クリスマス&お年玉企画 | ナノ

雪様へ〜anecdote番外編でエクストラ陣営+オリ主&黒ランサー〜・修正版





聖杯戦争。
これに私が参加するにあたって、今に至るまでのきっかけは、3ヶ月前に遡る。
物心つく前から神話、昔話、中世物語その他もろもろに夢中になり、以後それから魔術もそれ中心ばかり学んでいたせいで、今や歩く英雄辞典を周りから称されていた私に、英霊の真名を探る手がかりになるんじゃないかと、ついてくるかとロードエルメロイこと先生にお声かけを頂いたのが、約3ヶ月前。
それまで特に興味もなく話にだけ聞いていた聖杯戦争の、その数多ある種類の中でも特殊だという冬木の聖杯について調べ、それに英雄が絡んでくると知ってむさぼるようにあらゆる文献を調べつくしたのが2ヶ月半前。
それが触媒さえあれば自分の望む英霊を召喚できて、なおかつ他にも6人もの英霊と相まみえ、そして戦うことができるというのを知って、そこにちょっとした出来心が芽生えたのが、2ヶ月と1週間前。
先生が当初呼び出すはずだったアレクサンドロス大王の触媒があっさり盗まれたことに幻滅し、さらに改めて呼び出すつもりである英霊がディルムッド・オディナであることにあきれ返ったのが2ヶ月前。だって主君と不倫して死んだ英雄をよりによって婚約者と共に従えていくなんて、昼ドラ街道まっしぐらじゃん。初めに聞いた時、思わず「え、それマジで言ってます?」と素で聞き返してしまったぐらい、それは私にとって信じられないことで。そんな考えなしな先生を見て、いくらロード・エルメロイっつっても所詮英雄に関してはその伝承のなんたるかの重要性の解ってない驕りのでかいだけの人なんだなーと、心の中で失望した。大体さあ、呼び出すなそっちじゃなくて普通神話の主役であるフィン・マックールの方じゃない? 何でよりによってそっちにするのかなぁ。生き様的に絶対幸運値低いし。
んで、それでもって色々作戦を聞いてみたところどうにも詰めが甘そうなうえ、このままだとついてったとしても聖杯戦争で英霊たちの戦いを堪能できる余裕がなさそうなので、さっさと見限って思考をいかにして彼の手にある令呪を手に入れるかという考えにシフトしたのが、1か月と2週間前。
自前の魅了の魔眼を使って、先生の数少ない、けれど最大の弱点である婚約者さんであるソラウ・ナァザレ・ソフィアリさんをダメ元で魅了してみると、思いのほかあっさりとかかってくれて、そのまま彼女を使って先生に隙を作らせるよう画策して、その手から令呪をもぎ取ったのが1ヶ月前。いやあ、めっちゃ苦労した。さすがは腐ってもロード・エルメロイ。婚約者と居る時でさえ、なかなか隙が出来なかった。まあそれも、ソラウ嬢がちょっと気のあるそぶりを見せただけで霧散したんだけど。あの人ほんとソラウ嬢好きだな。
そして昔から趣味と実益を兼ねて集めていた色々な英霊の関連物…つまり聖遺物の中から、ヴラド三世を呼び出そうと決めたのが3週間前。決め手はやっぱり、敵さんを何千人も串刺しにして晒し者にして、勢力で勝っていた敵方に「こいつやべえ」と引き下がらせたキレっぷりだった。次点で友人に強引に求婚迫った女神にそのペットの臓物投げつけて「次はお前をこうしてやるよ」的な事を言ったエンキドゥも捨てがたかったんだけど、聖杯戦争の英霊召喚のシステムはそんな詳しくは知らないので、どっちかっていうと元獣のこっちの方がバーサーカーになりそうだったから、そうなったら自滅間違いなしなので、可能性の低そうなヴラド公に決定した。
そして、いよいよをもってしてヴラド公をランサーのクラスで召喚し、その出てくると同時に期待以上のキレっぷりの発言に、思わずテンションが上がりすぎてぴょんぴょん飛び跳ねて歓喜したのが2週間前。しかし、スキル:信仰の加護のせいで人格に異常をきたしていて、普通の人では話が通じないとあるのに、私とは普通に会話が成立するとは何事か。というか、私がヴラド公の言ってることをなんとなくわかっちゃうのがいけないのか、ある意味私もこと英霊伝承系に対する憧憬に対してはこの人と同じくらいイッちゃってるんだろうなー、なんて思ったりもしたり。
そして、現在。

「ん、あれ」
「ほう……妻よ、準部は良いか?」
「もっちろん。ラン君こそっ」
「え、わっ」
「奏者、下がっておれ!!」

ただ今、絶賛今回2度目の敵さんと遭遇中。
出会った瞬間、それが夜なら尚更、私達がマスターである以上戦いは避けられない。なぜなら、殺し合いとは、少しでも隙を見せた方が殺れるのだから。
目の前の男女の2人組に目をやる。見ると、黒いハイネックの青年が驚いたように目を見張るのと同時に、白ニットの少女が前に出て、青年を庇うように腕を伸ばして主と敵を一緒に牽制する。
あの白い肩出しのニットにデニムのタイトスカートを穿いてる少女の方がサーヴァント、黒いハイネックの上に赤いロングコートを穿いてるのがマスター。彼があのサーヴァントを連れているのは、既にあの倉庫街のところで確認済み。それに、あの子の真名は、もう知ってる。
ああ、俄然テンション上がってきた! これだから英雄ってものはたまんないなぁもう!

「ラン君、お願い!」
「承知した我が妻よ。では謝肉祭の始まりだ!」
「ふんっ、花のない面構えだな!」
「えっ、エクストラっ!」

盛り上がる自身のテンションに任せて、出会って数秒でラン君にゴーサインを出す。それに従い、不敵に笑ったラン君が一気に少女と青年に突進する。それを受け、焦るような声を出す青年を制して少女も実体化させた剣を振り、一瞬の光を纏った後に、紅衣のサーヴァントとなり、私のサーヴァントを迎え撃つ。
紅と黒の人影が盛大にぶつかり合うと、その衝撃で回りの建物にわずかにヒビが入り、木々が騒めく。相変わらず周囲の被害そっちのけ野凄まじい剣戟のやり合いに目を細めつつ、手持ちの礼装で結界を張って、2人の攻防に目をやった。
見たとこ、スピードじゃあ、ラン君よりもあっちのサーヴァントのほうが上。ハヤブサみたいな勢いで跳び回って、こっちの動きを翻弄してる。見てて目が回るくらい、なんてもんじゃない。こりゃ、純粋な速さじゃ今回の英霊の中でトップクラスだ。

「………けど、パワーはラン君のほうが強い」

うちのラン君は、ランサーにあるまじき防御&パワー型だ。いくらハヤブサがすばしっこくったって、堅くて厚い城壁には些細なダメージだ。
一撃一撃で蓄積されるダメージは、こっちのほうが断然上。さて、あのハヤブサ、いつまで跳んでいられるかな?

「ラン君ってことは、あの黒いサーヴァントはランサーなの?」
「そうそう。ランサーをもじったの、我ながら結構かわいい渾名を………へ?」
「そうなんだぁ。お姉さんたち、前の倉庫街の時、いなかったよね?」

ふと隣から、柔らかいのびやかな少年の声が聞こえてくる。
そちらから当たり前のように話しかけられた言葉に、特に何も感じずに応じかけて、あれ、と首を傾げる。
ん。ええと、私、今回誰とも手とか、組んでないんだけどさぁ………。
この声の子、誰?

「って、ちょ、うわぁっ!?」
「?」

バッと横を見れば、そこにはついさっきまで対峙していたはずの、紅いサーヴァントのマスターがいて。驚いてバット後ろへ飛びのいて仰け反る私を、青年は不思議そうに目で追って小首を傾げている。
あ、なんかその仕草小鳥みたいでかわい……じゃなくて!

「き、君、いつの間にここに!?」
「……えっと、さっき?」

ぎょっとして半分叫ぶように訊く私に、青年は人の良さそうな柔らかい表情で、小首を傾げながら答える。……どうやら、こちらの質問の意図がよく解っていないらしい。
嘘くささなんかを微塵も感じさせない、そのこれまでの人生全部穏やかに過ごしてましたーみたいな、人畜無害を絵に描いたような敵意の欠片もない目。………今目の前でサーヴァントが闘ってなきゃあ、今が聖杯戦争の最中だってこと忘れそうになるくらい、彼の周りは穏やかな雰囲気に満ちていた。
私の目をまっすぐ見ていた瞳が、ついと、思い出したように正面のサーヴァントたちの戦いを見つめる。

「強いね、君のサーヴァント。エクストラが苦戦してる。あ。そうだ、名前なんて言うの?」
「え………えと、呉羽、です」
「呉羽ちゃん? かわいい名前だねぇ。僕はね、あの女の子に奏者って呼ばれてるんだ」

にこ、とよろしくと言わんばかりに笑顔を見せる青年に、つられてこちらこそと頭を下げてしまって、はっとする。
なんかこの子、存在感がないってわけじゃないんだけど、こう、そこにいるのが当たり前、みたいな空気してるから。つい、敵でありながらすぐ側にいるっていう状況を見過ごして、普通に会話が進んでしまう。
イカンイカンと思いつつも、まったく害意のなさそうなこの青年に、ついペースに呑まれてしまう。

「………えっと、その、あの、なんでここに。私になんかされるとか考えなかったの?」
「何かって……んーと、とくには。あと、あっちにいると、巻き込まれそうだったから。今のエクストラ、僕を守ってるほど暇じゃないからね」

なんとなく調子が狂いながらもとりあえず会話を続けると、青年は、少し困ったように笑って見せる。そのまま体育座をして観戦モードに入った彼の今の仕草が自嘲ように見えて、なんだかここでマスター同士でやりあう気力が一気に失せてしまった。
同じように、彼の隣で私も体育座りをする。彼の目には敵意とか全然なかったし、もしそれが全部演技で策略だったとしたら、それはもう主演男優賞的なものをもらえるくらいの名演技なので、その時はとりあえず素直に脱帽だ。

「君は、何のために聖杯戦争に参加したの? あんまりやる気なさそうだけど」
「参加したのは……成り行き、かなぁ。エクストラたちがいる以上、僕は逃げられないみたいだから。本当はこういう荒事とか苦手なんだけど、でも、何もせずなくしちゃうよりは、きっとずっといいし」
「ふうん。私がここで君を殺すとか、考えないの? なんで逃げないの?」
「呉羽ちゃんから、さっきまで感じて敵意がなくなったからかなぁ」

へら、と害意のなさそうな顔で子供みたいに拙く笑う青年に、不意を突かれるような衝撃を受ける。………あんまりにも普通にこっちに話しかけてくるもんだから、まさか、私が向けている敵意に気付いているなんて、思わなかったのだ。

「…………呉羽ちゃんは? 何か、願いが合って聖杯戦争に参加したの?」
「えっ? いや、私はある意味サーヴァントを呼び出すのが目的だったから、それに加えて英霊同士の戦い見られればもうお腹いっぱいだなあって感じ。正直、今はもう、ラン君と一緒にいられるなら、それだけでいいかなぁって………」

………って、何を初対面の男性相手に惚気てるんだ私は?
そうは思いつつも、この青年を前にしていると、どうにも敵愾心とか闘争心とか、そういうものを持つことそのものがバカバカしくなってくる。というか、この子の持つ雰囲気とか表情とか、全体的にふわふわしすぎなのがいけない。
まるで、幼気な子どもとでも対峙してるみたいだ。正直止めて欲しい。私は、そういうあどけない所作とか、子供みたいな仕草に弱いのに。それも、痩せぎすとはいえこんな結構な背丈の青年に母性を刺激されるとは何事か。
そうやって、私が必死に自生しているというのに、私の返答を聞いた青年は、体育座りのため膝に回していた腕でさらに自身の足を抱き寄せるようにして体を丸めて、その膝の上にこてんと頭を乗せて、上目使いに私を見つめる。

「じゃあ、呉羽ちゃん、僕といっしょだね」

ふわり、と嬉しそうに破顔した彼を見た瞬間。なんか、自分の中の何かが弾けたのが聞こえた。

「………………私、さぁ」
「え?」
「常々、子供を産むなら女の子って思ってたんだけど。意外と、男の子もありだよねー…」
「へ?」

ぽかん、とした顔で私を見つめる青年……いや「奏者」をもじって奏ちゃんに、こくりと一つ頷いて。勢い良く立ち上がると同時に、今だ激しい攻防を繰り広げている私と彼のサーヴァントの間に向けて、ポケットの中の魔術版スタングレネードを投げ入れた。

「ラン君。ちょっと、すとぉーっぷ!」
「「!?」」

投げると同時に叫んだ私に、一瞬だけ、双方私の方へ視線を向ける。しかし、その一瞬のうちに閃光を放ったスタングレネードに、私は心の中でラン君に詫びつつ、自分の目と耳に保護の魔術をかけて、無防備な奏ちゃんの目と耳を塞ぐ。
それでもいきなりの事に相当驚いたらしく、光が納まって目と耳を解放した後も目を白黒させている奏ちゃんに、またその子供みたいな仕草にきゅんとする。なんか、凄い幼い子供を見てるみたい。
そう思いつつラン君の方に目をやると、あんなに強い光をもろに浴びたにも拘らず、2人はもう回復しそうだ。まあ、いくら魔術をかけてサーヴァントにも効くように強化したとはいえ、それもサーヴァントにしてはネコだまし程度のものなんだろう。まあ、そのちょっとだけでも、私が双方の横やりを入れる隙が出来れば十分だ。

「ラン君、きーて! 私、この子と組むことになってから!」
「む?」
「へ、そうなの?」
「なっ!」

勢い付いて奏ちゃんを小脇に抱えるようにして、ネコでも持つみたいに抱えた彼をもう片方の手で示すと、ラン君は物珍しげに片眉を上げて、状況が理解できてない奏ちゃんはきょとんとした顔で私を見上げて、いきなりそんな事を言われた彼の紅いサーヴァントは、ぎょっと目を向いて私と奏ちゃんを凝視する。

「ねぇ、良いかな。あのね、私ね、ずっとこういう子供が欲しかったの!」
「ほう。妻よ、そなたがそうしたいと言うのならば私はそれに従うのみだ。さらに童という事は、それはつまり我が妻との子を育むという事に他ならない! 些か性急ではあるが、それもまたよし!」
「やーだなぁもう、ラン君ってば照れちゃうよ!」
「なっ、ななな!? 何だそれは奏者よ、余の断りもなく見知らぬ女の子供になるとは何事か!」
「えっと、僕もなんだか良く解らないんだけど。何でかなぁ?」
「余に訊かれても解るものか!」

きゃっきゃきゃっきゃはしゃぐ私とラン君と、反対にあわあわと狼狽える奏ちゃんのサーヴァントと未だに良く解っていない奏ちゃんとで、その場は一時カオス状態だ。
そんな事はお構いなしに、私はヒートアップしてラン君に飛びついて、そのままうっかり知らないことにしておくつもりだった奏ちゃんのサーヴァントの真名を口にしてしまい、その場でまたもめることになるのは、また別のお話しに、という事で。







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はい! というわけで、改めまして、雪さまに捧げます。黒ランサー陣営&エクストラ陣営、改訂版です!
すみません、私が黒ランサーと検索して真っ先に出てきたのが黒化したzeroランサーだったので、そちらと勘違いしてしまいました。改めて、こちらが正しい方としてのっけておきます、ついでに、もったいないので前のver.も横に載せて置きます。貧乏性ですみません(笑)
………というかあの、これヴラド公に見えますかね? というのが一番の心配です。それと公との絡みが少なくてスミマセン。前の方ではすでに共闘を組んだ後だったので、前をと思ったら、こんな感じになってしまいました。
今回、間違えてしまったのに気付いて急いでEXTRA引っ張り出してヴラド公戦の会話できるところ振り返ってみて、決選後のヴラド公に思わず泣かされそうになりました。負けて死ぬのみになった時に不意打ちでランルー君に敬語使いだしちゃうのはずるいっすよ。
こんな常にハイテンションマイペースな悩み無用っぽいランサー陣営ですけども、これでも水面下のところで完全には互いに解り合えないと理解してしまっているがゆえに結構シリアスしてます。2人しかいないところでひっそりと「………ごめんね、ヴラド公。私じゃ貴方を全部理解することが出来なくて、ごめんね」と、夜中エクストラ陣営のいるマンションの屋上でしんみりそんな事をいうマスターに対して「貴女のその未来永劫完全に解り合えないと解っていても諦めきれていないというところが、歯がゆいと同時に愛しているのだ」と言うヴラド公にそれじゃ解決になってないと思いつつもきゅんとしてしまう呉羽ちゃんがいたりするのですが、書いたらすんごく長くなりそうだったので割愛しました。
それでは、ここまで読んでくださってありがとうございます。今年も当サイトを宜しくお願いします!






2014.6.26 更新





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