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退学クライシス!





「川田」
「はい」
「栗原」
「はい」

理科の時間。今はこの前やったテストを帰されている。
ちなみに担当は根津。
私は前の世界では飛び級(スキップ)で大学に通ってた位なので、勉強にはかなり自信があったりする。
なので、当然中学一年生のテストなんて屁のかっぱであって、こうして他人事のようにテストを受け取りに行く生徒達を見れるのだ。まあ、実際他人事なんだけどね。

「暇だねぇー、ルリ」
【キュウッ】

小声で膝に座っているルリに声をかけると、一声鳴いて身を擦り寄せてきた。
何故か、最近ルリは授業中膝の上に乗っかってくる事が多い。
まあ、可愛いから良いんだけどね。

「桜龍寺」
「はい」

立ち上がる時さりげなく机の中にルリを入れて、テストを受け取りに行った。

「桜龍寺、100点だ。流石、私が見込んだ生徒だな。あくまで仮定の話だが……成績優秀な生徒は私に尽くしていると将来必ず役に「そうですか、ありがとうございますさようなら」」

根津のセリフを遮ってテストを受取る(ぶん取る)と、席に着いた。

「沢田」
「…はい」

私が席に着くと同時に綱吉が呼ばれ、テストを受け取ろうとしたが、根津がテストの位置をずらして取らせなかった。

「あくまで仮定の話だが……クラスで唯一20点代をとって平均点を著しく下げた生徒が居たとしよう」

うわ、コイツ私にそっけなくされた腹いせになんかやろうとしてるよ、どこまで下種なんだか。

「(ったく、しょうがないな…)」

よいしょ、と音を起てずに席を立ち、根津がまた綱吉に向かって殴りたくなる程ムカつく事をほざいたあと、わざとらしく皆に見える様にテストを裏返そうとした時、パシッと根津の手からテストを奪った。

「根津先生、あくまで仮定の話ですが、テストの点数を気にして、次から頑張ろうと思ってる生徒が居たとしましょう。ですが、その思いを裏切るように嫌がらせをする教師が居たとします。そんな教師、お辞めになった方が良いと思いません?」
「初音!!」
「大丈夫?綱吉」

根津に嫌味ったらしくにっこり笑ってそう言ってやった後、綱吉に柔らかく微笑んだ。
すると、案の定にやにや気持ち悪く笑っていた根津は顔を真っ赤にして怒った。

「桜龍寺貴様っ! エリートコースを歩んできた私を侮辱する気か!!」
「(学歴詐称が何言ってんだか。てゆうか、気安く名前を呼ぶな)いえ、私は根津先生とは一言も言っていません。それとも、先生はそんなことをなさるんですか? まさか、先生がそんな事をなさる筈がありませんよねぇ?」

わざとらしく悲しそうな顔をすれば、焦った様に否定した。ああ気持ち悪い。
てか、教師が生徒を貴様呼ばわりしていいわけ? そんなことを心の中で思っていると、ガラッと教室の後ろのドアが開き、悪びれもせずに隼人が入って来た。
流石は隼人。さも自分に非は一切ありませんという態度だ。根津が遅刻だと言ったが、それを一睨みして黙らせた。
ナイス!!! と、私が内心ガッツポーズをしていると、隼人が私、正しくは綱吉の方へ来た。

「おはよーございます10代目!!」

あ、やっぱこの子馬鹿だ。
君は万国共通の不良少年みたいなかんじなんだから、綱吉に変な噂でも立ったらどうしてくれるんだ。もう立ち始めてる見たいだけど。
なんて思っていると、根津が良いことを思いついたとばかりににやりと気持ち悪く笑った。

「あくまで仮定の話だが、平気で遅刻してくる生徒がいたとしよう。そいつは間違いなく落ちこぼれのクズとつるんでいる。なぜなら、類は友を呼ぶからな」

あ、あいつ大失言。
私が顔をしかめて根津に殺気を飛ばすのと同時に、隼人が根津の胸倉を引っつかんで黒板に押し付けた。

「おっさんよく覚えとけ…10代目沢田さんへの侮辱はゆるさねぇ!!!」

隼人の一言で、また周りがざわついた。
綱吉自身も頭を抱えていたが、隼人は気にせずニカッと綱吉に向かって笑いかけていた。

「(こっち見んなー! オレにはカンケーねーっ!)」

もう何か色々可哀相になってきた綱吉に同情の視線を送り、肩をぽんと叩いた。

「……綱吉、大丈夫貴方は悪くないから。ただちょっと周りにいる人達が上記を逸し過ぎてるだけよ」
「うう゛…。初音〜〜」
「10代目、落とします? こいつ」
「落としちゃえ落としちゃえ」
「って初音!!? お前もか!!」











「貴様ら退学だ―――っ!!」

校長室で、そうぎゃあぎゃあと叫ぶ根津の煩い声が響いた。
余りの煩さに耳を塞ぐ。ホントうざったいなぁ〜…、校長先生の諌めも聞く耳を持ってないみたいだし。

「連帯責任で沢田と桜龍寺共々即刻退学にすべきだ!!」

えええ、私もかいぃぃ。
何て思ってると、校長先生がいきなり退学は無いんじゃないかと言ってくれた。てか優しいな校長。
すると根津がゼーゼー息をしながら何か言い出した。

「たしか校長、15年前グラウンドに埋めたまま見つからないタイムカプセルの発掘を業者に委託する予定だとか」
「あ、ああ。それが何かね…?」
「それをこいつらにやらせましょう。今日中に15年前のタイムカプセルを掘り出せば今回の件は水に流してやる…。だができなければ即、退学だ!!!」
「そっそんなムチャクチャな〜〜〜っ!」

綱吉が悲鳴に近い叫びを上げている横で、私は今きっと隼人とおんなじような顔をしているんだろーなー、なんて他人事みたいに考えていた。
校長室から出ると、綱吉はふらふらとした足取りで、隼人は忌ま忌ましそうにそれぞれ別の方向へ歩いて行った。

「てゆうか、退学の心配なんてしなくて良いのに」

歩きながらスカートのポケットから小さめの手帳を取り出して開いた。
この手帳の中には、校長先生も含め全教師の表情報から裏情報までしっかりと記されている。
……どうやって調べたのかは聞かないという方向で。
だから、もちろん根津がホントは東大なんかじゃなくて5流大卒だって事も知っている。
これを職員室のパソコンのサーバー、もしくは直接校長先生に言いに行けば、退学になる事なんて絶対有り得ないって訳だ。

「ちゃおっス、初音」
「あ、ちゃおっス、リボーン」

手帳を見ながらてくてくと歩いていると、ガチャっと消火器入れのドアが開いて、リボーンが顔を出した。
その横にはいつの間に教室から出たのかルリがいて、すりすりと私の足元に身を擦り寄せて来た。

「リボーン、根津が学歴詐称だって知っているでしょ」
「まあな、あいつの今日のパンツがピンクの苺柄って事まで知ってるぞ」
「え゛」

何なんだそれは、きもすぎる。

「お茶なんてどうだ? このお茶はえめぇんだぞ」
「遠慮するわ。綱吉達はグラウンド?」

私がそう言った瞬間、物凄い爆発音がした。

「……グラウンドみたいね」
「行って来んのか?」
「うん。綱吉も、パンツ一丁じゃ流石に寒いだろうしね」

肩を竦めてそう言うと、グラウンドへ向かった。




私がグラウンドに着くと、隼人が根津にテストらしき物を突き付けている所だった。
そっと根津の背後に忍び寄り、手帳の内容を読み上げた。

「……根津銅八郎、東大卒と履歴書にあるが、学歴詐称で実は5流大卒。立派な犯罪ですよ、センセ?」

そう言って緩く小首を傾げた時に見た根津の顔を、私は一生忘れないだろう。






退学クライシス!
(私の綱吉を退学にするなんざ)(百億年早いっての!!)







おまけ


「つーなっよしっ!」

根津の件を隼人に任せた後、呆然としている綱吉の肩を軽く叩いた。

「っ! 初音…、ごめん、ホントにグラウンド真っ二つにしちゃった。根津がグラウンドを真っ二つにしたら退学にしないか考えてもいいって言ってたの聞いてさ、……ホントごめん。オレ、初音にメーワクかけてばっかりだ…」

そう言ってしゅんとした顔をする綱吉。
………なんてゆうか、しょんぼりしてる綱吉には悪いんだけど、なんてゆうか凄く……。

「(かーわーいーいーなー)」
「わっわ、ちょっ、うりうりすんなっ!!」

余りにもしょんぼりした綱吉が可愛かったのでうりうりと綱吉の頭を撫でた後、手は綱吉の頭に置いたまま、目線を合わせてにっと笑いかけた。

「だーいじょうぶ、退学になんかさせないし、ならないよ。根津は学歴詐称で解任したから」
「? さしょ? かいに?」
「あははっ。とりあえず、退学にはならないって事だよ」

だから大丈夫。そう言ったあとに綱吉が見せた笑顔にたまらず抱きしめてしまった。






4.25 更新
加筆 2011.7.25