Fate/エイプリルフール | ナノ

ふたりめ




ランサー陣営に無自覚の内に核爆弾並の衝撃を落としつつ、さて次は誰に会おうと、マスターはるんるん気分で冬木の町を歩き進んでいた。
冬木大橋を渡って深山町に差し掛かり、とりあえず拠点が解っている所に先に行ってしまおうかとマスターが考えていると、丁度良い所に、見慣れたくせ毛の白髪頭と、女性が羨む程の美しいストレートの紫色の長髪が見えた。
言うまでもなく、間桐雁夜とバーサーカーことサー・ランスロットである。

「雁夜くん、バーサーカー!」

その姿を見た途端、嘘の事など頭の中からスパッと吹っ飛び、マスターは嬉しそうに顔を綻ばせて2人に声をかける。
その弾んだ声を背中に受けて雁夜達が振り向くと、たったっと息を弾ませてこちらに向かってくるマスターの姿を見止めて、驚いたように目を見開いた。

「はっ!? ちょっ、おま………! 何でこっちの方に、ってか、危ないだろ! 走らないで歩け、転ぶ!」
「いえ、いかに彼でもそれは道を歩けば吐血していた貴方にだけは言われたくない台詞だと思いますが」
「余計な事は言わなくて良いんだよ!」

まず真っ先に慌てて両手を前に突き出してマスターを制止した雁夜に、バーサーカーが呆れ顔でツッコミを入れる。間髪入れずにそれに怒鳴り返した雁夜を見て、マスターは仲良いなあ、と2人に駆け寄りながらほっこりとした。相変わらずの漫才コンビっぷりである。
初めて会った時は何時死んでもおかしくなさそうな顔色と体調であった雁夜だが、最近では随分と元気になった。半身の麻痺は治らずとも、今では軽く足を引きずった状態であれ走れる事は走れるし、運動をする度に血と蟲を吐き出す事もなくなった。これも偏に、間桐家の当主である臓硯がボケ、それにつられて刻印蟲がボケてくれたおかげである。

「どうしたんだよ、セイバーのマスターの家に行ったんじゃなかったのか?」
「え? ううん、行ってるのはアーチャーとエクストラだけだよ?」
「? でも、エクストラが……」
「雁夜、いけませんよ」
「は?」

首を傾げた雁夜に、バーサーカーがそっと耳打ちをする。それを怪訝そうに聞いていた雁夜だったが、次第にまずい、と言いたげな顔になっていき、最終的に額に冷や汗をかきながらマスターに向き合った。

「悪いな、間違えた! 何でもないから忘れてくれ!」
「え、う、うん………」

明らかに間違えてもいないし忘れられそうにない違和感だったのだが、何となくやけに雁夜が必死だったので、マスターは少々釈然としないながらも仕方なく大人しく頷いた。
だらだらと汗を流し一か月前と同じ顔色になっていた雁夜が、それを見てほっとしたように息を吐く。

「そういえば、桜は一緒にいないの? 雁夜くんとバーサーカーだけって珍しいね」

流石にそこを掘り下げたら最終的に雁夜が涙目になってしまう気がしたので、マスターは話題を変えようと、何時も2人の間でちょこんと手を繋いでいる彼等の小さな天使について尋ねた。
すると雁夜がああ、とどこか嬉しそうに破顔した。

「今日は、遠坂の人達と食事しに行ってるんだよ、桜ちゃん」
「へ……」

ぽかんとするマスターに、バーサーカーの方も喜ばしそうに目を細めて頷く。

「はい。以前から計画していたのですが、遠坂の奥様はともかく、ご当主の方の予定があかなかったので長らく先延ばしになってしまったのですが、ようやく、1年前の家族全員で食事をする事が叶ったそうです」
「念願かなって、ってやつだな」

頷くバーサーカーに続いて、雁夜がしみじみと相槌を打つ。

「桜ちゃんが俺達から離れてっちゃうみたいでちょと寂しいけど、元々俺の目的はそれだったんだし、朝から妙に浮き足立っちまっててさ」
「それを少しでも誤魔化す為に、こうして大した用もないのに買い物に出掛けているというわけです」

ちなみに今日の夕飯はお赤飯なんですよ。と嬉しそうに買い物袋を揺らすバーサーカーに、自然マスターの頬も緩む。
彼等も、聖杯戦争時から随分と変わった。雁夜は自分が本当はどうしたいのか自覚をし、葵の事をふっきれたし、バーサーカーも、セイバーときちんと話をつける事が出来、無事自分の過去を清算できた。
その結果、2人は最近どこか憑きモノが落ちたような、しがらみに囚われていないさっぱりとした顔になったように見える。
改善を求めもがき苦しんでいたあのころに比べて、今を十全に楽しんでいる2人を見て、マスターはそれを心の底から嬉しく思う。
親しい人ならなおの事、幸せそうにしている人を見るのは嬉しいのだ。

「そっか。良かったね、雁夜くん」
「おう」

にっこりと笑うマスターに、雁夜も同じように返す。
このまま雁夜達の輪に加わって間桐の家で過ごしたい誘惑にかられたマスターだったが、しかし今はエイプリルフールであり、まだまだ先は控えているのである。
もっと雁夜と話していたいマスターだったが、そろそろ先に進まねば、と思い直し、再び口を開いた。

「あのね、雁夜くん、バーサーカー。僕、2人に伝えたいことがあって……」
「? 何だ?」
「何です?」

少し気恥ずかしそうに言うマスターに、雁夜とバーサーカーは首を傾げる。
そのランサー陣営と同様に身構える事も出来ないまま水爆並の衝撃とショックを与えられたバーサーカー陣営であったが、やはりマスターはその事に気付く事もなく、恥ずかしそうに赤くなってそそくさとその場を立ち去った。
ちなみに、そうして彼が真っ赤になるのは「人に嘘をつくのは恥ずべき事」とアーチャーに教わっていたが故の羞恥心だったのだが、結果それが余計に嘘に真実味を水増しさせているのに気付く者は、この場に誰もいなかった。
続く2撃目に遭遇してしまったのは、やはりこちらも幸運値底辺のバーサーカー陣営であった。





To be continue…