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過激派揃いの体育祭





皆さんこんにちは。桜龍寺 初音です。

突然ですが、体育祭の季節ですね。
ここ並盛中でも、体育祭は超ビッグイベントです。
準備期間中から学校の雰囲気がガラリと変わって、私もワクワクです。
並中では縦割りでA・B・C組に分かれてチームを作るのですが、組同士の対抗戦はとっても白熱するらしいんです!
特に、午前最後にやる女子が行う“騎馬戦”と、午後最後に男子が行う“棒倒し”は、体育祭の華であり、並中で1番盛り上がること請け合いです。

―――――で、その作戦会議はと言いますと、

「“極限必勝!!!”」

やはりと言うか何と言うか、了平さんが大変お熱く熱弁している真っ最中です。

「これが明日の体育祭での我々A組のスローガンだ!!勝たなくては意味は無い!!」

とあるA組専用の教室で、1番前に置いてある教卓にバンと手を置き、叫ぶ了平さんと、それに続いて拳を上げて「オー―!!」と叫ぶその他A組(1部除く)に、私はひっそりと苦笑した。

あの恐怖の風紀委員長騒動から早くも一週間と少し。
私達は、つかの間の安らぎを得ていた。

ちなみに、私の前いた学校では体育祭という物がそもそも無く、どう勢いをつけたら良いのか良く解らないので、皆の盛り上がりに完全においてきぼりをくらった私は、配布されたプリントで1人折り紙を折っていた。(そして、この前綱吉にその話をしたら無言で頭を叩かれた。何故)
まあとりあえず、私はあまり体育祭に乗り切れずにいるという訳だ。

「綱吉くん綱吉くん」
「なんだい初音くん」
「ヒマ」
「折り紙でも折ってなさい」

だから、それがヒマなんだってば。
ぶうーっとふくれて机に突っ伏して、ちらりと綱吉の方を盗み見る。
何さ、京子見てデレデレしちゃって、このムッツリ。

「うぜーっスよねあのボクシング野郎。フツーにしゃべれっての」
「んなっ」
「まーまー」
「隼人、そーゆーのは思っても口にださないのがエチケットだよ」
「るせっ」

綱吉の隣に座っていた隼人が、頬杖をつきながら露骨に不愉快そうな顔をして言った。
それに対して綱吉がお願いだからやめてくれという顔をして、山本は苦笑いして隼人を諌めた。私も隼人をちょっと嗜めたけど、思いっきりイヤそーな顔をされた。
作戦会議中にも関わらずペチャクチャ綱吉達と話していると、了平さんが真剣そのものといった顔をして話し出した。

「今年も組の勝敗を握るのはやはり騎馬戦と棒倒しだ」
「? 10代目、何スかソレ」
「どーせ1年は腕力のある2・3の引き立て役だよ」
「綱吉、それ説明になってないよ」

きょとんとした顔をして詳細を聞く隼人に、見当違いな返答をする綱吉に、静かにツッコミを入れる。

「例年、組の代表を棒倒しの“総大将”にするならオレ。騎馬戦の“総大将”にするなら、ラクロス部のキャプテン(ラクロスは女子以外入部不可)だ。だがオレとラクロス部キャプテンは、総大将を辞退する!!!」

了平さんのその言葉に、皆一気にザワついた。
もちろん私も驚きだ。
了平さんが総大将下りるのは知ってたけど、まさかラクロス部のキャプテンまで総大将を辞退するなんて。

了平さんが隣に控えていたラクロス部のキャプテンに「本当に良いのだな!?」と聞いて、キャプテンは無言でこくりと頷いた。

「ラクロス部キャプテンはラクロスの試合が予定より早まったため、自分がケガをする訳にはいかんと思っての事だそうだ。そして! オレは大将であるより、兵士として戦いたいんだ!!!」
「(キャプテンの方はちゃんとした理由なのに、お兄さんの方は単なるわがままだー―――っ)」
「(うわぁ…何か私、綱吉限定で読心術会得しちゃったかも)」

もう、綱吉の考えが手に取るように解ってしまうよ。いや、単に綱吉の思考が単純なだけかも知れないけど。

「だが心配はいらん。少し前に、2人でオレ達より総大将に相応しい男女を見つけてある」
「……………?」

棒倒しはともかく、騎馬戦は誰だろう。
騎馬戦は頭に巻いたハチマキを取るためなら、つかみ掛かったり引っ掻いたり、場合によっては殴ったり騎馬を崩したりするのもありって京子に聞いたから、作戦を練ったりする為の作戦力(つまり頭の良さ)と、瞬発力と行動力がものをいう筈だから………。

「騎馬戦は1―Aの初音 初音!! そして棒倒しは同じく1―Aの沢田 ツナだ!!!」
「へ?」
「な!?」
「(って私ー―――っ!!?)」

いきなり過ぎる了平さんの言葉にショックを受けて固まってしまった。
てか何で私…? 捜せばもっと適任な人いるって絶対!!

「1年にゃムリだろ」
「けど沢田って子はともかく、桜龍寺って子は知ってるわよ」
「成績が良いって評判らしいわ」
「すっごい可愛いって噂らしい」
「スタイルも良いんだってさ。たしか髪は白って……」

ザワザワと周りで交わされる言葉により、段々私に視線が集まってきた。
A組のほとんどの視線に耐えられなくて俯くと、花がボソッと呟いた。

「ま、ボインなのは否定しないわ」
「ちょっ、花っ!!」

花の言葉に、赤くなって小さく怒鳴った。っていうか、私別にボインじゃないし………。

「ま、桜龍寺はともかく、10代目の凄さを解ってんじゃねーかボクシング野郎!」
「おおっ」
「は? えっ初音はともかくなんでオレ!?」
「はは……」

また話していると、了平さんがおもむろに手を上げた。

「賛成の者は手を挙げてくれ! 過半数の挙手で決定とする!!」

大声でそう言った了平さんだったが、優勝がかかっている大事な騎馬戦と棒倒しの総大将に1年は役不足だと思ったのだろう先程よりも少しザワつくだけで誰も手を挙げようとしない。

「手を挙げんか!!!」
「(命令じゃん……)」

やがて了平さんは痺れを切らしたようで、強引にやる事にしたらしい。
さらに、隼人が1―A(主に男子)に脅しをかけ、ミーハーな女子は「獄寺くんの意見に賛成ー」らしい。
そーして、了平さんが最後に締めくくるように強制的に可決してしまった。











「どーしよ初音! 100m走どころの心配じゃなくなったよ!!」
「まあまあ綱吉。総大将に抜擢されたのは私も同じだし」
「初音は問題無いよ! 成績はうちのクラスでいっつも1位だし、運動だって何だって出来るじゃん!!!」
「いや、何でもってワケじゃ……」

放課後の帰り道、路上で頭抱えながら大声で叫ぶ綱吉に、苦笑しながらポンと肩を叩いて励ました。
珍しく隼人と山本くんがいないので、久しぶりに2人っきりでの下校だ。

「先パイ達からは白い目で見られるし……総大将なんて絶対ムリ!!」
「そー言わずに、とりあえず頑張ってみようよ。っていうか、私誰と騎馬組むかいわれてないや。どーしよ」
「ああ、それならお兄さんがオレと獄寺くんと山本に決めたって。京子ちゃんが教えてくれた」
「あれ、そーだったんだ」
「話がそれてるぞお前等。ツナも、そんなのやんなきゃわかんねーぞ」
「お前棒倒しの怖さを知らないからだよ!!」

なんでも、棒倒しは総大将を落とす為なら服を引っ張ろーが殴ろーが蹴ろーが何でもアリらしい。
騎馬戦といい棒倒しといい、並中は過激な競技がお好きらしい。というか、棒倒しで大将に蹴り入れられるなんてスゴいな。

「ワクワクするな」
「ガクガクするよ!!」

それを聞いて、さらに人の悪そうな笑みを浮かべるリボーンに、綱吉は力の限りつっこんだ。

「ツナさーん! 初音ちゃーん! こっちですー!」
「ハル!?」
「どこの忍者ですか貴女……」

綱吉と一緒に上を見上げると、電柱にひっつかまりながら私達に手をふるハルがいた。

「何してんだよ!?」
「リボーンちゃんに聞きましたよ! ツナさんと初音ちゃんの総大将決定を祝って、棒倒しのマネです!! 騎馬戦は…1人じゃムリなので出来ませんでした」
「そ、そう……っていうかハル、大丈夫?」
「いえ…ハルも途中で失敗だと気づきました。降りられなくなっちゃったんです」
「(こいつは〜!!)」
「ハァ…今助けてあげるから、ちょっとまっててね」

なんておてんばな子なんだ三浦 ハル。
上ったら下着が見えちゃうとか、もしかしたら綱吉と私が此処を通らないかもしれないとか考えなかったのかな……。
まあそれはともかく、とりあえず私も電柱によじ登って、またハルを抱えて電柱を降りた。

「しょっ…と」
「すみませんっ。あ、実は明日うちの学校休日なんです! ツナさんと初音ちゃんの晴れ姿を見に行きますね!!」
「ありがとう…」
「い、いいよ来なくて!!」
「? はひ? どーしてですか?」
「それは…(間違いなくハジをかいてカッコ悪いからだよ!!)」

すまなそうに謝ってから言ったハルの言葉に、私と綱吉はそれぞれ正反対の返事をした。
まあ綱吉はカッコ悪いトコを皆に見られちゃうって思ってるからだろーけど、何もかも諦めてた頃を考えると、この数ヶ月の間で綱吉は随分変わったなぁと思い知らされる。

「と…とにかく見に来ちゃダメだぞ! 初音、やっぱオレ京子ちゃんのお兄さんに直接断りに行ってくる!!」
「あっ綱吉!?」

そう言い残して、綱吉は来た道を走って行った。
っていうかあの…京子の家反対方向なんだけど……。

「(……ま、何とかなるか)じゃあハル、私達は帰ろっか」
「はひ? 良いんですか?」
「良いの良いの」

そう言い切って戸惑うハルの背中を押しながら、私は明日はどんなお弁当を作ろーかと考えるのであった。





「おはよー。ホラ綱吉、いい加減起きなって」
「んぅー―…?」

今日も今日とて綱吉の窓から沢田家に入り、未だにベッドの中にいる綱吉の肩を軽く揺すった。

「ん゛〜〜〜〜…っ」
「早く起きなって。今日は何時もより登校時間早いんだから」
「解ってるよー…っ」

そう言ってもぞもぞとベッドから出て来た綱吉だが、昨日したらしい棒倒しの特訓のせいだろうか、どこと無くふらふらしているし、目も潤んでいる。頬も何だか赤いし………。

「ちょっとゴメンね」
「へっ?」

綱吉の前髪をかき上げて、自分の額と綱吉の額をくっつけてみる。

「うーん…ちょっと熱っぽいなー」
「えっウソっ!」

ウソ言ってどーするよ。
そう思ったけど口には出さず、慌てたように額を離して体温計を取りに行った綱吉を見送った。

「やった奇跡だ!! カゼひいてる!」
「嬉しそーねー」

これで休める! と喜んでいる綱吉を見て、静かに苦笑する。
そー上手くはいかないと思うけどなー…。

「じゃ、初音は先に学校行っててよ! オレも着替えてから行くから。カゼだから見学しか出来ないけどねー!」
「はいはい」

風邪を引いてこんなに喜んでる人初めて見た。
まあそれも口には出さずに、風邪だというのにやたらとハイテンションな綱吉にひらひらと手をふって、奈々さん達がいるであろう1階のキッチンへ行った。

「おはよーございまーす」
「あら初音ちゃん、おはよう」
「はい。あ、綱吉今着替えてますから、もうちょっとしたら降りて来ると思いますよ」
「あらそう? 何時も悪いわねー」
「いえいえっ。何時もやっかいになってるんですから、これくらい当然です!」

奈々さんの海のように広い心と太陽のように暖かい心に癒されていると、ピンポーンと呼び鈴がなった。

「? 誰だろ」
「おはよーございまぁーっす!!!」
「わっハル!」

勝手知ったる何とやらといった感じで玄関のドアを開けると、いつも以上にハイテンションなハルがいた。

「どーしたのハル。こんな朝早くから」
「はい! 実はハル、お弁当作りをお手伝いしよーとおもいまして!」
「ああ、そっか。……解った入って」

そう言ってハルを奈々さんの所に案内して、奈々さんにハルの事をを紹介してハルが何で来たか等を説明すると、奈々さんは快く一緒にお弁当を作る事を許してくれた。

「あ、そうだ奈々さん。今日家でゼリーを作って来たんです。
体育祭のお昼のデザート用なんですけど、冷蔵庫に入れておいて、学校に行く時に一緒に持って行ってもらっても良いですか?」
「ええもちろんよ。わざわざありがとう初音ちゃん」
「いえ、私の方こそご迷惑をかけてすみません」

やっぱり申し訳なくて奈々さんに謝ると、良いのよと言って頭を撫でてくれた。

「(お母さんがいたらこんな感じなのかな……)」
「ほら初音ちゃん、つっくんも後で向かわせるから、先に学校に行ってらっしゃい」
「あ、はい。えとっ…行ってきます!」

そう言って笑って、軽く走りながら沢田家を出た。

「(あ、そーいえば、綱吉この後どーするんだつけ)」

ま、いっか。何とかなるなる。そう思いながら、並中へと向かった。

「……………で、結果としては?」
「休めなかった……」
「ご愁傷様」

A組の座席エリアで隣に座っている綱吉に聞くと、彼はがっくりと肩を落として呟いた。

「だって聞いてよ初音!! みんな人の話なんて聞きやしな〔“ホッピング”に出場する生徒は、すみやかに集合場所に来て下さい〕ハッ!!?」
「…………行ってらっしゃい」
「………ウン」

勢いこんで愚痴ろうとした矢先にアナウンスにセリフを遮られた綱吉を見て、苦笑しながら送り出した。




「という訳で、ビリおめでとう綱吉くん」
「うっさい! 余計なお世話だっつーの!!!」

「ビリ」と書かれた旗を先端につけた棒を指差しながら笑って言うと、半泣きの綱吉に思いっきり怒鳴られた。
ていうか、これって敗者に対するちょっとしたイジメじゃないだろうか。

「まあまあ良いじゃない。次があるよ」
「もぉー―!! リレーも100m走も1位の奴に言われたくないよ!!!」
「あはははは」
「おいっ!!」

笑ってごまかしがてら綱吉をからかっていると、隼人が「お疲れっス10代目!」と言いながらやって来た。

「あ…獄寺くん……」
「さすが10代目。なるほどそーゆー訳スか」
「へ?」
「棒倒しに体力温存ってコトっスよね」
「(そんなコトしてねー――!!!)」
「バカモノ!!」
「うわっ」

隼人の勘違いを苦笑して見ていると、いつの間にか隼人の後ろにいた了平さんが怒鳴った。

「全力でやらんか沢田!! A組の勝利がかかっているんだぞ!! 初音も何か言ってやらんか!!!」
「ぅえっ? えと……」
「またてめーか! うっせーぞ芝生メット!! つか、桜龍寺を巻き込んでんじゃねぇ!!!」
「ちょっ獄寺くん!(京子ちゃんのお兄さんに何てことを!!)」

2人の険悪な雰囲気に止めるに止められず、ハラハラしながら綱吉と一緒に2人を見ていると、2人が思いっきりお互いの頬を殴った。

「キャー――――!!!」
「んなー――――!!?」

思わず叫んでしまった。
いや、だって普通男の子同士が殴り合う場面なんてそうそう出くわさないじゃない。
少しばかり唖然として見ていると、2人はその場でぐっと足で踏ん張って頬を拭った。

「効かねーなー」
「蚊が止まったかー?」
「強がり言ってないで早く保健室に行きなさい!!」

ヘロヘロになりながらそんな事を言う2人に、半ば呆れて怒鳴りながら保健室がある方を腕で示した。

「何を言うか桜龍寺! オレはこの通り何とも無いぞ!!」
「何が「この通り」ですか!! ボロッボロでしょ!!? いいから早く保健室行ってきなさい!!!」
「ヒョホホホ!」
「「!?」」

まだ強がりを言う了平さんに勢いで思いっきり怒鳴りつけていると、何やら変な声が聞こえてきた。

「仲間割れか〜い? ヒョホホ! 棒倒しはチームワークがモノをいうんだよ〜。こりゃA組恐るるに足りないね〜〜!」

…………誰だっけ、この激しく気持ち悪い人は。あ、思い出した、たしかC組の総大将さんだ。
まったくもー。何でわざわざ隼人達に殴られるよーなコトするかな。

「余計なお世話だ!!」
「なんだテメーは?」
「「すっこんでろ!!」」
「あーあー」

思った通り。というか、原作通りに事が進み、C組の総大将さんは倒されてしまった。

まあやはりというか当然というか、自分の組の総大将を倒されてC組が黙っているワケもなく、ちょっとした暴動が起こってしまった。
さらにB組の総大将さんも何物かに襲われたとかで退場。
どっかのお爺さん扮するリボーンの「総大将を襲ったのはA組総大将の沢田ツナの命令」の言葉のせいで、より状況が悪化してしまった。

「どうだ見たか!! これがウチのやり方だ!!」
「認めないで下さい!!!」
「〜〜〜〜〜〜…っ」

嗚呼もう、何か頭痛くなってきた。
…大丈夫なのかなぁ、体育祭。



過激派揃いの体育祭
(初音……オレもう帰りたい…)(それには激しく同感ね…綱吉)




2010.3.25 更新
加筆 2011.8.8