小説 | ナノ


ポイズンクッキング!!





「――――それで、さっきの怪奇現象は一体何だったの?」

綱吉と指切りをした後、隼人と武君のケンカが一通り終わるのを待ってから、リボーンに問い掛けた。
すると、リボーンは何ともあっけらかんと答える。

「まあ、簡単に言っちまえば、その扇は持ち主のイメージに沿って自然を操る能力を持つんだろう。
それとな、お前が気を失っている間に分かったんだが………おいツナ」
「あ、うん。初音、ちょっと‘双優’貸して?」
「…? 分かった。はい」

綱吉のいきなりの申し出を不思議に思いながらも‘双優’を渡すと、綱吉はそれを受け取って、軽く目の前で振って見せる。

「いい、初音。オレがこれを持つと、ただの何の変哲も無い扇なんだ。けど……」

綱吉はそこで言葉を切ると、‘双優’を武君に渡した。
………いや、正確には渡そうとした、と言う方が正しい。
何故なら、‘双優’が武君の手に渡った瞬間、‘双優’は物凄い速さで武君の手をすり抜け、ベッドに落ちたのだ。

「え、ええー!?」
「ははは、そりゃ驚くよねー。オレ達もすごいびっくりしたもん」

驚いて半分叫ぶように言った私に、綱吉は肩を竦めて苦笑しながらそう言った。

「え、な、何で!?」
「よくはわかんねーが、多分、この扇は主であるお前が認めたヤツにしか動かせねーんだろ」
「な、何それ……」

リボーンの言葉に、私が少し間抜けな声を上げると、綱吉が苦笑しながらはい、と‘双優’を渡してくれた。

「あ、ありがと」
「どーいたしまして。
でも、そういう事になるなら、初音はその…山本のコト、あんまり好きじゃないってコトだよね…」
「うん。だって私武君嫌いだもん」
「んなっ!初音、山本に失礼だろ…!?」
「ははは…キッツイなぁ桜龍寺は……」
「へっ、ったりめーだ(良く言った桜龍寺!!)」

隼人はともかく、私を叱る綱吉と彼にしてみれば珍しく渇いた笑顔を浮かべる武君をスルーして、今自分の手の中にある‘双優’を見つめる。
すると、それに気づいたリボーンが、いつもの調子で言った。

「まあ、結論から言えば、‘双優’はお前のイメージ次第で様々な自然…木火土金水の力を操れるってワケだ」
「ふーん………」

リボーンの言葉に生返事で返して、私は少し複雑な気持ちで‘双優’を見つめていた。




――――なーんて事があってから早1週間。
並森は今日もあっついです。

「…にしても、暑すぎる…」

この暑さの中、冷房がガンガンに効いている部屋で

「夏(といってもまだ梅雨頃)と言えばアイスキャンディーでしょ!!」

…なんて思ったのが運の尽。
いざ財布を持って玄関のドアを開けると、むわ〜んとした熱気に思わずうわっと怯み、でもこのまま引き返すのもなんか熱気に負けた引きこもり見たいでムカついたので、半ば自棄になってコンビニに行ったのだ。

………が、歩けば歩くほど顔から汗が滝のように流れてきて、自然と私の眉間にはシワがより、背筋もだんだん猫背になってきた。
……と、テンション共に機嫌も最悪になった時、聞き慣れた声が聞こえて来た。

「…………んあ゛?」
「あっ初音っ!今!ジュース!鳥が!」
「…………………は?」

綱吉の発した意味不明な言葉に、一瞬暑いのも忘れてほうけてしまったが、
すぐにその意味を思い出して苦笑した。
今だに腕をぶんぶん振り回している綱吉から今までの経緯を聴いて、その頭をよしよしと撫で、深く深呼吸するように促した。

「よしよし綱吉クン、落ち着いたかい?」
「う、うんっ。ありがと初音」
「いえいえ。
さあて、じゃあ一旦綱吉ん家に行こうか。リボーンなら何か知ってると思うし」
「う、うん。そうだね」

そう言って幾分か落ち着いたのか、ぎこちなくも笑顔を作る綱吉に私も笑顔を向け、さっき買ったアイスキャンディーをコンビニ袋の中から取り出した。

実はこれ、駄菓子屋さんとかでよく売ってる、こう、2つに割って食べれるタイプのアイスなのだ。
ちなみにソーダ味。
それをパキっと割り、1つを綱吉に渡す。

「はい、綱吉。コレ食べながら行こう?」
「う、うん。何かごめんね、初音。いつもいつも」
「気にしないの〜」

私は綱吉を安心させるようににっこり笑うと、その手を取って歩き出した。



綱吉の家に着き、先程より落ち着いてリボーンに尋ねたが、振り返ったその顔に私と揃って驚愕し、叫んだ。

「んぎゃあぁあぁ!!!」
「ひいぃっ!」

だってホラ、いくら原作知ってても、赤ん坊が顔中にカブトムシ引っ付けてたらびっくりするデショι

「お前樹液分泌してんのー!?」
「いやいやいやいや、なんでやねん」

口をあんぐりあけた状況で言う綱吉に、半ば呆れたように硬い声で突っ込む。

「これはオレの夏の子分達だぞ。情報を収集してくれるんだ」
「それって、虫語話せるってことかよ!!」
「綱吉、それなら私にも出来るよ?」
「うそぉ!?」

リボーンがサラっと言った言葉に綱吉が素早く突っ込み、それに便乗して私もちょこっと手を挙げて告白した。

「え!? じゃあ初音も虫語話せるってこと!?」
「うん、まあ。虫語って言うか、お互いにお互いが何を言いたいのか解る、って言った方が近いかな。
ま、虫だけじゃなくて、犬とか猫とか、鳥もだけどね。あと、花とか木も。何と無くって感じなんだけだけど」

そう言って肩を竦めて見せると、綱吉がへーえ、と感心したみたいにつぶやいた。

「すごいね、初音っ!」
「い、いやぁ、でもホントにちょっとだし…」
「そんな事無いよ。他の人には無いモノを持ってるんだから。それってとっても、すごい事だよ」
「う…あ、ありがとう……」

綱吉がふんわり微笑んでそんな事を言うものだから、だんだん顔に熱が集まってくる。
きっと、今私の顔は真っ赤だ。絶対。

「それはそうと、おかげで情報がつかめだぞ。ビアンキがこの町に来てる」

私が赤くなっているであろう顔を見られないように下を向いて、綱吉がそれに?マークを浮かべていると、リボーンがそれに区切りをつけるように言った。
綱吉はそれに首を傾げて聞き返す。

「ビアンキ…? 誰だよ、それ」
「昔の殺し仲間だ」
「なんだってーっ!」

綱吉がリボーンの言葉に素早くツッコミを入れていると、ピンポーンと玄関のチャイムが鳴った。

それに加えて「イタリアンピザでーす」という声も聞こえてきて、私は綱吉に気がつかれない程度に眉を寄せた。

「ピザ? 母さんいないのかな…」
「…綱吉、私が出るよ」
「…? 分かった。
でも、ちょっと心配だから、オレもついてくよ。初音の後ろにいれば問題ないでしょ?」
「う〜ん…でもなぁ…」
「……ダメ?」
「よろこんでついてきていただきます」

ちくしょう、あんな可愛い顔されたら断れないじゃないか。
アレか、これがいわゆる「萌え」というヤツか。

綱吉に胸をキュンキュンさせながら玄関のドアを開けると、ピザ配達の人が着けるようなさサンバイザーを着け、左手にピザを持ったビアンキがいた。
うわ、やっぱ生で見ると違うな〜。めちゃくちゃ綺麗だ。

「お待たせしました。あさり(ボンゴレ)ピザのお届けでーす」
「きっ君はさっきの!!」

ビアンキのまさかの再登場に目を丸くする綱吉。
けど、ビアンキはそれを無視し、ガスマスクを着けると「めしあがれ!」と言ってピザの箱を開けた。

そこからこの世のモノとは思えない程の悪臭が漂って来て、慌てて私は綱吉の口にハンカチを宛がい、自分の息を止めた。

「(ったく、ナチュラルに毒物なんか使わないでよ…!)」

女の子に手を挙げるのは気が引けるけど、仕方ない。
息を吸えないままだが、渦巻く風を頭の中でイメージしながら、ポケットに入れていた‘双優’を取り出し、構えた。

その瞬間、漆黒の閃光が私のすぐ横を通り過ぎたかと思えば、ソレはビアンキの持っていたピザを弾き飛ばし、外に落っこちた。ついでとばかりにその煙にアテられたらしいカラスが3羽堕ちて来た。

「…………え?」
「ちゃおっス、ビアンキ」

拍子抜けて思わず間抜けな声を出して、リボーンの声に振り返る。
その手に持つ拳銃から消炎が上がっている事から、彼がビアンキの殺人ピザを吹き飛ばしたんだろう。
なーんて考えていると、ビアンキが瞳に涙を潤ませて、リボーンの名を呼んだ。

「むかえにきたんだよ。また一緒に大きい仕事しよリボーン」
「え!?」
「ハハハ……」

こぼれ落ちた涙を拭いながら言うビアンキに、綱吉は驚き、私は渇いた笑いを浮かべた。
でも、完全に自分の世界に入ってしまったビアンキには聞こえ無かったらしく、気にせず話し続けた。
ビアンキいわく、リボーンにはもっと危険でスリリングな闇の世界が似合うらしい。

「言ったはずだぞビアンキ。オレにはツナを育てる仕事があるからムリだ」

としかし、リボーンはビアンキの提案をばっさり切り捨てた。
すると、ビアンキはぐすぐすと涙を拭いながら言った。

「……………かわいそーなリボーン。その10代目が不慮の事故かなにかで死なない限り、リボーンは自由の身になれないってことだよね」
「んなぁー――っ!?(それでオレ殺そーとしてたのーっ!?)」

明らかに殺す気満々な発言をするビアンキに、綱吉も私もとりあえず唖然し、絶句した。
一方、ビアンキはもう用は無いとばかりにくるっと私達に背を向けて、玄関のドアを開ける。

「とりあえず帰るね。
10代目をころ…10代目が死んじゃったらまたむかえにくる…」
「ちょっ何言っちゃってんのあんたー―――っ!?」

そう叫ぶ綱吉を無視し、ビアンキは帰って言った。

「…………わ〜お、ビアンキの愛過激的ぃ〜…」
「初音ちがう!! そういうことちがう!」

私は呆然として呟くと、何故かカタコトでツッコミを入れた綱吉の頭をよしよしとなでた。


―翌日―


あの後は大変だった。うん。

リボーンが綱吉にビアンキがポイズン・クッキングを使うフリーの殺し屋だと暴露したり、リボーンがビアンキは4番目の愛人だと暴露したり、リボーンが人はいつか死ぬものだとか悟ったり。

あれ、リボーンばっか?
……………まあそんなこんなで、朝から元気がどん底の域にまで達していた綱吉に気を使い、朝の日直の仕事を私1人で引き受けた。(日直は隣の席同士の2人でやる)

「初音、何ボーっとしてんの?」
「! …花、おはよう」

ぽんっと肩を叩かれて我に帰って振り返ると、花が若干呆れたようにして立っていた。

「い、いやぁっ……最近ちょっと寝不足で、ね」
「ったく、いつか過労死しても知らないわよ?」
「まっさかーぁ」
「いいえ、あの沢田達お騒がせトリオといたら否定しきれないわ…」
「アハハ…そんなバカな……」

……うん。この娘(コ)はリボーンの女性陣の中で1番現状を正確に把握してると思う。
数少ない、っていうか、きっとたった1人の常識人だ。

「初音ちゃん、 おはようっ!」
「うわっ。…っと、おはよ、京子」
「ちっす」

後ろから抱き着いて来た京子の頭を撫でてやると、嬉しそうに笑った。

「花もおはようっ!ねえねえ2人とも、今日の調理実習はおにぎり作るんだよね。楽しみだなーっ」
「ていうか、何で中1にもなってそんな小学生レベルのを作んなきゃいけないワケ?」
「まあまあ花、そこはあえて聞かないでおいてあげようよ」

私が渇いた声で軽く笑いながらつっこんで、花がそれを軽くかわし、京子がそれを見て笑う。
そんな他愛ないやり取りをしながら、3人で下駄箱に向かった。

そういえば、こういうのって今までには無かったなぁ……。
今までには、こんな何てことないやり取りだって、私にとってはとても遠いモノだったから。

「初音〜〜、何ボーっとしてんの?」
「初音ちゃんっ。早く行こうよっ!」
「っ! あ、うん。待ってっ」

いつの間にか歩みが遅くなっていたらしく、ちょっと離れた所でひらひらと手を振っている花と京子の方へ、小走りで向かった。



―数時間後―

「出来たっ」

所変わって、京子の嬉しそうな声が響く調理室。

京子はニコニコ幸せそうに笑って、たった今出来たばかりの3つのおにぎりを、自慢げに私と花に見せた。

「どうかなあ、三角に握るの難しかったから、時間かかっちゃった」
「ん? ああ、全然キレイに出来てるよ。大丈夫大丈夫」
「まあ、アンタにしてみれば良く出来た方なんじゃないの?」
「あっはっは、花は天の邪鬼だねぇ」
「なっ、だっ誰が天の邪鬼よっ!」

あー、可愛い可愛い。
真っ赤になって反論してくる花をからかっていると、京子がくいくいと私のベストの裾をひっぱった。

「2人共、そろそろ教室に行こう?」
「え? あ、ああ、そうね」
「…う〜ん、ごめん、先に行っててくれる?」

私がちょっと考えてからそう言うと、花は珍しそうに、京子は明らかに不満そうにして私を見た。

「珍しいわね、初音なら真っ先に沢田の所に飛んで行きそうなのに」
「初音ちゃん、一緒に来ないの?」
「ごめんね〜、ちょっと片付ける物とかあるから、先に行ってて?それから花、私をどこぞの忠犬と一緒にしないでくれる?」
「でもそれなら、私達も手伝うわよ?」
「ううん、いいのいいの。ありがとう」

気遣わしげな顔をする花ににっこり笑って首を振って、2人を先に行かせた。
と言っても、ただ単にあの綱吉の「おにぎり食いまくり騒動」に巻き込まれたくないだけなのだが……。
ぶっちゃけ、シンプルな分、工夫に工夫を重ねたこのおにぎりを、ろくに味わいもせずに誰かの腹の中に消えるなんて、たとえ綱吉だろうと真っ平ごめんだ。

「―――さて、そろそろいいかな」

適当に調理室で時間をつぶした後、オボンの上におにぎりを乗っけて教室に向かった。

「愛のためなら人は死ねるというのが私の持論よ。さあ、死になさい。ボンゴレ10代目」

私がてくてくと教室に向かっている廊下を歩いていると、艶のある声とともに、そんな物騒なコトを言っているビアンキがいた。
私はそれを見ると、ビアンキに気づかれないようにそうっと近づいて、話しかけた。

「ダメ、ですよ。綱吉を殺したりなんかしちゃ」
「!?」

私がビアンキにそう声をかけると、彼女は驚いたように私の方に振り向いた。

「………何、貴女」
「あれ? ひょっとして、忘れられてます、私?」

まいったな〜、なんておどけたように頭をかくと、ビアンキはますます怪訝そうな顔をした。

「……貴女がが何をしようとしても、ムダなことよ。もうすぐで彼は死ぬもの」
「………いいの? 悲しむよ、隼人」

きっぱりと言い切るビアンキに、私が間髪いれずにそう切り返すと、ハッとしたようにこっちを振り向いた。

「彼を殺したりなんかしたら、悲しむよ。私はもちろん、隼人だってね」

だって、隼人は綱吉信者だもん。と笑って付け足すと、ビアンキは隼人を見て、すごく悲しそうな、苦しそうな顔をした。

「………私は、殺し屋なの。誰かの愛と幸せを壊す者なの。それが、たとえあの子の幸せを壊すことに繋がっても、同じことよ」
「……ふ〜ん。でも、どうせリボーンが阻止すると思うよ?」

私が無表情でそう言うと、今度こそビアンキは私に殺気をむけながら睨みつけた。

「なんですって……!?」
「だって、リボーンが9代目に頼まれたのは、「沢田 綱吉を立派なボンゴレ10代目にすること」でしょう?
なら、その綱吉がちゃんとボンゴレ10代目になるまでは、綱吉を殺させないようにするはずよ。彼は半端な仕事はしない筈だもの。違う?」

そういいながら教室のほうへ目を向けると、ちょうど綱吉が死ぬ気になって京子の、というかビアンキがすり替えたおにぎりを食べていた。

「!! ポイズンクッキングが効かない!!?」
「……ね?」

驚くビアンキに、パチンとウインクして応えた。
一方、綱吉は京子のおにぎり(仮)だけじゃ飽きたらず、他の女子のおにぎりも無差別にもりもり食べていた。
………後で叱っておかなきゃなぁ〜…。

「…あのね、沢田 綱吉っていう男(ヒト)は、これからいろんな人達にとってのかけがえのない存在になるから。だから、まだ……ね、ダメなのよ。
あ、別にそれが過ぎたら殺してもいいってワケじゃないけどね」

そう言ってにっこり笑うと、ビアンキは諦めたように肩を竦めて微笑んだ。

「まったく、貴女には敵わないわね。…いいわ、諦めてあげる。ボンゴレ10代目を殺すの。あ、そうそう。貴女、名前は?」
「桜龍寺 初音よ。よろしく」
「そう。もう知ってると思うけど、私はビアンキ。裏社会(コッチ)では『毒サソリビアンキ』と呼ばれているわ」

よろしく、とビアンキは初めて友好的な笑みを浮かべて手を差し出した。
私も笑顔でそれに応えて、差し出された手をとり、握手を交わす。

「貴女の名前、とても綺麗ね。
それに蜜色の瞳も、銀をまぜこんだ雪色の髪も、すごく魅力的」
「へ、あ、あり、がとう。…なんか、そう面と向かって言われるとテレるなぁ……」

私が思わず手を握られたまま顔を赤らめと、ビアンキはふふっと柔らかく笑った。
うわっ、美人が笑うとさらに綺麗だなー…。

「じゃあね、初音。またいつか逢いましょう。
そうそう、お詫びの印しに、これあげる。大丈夫よ。毒なんか入ってないから」

そう言って、私の手に毒々しい色と飾りをしたケーキを置いて去っていった。

………え゛、どうすればいいの、コレ?





ポイズンクッキング!!(っていうか)(これあきらかに毒入ってるデショ)







2009.7.5 更新
加筆 2011.8.4