小説 | ナノ


ブラックリストレッドゾーン





「もーすっかり秋かぁ…早いねぇ」

いつものように屋上で獄寺くん、山本、初音、オレの4人で昼飯を食べていると、初音が母さんの作った卵焼きをつまみながらのほほんと言った。

「夏休みもあっという間に終わったしね。何かさみしーなー」
「補習ばっかだったしな」
「それは貴方達が真面目に勉強しなかったからでしょう?」
「「はいはい」」

山本の言葉に、初音が窘めるように言うので、オレと山本は揃って適当に応えた。
といっても、オレはほとんど反射的に、だけど。
オレは最近、シャマルの言った言葉がずっと頭に残ってしまっている。

「最近、アホ牛がブドウブドウってうるさくないっスか?」
「あ、ブドウといえば、この間雑誌の懸賞で美味しそうな葡萄セット当たったんだぁ」
「へえ、桜龍寺ってクジ運強ーのな」
「つーか、んなモンにお前が応募してんのが意外だ」
「ふふふーっ」

何言ってんの山本。初音はくじ運がハンパなく強いんだよ。
獄寺くんも、初音はけっこー懸賞に応募すんの好きなんだよ。
2人が言ったコトに、口に出さずに心の中だけで言いながら、頭の中でシャマルの言った言葉を復唱する。

「でねっ、今度ソレ使ってケーキを作ろーと思うんだけど、2人は甘いの平気?平気なら、今度作ったの学校に持って来ようと思うんだけど」
「へえ! 桜龍寺の手作りかぁ…食べてみてーのな!」
「ハッ。まずいなんてこたぁねーんだろーな」
「大丈夫大丈夫! 味はバッチリ保証するよっ」

初音達の言葉も、右から左で全然頭に入って来ない。
数日前、オレの不治の病(ドクロ病……だっけ?)を治してくれたDr.シャマルが、去り際に言ったコトを思い出す。

“お前、あの初音ちゃんって子に惚れてるだろ”

あれから何回も考えてても、答えは否、ノーだ。
オレは初音のコトなんて何とも思ってないし。強いて言えば、お隣りさんで、可愛いくて、キレイで、優しくて、獄寺くんとか山本とか、他の男と初音が話してるのを見るとちょっとムカつくだけで………って。

「ねぇ、綱吉はどう「ちっがー――――う!!!」……へ?」

何だなんだコレは、まるでオレがホントに初音のコトを好きみたいじゃないか。
自分のありえない思考回路に、頭を思いっ切りぶん殴りたい衝動に駆られていると、自分に皆の視線が集まっているのに気づいた。

「…………………あ」

……しまった。
そう思ってももう後の祭だ。さっきの考えに気を取られるあまり、立ち上がって大声を上げてしまった。
3人から向けられる視線に、たまらず顔を赤くして座り込んだ。

「あの……綱吉、大丈夫? ひょっとして、どっかに頭打ったとか……」
「いや…その…何でもないから。……ホント」

初音の気遣わし気な眼差しに、ちょっと泣きた
くなりながら大丈夫だと手を小さく左右にふる。
他の2人にも何でもないと伝えた後、初音に先程までの会話の流れを聞いた。
…………人が羞恥で死ねるなら、オレはもうとっくに死んでると思う…。

「えっと…何の話だっけ?」
「あ…えっと、今度ケーキ作って学校に持って来るから、綱吉も食べるかなぁ……って」
「え、あ、ああ。そっか。食べるよ。初音作ったケーキ、美味しいもんね」

そう言ってぎこちなくだけど笑うと、初音も安心したようにふんわりと笑った。
2人してワケも解らず笑っていると、何処からともなく栗が飛んで来た。

「いたっ!? いたたた!!」

ザクザクと肌に刺さっては落ち、刺さっては落ちを数回繰り返した栗を見ながら、これを投げたであろう人物に怒鳴った。
というか、こんなコトする奴はあいつしかいない。

「リボーンだなっ!? って、あたたたっ!」

キッと睨みながら栗が投げられて来た方を向くと、チクチクと棘みたいなのが肌に突き刺さった。

「ちゃおっス」
「痛い痛い刺さってるー!!」

見ると、全身栗みたいな着ぐるみ(?)を着たリボーンがいた。
っていうか、ホント痛いんですけどっ!

「これは秋の隠密用カモフラージュスーツだ」
「100人が100人振り返るぞ!」
「わぁ、可愛いスーツだねぇ」
「初音、つっこむべきはそこじゃない! っていうか可愛いか!?」

リボーンの訳の解らない説明にツッコミを入れ、初音のズレた思考にまたツッコミを入れた。
たまらずリボーンに怒鳴ると、今日はこの並中にファミリーのアジトを作るなんて言い出した。

「へー、面白そうだな。秘密基地か」
「子供かおめーは!」

それに対して、山本はいつも通り天然全開でマフィアごっこだと思ってるし、獄寺くんは山本に突っ掛かってはいるけど、アジトを作るコト自体には異論は無いみたいだ…。
あーもー…冗談じゃないよ、マフィアっぽくアジトなんて…!!

「えっ、ちょっ…ちょっと待ってよリボーン」

そこで、今までリボーンのやるコトに1度も異見しなかった初音が、初めて反論ととれる言葉を口にした。

「作るって、応接室にでしょ? あそこには……むぐっ!?」

初音が少しだけ切羽詰まったみたいに何かを言おうとした時、リボーンが何処からか取り出したタオルを初音の顔に投げ付けた。

「あたたたっ…って、これ“双優”……」
「教室に忘れてたぞ。常に肌身離さず持ってろと言った筈だ。…コイツもな」
「………リボーン…」

初音が投げられたタオルの中にあった双優を見、更にリボーンにルリを渡されると、彼女にしては非常に珍しく眉間に深くシワが刻まれた。
何と無く初音とリボーンとの間に険悪なふいんきが流れていると、それを吹き飛ばすような笑顔を山本が浮かべ、初音と半分無理矢理肩を組んだ。

「まーまー。良いじゃねぇか桜龍寺! 子供の遊びなんだから、んなムキになんなって!」
「えっ。や、違っ…」
「何にせよ、オレはお前が笑ってくれてた方が良いな。なあツナ?」
「えっ、あっ、うん」

山本の問いに強く頷くと、初音は不服そうな顔をしたまま押し黙ってしまった。

「さっ。まずは机の配置変えからだな」
「オレ、10代目から見て右手の席な」
「(え、ていうかホントに作んの!?)」

さっさと歩き出した(初音は例外だけど)3人を見て、慌ててオレも後を追った。











所変わって応接室前。
結構、此処に行くことを阻止することは出来なかった。
最後の足掻きにと提案してみたけ出来なかった。

「あの…さ、やっぱり止めない?」

最後の足掻きにと提案してみたけど、山本くんにサラリと受け流されてしまった。

「にしても、こんな良い部屋があるとはねー――」
「ちょっ……」

止める間も無く、山本が応接室の扉を開いてしまった。

「――――――君達、誰?」

その途端、ひやりとした冷気と共に、静かな声が聞こえた。

「(………しまった)」

ゆったりとソファの背もたれに腰掛けているその姿を見て、小さく舌打ちする。

風紀委員長でありながら、不良の頂点に君臨する男、雲雀 恭弥。
いくら私でも、流石に彼には敵いっこない。
まずったな、こうなるんだったら、もっと鍛練しとくんだった。

「風紀委員長の前ではタバコ消してくれる?ま、どちらにせよ、ただでは帰さないけど」
「!! んだとてめー―!」

私が軽く日頃の行いを悔やんでいると、雲雀さんの挑発的な言葉に、元々沸点が低かった隼人が目くじらを立てながら雲雀さんに突っ掛かろうとしたが、雲雀さんの「消せ」という言葉と同時に切れたタバコの先端を見て、やっと彼の危険性に気づいたようで、慌てて距離をとった。

「(うーん…流石にヤバイなぁ…この状況は……)」

彼の手にいつの間にか握られていた仕込みトンファーを見て、そう思った。くそう。今回ばかりは恨まれたって文句言えないよ、リボーン。

「僕は弱くて群れる草食動物が嫌いだ。視界に入ると――――咬み殺したくなる」

嗚呼もう…。
「キャーッ雲雀さんのナマ咬み殺す聞ーちゃったー!」なんて言ってる場合じゃない。いや言ってないけど。このままじゃ、比喩じゃなく間違いなく殺やられる。
とにかくここは、ちょっとムリヤリだけど敵意の無いコトを示して、たまたま間違ってここに入って来たっていう設定で押し通そう。

「あの…すみません。私達間違ってここに入って来てしまった者で……。あの、今、出て行き「へー。初めて入るよ応接室なんて」っ! バカッ!!!」

せっかく穏便にすまそうと思ったのに、貴方のせいで台なしじゃない。

「綱吉、下がっ………!」
「1匹」

慌てて綱吉に制止の声を掛けようとしたが、間に合わず綱吉はトンファーの鋭い一撃の餌食となってしまった。

「綱吉ッ!!!」

窓際の壁に飛ばされた綱吉に駆け寄って傷を看る。
………………良かった。そこまで怪我は酷くない…。

「のやろぉ!! ぶっ殺す!!」
「あっ。隼人、ダメ!!」

怪我が酷くなかったのは良かったけど、最も敬愛し尊敬する綱吉に危害を加えられたのに余程怒ったのか、隼人が一直線に雲雀さんに向かって行った。
怒ってる分、相手にいつもより動きを読まれ易いっていうのを理解してないのかな、あの子は。綱吉同様制止の言葉を掛けたけど、それを無視して行ってしまったせいで、やはり簡単にいなされて、あの重い一撃に沈められた。

「隼人!」
「2匹」

綱吉と私のすぐ側に飛ばして来たので、隼人の方へ寄って傷を看る。
……うん。こっちも大丈夫。それほど酷くない。

「てめぇ…!!!」
「待って、山本くん」

何時もと違い、険しい顔で、殺気の篭った鋭い声を出す山本の腕を掴んだ。

「…………離せ、桜龍寺」
「ダメ。抑えて、山本くん。お願い」

山本くんが腕を掴んだ私を射殺さんばかりに睨みつけたが、気にせず彼の目を真っ直ぐ見る。
大切な友達を傷つけられたんだから、そうなるのは当たり前だ。私だって気持ちは山本くんと同じなんだから。
…だけど、だからこそ、これ以上犠牲者を出す訳にはいかない。
私も含めて、まだ彼には敵わないのだから。

「冷静になって考えて。今私達がするべき事は、あの人と戦って事を荒立てる事じゃないでしょ」
「……桜龍寺の言う事はもっともだ。けどな、大事なダチボコボコにされて笑ってられる程…オレはバカじゃねーんだよ!!!」
「山本くん!!」

そう言って、ダッと雲雀さんに向かって駆け出すも、攻撃を何回か避けることが出来だけど右手をカバっているのを見抜かれて、隼人より少し離れた所に蹴り飛ばされた。
……ていうか、山本くん、何か私の事勘違いしてない…?
確かに私は冷静に状況を判断してはいたけど、けっして2人がやられた事に対して無関心なワケじゃない。

「さて、もう残りは君だけだけど。どうする? 逃げるの?」
「…………煩い」

私だって…私だってね……。

「本気で怒る時くらいあるわ……!!!」
「…ワオ、良いね、その目」

ギロリと殺気を込めて雲雀さんを睨むと、雲雀さんはさも嬉しそうに笑った。
対して、私は挑発するように笑う。

「あそう……。言っとくけど、私は病院のベットで眠る気は無いわよ?」

そう言って先程リボーンに渡された双優を構えると、雲雀さんの顔に更に笑みがこく刻まれた。

「……その自信、一体どこから来るわけ?」
「さあ…怒りとかからじゃないの?」

同じくトンファーを構えて好戦的な笑みを浮かべる雲雀さんを見ながら、彼に向かって一直線に走り出した。
一気に間合いを詰めて、双優を勢い良く右にふる。
けど雲雀さんはそれを予測していたようで、右手のトンファーでそれを受け止め、左手のトンファーを私に向かって振り下ろした。
私はそれをより前に行くことで避け、左手を床について、雲雀さんの鳩尾に向かって回し蹴りを放った。

「ぐっ……」

それがキレイに決まり、雲雀さんはよろけながらもまた左手のトンファーを私に向かって振り下ろしたが、私は斜め左に跳んで避けつつ距離を取った。
……お、結構イケるじゃん。私。

「へぇ……思ったより、やるみたいだね」
「それはそれは…どうもありがとう。あんまり嬉しくないけど」

雲雀さんの鳩尾を押さえながら行った言葉に、にっこり笑顔で返す。……笑っていられるあたり、私は私が思ってたより余裕があるみたいだ。
なんて思っていると、彼のトンファーから、棘が出てきた。

「次からは本気で行くよ。……その扇、構え直したら?」
「ええ。そうさせて頂きます……よっ!」

更に狂暴そうな笑みを浮かべる雲雀さんに、内心冷や汗をかきながら応えようとすると、言い終わるより先に攻撃を仕掛けてきた。

「ぅあっぶなッ!! いきなり攻撃って…そりゃないでしょ風紀委員長さん」
「避けられたんだから別に良いじゃないか」
「そういう問題じゃ……ってぅわっ!?」

引き攣った笑みを浮かべながらそう言うと、笑顔でサラリとそんなコトを言われてしまった。
それに対して異見しようとしたら、棘つきトンファーに言葉を遮られてしまった。
くっそー、思わず声裏返っちゃったじゃないか。

「貴方…ホント性格悪いよね……!」
「そう?」
「ええそりゃあもぉ…!!」

話ながらも続く雲雀さんね猛攻に、舌打ちして側転とバク転の要領で避け続ける。

「…………っと」

しまった。行き止まり。
で、両方には棘つきトンファー。うわ、ヤバイ。死ぬ。

「……ワケにはいかないなぁ…!」
「っ………!」

咄嗟にしゃがむことで、両手に持ったトンファーは行き場を無くし、雲雀さんはほんの少しだけバランスを崩した。
…………でも、それで十分。
おもいっきり雲雀さんの懐に飛び込むと、双優を彼のお腹に叩き込んだ。

「…………っ!!」
「こ、れでっ…終わりッ…!!」

廊下側の壁に吹っ飛ばされた雲雀さんに、とどめとばかりに頭に向かって双優を振り下ろ……そうとした。

「初音っ! ダメッ、止めて……!」
「え…綱…吉……?」

いきなり双優を振り上げていた手と体の動きを封じられたので、首だけ後ろに回して私を拘束している人物を見ると、綱吉が右手で私の腕を、左手で私の振り上げてなかった腕ごと抱きしめる形で止めていた。

「な…んで……」

何で止めるの? って聞こうとして、言葉を途中で止めた。
何故だか、綱吉が、スゴく痛そうな、今にも泣きそうな顔をしてたから。

「初音、もういいぞ。そこまでだ」

若干甲高めの声に振り返ると、リボーンが満足そうに笑って窓枠に立っていた。

「リボーン…」
「やっぱつえーなおまえ」

リボーンは私の呟きをまるで聞こえていいように無視し、雲雀さんに声を掛けた。
しかし、雲雀さんはむくりと起き上がると、不機嫌そうにリボーンに近寄った。

「君が何者かは知らないけど。僕、今イラついてるんだ。横になって待っててくれる」

そういうがいなが、雲雀は左手に持ったトンファーを容赦のカケラもなくリボーンに叩き込んだ。
………………が、ソレをリボーンはいともたやすくその小さな手に握られた十手で雲雀さんの攻撃を防いだ。
それを見て、雲雀さんは何とも嬉しそうに笑う。

「ワオ。素晴らしいね、君」

だが、リボーンが持っている爆弾を見て、それは驚きの色に変わった。
無論、私と綱吉もだ。

「お開きだぞ」 

次の瞬間、応接室にけたたましい爆発音が響き渡った。
ちなみに、それを聞いた直後、綱吉が山本くんと隼人を引っつかみ、私に部屋を出るように促しながら退散するという、なかなか…というかかなり機敏な指示と行動により、屋上へと移動した。

「なぁっ、あの人にわざと会わせたぁ!?」

屋上に移動し、山本くんと隼人が目を醒ましてからリボーンによって説明された事を聞いた私達4人を代表した綱吉の言葉だった。

「キケンな賭けだったけどな。打撲とスリ傷ですんだのはラッキーだったぞ」
「ちょっとリボーン、こっちは全っ然ラッキーじゃなかったんだけど。私思いっきり雲雀さんぶっ飛ばしちゃったし。絶対目ぇつけられたよ……」
「それはオレのせいじゃねーぞ。強いお前が悪ぃーんだ」
「はぁー……」

私がこれからの事を考えて、憂鬱のあまり息をついていると、綱吉が不意に私に問い掛けてきた。

「そうえば初音。なんであんなに強かったの? どっかで異種格闘技でも習ってたとか?」
「オレもそれには興味があるな。何せ、ヒバリを圧倒する程のパワーだ。相当努力しなきゃああはなれねぇ」
「ヒ…ヒバリを圧倒する程のパワー…っスか……」
「へぇーっ。桜龍寺スゲーのな!」
「ははは…アレねぇ…」

興味津々とばかりに私のほうに身を乗り出す綱吉の言葉で他の3人も私をじっと興味深気に見てくるので、私は苦笑して説明した。

「実はアレね、私の義兄に習ったの」
「えっ、お兄さん? ………そう言えば、前にもそんな事言ってたよね」
「うん。今はちょっと遠くにいってるんだけどね」

目を軽く見開いて驚く綱吉に思わず笑ってしまう。

「へー。会ってみたいなぁー」
「ふふ…どーだろ。会えるかなぁ」
「桜龍寺、話がズレてる」
「あ、ごめん。話戻すね。………えと、その人と一緒に暮らしてる時にね、私一回誘拐された事があるのよ」
「はぁっ!? 誘拐!?」
「うん。もぉ困っちゃうよねー」
「イヤイヤイヤイヤ! 笑い事じゃないから!!」

驚いた顔をする面々に笑っててを上下にふる。

「そんな大変なコトじゃないよー。誘拐犯だって、うちと契約切られて逆ギレした中小企業の下っ端共だったし。数時間もしないうちに助けが来たしね」
「オレ…お前の大丈夫の限度が解んないんだけど…」

げんなりした顔をする綱吉にまた笑って、話を続けた。

「……で、それ自体は大して大事にはならなかったんだけど、その分その義兄が心配してね、体を鍛えることになったの」
「はははっ。心配性なのな」
「うん…まあ感謝もしてるんだけどね」

手を頭の後ろで組んで楽しそうに笑う山本くんに苦笑して、一回息をついてから空を見上げて言った。

「色んなコト教えてもらったなぁ…。
えっと…基本的な動きや護身術から、柔道・空手・カポエラ・合気道・剣道・ムエタイ・ストリートファイト。あ、キックボクシングとかも習ったなぁ…」

あ、あとトンファーも!
そう言うと、皆(リボーン除く)サッと顔をするので、それに思わずぷっと吹き出してしまった。

「もー。そんなに過剰反応しなくてもいいじゃない」
「なっ…!この野球バカは別として、誰も過剰反応なんかしてねーよ!!」
「してるよぉー」
「笑うんじゃねぇっ!!」

ムキになって唸る隼人(なんか猫がシャーって威嚇してるみたいだなぁ…)を見て、また笑いが込み上げてきたけど、それをぐっと我慢して続けた。

「格闘系じゃなくても、習ったのはたくさんあったよ。日本舞踊とか、華道・茶道…弓道とかも」
「っていうか…初音ん家ってひょっとして…」
「あ、うん。上に超が最低3つ付くくらいのお金持ち」
「うっわ大富豪!!!」
「あははっ。でも家がそんなだからさ、寄ってくる子は皆家の恩恵に預かろうとする子ばっかりでさ。やんなっちゃうよ」
「…………だから、並森に来たの?」
「ん〜……まぁそんな感じかな」

ホントは違うけど、そーゆーコトにした方が色々と
後のつじつまが合いやすいので、そう曖昧に頷いた。

「……ま、とりあえず。隼人は猪突猛進しすぎ。冷静な判断と行動を欠いた行いは、逆に自分の身を滅ぼすよ。
山本くんも。君は私を何だと思っているの。
私は常日頃から冷静な判断を出来るように教育されてきたからあんまりしないだけで、怒ったり感情に任せた行動をしないわけじゃないわ。まるで私が友達が傷つけられても平気な顔をしている薄情者みたいにいわないで。解った?」
「お…おぅ…」
「悪ぃ……」

私がビシィ、と隼人と山本くんを指差して言うと、2人共たじたじになりながらも頷いてくれた。

「うむ。解ればよろしい。……じゃ、私帰るね」
「え…授業はぁ……?」
「どーせもぅ5限目の後半あたりでしょ?ならもー受けてもつまんないからサボるー」
「じゃ…じゃあ鞄はぁー?」
「ん。ホラこのとおりルリが持ってきてくれてる」

人数分ね。
そう言って屋上の入口を見ると、ちょうどルリ
が4つの鞄を背負って入ってくるところだった。

「ありがとールリー」
「って、いつの間に…」
「さっき屋上に移動する時頼んだの。ホラ、うちのクラスって、よく後ろのドア開けてるじゃない」

てこてこと私の所まで寄って来たルリを、鞄をどけて膝に乗せて撫でてあげていると、綱吉が唖然とした顔をしてきいてきたので、簡潔に説明した。

「んじゃ、私帰るね。バイバーイ」
「あっちょっ…待ってよ初音っ! オレも帰るっ!」

スタスタと屋上を出るべく歩き出すと、綱吉が少し慌てたようにとたとたと走り寄って来た。











幸い、授業中だったためか教師にも風紀委員(委員長含む)にも出会わず、帰路に着くことが出来た。

「ねぇ初音」
「んー、なあにー?」
「すっげえ無神経なコト言って良い?」
「? どーぞ?」
「…あのさ、初音の義理のお兄さんって、生きてる?」
「………え?」

綱吉の思わぬ言葉に、思わず歩く足をとめて、綱吉を見た。それにつられるようにして、綱吉も足を止めて私を見る。

「どういう…意味…?」
「うん…ごめん、今から言うコトホント無神経だから。ムカついたり気に障ったりしたら、遠慮せずに殴って良いから」
「…うん……」

真剣な顔をして言う綱吉に気圧されて頷くと、綱吉はそのまま私の手を引いて歩き出した。

「ここじゃアレだから、場所を変えよう。オレの部屋で良い?」
「うん」

その状態でお互い一言も口を利かず、綱吉の部屋に着いたところでやっと綱吉が口を開いた。

「なんかね、今日の…っていうかヒバリさんと戦ってた初音を見てね、何か違和感を感じたんだ」
「うん」
「あの時の初音は…こう、本気でヒバリさんを殺そうとしてる感じがした」
「…うん」
「それでね、オレ、初音の目が、時折オレを透して違う人を見ているみたいな目をしてるな…って思ってた」
「……うん」
「それはひょっとして…初音の義理のお兄さんを見てるんじゃないかって思ったんだ」
「えっ……?」

綱吉の言うことを黙って聞いていると、不意に言われた言葉に俯いていた顔を上げた。

「それって…どういう……」
「確証は無いよ。でも、オレは初音がその義理のお兄さんに手紙やら電話やらをしているのを見たことがない。でも初音がお兄さんを慕ってるっていうのは、さっき屋上で話してた時にスゴく伝わってきた。だからこそ、解せないんだ。」
「……………」

上げていた顔を再び俯かせて、黙って自分自分の手を見つめていると、その手が綱吉の手に包まれた。

「ホントは、初音のお兄さんはもうこの世にいないんじゃない?
オレはそのお兄さんに何処かしら似ている所があって、それで、全部じゃないにしろ、オレとお兄さんを重ねて見てたんじゃないかな」

綱吉に告げられた言葉に、しばし言葉を失い、目を見開いたまま綱吉を見ていると、何故だか綱吉の方が泣きそうな顔をした。

「………ごめん。オレ、初音にそんな顔してほしくて言った訳じゃなくて…」
「………うん。解ってる。それに、綱の言ってるコトも、あながち間違ってないと思うし。自分でも、良く解ってないんだけどね」

そう言って苦笑すると、綱吉は安心したように笑ってくれた。

「話しても…良いかな。私が並森に来るまでの事」
「うん。オレも、その…聞きたい、な」

言って、綱吉があんまり優しげに言うものだから、不覚にも涙が出そうになってしまった。


さあ、貴方に話しましょう

私の“イママデ”を

それは、けっしてユカイなコトではないけれど

それでも、アナタには知っていてほしいから




ブラックリストレッドゾーン
(確かに)(恐いけれど)






次はヒロインの過去……オリジナルとなります。



2010.2.6 更新
加筆 2011.8.6