ごしましたとさ。



ダブルバースデー
(はあ……バカでドジな綱吉も可愛いなぁ…)(なんちゃらは盲目、だな)(うん?)(何でもねーぞ)




暦は10月13日。
夕方のボンゴリアンバースデーパーティーで死ぬ気になってかなりムリな態勢で剣を避けたから、正気に戻った途端凄まじい痛みが体を襲った。
その後初音が必死になって剣を抜いて箱から出してくれて、病院に行って検査してみると何と全身の至る所の関節が外れていたらしい。
どんな態勢だったんだ、ホント。

それからそういう関節系専門の先生に関節を全部元に戻してもらって、大治を取って1週間入院するようにと言われた。

…………はあ、ただでさえ成績悪いってゆーのに、1週間も休んだら完璧に解んなくなっちゃうよ。
…………初音、ノートとっといてくれるかなぁ。
初音のノート見れば、先生の説明なんむしろて不必要なくらいなんだけど……。
自分が招いた結果なんだから、自分で休んだ分先生に聞いてきなさいとか言われるかも。
そこまで考えてちょっと憂鬱になっていると、病室の入口付近から物音がした。

―――――ぺた、ぺた―――――

まるで、誰かが裸足でこっちに向かって来るみたいな………。

「っ!?(ちょっ、えええ。何ソレめちゃくちゃ怖いんですけどっ!)」

慌てて掛け布団を首の辺りまで引っ張って抱き寄せる。
ちらりと左横の棚に置いてあるデジタル表示の時計を見ると、12時56分。丑三つ時……って訳じゃないけど、幽霊が出たって全然可笑しくない時間帯だ。(オイ今ちょっと笑った人、こっちは笑い事じゃないんだよ此処個室で電気も無いから余計に怖いんだよビビリなめんな)

ぴしぴしと体を動かす度に感じる小さな痛みを我慢して上半身を起こして、棚に設置してあるスタンドライトのスイッチをいれた。

「(見回りに来た看護師さんでありますよーに看護師さんでありますよーに看護師さんでありますよーに!!!)」

ガタガタと情けなく震えて、でも目はしっかり扉に向いていて。
息をするのも躊躇うくらいの緊張の中、足音はオレの病室の前でピタリと止み、そのままがらりと音を立てて扉が開かれた。

「ヒ、(ィィィイイヤァァァァアアア!!!!!!)」

堪らず悲鳴を上げそうになったが、ぐっと口をつぐんで最初の一言しか口からでなかった。
…………よし、よし! 頑張ったオレ! やれば意外と出来るじゃんオレ!
そう心の中で言って、軽く涙目になりながら必死に自分を宥める。
でもよくよく見てみると、その病室に入って来た影はとても見覚えのあるシルエットだった。

「なっ、えっ、初音っ!?」
「しーっ。あんまり大きな声出したら、看護師さん達が来ちゃうよ」
「な、あ、ごめん。っていうか、何で初音はこんな所に居んの?」

驚いて思わず大きめの声を出してしまい初音に諌められたので、今度は声を小さな声で初音にそう聞くと、初音はとても不思議そうにきょとんとした顔をして言った。

「綱吉の誕生日を祝いに来たの。ほら、もうすぐ14日だよ」
「え?」

初音の言葉に振り返って時計を見ると、丁度画面が12時を表したところだった。

「あ、今この瞬間から14日! はいっ、ハッピーバースデー綱吉ーっ!!」

初音はそう楽しそうに言うと、いつの間にか手に持っていたクラッカーをパーン! と鳴らした。
色とりどりの紙と一緒に、ほんの少しの火薬臭が部屋に充満する。

「うわっ、ちょ、バカっ! そんな大きな音出したら…………病院なんだぞここっ!」
「大丈夫だよ。この病室は防音機能バッチリだから隣の病室には何も聞こえないし、見回りはこの時間帯警備員さん達仮眠とか夜食とってるから」
「………ず、随分と詳しいね、初音」
「事前調査はバッチリだからね」

初音の発言の矛盾に気付かずにポカンとして言うと、初音はまた嬉しそうにそう言って笑った。

「それじゃあ、本日めでたく13歳になった綱吉に、プレゼントをあげましょう」
「へ?」

肩に提げていたカバンをごそごそあさる初音をぼけっと見ていると、初音は中から明るい色の茶色とハニーブラウンのボーダーのマフラーを取り出した。

「はいっ、これプレゼント! 最近段々寒くなってきたからね。これ巻いておけば暖かいよ」
「………あ、ありがとう、初音。これって手作り?」
「うん、だから売り物みたくはいかなかったけど、そこまで不恰好ではないと思う」

包装ナシでごめんね、と言って、綻び1つない肌触りの良いマフラーをオレに手渡した。

「相変わらず器用だよなーお前」
「数少ない取り柄ですから」
「…………お前、自分を構成する殆どが長所で出来てるって事の自覚無いわけ?」
「?」

じと目で初音を見ると、きょとんとした顔をして首を傾げられた。
初音それから「それと……」と言いながらパーカーのポケットを探る。
ていうか、まだ何かあるの?

「じゃんじゃっかじゃーん。鎖と錠〜」
「はあ?」

自分で効果音を歌いながら初音が取り出したのは、銀色の細めの鎖とくすんだ金色の錠だった。
意味が解らず、眉をひそめて首を傾げる。

「はい。これを綱吉の首につけます」
「………オレに鍵かけてどうすんの」

俯きがちにオレの首に鎖をかけて施錠する初音にそう尋ねる。
実際、鍵をかけられたと言っても鎖はオレの頭の回りより長いから、簡単に外せてしまう。
けど、オレはこれを外すという考えは何故だか頭に無かった。
初音の胸元で、おそらくこの錠の鍵なのだろうくすんだ金色が揺れた。

「私から、綱吉が離れて行かないように」
「…………初音は、オレが初音を置いてどっかに行くと思ってるわけ」

自分の声が低くなっていくのが解る。
ぽそっと呟く初音にそう聞くと、初音はこくりと頷いた。
…………………………………あ、何か段々腹立ってきた。

「有り得ないから、そんなの」
「……………」
「オレが初音を置いてどっか行くなんて、絶対無いから」
「…………………………そんなの、解んないじゃん……」
「解るよ」

オレの服の裾を掴んで、珍しく弱々しく、どこか拗ねたように言う初音にそう断言すると、驚いたように初音が顔を上げた。

「オレは何があろうと、絶対初音を置いてなんか行かないよ。
初音がオレの事を嫌いだ、一緒に居たくない、顔を見るのも耐えられ無いって言うまで」
「…………ほんとに……?」
「うん」

オレの目をじっと見つめて聞く初音ににっこり笑ってそう言うと、初音も泣きそうになりながら、嬉しそうに笑った。

「ったく、初音は泣き虫だな」
「うるさいなぁ。じゃあ、最後にこれ」
「うん?」

まだ何かあるのかと思いながら初音を見ると、綺麗に細工されたシルバーリングを差し出された。

「約束。絶対私から離れないって本当に思ってるなら、これを小指につけて、私と指切りして」
「…………良く解ん無いけど、それで初音の気が済むなら、約束する」

神妙な顔で言う初音に頷くと、やっと安心したようにふんわり笑った。

「ありがとう、綱吉」
「良いよ。ほら、指出して」
「……………ん」

初音を早くと急かすと、ゆっくりと小指を差し出した。
その小指にも、オレと同じ細工を施したリングが嵌めてあるのを見て、少し驚いた。
驚いた後、何故だか無性に嬉しくなった。
このリングがオレ達の小指に嵌まっている限り、オレ達はずっと一緒にいれる。そんな気がして。

薄暗い病室の中、互いの指に嵌まった2つのリングが煌めく。
それを見て2人で笑い合った後、リングが光る指を、ゆっくりと絡めた。





初音は草耶さんが死んだ日にくれたヘッドフォンを付けて普通に出かけられるくらいには、もう大丈夫です。辛くない訳ではないですが、こっちの世界に来る前には無かった対等な友人がいっぱいいますので、彼女は自分でも気付かないうちに救われてます。そう言う存在がいるだけで、初音は幸せです。
ちなみに初音の綱吉への想いは、97%の純粋な好意と、2%の嫉妬心と、1%の純粋な狂気で出来ています。
そしてこんな事までしていて付き合っていないという。




2010.6.29 更新
加筆 2011.8.17