小説 | ナノ


極限少年





今、私と綱吉は学校へ向かっている。
今日は夏休み明け、つまり始業式である。
天気は快晴。空は今日も抜けるような青色、なのである。

「綱吉〜、このままだと遅刻しちゃうよ〜?」
「良ーんだよ、どうせ走ったって間に合わないし」
「そっかぁー」

まだ眠気でぽやぽやする頭で綱吉の会話を復唱する。
そっかぁ、そうだよねぇ…。
…………ってあれ、始業式って、原作で何かあったような…。
まだ眠気で頭がスッキリしないせいか、中々頭の中の引き出しが開いてくれない。
悶々と1人考えにふけていると、不意に隣から銃声が聞こえてきた。

「へ………?」
「リ・ボーン!!! うおおおお!!! 死ぬ気で登校するー―――!!!」
「っと……」

また例によってリボーンに死ぬ気弾を撃たれたらしい綱吉に置いて行かれないように、その肩に捕まった。
そのまま猛スピードで駆け出す綱吉によって、足が地面から離れマンガみたいに引きずられる形になったが、いつもの事だ。
朝っぱらからよくあんなに走れるなぁ……と感心していると、いつの間にか学校の近くに来ていたようだ。
同級生、上級生、下級生達がちらほら見えている。
すると、その中の1人が綱吉を引き止めようと腕を掴んだが、綱吉のスピードに負けて私と同じように足を宙に放って引きずられるようになった。

「あ、どうも。おはようございますー」
「うむ! 極限におはようだ!! ……だが、お前は誰だ?」

私と同じように引きずられている上級生に呑気に挨拶をすると、大変熱苦しい挨拶を頂いた。
そしてその上級生の質問に適当に答えながら、ようやくさっきの引き出しが開いたのを感じた。

そうだった。
9月3日。始業式。つまり今日。
今日は、この上級生、笹川 了平さんのお話だ。




「くっそーリボーンの奴〜〜〜。間に合いはしたけどまた恥かいたよ…」
「まあまあ、いつもの事じゃない」
「それがイヤなんだよー!!」

結局、パンツ一丁で学校へ着いた綱吉は、自分の格好に気がつくとささっと校舎裏に移動した。
今だに赤面している綱吉を宥めていると、何やら声が聞こえた。

「紛れも無い本物…」
「!?(ヤベー人引っ掛けてるー――っ)」

その声に、さっきまで一緒に綱吉につかまっていた笹川 了平だと知る。
慌てて綱吉が大丈夫かと聞いたが、彼はそれには答えず、ごろごろと前転を繰り返し、ビシッ、とポーズを決めて口を開いた。

「聞きしに勝るパワー・スタミナ! そして熱さ!! やはりお前は百年に1人の逸材だ!!!」
「は?」

いきなりそう言ってきた了平さんに、綱吉は困惑した。
まあムリは無いさ。私だって原作知らなかったら確実にビビってだろうしね。

「我が部に入れ、沢田 ツナ!!」
「えっ、なっ、何でオレの名前…!?」

続いてがしっと綱吉の肩を掴み部に勧誘する了平さんだが、綱吉は困惑するだけで応答する余裕が無い。
が、そんな綱吉は気にせず、了平さんはぐいぐい話を進める。

「お前のハッスルぶりは、妹から聞いているからな」
「い…妹?」

了平さんの言葉に綱吉が不思議そうな顔をしていると、タイミング良くあちらから了平さんを呼ぶ声が聞こえた。
てかハッスルって……。
それに了平さんが応じ、その時に言った「キョーコ」の言葉に綱吉が声が聞こえた方を見ると、目を見開いて絶叫した。

「京子ちゃん〜!?」
「あ…初音ちゃんツナ君おはよ!」
「おはよう、京子」

了平さんの鞄を抱えながら駆けてきた京子に私はニッコリ笑って挨拶するが、綱吉は予想だにしなかった人物に完全に面食らってしまい、「え?」とか「は?」とか言っている。

そうこうしているうちに話は進み、結局了平さんは放課後ジム(つまり部室)に来いと強制的に約束を取り付け去って行ってしまった。
さらに京子が嬉しそうに兄があんなに嬉しそうなのは久しぶりだと言ったため、だんだん入部を断りにくくなってきた綱吉だった。











「はぁ〜〜〜。やっぱり無理だよ…ボクシングなんて」
「なら、サクッと断っちゃえば良ーじゃない」

放課後。
私と綱吉はボクシング部の部室の前であーだこーだと言い合っていた。

「それが出来たら苦労はないよ……。京子ちゃんのお兄さんには嫌われたくないし…どうやって断ろう…」
「いっそのこと、腹くくって入っちゃえば?」
「ムリ!!」

頭を抱える綱吉にそう提案すると、間髪入れずに却下された。
それに苦笑していると、急にガラッと部室の扉が開き、中から了平さんが出て来て、それに綱吉がビクッと体を奮わせる。

「おお、まってたぞ! お前の評判をききつけて、タイからムエタイの長老までかけつけているぞ」
「は? タイの長老…?」

了平の言葉にポカンとする綱吉だったが、その長老の姿を見るとビシリと固まった。

「パオパオ老師だ」
「(てんめー――――!!!)」

そこには、ボクシング用のグローブとパンツをはき、かわいらしいゾウのかぶりものを被ったリボーンがいた。
予想通りのリボーンと綱吉に、思わず苦笑する。

「まあまあ、綱吉落ち着いて」
「でも初音っ……!」
「オレは進入部員と主将のガチンコ勝負が見たいぞ」
「んな! 何言ってんだよ! お前オレにボクシングやらす気か!?」
「(ああまた納まりかけた火に灯油をぶっかけるような事を……)」

苛立つ綱吉を修めようとしると、リボーンがさらに言った余計な一言のせいで、綱吉と了平さんが戦うコトになってしまった。
しかも、何故だか京子、隼人、山本くんの3人が応援に来ているうえに、誰もパオパオ老師がリボーンだというコトに気がつかなかった。
原作を知っていながらも、いや知っているからこそ、その事実は激しく謎だ。
そんなコトを考えていると、つい、と綱吉と目が合い、お互い苦笑いをした。

「行くぞ沢田 ツナ!! 加減などせんからな!!!」
「(オレ何やってんだー―――!?)」

さてさて。
以下の経緯で綱吉と了平さんが戦う事になったが、ボクシング初心者で運動神経も人並み以下な綱吉とボクシング部主将の了平さんとでは、力の差は歴然としているわけで。
試合開始の合図をゴングが鳴らすと同時に了平さんの放ったパンチが、綱吉の左頬にクリーンヒット。
案の定それをモロに受けた綱吉は、もんどりうって倒れてしまった。

「油断するな沢田!!」
「(違うよ実力だよー――。もー帰りてーよ―――…)」

倒れた綱吉を油断したのだと思って叱る了平さんを視界の端で捉えながらも、私はハラハラと気が気じゃなかった。
ああもう綱吉ってば、このままじゃ了平さんにタコ殴り決定だよ……。

バカバカバカバカ。
こんなのさっさと断っちゃえば良いのに。
そんなに京子に嫌われたくないのか、ああそうかいそうかい。
バカバカ…綱吉の大バカ者。

何故だか解らないけど、酷く胸がムカムカする。
あれかな、夕べの天ぷらのせいかな。あれちょっと失敗して油っこくなっちゃったからなー…。
うん。そうだ、そうに違いない。
そう自己完結してうんうんと頷いていると、いきなり了平さんの俯せに倒れ込んだ。

「!?」

それには流石に驚いたが、了平さんはすぐに起き上がり、何事もなかったかのように綱吉に声をかけた。
ただし、額に灯った黄色い光…もとい炎が、彼が死ぬ気弾に当たった事を物語っていた。

「(ああ……そういえば、常に死ぬ気の人って死ぬ気弾撃っても効かないんだっけ…)」

そう半分混乱する頭でマンガの内容を思い出しながら、綱吉に声援を送った。
まあ、その後すぐに彼は死ぬ気状態になったのだが。

「死ぬ気でボクシング部入部を断る!!!」

死ぬ気状態になった綱吉は、相変わらず物凄い迫力だ。
そんな事をボーっと思っていると、綱吉と了平さんとの入部を賭けた殴り合いが始まった。

「入部しろ沢田!!」
「いやだ!!!」

勢い良く繰り出される了平さんのパンチをかわし、綱吉はきっぱりと断る。
ついで放たれる“極限ラッシュ”もかわしていく綱吉に、周りはざわざわとどよめいた。

「すげー笹川先輩の“極限ラッシュ”をかわしてる………!!」
「あいつ何者だ!?」
「かわすツナもすげーが、あのラッシュも常人のもんじゃねーな…」
「ありゃあ殺し屋のそれだ…」
「ふわぁ…」

なおも続く2人の試合に、思わず感嘆のため息が零れる。
そして、ついに綱吉の断ると言いながら放った右ストレートにより、勝負は綱吉の勝ちに決まった。

「やったぁ!!」
「っし。さすが10代目!」
「!」

思わず笑顔でパチ、と手を叩いて喜ぶと隼人も同じ気持ちだったらしく、2人でハイタッチをした。

「お前らツナの事になると途端に仲良くなんのなー」
「良ーでしょ別に!(ってあ…綱吉が灰化しとる……)」

ハッとして綱吉の方を見ると、死ぬ気状態がとけて了平さんを力の限りぶん殴ってしまったと気づき、サラサラと灰化していっていた。

「(あーあー)まあ綱吉、大丈夫だって」
「どこがだよ…ああもう終わった……」

リングに上がって綱吉の肩に私のジャージを掛けながらそう慰めたが、綱吉はすっかりうなだれてしまい、その様につい苦笑する。

「大丈夫だってば。………ホラ」
「えっ……あっ!?」

そう言って了平さんが吹っ飛ばされた方を指差すと、了平さんは頭から血を流しながらも綱吉の強さに感動したらしく笑っていた。
……………はっきり言って、かなり不器用な光景だ…。

「お前のボクシングセンスはプラチナムだ!! 必ず迎えに行くからな!」
「もーお兄ちゃんうれしそうな顔してー!」
「(なにー―――!? むしろ好かれたー!!)」

何だかもぅ、この笹川兄妹色んな意味で恐ろしいな…。
私は血をドクドク流しながらも嬉しそうな顔をする了平さんと、それを嬉しそうに見る京子をちょっとひきぎみに見つめていた。

「む! そうだ、もう1つ大事な事があったのだ!!」
「ぅえっ? ななな何ですか!?」

綱吉をしつこく勧誘していたと思ったら、頭から血をダラダラ流したままがしりと私の肩を掴んできた了平さんのせいで変な声が出てしまった。
てかどもりすぎだよ私………。

「ちょっ…! 一体何なんですか!!?」

何というか、ホントに怖いんだって、頭から血を流してる人が目の前にいるの…!!
ちょっと半泣きになりながら了平さんを見上げていると、とんでもない事を言われた。

「我が部に入らんか、桜龍寺 初音!!!」
「「はぃっ!?」」

驚いて目を見開くと、何故か見事に綱吉と言葉が重なった。っていうか、ボクシングって女の人は出来ないんじゃ…。

「あの、お断りしま「心配する事は無い! 何故ならお前も素晴らしいボクシングセンスを
秘めているからだ!」(話通じないんだけどこの人ー――――!!!)」

マジで何なんだこの人はっ!
肩をガックンガックン揺さぶられながらも必死に綱吉に向かって目でSOSを送ると、綱吉はちょっと困ったような顔をして了平さんの手を私の肩から退けさせてくれた。

「お兄さん、初音が苦しそうですよ」
「おお、スマンな桜龍寺!」
「イ、イエ…」

まだくらくらする体を綱吉に支えてもらいながら返事を返すと、何とも良い笑顔を帰された。

「すみません了平さん。私、家事とかしなくちゃいけないので、部活やに時間をかけているヒマは無いんです」

ホントにすみません、と言って頭を下げると、了平さんは良いのだと笑って言ってくれた。

「だが、いつか必ずお前ら2人まとめてボクシングに入れてみせるからな!!」

ああ……この人全然理解してない……



極限少年
(帰ろっか…綱吉、ルリ)(うん…あっ、今日って卵安日じゃなかったっけ)(キュウッ)




2009.12.30 更新
加筆 2011.8.6