クリスマス&お年玉企画 | ナノ

ユキネ様へ〜anecdote番外編〜





ぐるぐると、宙に浮かんだレールの上を、長い鉄の入れ物が蛇を思わせる柔軟さで滑って行く。
上がる歓声、悲鳴、絶叫。
数多の声を轟かせて頭上を奔る乗り物に、マスターは目の輝かせていた。
そう、ここは子供達のお夢の国。めくるめく空想が現実となる事を許された、つかの間の楽園―――遊園地だった。

事の発端は、マスターが商店街のくじ引きで3党のペアチケットを引き当てた事だった。
カランカランと鐘を鳴るらしてチケットを手渡してくる店員にありがとうと言いつつも、2人しか行けないのなら意味ないねとしょんぼりするマスターに、エクストラはならば余に任せろと腕まくりをして玉の入った滑車の取っ手を掴んでぐるんと回し、さらに上の特賞の米俵3俵を引き当てた。
しかしエクストラはそれを辞して、そんなものよりこの遊園地のチケットが欲しいと係の者に強請り、結果見事冬木ランドのチケットをもぎ取ったのだった。
そんなアーチャーが知れば烈火の如く怒りそうな事をしながらもほくほく顔で仲良く手をつないで帰ってきたエクストラとマスターにチケットを見せて遊園地に行きたいと言われたアーチャーは、良いんじゃないかと了承した。
まあ引き当てた米俵を盾に、チケット1人分の出費を了承させればよかったのかも知れないが、それはそれ。子供は総体的な損得など考えないのである。

そんなこんなで3人揃って遊園地に来た面々は、一面カラフルかつメルヘンな建物たちを眺め、その中でも、例の如くマスターとエクストラはひどくはしゃいでいた。

「すごーい! いろんな乗り物が動いてる! ねえねえアーチャー、あの上の橋の上を走ってるのは何て言うの?」
「あれはジェットコースターだ。あの中に乗って凄まじいスピードであのコースターを走るんだ。所謂絶叫系だな」
「落ちないの?」
「落ちないようにセーフティーバーを肩や腰に掛けるんだよ。それに事故が無いようにきちんと点検されているさ」
「うん? しかしアーチャー。この間テレビのニュースで地方のジェットコースターで死傷者が出たと言っていたぞ?」
「なっ」
「じゃあやっぱり危ないの………?」
「いや、その」

 じーっと純粋な自問を乗せてアーチャーを見上げるマスターに、アーチャーはうっと言葉を詰まらせる。
 確かに物事に絶対なんてないわけで、そりゃ滅多に起きないけれど事故だって起きる。だがそれを言って今から色々なアトラクションに乗るのを楽しみにしているマスターに要らない不安を掛けさせるのもあれだし、かといって嘘を言うのは駄目だと教えている手前そういうのも………。

「とりあえず奏者は何に乗りたいのだ?」
「えっとね、この空中ブランコってやつ。何だかくるくる回って面白そう。そのあとにあのジェットコースター乗りたいな」
「良いのか、完全に安全ではないのだぞ?」
「うーん、でもみんな声あげて楽しそうだし……。エクストラとアーチャーがいてくれるなら、怖い事なんて何にもないから」
「そっ………奏者っ、大好きだーっ!」

そう言ってほわりと笑ったマスターを、エクストラは感極まってがばっと半分飛びつくように抱きしめた。
もんもんと1人真面目に悩むアーチャーを余所に、そんな傍から見れば三文芝居のようなやり取りをこちらも大真面目に繰り広げつつ。結局アーチャーがその悩みから解放されたのは、エクストラがひとしきりマスターを抱きしめるのを堪能し終わってさっさと行くぞと彼に声をかけるまで続くのだった。




ごううっという風の音が響く中。レールの上に従ってひたすら走るジェットコースターの中に3人はいた。

「わああああああっ! 速いっ。速いし風が強すぎて前が見えないよアーチャー!」
「そうか、確かに中々のスピードだな。それよりマスター、バーから手は離すなよ」
「はーいっ」
「風情が無いなアーチャー。ここは場の空気を呼んでキャーと悲鳴の1つでも上げぬか。ほれ、前の列の者達は手まで上げているぞ」
「たわけ、私たちがそんな事をすればマスターが真似をするだろう。それに君こそ少女らしい見かけにならって悲鳴の1つでも上げたらどうだ?」
「余のこの容姿を若作りのように言うでないっ! 無礼であろう。これはれっきとした自前だ。余はいくつになってもこの顔と外見だったのだ。そんな事前髪を上げて精一杯老け顔を演出しようとしている隠れ童顔男に言われたくなどなっ……ひょわあああっ!」

ぐいん、と急に360度回転をして見せたコースターに、驚いてエクストラが悲鳴を上げる。
それを上げてからはっとしてアーチャーに目を向けるとにやにやとしたり顔で見つめてくるそちらに、エクストラは顔を真っ赤にして自分たちを遮るバーの関係で届くはずがないと知りながら、必死にぶんぶんと拳を振り上げた。
そんなおおよそジェットコースターに乗っているとは思えないほのぼのとしたやり取りをする2人のサーヴァントに挟まれながら、マスターは風の音で聴覚の優れたサーヴァントと違って2人のやり取りが聞こえない事もあって、あくまで普通に楽しそうに悲鳴を上げながらジェットコースターを満喫していた。

マスターの要望で空中ブランコに乗った後、3人はそれに次いで、この遊園地の目玉でもある巨大ジェットコースターに乗りこんだ。
このコースターはいくつもある上下のアップダウンと、3か所にある360度回転が売りの、園内をぐるりと一周するレールの上を走る超ロングコースターで、絶叫系に乗り慣れているものでも慣れないと三半規管が狂って降りた後高確率で吐きそうになると評判のこのジェットコースターだったが、マスターは意外とこういった系統の乗り物に強いのか、降りた後もけろっとした顔で、2人に向かって風が気持ちよかったね、と無邪気に話していた。

「こんな速い乗り物に乗ったのなんて初めてっ。あとでまた乗りに行こうね」
「ふむ、奏者よ。余だってあれぐらいのスピード、奏者程度の体重の人間を乗せて走ることなど訳ないぞ?」
「え、そうなの? でもエクストラの腕ってすごく細いのに。折れちゃわない?」
「………本当に今にも折れそうな腕の奏者がそれを言うのか? 無論、サーヴァントである時点で、余の腕力は人間とは比べるべくもないほど上だ。まあ、それも奏者の魔力供給あってのことだが」

腕を組んでそう言っていうエクストラに、マスターはふうんと頷く。
そのままパンフレットを片手に次にどれを乗るか遊園地を回りつつ探していると、ふとマスターが顔を上げて不思議そうに小首を傾げた。

「アーチャー、エクストラ。あれなんだろう?」
「「ん?」」

すい、とマスターがさした指の先を目線で辿って、サーヴァント2人は一見奇妙にも見えるそのアトラクションを見て、手元のパンフレットに視線を落とした。

「ああ、あれは『コーヒーカップ』だな」
「こーひーかっぷ? みんなでコップの中に入るの?」
「ああ、その推測は実に良い線をいっているぞマスター」

不思議そうに首を傾げるマスターに、アーチャーが簡単にコーヒーカップの説明をする。
するとそれに余程興味を引かれたのか、マスターの顔がぱあっと花やいだ。

「それ、乗りたい!」

そう、楽しそうに言ったマスターに、アーチャーとエクストラサーヴァント2人は、1も2もなく頷いたのだった。
その結果を、後に2人は公開する事になるのだが。


―約1時間後―


「「うげぇ………」」

暫くして、コーヒーカップの出口から出てきた2人の口から出てきたのは、それに尽きた。
いつもしゃんとしている背は丸く猫背になり、意思の強そうな瞳は半目になり、きゅっと結ばれた口は半開きになっていた。
端的に言えば、アーチャーとエクストラは、完璧に乗り物酔いをしていた。

「ありえぬ……奏者の三半規管はどうかしている」

ぐったりしつついうエクストラの顔は、青い上に目は遥か彼方だった。
お前らサーヴァントだろうが、という攻め文句はよしてほしい。
いくらサーヴァントとはいえ、30回もコーヒーカップの中でぐるんぐるん回っていたら、流石に参るというものだ。
勿論、アーチャーもエクストラも、何度かマスターを制止しようと試みた。
しかし………

「ねえ。アーチャー、エクストラ、もういっかい!」

乗り終えて、へろへろになって出口から出てくるサーヴァント達に、マスターはいつもよりも声を弾ませて、2人の前にぴっと人差し指を突き出して笑う。
マスターのあんな可愛い顔を見せてのおねだりをされて、無下に断れる奴がいるものか。いたとしても。少なくとも、アーチャーにもエクストラにも無理だった。


最終的に、計35回を回ったところで、アーチャー達はコーヒーカップのエンドレスから解放された。
かなりのどろどろのグロッキー状態になっていた2人だったが、それに対して、マスターは非常に満足そうにふーっ吐息を吐いてにこにこしていた。

「楽しかったね、アーチャー、エクストラ」
「ああ……うむ」
「そう………ああ、まあ」

無邪気にマスターに尋ねられて、2人ははいともいいえとも答えられず、取り敢えず曖昧にぼかすように答える。
すると、その表情の意味する事を察したのか、マスターの表情がしゅんと落ち込んだ。

「えっと………ごめんね、アーチャー、エクストラ。僕は今日、2人と一緒に出掛けられて、すごく楽しかったから、つい、楽しみすぎちゃって。………2人は、楽しくなかったのに、ごめん、ね…………」
「「違う違う違う違う!!!!」」

言いながら、自分で口にする事によってよりずっと悲しくなってきたのか、マスターがだんだんと涙目になってくる。
その顔を見て、ほぼ反射的にサーヴァント達は、口を揃えてマスターの台詞を否定した。

「この遊園地に来て楽しくないなどという事があるものか。余は奏者がいるだけで、いつだってどこだって楽しいのだぞ!?」
「全くだマスター! 私達がマスターと共にいて楽しくないなどと、名誉棄損にもほどがある! 言っておくが私は、君といて楽しくなかったことなど一度もないぞ!」

もう正直一生懸命すぎて何を口走っているが自分自身でもよく解っていないまま捲し立てるように言った2人のサーヴァントに、マスターはぽかんとして目を丸くする。

「え、えっと、どうしたの急に……?」
「急にではない! 奏者はすぐそうやって自分に卑屈になる。もっと我々に愛されている事を自覚するべきだ!」
「あ、え?」
「良いかマスター。君が何と言おうと、私達は君が大切だ。信じろとは言わない、行動で示すからな。それを踏まえ、何か言いたい事があるのなら今のうちだぞ!」
「へ………えっと、ありがとう、ございます?」

がしっ、と右肩をエクストラに、左肩をアーチャーに掴まれて2人に詰め寄られる状態で、マスターは、おっかなびっくりした顔で、目をぱちくりさせながら、そう言った。




*******
リクエストして下さった、ユキネ様におくります。
これからもうちのサイトの子たちを、どうぞよろしくお願いしますという気持ちを込めて。





2014.3.3 更新





「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -