小説 | ナノ


指切りげんまん





「あ、こずきやがった! ちくしょー野球野郎!! 10代目に馴れ馴れしくしやがって!!」

朝、綱吉と山本武の登校風景を双眼鏡で覗きながら歯ぎしりする隼人に、さすがの私も苦笑せざるおえなかった。

実は今朝、いつものように綱吉と一緒に家を出ようとすると、リボーンに「お前はこっちだ」と言われて学校の近くにある歩道橋にいくと、何故かそこで待機していた隼人にほらよ、と双眼鏡をわたされて、今にいたる。

「リボーンさん、本当にあいつをファミリーに入れるつもりですか?」
「つもりじゃなく、もう入ってるぞ。オレが決めた」
「な!」
「おい初音、お前はどう思う」

ショックを受けている隼人をスルーして、リボーンが私に聞いて来た。

「う〜ん、まあ、綱吉が良いっていうなら、私に止める理由は無いけど。個人的には反対だな〜」
「! 桜龍寺…!!」
「だから初音でいいって」
「で、なんでだ? 初音」

何か感激してる隼人を一瞥して、リボーンが聞いた。

「だって、彼は一度であろうと自分勝手に命を捨てようとした。自分の命を軽んじる奴なんて、綱吉のファミリーにはいらないわ。て言うか、単純に私あの人嫌い」

まあ、そもそも部下なんていない方が良いんだけどね。
歩道橋の手摺りに寄り掛かって頬杖をつきながらそう言うと、ふむ、といった感じでリボーンがうなづいた。

「そうですリボーンさん!! オレもあんな無礼な奴を入れるのは反対です!!」

隼人も息巻いてに言ったが、その時にはもうリボーンは夢の中だった。

「うがっ。聞き入れてもらえただろうか…………」
「………ムリじゃない?」

またまたショックを受けている隼人の肩を、慰めるようにポンと軽くたたいた。




「というわけでな、獄寺を納得させるためにも、山本の「入ファミリー試験」をすることにしたんだ」

放課後、リボーンに呼び出され、綱吉と一緒に学校のプールに来てみると、リボーンがぷかぷかと浮輪の上に乗っかって何やらトロピカルなジュースを飲んでいた。
ま、当然綱吉は猛反対だ。

「オレが納得できーん!! 何 勝手に決めてるんだよ! ってか、勝手に学校のプール入んなよ!!」

綱吉は元気良く1通りツッコんだ後、大きく深呼吸をしてからまた言った。

「山本はクラスメイトだぞ! 友達だぞ! それに野球で忙しいんだ! お前達の変な世界に巻き込むなって! 初音もそう思うだろ!?」
「うん。大反対」
「ほら!」
「あんなの勧誘したって不必要な神経と労努力を消費するだけだよ。無駄むだ」
「そっちの問題ー!?」
「綱吉今日元気ねー」

相も変わらずツッコミ、もとい叫ぶ綱吉。喉が枯れないかちょっと本気で心配になった。
まあ、可哀相だが綱吉が何と言おうと、この横暴バイオレンスプリティ(?)家庭教師には聞く気なんかさらさら無いのだ。
現に……

「もう、獄寺に山本を呼びに行かせたぞ」
「なんだってー!!?」

……ほらね。

「あ、あの獄寺君だぞ!! 山本になにかあったらどーすんだよ!! ほらっ、初音も行くぞ!」
「えっ?あ、ちょっと!?」

綱吉はいきなり立ち上がったと思うと、ぐるりとまわれ右をし、私の手を取って走り出した。











「ちょっちょ、綱吉くーん!?」
「ほら速く!! 急がないと山本が危ない!」

そう言って走る綱吉の背中を見て、綱吉の「大切」は私だけで良いのに、なんて子供じみたヤキモチを感じる。
そんな事、できる訳無いのに。
きっとこれからも、綱吉の「大切」はもっともっと増えていく。
そう思うと、何だか少し寂しくなった。

「…? 初音?」
「え!? あ、なんでも…ないよ!?うん!!」

綱吉が走りながら振り返って来たので、慌てて笑顔を貼り付けて返事をした。

「………そっか。ならいいんだけど…」
「……なに?」

そこで、綱吉は立ち止まって、私の眼をじっと見た。

「……………?」
「よけいなお世話かもしれないけど、オレは、いつも初音には心から笑ってほしいって思ってるよ」
「え……」
「それだけっ。じゃ、ほら、早く行こっ」

そう言ってまた走り出した綱吉に手を引かれるままに走りながら少し唖然としていると、後ろから見た綱吉の耳が真っ赤だったので、思わず笑ってしまった。

「なっ、何だよ…」
「べっつに〜?」

拗ねるように言う綱吉にまた笑い、綱吉に捕まれている手に視線を移した。

「(そう言えば、また誰かに手を捕まれるなんて思っても見なかったな…)」

その手から伝わってくる暖かい温度に、泣きたくなる程嬉しくなる。

もう2度と感じる事の無いと思っていた暖かさ。あの人とは違うけど、この温もりは、もう絶対に離さないと、ひっそり心に誓った……。




「やばいよやばいよやばいよ! 早く行かなきゃ山本がぁあぁ!!」
「あっという間に黒コゲさ〜♪」
「初音っ! 不吉な事をリズムに乗せて歌うな! しかもちょっと楽しそうに!」

先程の雰囲気とは打って変わって、綱吉は鬼の形相とも言える顔をして私の手を引いて走っている。
もう息も大分上がって来てるのに、頑張るなぁ〜、可愛いなぁ〜(断じて私は変態なんかじゃない)。

そんな今にも転びそうな綱吉に手を引かれていると、見馴れた銀髪と見馴れたくもない黒髪が見えた。

「おーい!」

綱吉が2人に声をかけると、隼人はささっと背中にある物(多分ダイナマイト)を隠し、山本君はよお、と笑顔で綱吉に手を挙げた。

「なんだ、桜龍寺もいんのか? 今日は獄寺といい、びっくりな事もあるもんだなー。
オレ、てっきり初音に嫌われてっと思ってたわ」
「本当に嫌ってますからそのままの認識で結構ですよ。貴方なんか大っ嫌いです」
「こら初音っ! ごめんな、山本…」
「っはは! 気にすんなって。それよりさ、なにそいつ?」
「へ?」

山本君に指摘され、綱吉の足元を見てみると、リボーンが綱吉の腰に縄をつけ、その縄の端を持ちスケボーに乗っかっていた。

「ちゃおっス」
「リボーン! どーりで重いと……って! じゃあさっきの…」
「ああ、お前と初音の愛の語らいもバッチリ聞いてたぞ」
「違うって!」

だいたい、オレは京子ちゃんが…とぶつぶつ呟いている綱吉に苦笑していると、山本君が不思議そうに聞いてきた。

「んで、こいつツナの弟?」
「弟じゃねーぞ。オレはマフィアボンゴレファミリーの殺し屋リボーンだ」

リボーンのいきなりのカミングアウトに綱吉は顔を真っ青にしたが、それに対して山本君はニカッと笑いしゃがんでリボーンに話し掛けた。

「ハハハハ、そっか、そりゃ失礼した」
「へ!?」
「(出たよ、天然山本くん筋…)」

唖然とする綱吉を横目で見ながら、私はハァ、と溜息をついた。

「こんなちっせーうちから殺し屋たぁ大変だな」
「そーでもねーぞ。お前もボンゴレファミリーに入るんだぞ」
「ちょっ、おいリボーン!」
「まーまー、相手は子供じゃねーか」

ついに本格的に山本君をファミリーに勧誘仕出したリボーンに綱吉は慌てて声を荒げるが、山本君がにこやかになだめた。

「オレらもガキん時やったろ?刑事ごっこだのヒーローごっこだの」
「(なっ マフィアごっこだと思ってんのーー!!?)」

さらなる山本君の天然っぷりに、綱吉はもちろん、原作を知っている私でさえも唖然とした。
そして、そのままリボーンをひょいと持ち上げると、肩に乗せた。

「ファミリーの10代目のボスはツナなんだ」
「っほー、そりゃまたグッドな人選だな」
「うわー―――っ!」

綱吉なら半殺しに成り兼ねない行動に綱吉は悲鳴に似た叫びをあげるが、リボーンは借りてきたネコのように大人しい。

「よーしわかった。んじゃ、オレも入れてくれよ、そのボンゴレファミリーってのに」
「えー――!! や…山本!?」
「ちっ」
「はぁ…(あーあ)」

山本君のいきなりの申し出に、綱吉はあまりの驚きで叫び、隼人は舌打ちをし、私ははぁ、と溜息をついた。
ここまで来たら、もう山本君のファミリー入りは決定だろう。
まったく、良い迷惑とはこの事だ。

「で、何すりゃいいんだ?」
「まず、入ファミリー試験だぞ」
「っへー、試験があんのか。本格的じゃねーか」
「試験に合格しなくちゃファミリーには入れないからな」

そう言ってぴょんと山本君の肩から飛び降りるリボーンを見て、綱吉があ、と呟いた。
大方、試験に受かりさえしなければ山本君はファミリーに入らなくてすむ、なんて考えてるんだろうが…
残念、それは絶対にない。(私も入ってほしく無いけど…)

「ちなみに、不合格は死を意味するからな」
「んなー――!!!」

ほらね、とショックで叫び声を上げている綱吉に軽く同情の念を送った。

「ハハハ、マジでおまえ面白いな、気に入ったぜ」

そう言ってポンとリボーンの頭を撫でている山本君に、今度は少し軽蔑の眼差しを送る。
なんて事をしていると、リボーンがいつの間にか大きいライフル(仮)を2丁構えていた。

「試験は簡単だ。とにかく攻撃をかわせ」
「!?」
「んじゃ、はじめっぞ。まずはナイフ」

驚く山本君達を無視し、ナイフを投げた。
てゆうか、最初にだしたライフル(仮)に意味はあったのかな。威嚇用?

「!! うおっ」

慌てて持ち前の反射神経を利用してナイフを避ける山本君。
それを見た綱吉も慌てて山本君の前に出た。

「ま! 待てよリボーン!! 本当に山本殺す気かよ!!」

そう言って抗議する綱吉に、山本君が肩に腕をまわして囁いた。
ま、ぶっちゃけ丸聞こえなんだけどね。

「まあまてツナ」
「え?」
「オレらもガキん時木刀で遊んだりしたろ? いーじゃねーか、付き合おーぜ」
「(まだ子供の遊びだと思ってるー―!!)」

相変わらずの天然ぶりの山本君だが、それに便乗してリボーンがとんでも無い事を言い出した。

「ボスとして、ツナも見本を見せてやれ」
「はあ!?」

そしてそれに乗る山本君。

「そいつぁーいい。どっちが試験に受かるか競争だな」
「ちょっ、ええ゛ー!?」

驚いて叫ぶ綱吉を山本君がニコニコ笑いながらなだめ、不意にくるっと私の方を向いてニッと笑った。

「あ、そーだ桜龍寺、もしオレが試験に合格したら名前で呼んでくれな!」
「えっ!?」
「は!?」
「約束な!よっし、ちゃっちゃか済ますぜ、ツナ!!」

唖然とする私と綱吉には気づかないで山本君は爽やかにニカッと笑って手を振ってきた。

「んじゃ、そろそろ再開すっぞ」
「ええ゛!?」

冗談じゃない! って顔をしている綱吉を知ってか知らずか、まあ絶対知っててやってるんだろうけど。
ニッと笑ってまたナイフを投げ始めた。

「さあ逃げろ!」
「そんなぁ〜っ、まったーっ!!」
「なっちょっ、綱吉!」

気づけば綱吉まで巻き込まれいて、なんだか頭が痛くなってきた。

「……はあ、なんで毎度毎度…」

額に手をあてて溜息をついていると、リボーンの「次の武器(エモノ)はボウガンだ」、という声が聞こえ、ああ、確かリボーンが先回りして待ち構えてるんだっけ、とぼんやり記憶を探った。
だが、何故かここだけは原作通りにはいかず、ボウガンは綱吉達の方ではなく、私の方に向いていた。

「えっ」
「リボーン!?」
「リボーンさん!?」
「小僧!?」
「てめーら、せいぜい頑張って姫を守りやがれ」

いやいや、姫ってちょっと…なんてつっこむヒマもなく、咄嗟に避けようとすると、グン、と強い力で引っ張られた。

「!?」

そのまま何か温かくて少しかたいモノが視界を覆い、ふわりと両足が宙に浮く感覚。
あまりに急な事に反応出来ず、ハッとした時にはヒュンヒュンと何かが横切る気配がした。

「え…えっと…」
「初音、大丈夫!?」

未だ掴めない状況に混乱していると、頭上から聞き慣れた声が聞こえてきた。
視界を覆われていた何かから顔を退けて見上げると、焦ったような顔をした綱吉がいた。

「う、うん。大丈夫…って!」

冷静に自分の状況を把握してみると、私は何故か綱吉にお姫様抱っこをされていた。

「ちょっええ!? なんでぇ!?」
「い、いやだって初音射られそうだったから、つい…」
「「つい」って何!!」

私が半分悲鳴に似た声を上げると同時に、また試験が始まった。

「うわぁっまた来た!」
「って私も強制参加ー!?」

またリボーンがボウガンを撃って来たので、綱吉は私を抱えたまま走り出した。

「しっかし、最近のおもちゃってリアルなー。本物のナイフにしか見えなかったぜ」
「おもちゃだと思ってんのー!?」
「っていうか綱吉降ろして! 私重いし、1人で走れるよ!!」
「止まってるヒマないよ!! それに大丈夫だよ、##NAME1##は軽いから!!」
「綱吉は良くても私は良くないの!! っていうか、そういう問題じゃなーい!」

この天然たらしめ!!
キッと涙目で綱吉を睨み付けていると、ガハハハというお馴染みの笑い声が聞こえて来た。

「今度は何だ?」
「ま…まさか」
「オレっちはボヴィーノファミリーのランボだよ!! 5歳なのに中学校に来ちゃったランボだよ!!」
「うざいのでたー――っ!!」
「綱吉それ失礼!!」

原作通り何故か登場したランボに綱吉が鋭いツッコミを入れたが、さすがにあれはちょっと失礼だ。

「ボヴィーノ? 聞かねー名だな。リボーンさんどうします?」

ボヴィーノとは中小マフィアらしいので、隼人が試験をどうするのかリボーンに聞くと、「続行」と即答した。
それでまたランボをほっぽいて入ファミリー試験が再開されたが(もちろん私を巻き込んだまま)、それがランボには堪えたらしく、寂しさを紛らわすためかミサイルランチャーを撃ってきた。

「んなぁ!?」
「うわっ綱吉伏せて!!」

私が咄嗟に綱吉をしゃがませると、そのギリギリの位置で爆発した。

「きゃあ!!」
「ンギャアァア!!」

爆風が凄かったので軽く悲鳴を上げて綱吉にしがみついてやり過ごすと(綱吉の悲鳴は耳と心臓に悪かった)、山本がフー―ッと息を吐いた。

「こいつぁなめてっと合格できねーな。桜龍寺にも名前で呼んでほしーし」
「ちょっと、私承諾なんてした覚えなんてないよ!?」

むっとして睨むと、ムカつく程爽やかな笑顔で返された。

悔しくなって更に睨み付けていると、綱吉が私を抱えたままリボーンの前に出て抗議した。
てゆうか、いい加減降ろしてってば。

「リボーン!! 試験なんてやめよーぜ!! 今の見たろ? ランボがミサイル撃って来たんだぞ!!」

だが、またもやリボーンは全く聞き入れず、ボウガンをポイッと捨てて、今度はサブマシンガンを撃って来た。
更にランボのミサイルランチャーも追加されて、もう校庭はめちゃくちゃだ。
…なんで誰も異変に気づいたりとか様子を見に来たりしないんだろう…。

「綱吉、次右っ!」
「了解!!」
「あっ、今度は左っ!!」
「分かった!!」

私も綱吉に抱えられたまま迫りくるミサイルやら弾丸やらが飛んでくる方向を教えて、綱吉(ついでに山本君)共々難を逃れていた。

「10代目!!」
「「!?」」

当然の隼人の大声に驚いて振り向くと、隼人がパチンとウィンクして右手をくいくいと横にずらした。

「へ?」
「(出た!! 隼人の全く通じないジェスチャー!!!)」

とすると、もうすぐ総攻撃が来るか。

「最後(しめ)はロケット弾だ」
「果てろ」
「サンダー セット」

それぞれ武器を構えると、一斉に撃ってきた。

「!!」

…ヤバイ。
これは冗談とかギャグとかじゃなくて、本気にヤバイ。

「綱吉降ろしてっ、それで早く逃げて!!」
「で、でも…」
「いいから早く、山本君も!!」

無理矢理綱吉の腕の中から抜け出してそう叫んだけど、もう避けるのに間に合わない……!
ダメ……。
やっと見つけたのに、もう嫌だ。目の前で大切な人をなくすのも、それをただ見てるのも……。

「………っ」

ぎゅ、と歯を食いしばって、綱吉達の前に立ち両腕を広げて庇う体制をとった。
もうロケット弾やらダイナマイトやらが迫ってきてるけど、そんなの知ったことか。

「ダメ……ダメー――――――!!!!!!」

死ぬのを覚悟して、ぎゅっとめをつぶった。
その瞬間、スカートのポケットの中に入れていた扇が、まばゆい程の白い光を放った。

それは、さながら死ぬ気の炎を思わせるような、純白の混じり気のない綺麗な光で、それが光った後、その扇を中心にして風が渦巻き、こっちに向かっていたモノを全て吹き飛ばした。

「…な、何……あれ…」

ホントに何なんだ。ついに私も隼人達と同じ摩訶不思議人間の仲間入りか。
あまりの驚きでしばらく唖然としていると、不意に強い眠気が襲ってきた。

「う゛………」

だんだん立っていられない程眠くなり、ついに耐え切れず、意識を闇にほうり出した。
視界が真っ暗になる少し前、泣きそうな綱吉の顔が見えた気がした…………。











ふと気がつくと、私は真っ暗な世界に立っていた。
不思議に思ってキョロキョロと辺りを見回してみると、遠くに光が見えた。

「(何だろ………?)」

はて、と首を傾げてその光の方に向かうと、そこにはうずくまっている1人の女の子と、その娘(コ)を取り囲むようにして立っている綺麗な着物を着たお婆さん達がいた。

………あれは、私だ。
この世界に来る前の。 なんで今更……っ。
しばらく傍観していると、「私」を取り囲んでいたお婆さんの1人が、おもむろに「私」の腕を掴んだ。

“……貴女のせいで”

「っ!」

そのお婆さんが言った言葉が、ずぶりと無遠慮に私の心に突き刺さる。

“貴女さえいなければ”

「やめて…………」

“貴女が死ねばよかったのに”

「やめてよ…………っ」

“貴女なんか”

「お願い…だからっ……」

“死 ネ バ ヨ カ ッ タ ノ ニ”

「やめてぇぇぇぇぇ!!!!!」


「初音っ!」
「!!」

ハッと目を開くと、ツンとした消毒液の臭いが鼻についた。
周りを見渡すと、四方はカーテンで仕切ってあり、その中で綱吉が心配そうに顔を覗き込んでいた。
後ろには隼人と山本君も居て、2人共あまり表情には出していなかったが、雰囲気で心配してくれているのが分かった。
綱吉に大丈夫かと言われて、だるい頭でゆっくりと頷いた。生白い顔だったから、説得力はあんまりないだろうけど。

「…………ここは」
「保健室だよ。あのあとすぐ倒れたんだ。覚えてない?」
「…えっと……」

まだわずかにズキズキ痛む頭を押さえながら上半身だけ起こして記憶を探る。
えっと、たしか山本君の入ファミリー試験をやって、綱吉がそれに巻き込まれて、私も巻き込まれて。
それで、摩訶不思議体験をして。それで…

「……倒れちゃったんだっけ…」
「そうだよ。何かすごい風が起きたと思ったら初音は倒れちゃうし、すごくうなされてたし。
もうすっごく心配したんだからな……」

そう言ってぽすっと私の肩に額を乗せる綱吉から、本当に心配してくれていたのが伝わってきて、ついぎゅっと抱きしめてしまった。

「ちょっ初音!? 何すんだよ!!」
「……ありがと、綱吉。心配してくれて。嬉しかったよ。隼人達も、ありがとう」

綱吉を抱きしめてお礼を言い、後ろの2人にも安心させるようににっこり笑って言った。

「けっ、別にお前を心配したわけじゃねーよ。10代目が心配していらっしゃったからってだけだ」
「獄寺素直じゃねーのなー。心配したんだぜ? 起きてくれてよかったのな」

あと、オレ入ファミリー試験合格したんだぜー、と笑う山本君に、あら残念、と返しておいた。

「ひでーのなー。でさ、ほら、約束あっただろ?」
「ああ、「試験に合格したら名前で呼ぶ」っていうやつね。
ん〜〜〜〜、承諾はしてないけど、約束は約束だしね…。まあいいや。じゃあ不本意だけど、これからよろしくね、武君」
「まだ君付けか〜」
「精一杯の譲歩よ。呼んであげるだけいいと思いなさい。それと…」

私はやまも…じゃなくて武君の腕を取ると、ぐいっと引っ張って頬にキスをした。

「うお!?」
「え!?」
「なあ!?」

すると、上から武君、綱吉、隼人の順で顔を真っ赤にして叫んだ。

「えっちょっ初音!?」
「何やってんだてめーは!!」
「ははは……」
「ちょっと…みんなしてそんなに驚くことないでしょ…?
ただの延滞料金よ。私倒れて心配かけちゃった見たいだし。それに……その様子だと、行けなかったんでしょ? 部活』

あまりにもみんなが過剰に反応するもんだから、ついこっちまで照れてしまう。

照れ隠しにそっぽを向いて口をごしごしとふきながらじと目で武君にそう言うと、ははは、と苦笑いして頬をかいた。

「……その、やっぱり迷惑かけちゃった見たいだし…。ちょっとした親愛の挨拶よ。いっ要らないのならどーぞ石鹸でもなんでも使ってお拭き下さい!!!」
「逆ギレすんなって…」

なんだかだんだん恥ずかしくなってきて、掛けられていた布団を顔まで上げて睨むと、武君にちょっと呆れたように苦笑された。
くそう。なんかちょっと…いやかなりショックだ。

「つーかてめーは10代目を差し置いて野球バカに礼なんかすんな!」
「え、あ、ごめん? じゃあ綱吉、してあげましょうか?』
「いっ要らないよ!! だいたいなんで疑問形!?」
「あはははは〜」
「わ〜ら〜う〜な〜!!」

綱吉が顔を真っ赤にして私の頬をみょ〜んとのばすので、負けじと私も綱吉の頬をびる〜んと引っ張っていると、いつの間にか隼人達もケンカ(というか隼人が一方的に突っ掛かってるだけ)が始まっていた。

「10代目の右腕はオレだからな。お前はケンコー骨だ」
「け…ケンコー骨!? わりーけど、ツナの右腕を譲る気はないね。お前は耳たぶってことで」
「んだとコラァ? てめーは鼻毛だ!」
「なにぃっだったらお前は鼻クソだ」
「ぐっ」
「ああもう…この2人ある意味息合ってない?」
「あはは、2人共元気だよね〜」

お互い頬を引っ張り合うのをやめ、のんびりと隼人達のケンカという名のコントを見ていると、不意に綱吉が私の額に手をあてて来た。

「……? どうかした? 綱吉」
「え、い、いや…##NAME1##、眠ってる間ずっとうなされてたから…。ほら、寝汗もすごいし…」

そう言って心配そうにハンカチを差し出してきた。

「ありがとう。優しいね、綱吉は」

本当に、綱吉を見ていると、優しさをそのまま現したみたいだ。
ハンカチを受け取ってゆっくり汗を拭いていると、綱吉がまだ心配そうな顔をしているので、思わず笑って軽く頭を小突いてやった。

「わっ! なにすんだよ!」
「あはは、だって綱吉が情けない顔してるからさ、つい」
「つい、じゃないだろ!! ったくもう…」

人がせっかく心配して…とぶつぶつ呟く綱吉に、苦笑いしながらぽんぽんと頭を撫でる。

「大丈夫だよ。ちょっと夢見が悪かっただけだから」
「…本当? 初音はすぐ自分の中で完結して、オレ達になにも話さないから…」
「本当だよ。じゃあ指切りでもする?」
「………うん」

私が小指を差し出すと、綱吉も腑に落ちない、という顔をしながらも小指を差し出してきた。
私はそれににっこり笑って、指を絡めた。

「せーのっ」



指切りげんまん
(そういえば)(あれは一体何だったんだろう)





2009.6.3 更新
加筆 2011.8.4