「〜〜〜〜♪」 私は上機嫌に鼻歌を口ずさみながら、オーブンからパイ生地を取り出した。 軽く熱を冷ましてから、生クリームと私特製のカスタードを乗せて、その上にぶどうと苺を乗っけて、ぶどうと苺のタルト(まんま)の出来上がりだ。 私は最近、ケーキ作りにはまっていて、作ったお菓子は沢田家に持って行って一緒に食べているのだ。 今まで家では出来なかった事を、これからガンガン実行していこうと思う。それに、お菓子作りは、何でか妙に懐かしい感じがして、頭にない筈のレシピのものも、手が勝手に動いてそれを作りだす。 その感覚も、なかなか不思議で楽しいものだ。 「こんにちは〜、奈々さーん、お菓子持って来ましたよ〜!」 タルトが崩れるといけないので、玄関からチャイムを鳴らして奈々さんに呼び掛けると、ガチャ、とすぐに奈々さんが出て来てくれた。 「あらあら、いらっしゃい初音ちゃん。今日は玄関からって事は、ケーキを持って来てくれたのね」 「はい。それであの、綱吉は……?」 私がはい、とタルトを渡してからそう聞くと、奈々は少し言い淀んだ。 話によると、綱吉は新しいリボーンのお友達とやらが泣いてしまったので、あやしに出て行ったらしい。 多分新しいお友達っていのはランボの事だろう。という事は… 「(もう、動き出した歯車は止まらないって事か……)」 「初音ちゃん……?どうかしたの?」 「えっ!? あ、いえ、大丈夫です。 じゃあ私、綱吉探して来ますね、タルト、先にリボーンと食べて待ってて下さい」 そう言って、奈々さんにタルトを半分押し付ける形で渡すと、河原の方に向かった。 たしか、原作では河原で慰めていたと思うから。 「河原って言ったら、近くには此処しかないんだけどなー」 小さい子達がはしゃいでる中、一人キョロキョロと辺りを見回していると、見馴れたつんつん頭が見えた。 そこにそうっと近づき、バッ、と綱吉の両目を両手でふさいだ。 「だーれだっ!」 「えっ!?ちょっ初音!? 何やってんだよ!!」 私がそう言うと、綱吉は素早く反応して、私の手を退かした。 「ワオ、よく分かったね。しかも反応凄く早かったし」 「当たり前だろ?こんな子供じみた事する人、初音以外にオレ知らないよ」 「むぅ、私より背ぇ低いくせに…」 はぁ、と諦めたように溜息をつく綱吉を軽く睨みつけていると、くい、と誰かに服を引っ張られた。 「ねーねー、アンタだれ?」 「んー?私はねー、初音ってゆーんだよー」 「初音?」 首をかしげておうむがえしに言うランボに、思わず頬が緩む。 「君は何て言う名前なのかな?」 「おれっちはねー、ボヴィーノファミリーのヒットマン、ランボさん5才だもんね!!」 「そっかー、ランボは何しに日本に来たの?」 「ランボさんは、ボスに言われてリボーンを殺しに来たんだもんね!」 「そっかー、大変だねー」 そう言ってよしよしともじゃもじゃを撫でていると、今度は綱吉にくい、と軽く服を引っ張られた。 「ん?なあに、綱吉」 「初音、すごいな。うざいとか思わないの?」 「全然?だって私、子供大好きだもん」 今まで周りにこんなに小さい子供はいなかったから、余計に。 そう言って肩を竦めて笑うと、また呆れたように苦笑された。 「そーいえばさ、ランボは何で日本に来たの?」 「ランボさんの夢はボヴィーノファミリーのボスになって、全人類をひざまずかせること」 「へ、へぇ〜(知ってはいたけど、実際聞くと結構くるな〜)」 「(なんかすごいこと言ってるよこの子―――!!!)」 さすがにア然としている私と綱吉だったが、ランボは気にせず続けた。 「でもそーなるには超一流のヒットマンリボーンを倒せってボスにいわれた…」 「(あいつ超一流なの!?)」 「(さっすがはリボーン)」 すると、「リボーン」のフレーズでさっきされた事を思い出したのか、まただんだん涙ぐんできたランボをよしよしと撫でて、膝に乗っけた。 「そーいやお前本当にリボーンと会ったことあんのか?」 「ある!」 綱吉の問いに元気よく答えたランボによると、初めてボヴィーノのボスにバーにつれて行って貰った時に、会ったらしい。 けど、その時リボーンは鼻でガムを膨らませていたらしいので、寝ていたんだろう。 「さてと、もーオレ帰るわ。メシだし。初音、帰ろ」 「うん」 そう言って立ち上がって帰ろうとすると、ランボがすごい勢いで綱吉の足に引っ付いた。 「うわっちょ、離れろよ! なつかれてんのかオレ!?」 「いいじゃない、連れてってあげなよ」 ぐいぐいど綱吉が引っ張ってもまだランボはくっついたままなので、仕方なくランボも一緒に家につれて帰った。 ♪ まあ、ランボが一緒に来たからといって、心優しい奈々さんが追い出すわけもなく、一緒に食卓を囲む事になった。 ちなみに、その奈々さんは今回覧板を届けに行っている。 「…………」 「…………」 …気まずい。 何て言うか、めちゃくちゃ気まずい。 いつもは耳を塞ぎたくなるくらい騒がしい食卓が、今日はしーんと静まり返っている。 その沈黙に耐え切れず、くいくいと綱吉の服の裾を軽く引っ張った。 「リボーンなんとかしろよ、オレ達じゃ手におえないよ!」 私の気持ちを察してくれたのと、自分もこの沈黙に堪えられないのも合わさってか、綱吉が沈黙を破ってくれた。 ま、ムシされたけどね。 「シカトかよ」 ムシされた事に綱吉はむくれていたが、ランボがいきなり席を立ってナイフを投げた………が、それはリボーンに弾かれ、逆にランボの額にざっくり刺さっていまった。 「(学習しろよ――――!!)」 「アハハ………」 相変わらずのランボに苦笑していると、不意に ランボがもじゃもじゃの中からバズーカを取り出した。 「うわぁぁあ」 「お…おい…(泣きながら何する気だ?)」 さすがに泣き出したランボだったが、泣きながらもじゃもじゃからバカデカイバズーカを取り出して、自分に向かって撃った。 途端、もくもくと煙りが上がる。 「けほっ、けほけほっ」 だんだんはれてきた煙りの中に、微かに人影が見えた。 「やれやれ、どうやら10年バーカで10年前に呼び出されちまったみてーだな」 そこには、やけに伊達っぽい長身の青年がいた。 「なっこのヒト………え?」 「お久しぶり、若き初音さん、若きボンゴレ10代目。10年前の自分がお世話になってます。泣き虫だったランボです」 「な、なんだってー!?」 綱吉が驚くのも無理はない。ていうか、私も驚いてる。 一体どこをどうしたらあの騒がしい子がこんなイケメンになるんだろう。 二人で感心していると、大人ランボはリボーンに話し掛けた。 「よお、見違えちゃっただろ?オレがおまえにシカトされつづけたランボだよ」 と、ちょっと自慢げに言ったランボだったが、なおシカトされた。 「やれやれ、こうなりゃ実力行使しかねーな。10年間でオレがどれだけ変わったか見せてやる。 サンダー セット」 ランボが牛の角を頭に付けると、雷が角に落ちた。 「オレの角は100万ボルトだ」 「なっ、ありえねーっ!!」 綱吉が叫ぶのと同時に、大人ランボが駆け出した。 「死ねリボーン!!電撃角(エレットゥリコ・コルナータ)!!!」 そう言ってリボーンに突っ込んで行ったが、リボーンに頭をフォークでざっくり刺されてしまった。 「う、わ、痛そう……。大丈夫? ラン…「が・ま・ん…うわぁぁあ若き初音さぁぁぁあぁん!!!」わっ、きゃっ…!」 慰めようとしたら、いきなりこちらに抱き着いて(突進して)来たので、さすがに支えきれずに倒れてしまった。 「うわぁぁあん、若き初音さん、リボーンが虐めますぅぅぅぅぅ!!」 「え!? あ、そうね、よしよし…」 ぐすぐすと子供みたいにしがみついているランボが思いの外可愛いかったので、優しく撫でてあげてると、サクッ、と軽い音と共にフォークがまたランボの頭に刺さった。 「アホ牛の分際で、初音にだきついてんじゃねぇ」 「うわわわわっ、ラ、ランボ!?」 まるで先程作ったタルトにフォークを入れた様に軽快な、いっそ気持ちの良いほどあっさりとした効果音だった。 慌てて頭に刺さったフォークを抜いてあげたが、泣きながら走り去って行ってしまった。 「ラ、ランボ…」 大人ランボが走り去って行った方を向いてボーゼンとしていると、リボーンが鼻を鳴らしながら言った。 「ふん、アホ牛の分際で調子に乗るからだ」 「ちょっとリボーン!?ランボ可哀相じゃない!! あの子意外とデリケートなのよ、虐めちゃダメでしょ!」 そう行ってみたものの、リボーンはまったく聞き入れてくれず、溜息をついた。 「………初音、オレこれからさらに我が家の食卓が危険かつ騒がしくなるきがしてならないんだけど…」 「……寄寓ね、私よ。悪い予感ほどよく当たるらしいし…」 「ハハハ…やめてくれよ、縁起でもない…」 かくして、綱吉と私の予感はバッチリ当たり、我が家の食卓は、ますます危険かつ騒がしくなったのだった。 牛柄のアノ子(それに困ってる私もいるけど)(こんな日常が楽しいと思ってる私も)(たしかにいるんだ) 2009.5.17 更新 加筆 2011.7.28 ← |