小説 | ナノ


殺され屋さんと理不尽さん





「クフフ〜クフフ〜クフフのフ〜♪」

ふんふんと機嫌良く骸のキャラソンを口ずさみながら、出来立てほやほやのワッフルをバスケットに入れる。
それから棚にしまってある昨日作った生キャラメルが入った

私の拳くらいの大きさのビンを取って、それもバスケットに入れる。
今日は久しぶりに何も予定がない日で、しかも日曜日。なので、綱吉の部屋で一緒にお茶でもしようかな、と思って、お菓子を作ってみたのだ。
紅茶とかは沢田家で貸していただくとして、とりあえずこれだけ作れば足りるだろう。
そう考えて、例の如く自室の窓から向にある綱吉の部屋の窓を開けると………、

「オレの人生は終わったんだ〜〜〜!! もー自首するしかないー―――!!?」
「ツナさんが刑務所から出るまでハル待ってますー――――!!!
手紙いっぱい出しますー――――!!」
「………………は?」

朝っぱらから尋常じゃない様子の綱吉とハルを見て、何故こんな早い時間(といっても9時だけど)にハルが綱吉の家に来ているのかはひとまず置いといて、私はしばし唖然として、バスケットを腕にかけたまま固まった。





「…………ふーん、なるほどねぇ。
綱吉が朝起きたら泥棒らしき人がいて、どうしようかと慌てていたらその人がいきなり倒れてきて、よく見てみたら死んでいて、しかもその人を殺したと思わしき拳銃が綱吉の手に握られていた。
―――――すなわち、綱吉。君がそこに転がっている人をころした、と」
「ぅん………」

私のざっくりとした現状整理にこくんとぐずりながら頷いた綱吉に、3つ目のワッフルを渡した。
同じく、むしろ綱吉以上にぐずぐずと泣きまくってるハルの口には生キャラメルを放り込んだ。
あの後、その直後に隼人と山本くんが部屋に入ってきて、私と同じように素っ頓狂な声を出して、ちょっと固まった。
今は、死体さん(仮。だって死んでないもん、この人)を部屋の隅に追いやって、私が持って来たワッフルと生キャラメルの入ったバスケットを中心にして、輪になって座っている。

「あーもー……。とりあえず落ち着きなさい、綱吉」
「桜龍寺の言うとーりだって。まだツナがやったって決まったわけじゃないだろ?」
「そーっスよ。だいたいこいつ本当に死んでんスか?」
「だ……だって……血が………」

カタカタと震えながら3つ目のワッフルを食べ終えた綱吉の頭を、慰めるようによしよしと撫でてやる。
まあすぐそこに死体があって、しかも死体にしたのは自分だと考えたら、そりゃこんな状態にもなるわねぇ。そう思って苦笑しながら、バスケットの中からもう1つワッフルを取り出して、彼に手渡す。
うむ。小動物っぽくて大変よろしい。

1人で満足気に心の中でうんうんと頷いていると、隼人が死体さん(仮)に近づいてタバコに火をつけて死体さん(仮)の顔に近づけた。

「…………って、ちょっと何やってんの隼人」
「本当に死んでんのか確認すんだよ。おい、起きねーと根性焼きいれっぞ」

綱吉の慌てて入れる制止を無視して更にタバコを近づけると、彼の眉がぴくりと動いた。

「ぎゃあああぁ動いたあぁ………!!」
「きうきうしゃです! きゅーきゅーしゃ呼びましょーっ!!」
「とりあえず落ち着きなさい」

それには皆驚いて、というか、主に綱吉とハルが驚いてわたわたと慌てるのを見て、苦笑…というかも呆れて2人を諌めた。

「何でお前はへーぜんとしてるんだよおおぉぉ」
「落ち着けっての」
「医者なら呼んどいたぞ」
「ほら、リボーンがお医者さん呼んでくれたって」

混乱して私につかみ掛かる綱吉の口に生キャラメルを突っ込んで黙らせながら綱吉の部屋の入り口を見ると、お酒のボトル片手に酔っ払っているシャマルがいた。

「(酔いどれー!!!)」
「(そーいやそーだった……)」

何時もと何等変わらない様子のシャマルに、少々げんなりする。
呆れてシャマルを白い目で見ていると、隼人がハッとしたように声を出した。

彼いわく、昔自分の城の専属医の1人だったらしく、会うたびに違う女の人を連れていたので、誰かと聞いたところ「妹だ」と言ったので、

「ずっと兄弟が62人いると思ってた」
「なんだソレ!?」
「隼人可愛いー……」
「な、ちょっ、頭撫でんじゃねーっ!」

よしよしと背伸びをして隼人の頭を撫でると、真っ赤になった隼人に手を払われた。

「よぉ隼人じゃん」
「話かけんじゃねー! 女たらしがうつる! スケコマシ!!」
「なんでーつれねーの」

シャマルに話し掛けられた途端シャーっと威嚇する隼人に苦笑する。
だがしかし、そんな隼人の様子も、混乱した綱吉の目には入らないのか、焦ったように(まあ実際焦っているのだが)シャマルに話し掛けた。

「Drシャマル! 早く患者を見て下さいよ!!」
「そーだったそーだった。死にかけの奴がいるんだってな。んー―――どれどれ」

そう言って、シャマルはハルの胸に手をあて………ってしまったぁぁぁあぁ!!!

「キャアァアア!!!」
「ハルに何するのよこの変態!!!」
「げふっ」

シャマルのやっている事を理解すると同時に、ハルがシャマルの顔面に右ストレートをキメるのと同じ速度で私もシャマルの鳩尾に回し蹴りを入れた。

「この元気なら大丈夫だ。おまけにカワイイときてる」
「誰見てるんですか!!!」
「ていうか、まだヤラれ足りないわけ……?」
「いやいや、もう十分だよ初音ちゃん」

部屋の壁に叩きつけられてもへらへら笑っているシャマルに、怒気をかなり込めて睨みつけると、ひらひらと手をふってそう言われた。

「ってか、患者はこの人です!!」
「ん、何度言ったら解るんだ? オレは男は見ねーって」
「そーいえばそーだった」
「しってたよなあ!!」

ていうか、君も知ってたよねえ?
相変わらずこの2人のコントには笑ってしまう。
ぐちぐちと文句をこぼす隼人とあっけらかん思考の山本くんは置いといて、シャマルが言った瞳孔開いてるか息止まってるか心臓止まってるか確かめる事にした。

「ドーコー、開いてます」
「息も止まってる………」
「心臓……止まってる」
「「「(死んでるー―!!)」」」

んで、結果。惨敗。
普通に考えたら絶対死んでる。
だけど彼はマフィアの殺され屋モレッティさん。残念ながらこれは仮死状態だ。

「綱吉、綱吉、落ち着いて」
「初音こそ何でそんな落ち着いてられんだよ!?」
「(そりゃあ相手が死んでないって知ってますから)」

とは流石に言えず、黙って受け流しているとまた綱吉が慌てだしてしまった。
ていうか、いつまでパジャマでいるのかな、綱吉。
段々この状況に飽きてきていると、リボーンがこんな時の為にもう1人呼んでおいたと言うと同時に、ヴォンヴォンというバイク音がした。
まあ、十中八九あの人なんだろーけど。

バイク音が止むと、その人は沢田家の塀を踏み台にし屋根に上がり、窓を開けて入って来た。
彼こそ、恐らく並森最強最悪、私的嫌いな人(というか敵)ランキング堂々の1位を陣取っている、雲雀 恭弥その人である。
まあハルとリボーンを除いて他の3人も因縁があるから、彼が来た事にかなり驚いている。

「何をしにいらっしゃったんですか、風紀委員長さん」
「今日は君達と遊ぶ為にきたわけじゃないんだ。赤ん坊に貸しを作りに来たんだよ。ま、取引だね」
「待ってたぞヒバリ」

どこか機嫌良さそうに答える雲雀さんは、ちらりとリボーンに視線を寄越しただけで、直ぐにこの横に転がっていた死体を足でごろりと転がした。

「ふーん、やるじゃないか。心臓を1発だ」

雲雀さんはその死体をじっと見つめた後、私や綱吉の方を見て言った。

「うん、この死体は僕が処理してもいいよ」
「なっ」

あるで何て事ないようにさらりと(まあ本人にとってはそうなのだろうが)、口許に笑みすら浮かべて発した雲雀さんの言葉に、真っ先に反応したのはやはりツッコミ要員の綱吉だった。

「はあ〜〜〜〜!!? 何言ってんの〜〜〜!?」
「死体を見つからないように消して、殺し自体を無かった事にしてくれるんだぞ」
「いろんな意味でマズいよそれは!!」
「じゃあ後で風紀委員の人間をよこすよ」
「委員会でもみ消してんの〜〜〜!?」

綱吉とリボーンの会話を丸っと無視して言った雲雀さんの爆弾発言に、綱吉のツッコミと共に皆がどよめいた。

そのまま原作通りに「またね」とか言って去って行くのかと思うと、私の方に向かって歩いて来ると、私の髪を少し掬い取って、ついでに顔を私の耳に寄せて囁く。
その行為に、無意識に眉間にシワが寄ってしまった。

「ねぇ、返事は未だなの?」
「お返事は月曜日にすると一昨日言ったはずですよ、風紀委員長」
「…………ふうん、まあいいや。またね」

雲雀の問いに、表情をださず淡々と答えると、興味が無くなったようにする、と髪を離すと、くるりと踵を返してさっさとまた窓から出て行ってしまった。

「いやあの、ちょっとっ!!」
「10代目、どいてください!!」

慌てふためく綱吉の声を遮るような大声に振り向くと、隼人がタバコをくわえて、大量のダイナマイトを構えていた。

「あいつだけは、やり返さねーと気がすまねぇ!!」
「ちょ、隼人待っ…「果てろ!!」あ〜……」

やっちゃった。
後悔先にたたず。隼人の投げたダイナマイトは雲雀さんのトンファーであっさり返されてしまい、綱吉の窓付近で爆発した。
大怪我覚悟で顔を腕でガードした時、何か温かいモノで体を包まれた。

ドガアン! という大きな音のせいで、耳がキーンと痛くなる。
う゛……と小さく呻きながら体を起こそうとすると、何か温かいもので顔を包まれていたのを思い出した。
ああ、これのせいで体が固定されて、身動きが出来ないんだと気付く。

「初音………大丈夫…?」
「ん、ぅ……綱吉。………大丈夫だよ、ありがとう」

温かい何かがどくと、私を包んでいたのが綱吉だったのが解った。
心配そうに目尻を下げる綱吉を安心させるようにへにゃんと笑うと、綱吉と一緒に体を起こした。
パラパラと綱吉の背中からこぼれるコンクリートの屑を払ってやってから、事の元凶である隼人を軽く睨んだ。

「………もう、弁償してよね隼人。貴方のせいで綱吉の部屋がめちゃくちゃになっちゃったじゃない」
「もっ、申し訳ございません、10代目! 自分、右腕失格っス!!」
「い、いや、いーよ獄寺くん! そんな畏まらないでよ」

まあ、元々綱吉の部屋はぐっちゃんぐっちゃんだけどね。
いつもの綱吉の部屋の散らかりようを思い出して1人苦笑していると、ハルの切羽詰まったような声にハッとした。

「皆さん大変です! 死体が無くなってますー!!」
「! えー―――!?」

ハルの声につられて死体がいた辺りを見ると、確かに死体がいない。
それを見て真っ青になる綱吉を見て、そろそろ種明かしをしてあげようと綱吉の肩に手を置いた時、どこらから男の人の声が聞こえてきた。

「いやー死ぬかと思った。危ない危ない」
「んな〜〜〜〜〜!!!」
「うわぁ……」

後ろを見てみると、死んでいたはずの死体さんが、口の端に血をつけながらたって喋っていた。

「い…生き返ったー―――!!!」
「初めまして10代目」
「うわっ」
「ゾンビー――!!!」
「しっしっ!」

更にはビチャビチャと血を吐きながら綱吉に挨拶してこっちに歩いて来たので、流石に気持ち悪くて綱吉の後ろに隠れた。
っていうか…あのあっけらかん思考の山本くんまで青ざめてるよ。やるね死体さん。

「こいつは「殺され屋」のモレッティだぞ」
「い゛っ!?」
「モレッティは自分の意志で心臓を止めて仮死状態になる“アッディーオ”を使うボンゴレの特殊工作員だ」
「えっ…じっじゃあ死んでなかったの?」
「ああ。死んだフリだぞ」

驚いた様で問い詰める綱吉に、リボーンは何ともあっさり話す。

「でも確かにズガンって……」
「あれはオレが撃った空砲だ。そのあとツナに銃を持たせたんだぞ」
「なにぃ!?」
「勿論血も作りもの、ドロボーも芝居ですよ」

驚愕する綱吉に、死体さ……モレッティさんもにこやかに言った。

「せっかく日本に遊びに来たので、10代目に挨拶がてら“アッディーオ”を見てもらおうと思いまして。………まあ、そちらのお嬢さんには、最初からバレていたようですが」
「他に見せ方あるでしょー――――!!? っていうか、初音知ってて黙ってたの!?」
「いやあ、うん……ごめん。何か言い出せる空気じゃなかったから」
「えぇ〜〜〜〜〜??」
「まだまだ修行が足りねぇぞ、モレッティ」
「はい。精進します」

モレッティさんに怒鳴った後続けて私に怒鳴った綱吉にかりかりと頭をかきながら謝った。
それでも、綱吉はやっぱりホッとしたらしく、小さく息をつくと、へなへなとへたりこんでしまった。
ちなみに、ハルも綱吉と同じくへたりこんでいて、隼人と山本くんは完全に冗談として受け流していて「まったくリボーンさんは〜っ」とか言いながら笑ってる。
「…………綱吉、大丈夫? ワッフルでも食べて落ち着いて」

ずっと綱吉がへたったままなので、心配になってしゃがみ込んで綱吉にワッフルを差し出したが、綱吉はその手をやんわりと退かした。

「綱吉…………?」
「……なあ初音、1つ聞いていい?」
「? うん、良いけど………」
「あのさ、ヒバリさんが言ってた、「返事は未だ」って、どういう事……?」
「えっ」

綱吉の言葉に驚いて軽く言葉につまると、綱吉が心配そうに私の顔を覗き込んできた。

「ねぇ、初音。何か隠してるだろ。オレに話してよ。それとも、オレは初音の相談相手にすらなれない程頼りない?」
「そっ、そんなこと………」

綱吉の悲しそうな瞳に気圧されて、言葉が出ない。
もし本当の事を言ったら、綱吉はきっと心配する。……でも、最近の綱吉は日頃からなにかと心配事が多い。
だから、なるべく綱吉の負担にはなりたくない。
だけど、綱吉に、この子に嘘はつけない。……つきたくない。

「……………………まだ、ナイショ」

結局、ごまかす事が出来ないから、自分の口に人差し指を当てて、苦く笑った。
もちろん、綱吉はそんなんじゃ納得しなかったけど、その後ぎゃいぎゃいと騒ぐ隼人達のせいで、会話は中断された。
隼人達が帰った後も綱吉は何か言いたそうに私を見ていたけど、それを無視して家に帰った。

……………ごめん、綱吉。
一段落ついたら、ちゃんと話すから。
それまで、ちょっとだけ待っててね。




殺され屋さんと理不尽さん
(ああもう)(問題が山積みで)(頭が痛くなる)




2010.4.30 更新
加筆 2011.8.15