クリスマス&お年玉企画 | ナノ

ルイ様へ〜anecdote番外編で年越しorクリスマス〜





12月某日。この季節になると、一気に町の照明が煌びやかになってくる。
中でも新都の方に行くと特に街灯の周りのイルミネーションに気合が入っており、緑の葉のリースが街路樹のように飾り付けられている様は、セットになっている照明と合わさって圧巻だ。

「凄いねぇ、この明かり。近いうちに、何かお祭りとかあったっけ?」
「いいや、これは25日のクリスマスに向けての準備だよ。イエス・キリストの生まれた日にかこつけて、身近な人間とお祝いをする日だ」
「なんとっ、キリストとな!? それは余に対する挑戦か!!」
「いやまあ、確かにきっかけはイエス・キリストの生誕祭なんだが、日本にこの文化が渡ってからそれは原形をとどめていない。単純に、25日には真っ赤な服を着てトナカイが引くそりに乗ってくるサンタクロースが、良い子にしている子どもにプレゼントを配る日、と考えればいい」
「ああ、枕元に靴下を干しておくあれか?」
「何でそこだけ知っているんだ君は」

てこてことライトアップされた商店街を3人で練り歩きながら尋ねたマスターに、アーチャーがエクストラに突っ込みを入れながら簡単に説明する。
マスターはそれを聞くと、ふうんと興味深そうに頷きながら、先程よりいっそうしげしげとイルミネーションを見上げた。

「その…サンタさん? は、良い子の所にだけプレゼントを渡しに来るの?」
「ああ。………悪い子の元には、むしろブラックサンタが来る」
「………ぶ、ぶらっくさんた?」

年端もいかない子供のように真剣に聞いてくるマスターにアーチャーが半分冗談のつもりでそう言うと、マスターは驚いたように目を見開いて、何かとてつもなく恐ろしい事を聞いたように、顔を青くして怖々とアーチャーの顔を覗き込んだ。
そのあまりにも素直な反応に、アーチャーの胸の内に少し悪戯心が芽生えてくる。
最初はちょっと冗談のつもりで済まそうと思っていたが、あまりにもマスターが良い反応を返してくるので、もう少しからかいたくなってきた。
とりあえず、マスターの隣で彼と同じように吃驚した顔をしているエクストラはおいておいて。

「ブラックサンタというのはな、悪い子の元に来るサンタで、その名の通り黒い服を着て子供が寝ている部屋に入ってくる」
「えっ……ど、泥棒みたいに何か盗んでいくの?」
「いいや、盗まない。その代り、彼は普通のサンタが持っているプレゼントの入った白い袋と同じものを持っているのだが、その中身は子供が喜ぶプレゼントではなく、動物の臓物が入っている」
「ぞ………ぞうも?」
「心臓や、肝臓、そういう人間の臓器だ」
「ひ………」

とたんに身を縮こませて顔を青くするマスターに、ちょっと楽しくなってきたアーチャーはさらに続ける。

「その中身をその悪さをする子供に向けてぶちまけて、子供行動の戒めとするサンタだ」
「な……なか、み………」
「まあ、いずれにせよ、それは悪さをする子供にだけ来るサンタだ。マスターがいつものように私の料理をつまみ食いするようなことさえなければ、ブラックサンタも来ないだろうな」

恐ろしや、とでも言いたげに呟いたマスターに笑ってアーチャーはそう言うと、その頭をぽんぽんと撫でて、そのままぎっしり中身の詰まった買い物袋をマスターの分も持ち上げて、少し楽しそうに笑いながら彼を家路へ進ませるように、マスターの背中を軽くたたいた。

彼としては、マスターに対するちょっとしたイタズラだった。
いつもほにゃほにゃと笑っているマスターが珍しくあわあわと取り乱していたようなので、ちょっとからかってやろう、というつもりというだけの。
つまみ食いのことだってああは言ったものの、実際食事の支度をするたびにエクストラとともにひょっこり顔をのぞかせるのだって、彼がアーチャーの作るごはんが大好きだからこそということを知っているので、もともとそこまで厳しく注意するつもりもない。
けれども普段生真面目であるアーチャーのその軽口は、マスターにとっては正真正銘代大イメージだった。
途中でそれがからかっているのだと気付いたエクストラにクロスチョップを受けているアーチャーの後姿を見つめながら、マスターは何かを決心するように、よし、と一つ頷いた。






夕食の買い物に出かけていたエクストラ陣営が帰宅し、買ってきた食材を冷蔵庫にしまい終わると、いつもはリビングで3人各々好きなことをするのだが、マスターは一度彼ら3人の部屋に引っこみ、テレビの前に置かれた炬燵にぬくまっていたアーチャーとエクストラがきょとんとしていると、筆記用具とレターセットを持って戻ってきた。

「……いきなりどうしたマスター。それは、君の1番のお気に入りのものだろう?」

マスターが戻ってくると炬燵に潜り込みつつ机に乗せたそれを見て、アーチャーが首をかしげる。
便箋や袋に黒と黄色と白の仔猫が戯れているイラストがプリントされたそれは、マスターが少し前に文房具屋で見つけてねだったものだ。
色のカラーリングが、まるで自分とアーチャーとエクストラのようだと嬉しそうに言っていたのを思い出して訊くアーチャーに、マスターは大真面目に頷いてペンを執る。

「うん。あのね、ぶらっくさんたさんに、僕はちゃんと良い子にしますから、来ないでください、って、お手紙書こうと思って」

そういうマスターに、アーチャーはそこまであの話が怖かったのだろうかと思い、少しやりすぎたかと反省しつつ、マスターを諌めにかかる。

「大丈夫だよ、マスター。君は世間一般的に見ても、良い子の手本のような性格だ。つまみ食いのことを言及したのを気にしているのなら、そこまで気にしなくてもいい」
「そうだぞ奏者よ。元々すべからくアーチャーが悪いのであって、むしろこやつにブラックサンタが来ても良いくらいだ」
「うるさい。私に来るとしたら当然君にも来るんだろうな?」
「余に来るわけがなかろう。皇帝だからなっ」
「皇帝関係あるか。マスター、本当に気にしなくていい。言い出した私が言うのもなんだが、ラックサンタなど所詮は迷信だ」
「……で、でもだって、もしもちゃったら、ここにいる悪い子に血まみれのそういうものをかけに来るんでしょう?」

サーヴァントたちが安心させようと軽口を叩きながらなだめるものの、不安そうな顔をしたままのマスターに、エクストラが後ろ手でアーチャーをどつく。
それに痛いだの馬鹿だのとこそこそ喧嘩の応酬をする2人に気づかず、もじもじといいづらそうにしていたマスターが意を決したようにぱっと顔を上げて2人を見た。

「だってほら。もしもそういうことになったら、せっかくいつもアーチャーが綺麗にしてくれてるこの家が、汚れちゃうでしょう?」
「「…………え?」」

そう、切実な問題だと言いたげに言ったマスターに、アーチャーとエクストラは水面下の争いを中断して、ぽかんとしてマスターの顔を見つめた。

「………それだけのだめ、か?」
「だって、僕も手伝いは出来るけどそんなに上手く出来ないから、最終的にはいつもアーチャーにお願いしちゃってるし、あ、それにこのラグはエクストラのお気に入りだし、今座ってるクッションも、せっかくみんなで選んで買ったものだし……だからえっと」
「……ま、待つがよい奏者よ。そなたはブラックサンタが恐ろしいから怯えていたのではないのか?」
「へ?」

呆気にとられつつも尋ねるエクストラに、今度はマスター不思議そうに小首を傾げる。

「そりゃあ、確かにそういうものを袋いっぱいに詰めて持ってくるサンタさんは怖いけど、でも、僕にはアーチャーもエクストラもいるし」
「わ、我らが?」
「うん。こう言っちゃうと2人に全部頼り切りみたいになっちゃうけど………でも、やっぱり僕にはアーチャーとエクストラがいるから。だから、どんなに怖いことがあっても、きっとへっちゃらなんだろうなって……わあっ!」

マスターが全部言い終わる前に、エクストラがばっと思いきりマスターに抱き付いた。
そのまま受け止めきれずぐらっと後ろに倒れそうになったマスターに、アーチャーは慌てて手を伸ばす。

「ええいっ、好きだー! 奏者、これ以上愛らしいことを言ってみろ、余の永遠の抱き枕係に任命してしまうぞ!!」
「ん、え?」
「馬鹿なことを言う前に、お前は少しは突発的にマスターに抱き付く癖を直せ!!」
「却下だ!」
「即答するな!!」

はしゃぐエクストラを叱り飛ばしながら、アーチャーは倒れかけるマスターの腕をつかむ。
そのままなんとかマスターの背に手を回して、エクストラごとマスターを抱き留めるような態勢になったアーチャーを見て、ついさっきまでびっくりした顔をしていたマスターがくすくすと楽しそうに笑い声を漏らす。

「………ふふふ」
「ん、どうした、マスター」
「ううん。ただちょっと、ほんとに怖いものなしだなぁって」

いまだに抱き付いたままマスターの方に額をぐりぐりとやっているエクストラの頭をなでながら目を細めて言うマスターに、アーチャーは内心で首を傾げる。
その意味を詳しく問おうかとしたところでエクストラがさらにマスターに飛びつく力を強くしたものだから、その対応に追われて、アーチャーの疑問は結局明かされずじまいになってしまった。
そんな中。自分から引きはがされたエクストラとアーチャーがぎゃんぎゃんと言い争いをしているのを見て、マスターはその当たり前になった日常が愛おしくて、そっと祈るように目を閉じて手を組む。

“……サンタさん。お願いのできる条件が「良い子」であることなら、僕はずっと「良い子」でいます。だからどうか、また次の年も、その次の年も、この人たちと当たり前に在れる未来をください”

そんなマスターの胸中での願いを聞くことができない、彼の2人のサーヴァントは、やっぱりいつものように、仲良く口論を繰り広げていた。







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リクエストしてくださったルイさまに捧げます! 遅れてほんっとすんません!!
年越しかクリスマスということだったので、年越しは去年書いてしまったので、クリスマスのほうを書かせていただきました。………って、そんなにクリスマスっぽくなかったですかね?ι
まあ、エクストラ陣営はいつもこんな感じで、イベントごとがあろうとなかろうと常時こんな感じなんですよ、ということで!
読んでくださってありがとうございました。今年もよろしくお願いいたします。







2014.6.18 更新





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