小説 | ナノ


大っ嫌い!!





「だからダメツナはおまえ達のチームにくれてやるって」
「やだね!負けたくねーもん」
「バレーは凄かったけど、野球が超ヘタなのは分かってるからな」

体育の時間、やっぱりチーム分けで取り残されてしまった。
結局、体育の時間って苦痛なんだよな〜〜。
獄寺君がダイナマイトの仕入れに行ってて、やっと平和な日々が訪れたと思ったのに……。
自分の情けない状況に溜息を着いていると、不意に後ろから抱きすくめられた。

「いいじゃない。こっちに来れば」
「はっ初音っ!」

見上げると、にっこり笑った初音と目が合った。
最近初音は、男子の体育の方が楽しいとか言ってよくこっちに来るのだ。(ってゆうか、む、胸当たってる……)

「えー!? 冗談よせよ桜龍寺、オレ達負けたくねーよ」
「……ダメ?」

同じチームの男子が抗議すると、初音は少し眉を下げて上目使いで尋ねると、その男子は顔を赤くしてぼそぼそと小さく反論した。
まったく、初音はこーゆー所が厄介なんだ。
こいつのする仕種は男子はもちろん、女の子まで虜にしちゃうんだからなー…。
そしてお前ら、俺の頭に隠れてニヤリと黒い笑みを浮かべるこいつに気付け。まさに計画どおりって顔してるから。
ころっと騙されちゃって、可哀想に。

「いーんじゃねーの? こっち入れば」
「!」

抱きすくめられたまま心の中で溜息を着いていると、1人の男子の言葉にハッとした。

「まじ行ってんの山本〜〜っ。なにもわざわざあんな負け男」
「ケチケチすんなよ、オレが打たせなきゃいーんだろ?」
「山本がそう言うなら…ま、いっか」

得意の爽やかな笑顔を向けられて、初めは反論していた奴らも絆されて納得してしまった。ってか、はじめて決定的に初音に口添えしてもらわないで野球でジャンケン以外でチームに入れてもらえた…。
その事実に、思わず頬が緩む。
しかも、1年なのにもう野球部レギュラー、クラスの皆から信頼のあつい山本に……。

「良かったね、綱吉」
「!」

少しだけ抱きしめる強さを強くして、初音が囁くように言ってくれると、思わずうん、って言って照れ笑いをした。

「ってゆうか、いつまで抱きしめてんの―――!?」
「おっと、ごめんごめん」

けらけらと肩をゆらして笑う初音に、思わず大きな溜息をついて脱力した。


カキ―――ン

「いやわりーねー」
「ちぇ、お前は片手で打て!!」
「キャーたけしー!!」
「ステキー!」


カキ―――ン

「おっと、ごめんよー!」
「キャ―――桜龍寺様〜〜!!」
「カッコイイ〜〜!」
「ええ私も!? しかも様付け…」

山本がホームランを打った後、続いて初音もホームランを打ち、山本みたいに皆にもみくちゃにされるかわりに、ハイタッチをしていた。

「(山本も初音もすごいよな、初音なんか男相手に全然引けをとってないし…。オレもあんな風だったらな〜)」
「綱吉〜〜!!」
「!」

声のする方を見ると、初音がぶんぶんと手(とゆうより腕?)をふってこっちに来た。
はあ、ホント初音はこーゆー事無自覚なんだよ、自分がモテるなんてカケラ程も思ってないんたから。
そして………、

「つーなよしっ!」
「うわっ、抱き着くなよっ!!」

そして、そんな初音に常日頃抱き着かれてるオレは、男女共に、羨望と怨みのこもった視線を受けるんだ。











「おめーのせーだぞダメツナ!!」
「トンボがけ1人でやれよ!」

結局試合は負けて、皆は綱吉に責任転換して帰ってしまった。
よし、最後の3人は闇討ち決定っと。

「大丈夫だよ、綱吉だけのせいじゃないって。一緒にやろ?」
「! 初音…」

にっ、と2人で笑い合ってからトンボがけをしようとすると、ずしっと何か重いモノが頭に乗っかった。

「助っ人とーじょーっ。お、桜龍寺もいんのな〜、一緒にやろーぜ?」
「山本!?」

無理矢理顔を上げると、山本くんが私の頭に腕を乗っけてムダに爽やかに笑っていた。

「あれ、山本くん?帰ったんじゃなかったの?」

腕を退かしてから首をかしげて聞くと、何故か顔を赤くして答えた(風邪?)。

「お、おー。校庭広いし、2人じゃ大変だろ? 手伝うぜ」
「ありがと、じゃあ私あっちやるから、山本くんはそっちやってくれる?」

そう言ってからさっさと場所を移動して掃いてると、ちらっと綱吉と山本くんが話してるのが見えた。
しばらくすると、綱吉が終わったよーと言いながらこっちに来た。
私もちょうど終わったところだったので、一緒に帰ることにした。

「そーいや山本くんは?」
「山本なら、居残って野球の練習するってさ。……なぁ、初音」
「んー?」
「オレ…仲良くなれるかな…?」

その質問に、ふむ、とちょっと唸った。
ここは「うん、きっとなれるよ!」とか言った方が良いんだろーけど、せっかくテンション上がった次の日に当の彼が自殺を計ったなんて可哀相だしなぁ……。

「……そうだね。仲良くなれると良いよね」

結局、振り向きざま無理矢理笑顔を作ってそう言った。
……うまく笑えてたかな?






翌日、花、京子、私、綱吉(は私が無理矢理連れ出した)の四人で話していると、教室に……誰だっけ?ええっと少年Aが慌てた様子で入って来た。

「大変だーー!! 山本が屋上から飛び降りようとしている!」

その言葉に一瞬クラス中が騒然とするが、山本に限って有り得ないと皆、特に山本命と書かれたはちまきを巻いている女の子達が言った(ってゆうか恥ずかしくないのかな、あんな物巻いて)。
が、少年Aの必死さに冗談じゃないと悟ると、慌てて教室を出て屋上へ向かった。

「綱吉、私達も行こ?」
「え!? あ、うん」

「居残って練習してたら骨折」、という言葉を聞いてから呆然としていた綱吉の手を引いて屋上へ向かった。
屋上に着くと、周りには人がいっぱいいて、でもみんなフェンスの向こうにいる山本くんを刺激しないように少し離れていた。

「冗談よせよ山本〜!」
「そりゃやりすぎだって」

焦ったように男子達が言ったが、山本くんは依然こちらに背を向けたままだ。

「へへっ、わりーけどそーでもねーんだ。野球の神さんに見捨てられたら、オレにはなーんも残ってないんでね」

その悲劇のヒーロー気取りのセリフに思わず眉間にシワが寄った。
何も残らないだって?
ふざけんな、ちゃんと自分を心配する人達が残ってるじゃないか。
あんまり腹が立ってギリ、と歯ぎしりをすると、クン、とさっきから足元に座り込んでいる綱吉にスカートの裾を軽く引っ張られた。

「初音、どーしよー…。オレが努力した方が良いなんて言ったからこんな事に…山本に合わせる顔がないよ〜〜っ」
「綱吉…」

腕に顔を埋めて呟いている綱吉に手を伸ばすと、視線の先に銃口が見えた。

「!?」
「山本を友達として助けたいんだろ? だったら逃げんな」
「ち、ちょっとリボーン!?」

リボーンに銃を向けられると、綱吉は焦って走ってるうちに一番前の男子にぶつかってしまい、山本くんの前に出てしまった。

「え…あ…どっどーしよーっ」

焦って顔を真っ青にしている綱吉とは対照的に、山本くんはなにもかも諦めたような顔をして静かに言った。

「止めにきたならムダだぜ。お前ならオレの気持ちがわかるはずだ」
「え?」

ちょっと困惑気味な綱吉を見た後、足元にいるリボーンにしゃがんでから少し声を荒げて小声で話した。

「ちょっと、良いの!? あんな事してっ!」
「いいじゃねーか。ツナだって、いつまでもお前におんぶに抱っこじゃダメな事はわかってんだ、良い機会だろ」
「それは、そうだけど…」

ぐぐ、と言い淀むと、リボーンが綱吉と山本くんの方を見るように促した。

「ダメツナって呼ばれてるお前なら、何やってもうまくいかなくて死んじまったほーがマシだって気持ちわかるだろ?」
「えっあの…っ、いや…山本とオレは違うから…」

綱吉の返答が気に障ったのか、山本くんの眉がぴくりと揺れた。
でも本当の事だ。
綱吉は、彼みたいに命を軽くみない。
自分が死んだら、悲しむ人がいる事をちゃんとわかっているから。

「流石最近活躍目覚ましいツナ様だぜ。オレとは違って優等生ってわけだ」
「え! ち、ちっ違うんだ!ダメな奴だからだよ!!」
「!?」

綱吉の言葉に、山本くんは驚いたような顔をした。

「オレ、山本みたいに何かに一生懸命打ち込んだことないんだ…。「努力」とか調子の良いこと言ったけど、本当は何もしてないんだ。……昨日のはウソだったんだ………ごめん!だからオレは、山本と違って死ぬほど悔しいとか…そんな凄いこと思ったことなくて…。むしろ死ぬ気になって後悔しちまうような情けない奴なんだ……。どーせ死ぬんだったら死ぬ気になってやっておけばよかったって。こんか事で死ぬなんて勿体ないなって………。」

山本くんも含めてみんな、いつもより真剣な綱吉の声に黙って聴き入っている。

「だから、お前の気持ちはわからない…ごめん。じゃ!」

みんなの沈黙に耐えられなかったのか、綱吉は慌てくるっと方向転換して走り出したが、山本くんが待てよ、と言って綱吉の服の襟を掴んだが、それにより足を滑らしてしまい、フェンスにぶつかり、山本くんもろとも落ちてしまった。

「っ綱吉!! 山本くん!」

慌て人混みを掻き分け、落ちて行く綱吉に手を伸ばした。
けど、一瞬綱吉も私に手を伸ばしたが、あとちょっとで届くという所で綱吉は手を引っ込めた。

「!? 綱吉…っ!?」
「このまま掴んだら、初音まで落ちちゃうだろ? オレは、大丈夫だから」

へにょっ、といつもと変わらない笑顔で優しく笑って落ちて行く綱吉に、一瞬動きを止めてしまった。

「(……私の事なんて、どうでもいいのに…っ)」

ぎゅっと爪が食い込むのも気にせず手を握ってから、途中からリボーンがいなくなっていたのも気にせず、屋上を飛び出した。

急いで階段を降りていると、あの時の事がフラッシュバックして来て、吐き気がした。

「っあ゛、ぐ………っ!!」

思わずその場で口許を抑えて崩れ落ちそうになるが、そこをぐっと我慢して一気に階段を駆け降りた。
昇降口を出て、周りを見渡すと、もう二人は地面にぶつかろうとしていた。

ぶ つ か る

直感的にそう感じた時、得体の知れない恐怖に身が震えた。
嫌だ。綱吉が、大切な人がいなくなるなんて…………絶対ヤだ。

「綱吉―――――――!!!!!!」

ぎゅっと目をつぶって叫んだ瞬間、私を中心に大きな風が起こって、二人の着地速度が緩み、ゆっくりと地面に着地した。

「……何、コレ…?」

しばらく自分の身に起こった事にぼーぜんとしていたが、すぐにハッとして、綱吉のもとに行った。











フェンスが折れて、山本もろとも落ちた時はヒヤヒヤしたけど、リボーンが死ぬ気弾を撃ってくれたおかげで、なんとかなりそうだった。
でも落ちるスピードは全然緩まなくて、仕方ないから自分を下敷きにして山本を守ろうとすると、ぶわ、と風がオレ達を守るように渦巻いて、安全に着地する事が出来た。

「あっ山本! 大丈夫?」
「ああ」

慌てて山本に駆け寄ると、さっきとは違い、どこか吹っ切れたような顔をしていた。

「ツナ! お前スゲーな」
「えっ?」
「お前の言うとーりだ。死ぬ気でやってみなくちゃな。オレ、どーかしてたな。バカがふさぎ込むとロクな事ねーってな」
「山本…!」
「……本当に、ロクな事が無いわね…」

山本の言葉に嬉しくて笑顔になっていると、ふと後ろから初音の声がした。

「えっと、は、初音…?」

いつもと何か違う初音に戸惑っていると、初音は真っ直ぐ山本を見た。
「怒ってる」。そう思った時には、もう山本に平手打ちがとんでいた。バシッ!! と鋭い音が聞こえてハッとすると、ぎゅっと初音の右腕にしがみついた。

「初音っ! いきなり山本になにすんだよ!!」
「…………けんな…」
「え…」
「ふざけんな!!」

ギ、と山本を睨みつける初音の目の色に、驚いてしがみつく力を抜いた。
始めて見た。
初音が、こんなに感情をあらわにするのを。
いつもへらりと笑ってたから、怒る事なんて、無いと思ってた。

「……野球を取ったら何も残らないですって…? じゃあ、貴方の自殺を止めようとした人達は何なのよ、どうでもいいモノなわけ!?」
「「!」」
「まだ中学生じゃない。たかが骨一本折ったって、また治るじゃない…っ。死んじゃったら、死んじゃったらもうそれで終なの! もう、大事な人達会えないんだよ? 解ってるの!?」

ポタポタと地面に落ちる雫に、目を見開く。
握りしめてる両手からは血が出ていた。

「その覚悟があるなら、勝手に校庭の隅っこで死んでなよ、でも、怖かったでしょ? 誰にも自分が死んだ知られないで死ぬのは、誰かに止めて欲しかったんでしょ? 本当に死ぬ覚悟があるなら、あんな目立つ所で死のうとはしないもんね。でもさ、綱吉を巻き込まないでよ、何であんな軽はずみな行動をとるのよ…………。私はあんたみたいに、命を大切にしない人なんて大っ嫌い!!!」
「あっ、初音!!!」

ダッ、と駆けて行ってしまった初音を慌てて追いかけた。

「初音っ! どうしたんだよいきなりっ!! そりゃあ、山本のやった事は褒められた事じゃないけど…」

走りながらそう言うと、いきなり初音が立ち止まり、こっちに振り向いた。

「!? えっ!?」

振り向いた初音は、顔を涙でぐしゃぐしゃにして、まだ止まらない涙を、手のこうまで使って拭いていた。

「っく、だっ…って、つな、よし、がっ…しっ死ん、じゃうかと…っお、思っ…て……っ!」

嗚咽で途切れ途切れに言う初音に苦笑して、抱きしめてぽんぽんと頭を軽く叩いた。

「大丈夫だよ。ほら、オレはここにいるでしょ?」
「うっ、うん………っ」
「よしよし」

そのまましばらく抱き合っていたせいで、クラスに変な誤解が生じたのは、また別の話。
そして後日、初音が異常な程に山本を嫌ったのが一時期クラスの中で話題となった事は、まあ、自業自得という事で。オレにはどうしようもない事だしね。






大っ嫌い!!
(あんな天然無神経男)(大っ嫌い!!)








5.4 更新
加筆 2011.7.27