7月21日。 それは、夏休みの始まり それは、学生全てのパラダイス それは―――――― すなわち、成績表が帰り、補習授業の日にちが振り分けられる日である。 ……今の状況を分かりやすく説明してみましょう。 簡単に言えば、綱吉が椅子の上に正座しており、私がその前に仁王立ちしているのだ。 「つーなよーしくーん」 「(ヒィィィィ!!)はっはいっ!」 「うふふふ、なーんで私が怒っているがわかるー?」 「………お、オレが、期末テスト赤点取りまくって、補習で夏休みの半分がダメになったから…」 「その通り!!!」 私がばん、と机を叩くと、綱吉がヒィッと短い悲鳴を上げて肩を縮こませた。 私は机に手をつけたまま、にこぉーっと、綱吉いわく絶対零度の微笑みを浮かべて、顔を綱吉に近付けた。 「………ねぇ? 私、貴方にテストで出そうな所は全部教えたよねぇ…?」 「………ハイ」 「でさぁ、それは全部出たよねぇ。 アレが出来てれば80点は硬いって言ったよね? 現に私はこうして全科目100点取れたもんね?」 「………ハイ」 「なのに……この点数は何なのかなぁ…?」 「(ヒィィィィッ!!!)」 私がにこぉーっと笑って、綱吉のテストの束でペシンペシンと綱吉の頭を叩いていると、綱吉はますます怯えて縮こまった。 「あのねぇ、別に私は100点を取れって言ってるわけじゃないのよ?ただ、平均点以上か50点以上採れば良いのよ? なのに………」 「まあまあ桜龍寺、そのくらいにしておいてやれよ」 「黙れよ補習組その2」 私と綱吉がお取り込み中に、空気を読まずに声をかけてくる武くんを振り向かずに一刀両断する。 え、キャラが違うって? 知ったこっちゃないそんなコト。 「あのさぁ、私、言ったよね? 私も、隼人も、まあ補習が予想されてた武くんは置いといて。夏休みの約半分は綱吉を含めた4人で遊ぶ計画してたんだからさ、綱吉がいなきゃダメじゃない。 …………綱吉と一緒じゃなくちゃ、つまんないじゃない…」 最後に至極小さめに言った言葉は、ちゃんと綱吉に聞こえてしまっていたらしい。 優しげに私に微笑むと、きゅっと少し控えめに私の服の袖を掴んで言った。 「………ごめんね、初音。オレも、皆と遊びたかったから頑張ったんだけどさ……ダメだったよ。 来年は、もっともっと頑張って、高い点数とってみせるから。だから……ね?」 「っ!!!!?」 そういってへにゃ、と笑った綱吉を見て、私は思わず顔を赤くした。 上目使いに私を見て、さっきの事で眼に涙をためている綱吉を見て、えも言われぬときめきが私を襲った。 恐らく無意識だろうその仕草。バックに可愛らしいチワワが見えるよ綱吉。 ………ヤバイ。 もしや、これが萌え…………!!? いやいやいや、私は断じて変態なんかじゃない。ないけども………いやいや、可愛いすぎる綱吉が悪い!!(責任転換) 「? 初音? 大丈夫…?」 「っ!」 綱吉の少し戸惑ったような声にハッとして顔を上げる。 そして、そのチワワみたいに少し潤んだ瞳に見つめられ、ぐっと言葉につまる。 ………そんな表情(カオ)されたら、怒れるモノも怒れないじゃないか。 「初音…?」 「っ、るさいっ!!」 「痛ぁ!?」 じぃっとさらに綱吉に見つめられ、恥ずかしさのあまり、ゴンッと綱吉に頭突きをくらわせてしまった。 私、けっこうな石頭だから、こうされるとかなり痛いらしい。 そのまま赤くなっているであろう顔を腕で隠し、バッと綱吉に背を向けて教室を飛び出した。 「わかったわよ……! その代わり、夏休みの宿題も、補習で出る課題も、一切手伝ってあげないからー―――!!!」 という捨て台詞を残して。 その後、飛び出してきた教室から綱吉の悲痛な叫び声が聞こえてきたが、生憎それドコロではなかった。 ♪ ――――と、いう事があった数日後、現在綱吉はその補習に出ている。 私はというと、補習で疲れて帰ってくるであろう綱吉の為に、餡蜜を作ってるところだ。 別に、いくら夏休みの宿題と補習で出された課題を手伝わないと言ったからって、差し入れくらいは入れてあげても良いと思うし。 それに、綱吉達3人がわいわいがやがや楽しそうに勉強会やってる時に、1人蚊帳の外っていうのはけっこう寂しい。 「よしっ…後は先に作っておいた抹茶のアイスと白玉を添えて、小倉餡と特製黒蜜をかけるだけ……っと」 寒天が出来上がり、後はこの前綱吉と一緒に買いに行ったこの涼しげな硝子の器に盛りつけるだけになった時、 ガチャ、と玄関のドアが開く音と同時に、綱吉のけだるげなただいまぁ〜…という声が聞こえてきたので、 私は一回コンロの火を消して、エプロンをしたままパタパタと玄関まで綱吉を迎えに行った。 「おっ帰りなさーい。綱…よ、し?」 玄関に着き綱吉にお帰りなさいと言った私は、はてと小首を傾げた。 てっきり、何時も通り綱吉とリボーンのセットがドアの前にいると思っていたのだが、今日は綱吉と隼人、それに武くんのセットだった。 あ、餡蜜3人分作っといて良かったぁ…。 ちなみにそれは、本当なら私と綱吉とランボの分になるはずだったのだけど、どうやらそっちはそっちで新しく何か作らなくてはいけないようだ。 「あらま。いらっしゃい、2人とも。今日は皆で勉強会?」 ふふっと笑って、隼人と武くんにそう言うと、何故か2人は目を見開いて顔を見合わせた。 あれ、珍しいなぁ、武くん嫌いの隼人がこんなコトするなんて。 「? 何、2人揃って。何か変なことでも「アホォォォオォオ!!!」いったぁっ!」 私が不思議に思って隼人と武くんに近づくと、綱吉が目にも留まらぬ速さで私の頭目掛けてチョップをくらわした。 うぅ…たまにやられるけど、コレホントに痛いんだよ………。 「いったいなぁ! いきなり何すんのよ、このバカ綱吉!」 「うっさい!! お前が何やってんだよ、このバカ!」 「バ、バカッ!? ちゅ、中間も期末もドベだった人に言われたくないっ!!」 「そういう意味のバカじゃないよ! バーカバーカ!!」 「んなっ……!」 涙目になって手でチョップされたトコを押さえながら言い返すと、すかさず綱吉にバカと言われた。 日頃、ダメツナバカツナと罵られている綱吉にバカバカと言われ、少なからずショックをうける。 きっとマンガだったら、頭の上にガーン…といった文字が上がっていることだろう。 「う゛〜〜っ。っていうか、それが自分にお帰りなさいって言って出迎えてあげた人に向かって言うセリフ……!?」 「それとこれとは話が別っ! だいたい、母さんは?」 「ふーんだ。出迎えも無ければ声も聞こえないんだから、居ないに決まってるでしょ? 似たような理由でランボも居ないわ。バッカじゃないの?」 「ちょ、何、その妙にトゲのある言い方っ」 「ふーんだ。自分の胸に聞いてみれば?」 腕を組んで、お互い睨み合っていると、不意に誰かから頭を撫でられた。 ちょっ…髪の毛ぐしゃぐしゃになるっ……! 「はははっ、まあそんなケンカすんなって! あとツナ、そろそろ家に入っていいか?」 「へっ!? あ、うん。ゴメンね、山本、獄寺くん。待たせちゃって」 「いえいえ。10代目、お気になさらないで下さい」 「そーそー。気にすんなって。見てて面白かったしなっ」 「てめぇ、10代目に向かって何言ってやがる!!!」 喧嘩に夢中でもはや空気と化していた武くんが私と綱吉を諌めてくれた。 それに対して、綱吉が隼人と武くんに慌てて謝ると、隼人はにっこりと笑って、武くんは無駄に爽やかに笑って、ともに気にするなと言ってくれた。 それに対してまた隼人が武くんに突っ掛かり、武くんがそれを明るく受け流す。 そんな、もう見馴れたやり取りをにこにこと笑っていると、綱吉が何故か顔を赤くして、2人の背中を押して、2階にある自室に行ってしまった。 ちぇーっ、つまんないのー。 ま、餡蜜が出来上がったら、それを理由に綱吉の部屋に押しかければいいだけだし……ってヤバッ! 抹茶のアイス、外に出しっぱなしだっ…!! 「………ハァ、ハァ。ごめんね、2人共。勝手に誘導しちゃって」 2人を自分の部屋に押し込み、扉を閉めたところでホッと一息。 その後2人に謝罪をすると、2人揃って大丈夫だと笑って言ってくれた。 …………さっき、あの時の初音が、あんまり綺麗に笑うから、不覚にもそれに見惚れてしまって、でも、それをなぜだかオレ以外の誰にも見られたくなくて。 思わず、2人にあの笑顔を見られないようにと自室へ押し込んでしまった。 ……何でだろう…? ――――って! そんなコト考えてる場合じゃなかった!! この補習の課題終わらせないと落第だーっ…! 「ほ、ほらっ! そんなことより山本、ちゃっちゃと終わらせちゃおう、課題っ」 「ん? おお、そーだな」 「オレもお手伝い致します、10代目!!」 「あっ、うん…よろしく、ね。獄寺くん」 急に黙りこくったオレを不思議そうな顔して見ている2人に、無理矢理笑顔を作って話題を変えた。 それをさして気に止めずに従ってくれたことに安堵しながら、がさごそと鞄から課題を取り出した。 「出ー来たっと」 私は目の前にある出来上がった宇治金時に、うんうんと満足気に頷いた。 今日、綱吉が隼人と武くんを引き連れて帰って来たということは、今日は問7の話なのだろう。 すなわち近いうちにハルも来るわけで、ならば、彼女の分もスウィーツを作っておこうじゃないか! ということで、私とハルの分は宇治金時にしたのだ。 今から餡蜜を作るには、餡の量も白玉の量も足りなかったし。 「さてと、餡蜜も宇治金時も作り終えたことだし、後はこの間セールで売ってたラムネを持ってけば良いか」 そう呟いてエプロンを脱ごうとすると、ピンポーンと何とも軽快なチャイム音が鳴った。 きっと、時間的にハルだろう。 そう思って、エプロンの紐をとく手を止めて玄関に向かった。 「はいは〜い。どちら様ー?」 「こんにちはーっ、ハルですよー! はひっ、初音ちゃん、今日は何時にも増してベリービューティフルです!!」 「え、あ、ありがとう…」 玄関のドアを開けて覗くと、やはりそれはハルで、この真夏の太陽の如く大変お暑いテンションで挨拶と社交辞令を言ったハルに、私は思わずひくり、と頬を引き攣らせながら礼を言った。 「………こんにちは、ハル。相変わらず元気だね…」 「えへへっ、初音ちゃんこそ相変わらずの美人さんですっ」 やむを得ず苦笑いで挨拶を返した私に、 ハルは照れたように頬を染めてはにかみながら笑った。 まったく、この娘ってば、普通にしてればこんなに可愛いのに。もったいない。 「ほら、上がって上がって。綱吉の部屋行ってて良いよ。私ももう少ししたら行くから」 「あっ、はい。解りました。………ってツナさん、何してるんですか?」 「ああ、実はね、今日補習の課題が出たからって、友達2人呼んで仲良く勉強会してるの」 「はひっじゃあハル、もしかしなくともお邪魔じゃないですか?」 「? 何で? 丁度良いじゃない。ハルって緑中でしょう? あの名門の。 だから、綱吉が解らないところを優しく解りやすく教えてあげることで、好感度をグッと上げるわけよ」 「はひ、なるほどです! すごいですっ初音ちゃん!!」 「はっはっは。でっしょー?」 私としては、ちょっと前に花が言っていた勉強の出来ない男をオトす必勝法の一部をそのまま言っただけなのだが、ハルがあまりにも感激したようにキラキラとした目で私を見てくるので、ちょっとふざけて腰に手を当てて威張ってみた。 「まあ、最初に綱吉達に気分転換させてあげるのも良いんじゃない?」 「はひはひっ、解りました。ハル、言って来まー――すっ!!」 最後に、私なりのアドバイスをすると、ハルは更にキラキラと私に向かって瞳を輝かせた後、 そう高らかに宣言して、バタバタと音を立てながら階段を上がって行った。 ………滑って転んだりして、階段を転げ落ちたりしなきゃ良いんだけど…ι ハルはドジっ子だからなぁ……。 「ま、大丈夫でしょ。さあ準備準備っ」 ハルがちょっと心配だったけど、今は餡蜜と宇治金時の事だけ考えることにして。 さっさとラムネを取り出す事にした。 「……ええっと。君は一体何をしているのかな、ハル?」 「は、はひっ…初音ちゃん!! あ、あの…これはけっして盗み聞きしているとか、ツナさんに気分転換してもらおうとしたけど失敗したので、こうして様子を窺っているわけでもないですからね!?」 「………ふーん」 餡蜜と宇治金時とラムネをおぼんに乗せて階段を上がってみると、ハルが綱吉の部屋の壁にへばり付いていた。 「まさか…ハルにそんな趣味があったとはねぇ」 「だ、だからっ。違いますってば初音ちゃん!」 「はいはい。解ってるって」 恥ずかしさでか、顔を真っ赤にして言うハルにわらって、よしよしと頭を撫でていると、綱吉がどこか焦ったようにヘアのドアを開けた。 それに、ハルがしまった、という顔をさて、盗み聞きをしている体勢で固まった。 そして綱吉とハルの目が合い、しばし気まずい空気が流れた。 「はひー…っ」 「なっ(盗み聞きしてやがるー!!!)」 「…………。(何なんだろこの空気)」 しばらく3人そろって動けなくなっていたが、その後ドアの陰からひょっこり現れたリボーンの機転により、部屋に入ることができた。 そして、ハルが綱吉達が解らないという問7を見ると、嬉しそうににっこり笑って言った。 私はもちろん手伝うつもりはない。だって終業式の時そう宣言したもん。 言ったことを曲げるのは、私のプライドに関わるからね。 「これ、習いました。わかると思います」 ハルの言葉に、皆でおおー―っと歓声を上げた。 …………の、だが。 ―5分後― 「あとちょっとです」 ―10分後― 「もうちょっとです」 ―1時間後― 「みえてきました」 ―3時間後― 「ごめんなさい! わかりませんー!!」 「「「(なにー―――!?)」」」 ハルが解ると言ってから3時間後、遂にハルは白旗を上げた。 これには、完全にハルをあてにしていた綱吉達3人が、たまらず全員そろって心の中で叫んだ。 あの温厚な武くんでさせもだ。珍しい。 ハルも3人をちらりと見ると、俯いて申し訳なさそうに謝った。 「すみません。解ける気がしたんです……」 「「気が」じゃねーだろてめー―――っ。わかんねーならハナっから見栄切んじゃねー――っ!!」 「やばいよ夜になっちゃったよ!!」 「………もぉ……」 キレて怒鳴りちらす隼人、頭を抱えて叫ぶ綱吉に、苦笑する武くん。 それに俯いてしくしく泣くハルも加わって、何とも異様な光景が誕生した。 …………まったく、たかがこの程度の計算でてんてこ舞いなんて、だらしが無いなぁ……。 私が人知れず溜め息をついていると、突然綱吉の部屋の窓が開き、愉快な歌声と共にお騒がせな仔牛くんがやって来た。 「君はだれだい? 僕はランボ♪僕はだれだい? 君はランボ♪」 と、ちょっとゴキゲンで登場したランボだったが、綱吉と隼人のイライラのこもった視線にギクリと僅かに肩をふるわせて怯えると、吃(ドモ)りながら自分は通り掛かっただけだと主張した。 「今日は何? げ…キムチか…」 「メシ食いに来んな!!」 そして約3時間前にハルが持って来たお鍋の蓋を勝手に開けると、中身がキムチだったことにがっくしと自分で言いながら白けた目をした。 当然、綱吉がそのランボの行動に何も言わないわけがなく、的確かつ鋭いツッコミをいれる。 そして、それによってランボの存在に気づいたハルが、キャッキャとはしゃぎながらランボを自分の膝に乗っけた。 「わー、この子微妙にカワイイ〜〜〜」 「おい! おまえ達! 宿題のじゃまするなら帰ってくれよ!」 極度のストレスとイライラのせいか、普段は温厚な綱吉が珍しく怒鳴った。それにハルが顔を青くして、目にちょっと涙をためながら謝る。 ランボは気にせずくちゃくちゃとキムチ鍋食べてるけど。 「まーまー、落ち着けってツナ、獄寺。とはいえ中1の問題だぜ? 大人に聞きゃーわかんだろ?」 「大人?」 「大人っていったら………」 いつになく苛立っている綱吉と隼人に、武くんが宥めついでに提案した言葉で、2人は一瞬大人ランボを候補にあげたものの、やっぱり一瞬で却下されたっぽい。 っていうか、「大人ランボ」っていっても、10年たったって彼はまだ14歳なんだから、解けるかもわからないだろう。 皆(私を除いて)でしばらく悩んでいると、ハルが名案を思いついたとばかりに手を挙げた。 「ああ!この問題解けそーな大人の女性知ってます!!」 「まじ!?」 「はい。この前一緒におでん食べたんですけど、すっごい美人で趣味は料理なんですよ〜!」 おおーっと感性を上げる3人ににこにこと笑って説明するハルだが、それに私は悪い予感しか感じることができない。 「スゲー完璧!」 「女の中の女だな」 「あ、もしもしビアンキさん?」 隼人も武くんも、その女性に早くも好感が持てて来たらしく、綱吉も満更でもなさそうだったが、ハルがケータイから話し掛けたその女性の名前を聞いた途端、サッと綱吉と隼人の顔が青ざめた。 イヤ、私の顔はもっと前から青ざめてるけど……。 まあそんな訳で、「ビアンキ」の言葉に焦った2人が呼ばなくて良いと叫んだものの、チリンチリーンというありがちな自転車ベルが、ビアンキがもう家の前まで来ていることを示していた。 「速っ!!!」 「ちょうど通り掛かった所みたいです」 それに綱吉がツッコミを入れ、ハルがそう言った事により、よりその事実が裏付けられてしまった。 すると、それに隼人が異常なまでにビクリと肩を震わせて怯えると、ダダダッと階段を駆け降りて行った。 「獄寺君!!」 「はっ、隼人っ!? 待って…私も行くっ……!」 「へ!? 初音っ!?」 思わず隼人につられて私も階段を駆け降りると、丁度隼人が玄関のドアに鍵とチェーンを掛けているところだった。 うっわ、速っ!! 「あ…大丈夫? 隼人……」 「う…いや、少し…見ちまった……」 私が隼人に駆け寄ってそうきくと、隼人はぜーはーと苦しそうにそう答えた。 それに私が苦笑して隼人の背中を摩っていると、ドアの外側からビアンキの声が聞こえた。 「その照れ方は隼人ね。初音も居るみたいだけど。開けてちょうだい。私は問7を解きにきただけなの。隼人は姉を異性として意識し過ぎよ。ね、初音もそう思うでしょ?」 「(ちげーよ!!)」 「(ふおっ、隼人がつっこんでる!?)…いや、私にはちょっと解んないなぁ……」 驚くべきはビアンキの勘違い力か。 彼女の盛大な勘違いの前では、隼人でさえもツッコミ要員になってしまうらしい。 「………おい、お前。 何かものすごくオレに対して失礼な事考えてねぇか?」 「え? やだなー、そんなわけないじゃん!」 じろりと私を睨んでくる隼人を笑い飛ばしていると急にドアノブが溶けだした。 「「!?」」 それに、私と隼人の顔が同時に強張り、青ざめた顔で互いの顔を見合わせていると、ガチャリという音と同時に、ビアンキが入って来た。 「うぎゃぁぁあぁっ!!」 「隼人ぉぉぉぉ!?」 そしてその直後、隼人からものスゴい悲鳴とお腹の音が聞こえた。 「うー…クッキーいらないー…」 「…胸中お察しするわ、隼人……」 ぶつぶつと寝言を言いながらうなされている隼人を綱吉のベッドに寝かせて、濡らしたタオルを額に乗せてあげると、少しだけ顔色が良くなった気がした。 「どう、ビアンキ…わかる?」 あの後、結局ビアンキは家に侵入(?)を果たしてしまって、腹痛でぶっ倒れてしまった隼人を綱吉と武くんの2人がかりで2階の綱吉の部屋に運んで、私はその隼人の看病を任せられた。 んで、今は例の問題をビアンキに解いてもらっている。 きっとムダだろうけどね。 「ごめんね、綱吉。私がいながら、ドアを壊しちゃって(小声)」 「ううん、大丈夫。そこら辺は、リボーンがなんとかしてくれるんだって(小声)」 私がこそっと綱吉に謝ると、同じく綱吉もこそっと笑ってゆるしてくれた。 うん。やっぱり優しいね、綱吉は。 私と綱吉がこそこそと話していると、ビアンキが口を開いた。 「そうね……こんなものどーでもいいわ」 「んなー――っ!! やぶいたー―――!!!」 問題の答えを言ってくれるのかとおもいきや、ビアンキはそう 言い切ると同時に綱吉の宿題のプリントをびりびりと破いた。 「大事なのは愛よ」 「どーでもよくないよっ! 落第かかってんだよー――!! 問題も解けないしどーすんだよ〜〜〜〜〜っ」 「まーまー、オレのコピーすっから」 うわあああとショックを受ける綱吉を、武くんが羽交い締めにしながら宥めた。 …………うーん、どうしよっかなぁ…。 原作なら、ここでハルのお父さんが登場するはずなんだけど、 さっきからハルを見ていても、何処かに電話をした様子は無かったし………。 ………しょうがないか。 「………綱吉」 「はえ?」 はあ、と溜め息をついてから、私が綱吉に話し掛けると、 綱吉はちょっと間の抜けた声を出して、涙目で私を見上げてきた。 くそ、可愛いじゃないか。 「プリント、貸してみなさい。解いてあげる」 「え……だって初音、終業式の日に、「宿題も補習で出された課題も、一切手伝ってあげない」って……」 「………うるさいなぁ。私だって、綱吉に落第なんかされたらたまんないの。本当は手伝うつもりなんてさらさらなかったけど、もう見てられないんだもの。だから、手伝ってあげるのは今回だけなんだからね」 そう言ってホラ、と手を出すと、武くんからプリントを受け取った綱吉が、怖ず怖ずといった感じでそれを私に差し出した。 ……ム、そんな怯えなくたって良いじゃない。 「………ああ、やっぱり。コレ、名門大学レベルの問題だよ」 「えぇ!? うそ!!」 私が問題を見ながらそう答えると、綱吉がショックを受けたように叫んだ。 私はそれにうんうんと頷きながら、呆れ半分、苛立ち半分でふぅ、と息を吐いた。 「ホントホント。たまにいるんだよねぇ、こういう教師。 中学生に絶対解けない問題出して、それを見て優越感に浸ってる奴。あ、ちなみに答えは4ね」 「え、そんなあっさり!?」 「うん。たしかこれで合ってると思うし。これに似た問題、ちょっと前に解いたことあるから」 私が問7を軽く目に通しただけで答えたので、またも綱吉が驚いて聞き返してきた。 それについて私がそう説明すると、3人はへー、と声を揃えて喚声を上げた。 「ま、ちゃんと目を通してなくても、3時間以上も考える時間あったんだし、普通解るでしょ」 「………はひ、そうですよね…。3時間以上も考える時間があったのなら、普通解けていますよね……」 「へ!? あ、いや、その、そーいうんじゃなくてっ。 私、元々こーゆー珍しい問題とか解くの好きだからさ! よく友達の家に行って、こういう問題解き合いっことかしてるし…!」 私がつい口を滑らして言った台詞に、ハルがずぅんと落ち込んでしまったので慌ててフォローすると、今度は綱吉がきょとんとした顔で聞いてきた。 「あれ? #name #、そんな頻繁に出掛けてだっけ?」 「うーん……最近はね。綱吉達が補習ばっかりでヒマだから、少し前から正ちゃんって子の家によく行ってるの」 「その「正ちゃん」って、女の子なんですか?」 「ううん。男の子」 綱吉の問いに、私が簡単に説明をすると、ハルが正ちゃんの性別を聞いてきたので、 男だと答えると、なんだか綱吉の機嫌が少し悪くなった気がした。 「うん? 綱吉、どうかした?」 「………いや、別に……」 「そ? なら良いけど。あ、そうそうこの問題ね、「ネコジャラシ」っていう計算法なんだ。面白い名前でしょ? 今度ちゃんと解き方教えてあげるから。今日はあなた達、うちで夕ご飯食べて帰りなさい」 綱吉に問い掛けると、何でもないと言われたので、気にしないことにした。 そして解き方はまた今度教えてあげるから、とりあえずご飯を食べて帰りなさいと言うと、ハルが心配そうな顔をして聞いてきた。 「え、食べて行って良いんですか?」 「ええ、もちろん。奈々さんも是非食べて行ってって言ってたし。綱吉も良いよね?」 「え? ……あ、うん…」 「そう。じゃあ決まりね」 私がそう言ってパン、てを合わせると、ハルが嬉しそうに綱吉の腕を取った。 「はひっ。じゃあじゃあツナさんっ。早く下に行きましょうっ!」 「へ!? いや、ハル、ちょっ待っ…――――!!!」 必死の制止も虚しく、ハイになったハルに強引に連れて行かれた綱吉を苦笑しながら見送ると、よっこらせ、というなんとも年寄りくさい掛け声と共に、武くんも腰を上げた。 「んじゃ、オレも先行くわ。桜龍寺も早く来いよなー」 「はいはーい。私も食器を片付けたらすぐに行くよー」 「おー」 相変わらずムダに爽やかな笑みを浮かべながら待ってるのなーと言って部屋を出て行った武くんもひらひらと手を振って見送ると、後片付けに入った。 「……初音」 「んー?」 不意にリボーンに声を掛けられて聞き返すと、珍しくリボーンから疲れたような溜め息が聞こえてきた。 「お前も随分罪作りな女だな」 「は?」 わけが解らない。 困惑した表情でリボーンを見ると、彼は只感情の読めないニヒルな笑みをたたえているだけだった。 夏休み最初の出来事 (罪作り? 何で?)(まったく意味が解らない) 初音の元の世界での年齢は16歳。つまり高校1年生なので、中学1年の正ちゃんに恋愛感情を抱くという発想すらありません。 綱吉は何か例外、年齢とか男女とかそういうの抜きで好き、という感じ。 2009.10.5 更新 加筆 2011.8.4 ← |