コロボックルがゆく | ナノ
コロボックルの見解



 鬼灯さまは。
 わたしが思うに、結構かわいいと思うのだ。
 例えば、実は結構がっしりしていて、身長だって180p以上あるのに、日頃閻魔さまと一緒にいるせいで、対比してみるとあたかも小柄のように見えてしまう所とか。
 例えば、閻魔さまの肩に乗っている時に鬼灯様を見ると、見上げてくる少し遠くにある細い吊り目が、黒目が点のように見えて、着物の所為で少しだけちょこちょこ歩きになっているのを、俯瞰した視点で見た時とか。
 例えば、あの不気味な顔の金魚草が好きで、わざわざ品種改良までして大きいのを自ら作り出そうとする、その凝り性具合とか、毎日律儀にしょわしょわと専用の如雨露で水をあげている後姿とか。
 例えば、強面過ぎる顔の癖に、意外に動物好きで、特にもふもふな動物が大好きとか。
 例えば、意外と収集癖があって、不思議発見のクリスタルひとしくんを大事に飾っている所とか。前に軽い気持ちで1つ下さいと言ったら背後にゴゴゴゴとでも付きそうな雰囲気で「嫌です」と言われたので、もう彼の収集しているものを欲しいとか言わない事にした。だってあの顔めっちゃ怖かった。
 あと、あと、ドSの癖に本当に酷い事は滅多にしない、色んな人に意地悪をしているけど、本当に相手が嫌がる事はしない、その性根とか。
 みんなみんな、鬼灯さまの全部が、かわいいで出来ていると思う。

「ってね、わたしは思うわけですよ。閻魔さまはどう思う?」
「ええー…? 鬼灯君相手にそんな事言えるのって、多分君くらいだよね」

 しかも本人を目の前にしてさ、と苦笑いしている閻魔さまの声にならって視線を横から前に移すと、そこには書類の束を手にしている鬼灯さまが。
 ほーずきさまこんにちは、朝ご飯ぶりですねと言うわたしに対して、鬼灯さまはめんどくさそうについた長い溜息の後、さらにチッと舌まで打って、わたしに向かって手を伸ばしてきた。

「大王の手を煩わせてはいけないと言ったでしょう、心花さん。ただでさえ進まない仕事が輪を掛けて進まない。この方に職務を怠慢する理由を与えるなと何度言ったら聞くんですか」
「違うよ。今回は邪魔なんてしてないもん、むしろ閻魔さまのお手伝いしてたんだから」

 だからこれで仕事が滞ってるんなら、わたしじゃなくて閻魔さまの所為。そう言ってぴょんと閻魔さまの肩から飛び降りると、そりゃないよと悲鳴を上げる閻魔さまの声をBGMにとんとんっと机の上を跳んで、差し出された鬼灯さまの掌の上に着地する。
 てい、と両手を上げてポーズを決めて、どうどう? とばかりに鬼灯さまを見上げると、はいはい10点10点と全くそう思ってない顔で言われて、むすっとする。

「たまにはちゃんと答えてくれたって良くないですか?」
「なら√3点です」
「何とも言えない数字きた!!」

 しかも普通のに換算するとかなりひっくい! と反射的に叫んだわたしに、その反応に満足したのか、ようやくずっと仏頂面だった鬼灯さまがふんと満足げに鼻を鳴らした。

「あー良かった。あんまり怒ってなくて。ごめんね、ほーずきさま」
「別に、今更貴女に一々言っても仕方ないのはもう知っていますから」
「うん。ごめんね」

 掌の上で正座をすると、その手を自分の顔の近くまで持ってきた鬼灯さまが軽く眉をしかめてしつこいです、と言ってそのまま手を肩に持っていく。
 そのまま指を辿って肩に腰かけると、ようやくいつもの定位置につけて一心地ついた。

「はー。やっぱりほーずきさまの肩が一番落ち着く」
「ちょ、心花ちゃんが勝手に上って来たのに何その言い草っ」
「コロボックルなんてそんなものですよ」
「にははー」

 机に突っ伏して嘆く閻魔さまにバッサリと返すほーずきさまにけらけらと笑ってそうそうと同意しておく。
 義理とか人情とかに従うのではなく、ただ居心地の良いところや人の所に居つくのがコロボックルというものなのです。
 だから恩を売ったからといって懐くわけでもなく。まあでも甘いものくれて優しい人になら、それなりに懐きますけども。

「行きますよ、心花さん」
「うん」

 でも、鬼灯様はそのどちらにも当てはまらない。
 甘いものは虫歯になるからとか言ってくれないし、鬼とは残虐非道であってしかるべしと豪語するこの人に限って、優しいなんてのもあり得ないわけで。
 それでも、この人の隣は心地がいい。何を話すわけでもなく、ただ鬼灯さまの隣にいて、その肩に乗ってぐるぐると地獄を回っているだけで、わたしの毎日はなかなかに充実している。
 所謂ソウルメイト、みたいな。
 そんな事を言っても鬼灯さまにはばっさり切り捨てられるんだろうけど。それでもわたしを肩に置いたまま好きに無せているのがこの人なりの答えなのかな、なんて、何千年もの間それが続けば、自惚れたくもなるものなのです。

「あ、鬼灯様、心花様、おはようございます」
「おはようございます」
「こんにちわー」

 肩に乗って足をプラプラさせながら鬼灯さまの手元の書類を覗き込んでいると、道中で すれ違った獄卒の子に声を掛けられて、にこやかにあいさつをする。
鬼の中の鬼と呼ばれる冷徹な鬼神と、その肩にちょこんと乗っかるちっこい女の子。
 よく考えてみれば妙な光景でも、もうすっかり常となっているのか、獄卒のみんなも普通にこんにちわと挨拶をしてくる。


「んー、鬼灯さま、働いたらちょっと眠くなっちゃった。次の視察場所ってどこだっけ」
「不喜処地獄ですよ。最近従業員不足らしいので、どの程度の不足か見ておこうかと」
「そっか。じゃあ、着くまで肩の上で丸くなっててもいい?」
「駄目です。第一そんな所で寝たら落ちるでしょう、落ちても私は拾い上げたりしませんよ」
「慣れてるからへいきだもーん。それに、ほーずきさまの肩の上、絶妙なリズムで揺れるから気持ちいいんだもん」
「だからといって何もそこで寝る人が………ああ、全く」

 結局口では否と言いながらも、わたしが肩に寝そべって首に顔を寄せても、鬼灯さまは何も言わなかった。
 いつも通りゆったりと揺れる肩の上で、わたしは安心して体の力を抜いた。
 なんだかんだで、この人は誰かを拒絶する事はそうそうないのだ。

 そんな可愛い貴方だから、私は貴方が大好きなのです。
 なんちゃって。







4014.4.1 更新
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -