クリスマス&お年玉企画 | ナノ

ハイネ様へ〜アーチャーとランサー中心に天邪鬼〜番外編〜





 はあ、と。溜息を1つ。
 この状況をどう切り抜けるか。未だに私には見当がついていない。

「ねえアーチャー。良いじゃない、ちょっとお化け屋敷に忘れ物取りに行くくらい」
「そうです。ランサーも、それくらい頼まれてくれてもいいでしょう?」
「いやさぁ、マスター。別にそれはいいんだけど」
「無論、私とてそんな事を渋るほどマスター不孝ではないさ。ただ」
「「こいつと一緒にでさえなければ」」

こいつ、と言いながら私は隣のランサーを、ランサーは隣の私を指差して。
 まったく同時にそう言った私達に、凛とバゼットはえーと揃って不服そうな声を上げる。
 それを見て、思わずもう一度深くため息をついた。


 だいたい、凛が衛宮邸に居候している面々で遊園地に行きたいと言い、バゼットがそれに真っ先に乗ってきた時点で、察するべきだったのだ。
 それにいつもなら渋る衛宮士郎やイリヤのおつきのメイドが即OKを出した時点で、何だかおかしいとは思っていたんだが。
 どうやらそれは、私とランサーを共に行動させるための計画を知らないうちに彼らの間で練っていたかららしい。
 というかそもそも、たかがお化け屋敷に行ったくらいで落とすものなど、この一行は所持していない。何しろよく落とすものの筆頭である携帯すら持っている人間がごく少数なのだし。
 落とした落としたと言うだけで具体的に何を落としたのかを口にしないのも、ぼろが出ないようにするためだろうし、実際は誰も何も落としてはいないんだろう。それで行ったとして、一体私は何を拾ってくればいいのか。

「別に落としたものを取りに行くのに異存はないが、私1人で十分だろう」
「そうそう。そういう小間使いみたいのは全部こいつに押し付けて、あたし達は先に次のアトラクションに行こうよ。あたし海賊船乗りたいし!」
「はっ、面倒な事は全て人任せか? 相も変わらず随分と良い性格をしているな君は」
「………ハア?」

 しまった。
 つい反射的にランサーに挑発的な言葉を放ってしまった自分を、思うと同時に叱咤した。
互いの行動に、すかさず何かしらケチをつける。これは生前からの私達なりのコミュニケーション方法だ。注意していても、つい癖になってしまっているそれは、私がわざわざ文句を考えるより先に、脳が勝手に口に命じてぽんと彼女に放ってしまうのが常となっている。
 それが、今回はものの見事にアダになった。
 だって、これが常になってしまっているのは彼女も同じだ。当然、言い返してこないはずがなかった。

「言うじゃない。茶坊主くらいしか役に立てないウドのくせに」
「ウド? ああ、なるほど君のことか。これは失礼」
「なっ、誰がウドよ!」
「ああ、君の頭では“ウドの大木”としっかり言わなければ理解できなかったか?」
「身長ばっかりにょきにょき伸びてるのはそっちでしょうが! おまけに頭に白髪葱まで乗ってるなんて、ほんとかわいいそうな人ね!」
「しっ、らっ……誰がだ!! 私を君の脳内花畑と一緒にするな!」
「誰の脳内がお花畑よ! この唐変僕!」
「主の落したもの1つ拾いに行けない使えないサーヴァントに言われたくないな!」
「行けないんじゃないの、あんたと一緒なのが嫌だって解らない!?」
「なんだ、逃げる気かランサー」
「そんなわけないでしょ! あんたなんかよりも早く取りに行けるし!」
「それは私のセリフだ!」
「上等よ!」
「まったくだ!」

 ああ、本当にしまった。
 つい売り言葉に買い言葉で放ってしまった台詞に、思わず頭を抱えたくなる。ランサーの方も同じだろう。啖呵を切ったと同時に、何とも言えない顔で苦虫を潰すように歯を食いしばっている。
 いずれにしても、言ってしまってはもう戻せない。
 互いのマスターの計画通りとばかりのにやりとした顔に、もう何も返せなかった。











 売り言葉に買い言葉。この状況にこれほど適した言葉はないだろうと思いながら、私達は薄暗い館の中を歩いていた。
 お察しの通り、結局あれから凛たちの押しをかわし切れず、嫌々ながらも、ランサーと共にお化け屋敷に行く羽目になってしまった。

「あーもー、中途半端に暗くて鬱陶しいなあ。アチャ男、さっさとその鷹の目でリン達の落とし物見つけてよ。リン達今フリーフォール行ってるって。フリーフォールってなんだろ?」
「……………恐らく私達は今、ありもしないものを探しに行かせられている。それとフリーフォールは高いところから一気に降下するアトラクションだ」
「えっ。なにそれ、落ちるだけ? 乗ってどこが面白いの?」
「………スリルを味わうための遊具としてはジェットコースターとあまり変わらんだろう」

 不可解そうに首を傾げる横を歩くランサーに、先程360度回転するジェットコースターに大いにはしゃいでいた姿を思い出して、少しげんなりしつつそう言った。
 楽しい事が好きなくせに、意図せずそういう場を盛り下げるようなことを言ってしまうのは、彼女の悪い癖だ。前々から思っていはいたが、とりあえずそれは他の面々の前で言わせないようにしよう。こいつの癖を解っていて、かつ言動の先回りが出来るのは、長年彼女と口喧嘩をしてきた、私くらいのものなんだから。

「妙な相棒を持つと、相方は苦労するな全く」
「はー? 言っとくけど、妙なとこがあるのはお互い様なんだからね。あたしだってあんたの問題発言には生前から頭悩ませてたんだから」
「問題発言? 私のどこにそんなものがあった」
「お金がかかるから部屋とベッドは俺と一緒でも良いだろとか、よく言ってたでしょうが」
「それのどこに問題が?」
「…………そういうとこだよバカ」

 はあ、と重々しく溜息を吐くランサーに、納得いかずに眉をしかめる。
 別にやましい気持ちがあって彼女にそう言ったわけでなく、あの頃はどうせ最終的には一緒の部屋で作戦を練ってそこで夜を明かすことになっていたんだから、その方が無駄がないだろうに。
大体、もし仮にランサーが先に寝てしまっても、彼女をベッドに寝かせた後私はソファーで寝ればいいのだから、別に気にする事でもないだろうに。

 納得いかないランサーの言葉に悶々としていると、不意に横からびょんと生首が飛び出してきた。
 お化け屋敷らしい仕掛けだ。作り物にしては造りがリアルだし、なかなか凝っているらしい。

「おいランサー、一応当たらないように気をつけ」
「どっせぇええええい!!!」
「待て待て待て待て何やってる!!?」

 成功に作られた生首に石を向けつつよこめてランサーに注意をしようとすると、いきなりランサーが奇声を上げてその首を蹴り上げて粉砕した。
 それを見て慌てて羽交い絞めにして生首が飛び出して来た辺りから遠ざかりながらとっさのことに仰天しながら腹からツッコむ。
 それを、ぜえはあと肩で息をしながら、ランサーは怪訝そうに振り返った。

「だって、モンスターハウスなんでしょ? 出てくるモンスターを次々と薙ぎ倒していくゲームなんじゃないの?」
「なんだその残虐すぎるアトラクション。違うわ! お化け屋敷っていうのは、こういう暗闇の中で今のようなお化けが出てくる恐怖を味わうところだ!」
「はあ!? 何それ遊ぶ側に何の益があるの!? そんなの楽しい人なんてただのドMじゃん!」
「ドMとかいうな!」

 そういえば、こいつは凛たちがここに行っている時に、私と一緒に人数分のホットドックを買っていた。
ということは何か。こいつはずっとお化け屋敷をそういうものだと思っていたのか? だから出てきた凛に興味津々にどうだったかしきりに聞いていたのか? 使い心地とか変なことを訊いていたのもそういうことか!

「つまり結局いつも通りの戦闘バカだったってことじゃないか!!」
「誰が馬鹿よ! っていうかあたし、お化け屋敷がこんなところだったなんて聞いてない!!」
「俺の発言に対して拾うところはそこか!?」

 ひっしとこちらの腕を命綱のように掴みながら悲痛に叫ぶランサーに、反射的にこちらもつっこむ。
 それでも、これは本当に冗談抜きでランサーはこの場所が苦手だったのだろう。ここにきて我が意を得たりとでも言いたげにばんばん飛び出してくるお化けのカラクリや思い出したように掛かる不安を煽ってくるようなおどろおどろしいBGMに身をすくめるランサーに、そっと息をついてなだめ絵うように頭に手を置いた。

「落ちつけランサー。これは全て作り物だ。大体、君はこういったものは見慣れてるはずだろう」
「見慣れてるけど、それはこっちが殺る時の場合! 急にバッて出てこられるのって苦手なんだって。しかもやり返しちゃいけないんでしょ、最悪!」

 もう無理無理無理! と言って、ランサーは私の背中にだっこちゃん人形よろしく抱き着いてくる。それ自体は別に構わないので、わざわざ振りほどく必要もなく、彼女のしたいようにさせておく。むしろ、生前ですら滅多に見たことのなかった弱り切った顔が見れて、性質(たち)が悪いとは思うが少し役得だ。
しかし、互いに進んでいる間もランサーの体が怯えるあまりだんだん私の背面に移動していって、完全に彼女は無意識だろうがその腕が私の背中から回される大勢になった頃。それによって不意に背にむにゅりと感じた感触に、思わず一瞬動きを止めた。

「っ………ら、ランサー、ちょっと」
「ひゃ、ひいっ! ちょっと待って、今意地悪されたら本気で泣く自信あるから、ていうか何か言われたらその方角から何か来そうだからちょっと黙ってて!」

 そのいやが応にも妙な事を考えてしまいそうな柔らかな感触に、何とかしてどかそうと声をかけるも、今のランサーにはむしろ逆効果だったようで。
 半ば半狂乱になりながらそう言って、ランサーは震えながらより一層こちらに抱き付いてくる。必然的に背中にさらにその感触がして、声に出せないまでも、心の中で反射的にひっと悲鳴を上げた。
当たってる当たってる! あえてどこがとは言わないが、世の男共が気にせずにはいられない、脂肪が一箇所に集まった箇所であるあれが………!!
思わず身を固くした私に気付かずに、ランサーは必死にこちらにしがみつくことで背中にあれを押し付けてくる。
頼むから止めてくれと叫びたい気もするが、しかしそこでそう言えば、間違いなく割りを食うのは自分だ。内心パニックになりながらも、しがみつくランサーを横目に必死に平常心を保つ。
保ってくれマイ理性。ここまで来て、うっかり彼女を抱きしめ返すなんて愚行はしないでくれると信じてる…………!

「っも、もぉやだぁ………っ。えみ、衛宮ぁ、ひっ、た、助け…………っ!」
「っぐ、た、頼むから、君はちゃんと守るから少し黙っていてくれないか………!!」

 極めつけのようにぎゅうと掴んだ服を握りしめながら、背中から縋るような声が聞こえてきて、だんだんこの生殺しのような状況に泣きたくなってくる。
 落ち着け、大丈夫だ、冷静になれ、よく考えてみろこれはただの肉の塊であって、心頭を滅却すればこんな煩悩など………っだああ無理だなんだこれどう考えたって絶対にゴールまでなんて耐えらるか!!
 誰だ役得などとたわけたことを言った阿保は! 俺か!?
頭の中で冷静に頭を冷やしながらも絶えず送られてくる体温に、もう頭がパニックになる。
勘弁してくれ! と内心で大声で叫びながら、気を抜けば必死にこちらに抱き付いているランサーを抱きしめ返さんとする両手に爪を立てつつ、気持ち的には這うように一歩一歩と進んでいく。
ああ、もう、本当にっ……吊り橋効果なんて期待すると碌なことにならないな…………!
まさに据え膳のこの状況下に、男としての理性を本気で試されている気がした。
とりあえず、この状況を作り出した凛とバゼットは地獄へ落ちろと、割かし本気で思ってしまいたかった。





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リクエストしてくださったハイネ様に捧げます。
またまた遅れてしまって申し訳ありません!! 近日中にといっておきながら、思った以上にリアルが忙しく、かなりの時間がかかってしまいました。すみません。
リクエストしてくださった天邪鬼の二人ですが、こんな感じでよかったでしょうか。思った以上にアーチャーの理性が心許なくて、こいつこんなんでよく予算がもったいないから同じ部屋でいいだろとか言えたよなと、書いた自分が一番思っています(笑)
こんな感じで出来上がりましたこちら、気に入ってくだされは幸いです。
亀更新ではありますが、これからも当サイトをよろしくお願いいたします。
それでは、今年もよろしくお願いいたします。






2014.6.11 更新





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