おまけ 「……それで、めでたしめでたし、ってわけだ」 後日、彼らと別れた後のいきさつを聞いたウェイバーは、特大の角砂糖を唐突に口の中に押し込められたような顔をして、ずるずるとわざとらしくストローでオレンジジュースを啜った。 ああ、さっきまで程良い甘さだった筈のオレンジがすっぱい。いやもう寧ろその方が本当にありがたいのだが。 はあと、盛大に溜息をついて、ウェイバーは側のメニューを広げた。 こうなったら珈琲も頼んでやろう。今はとにかく口の中を甘み以外の味覚で満たしたくて仕方がない。 しかし、こうして喫茶店にまで呼び出して事のあらましを話させたのは他ならぬ自分であるので、ウェイバーはメニューに目を走られながらも、一応は先を促した。 「それで、その日のうちに種明かしはしてもらえたのか?」 「うん。2人共ね、聖杯戦争を無事乗り切れた記念に、何か僕に特別な事がしたいってずっと計画してたんだって。ふふふっ、そんなの別にいいのにね」 「あっそ。で、あいつらお前に何やったんだ?」 「えっと、それがね」 彼等の事だからさぞ気合の入った物をプレゼントしたんだろうとげんなりしながらもウェイバーも一応気になるので尋ねると、マスターはそれはもう頬を緩めて話し出す。 「アーチャーはね、おっきいチョコレートケーキ。すごいの、白いチョコで白鳥が作ってあるの。ピンクのチョコでバラの花が作ってあるの。全部クッキーで出来た家が建ってるの。しかもそれ全部手作りなんだよ!」 「どんだけ気合入ってるんだよ。どんだけでかかったんだよ」 「一度凝り始めたら止まらなくなって、あの時までかかっちゃったんだって」 「へえ……」 相槌を打ちながらも、ウェイバーはアーチャーのマスター愛に顔を引きつらせる。 かねてから彼がマスターに構いたがりな超が何個もつく程の過保護だとは知っていたが、まさかそんな方に突きぬけていたとは。 あの赤執事は愛情表現が餌付けしかないのか。 「で、エクストラのは?」 「エクストラは、自分で出材した自作の写真立だった。中々好みの部品が見つからなくて苦労したって言ってたよ」 「え゛……それって大丈夫だったのかよ」 「大丈夫大丈夫。今回の作品は悪魔合体してなかったから」 けらけらと笑うマスターに、ウェイバーの首はまたがくっと沈んだ。 今更ながらに、昨晩ちゃんと説明するようにとわざわざ電話まで掛けた自分が恨めしい。その後ライダーにやっぱり気になるのかと茶化された事も含めて、ウェイバーは出来る事なら昨日の自分を止めたかった。 「金細工と赤と白の花がいっぱいついてて、すごく綺麗だったよ」 「ああ…そう…良かったな」 「うん!」 にっこり、と花も咲くような笑顔で返事をしたマスターの眩しさに手でひさしを作りつつ、ウェイバーはこの店で一番高いステーキエビフライ丼定食を注文すべく店員に向けて手を挙げた。 このアーネンエルベという店は、喫茶店のくせにやたらと料理が美味い。 こうなればもう自棄だ。とにかくこの胸にわだかまる胸焼けごと、何か喉に通して流したかった。 「はいはい良かったなこのリア充陣営。もうこんな事で喧嘩なんてするなよ」 「別に喧嘩じゃなかったけど……。でも、ウェイバーくんも気をつけてね。偶には素直にならないと、流石のライダーも不安になっちゃうかもよ?」 「は? 何言って……」 すっとぼけた事を言い出したマスターに反論しようとして、ふとその目が自分の何かを見抜いているようで、ウェイバーは思わず身をすくめた。 「な、何だよ、お前」 「あはは。だって、ウェイバーくん、ライダーの事大好きでしょう?」 「んなっ……!?」 動揺しガタッと大きな音を立てて仰け反るウェイバーに小さく笑って、マスターは伝票を取って立ち上がった。 「じゃあね。話聞いてくれてありがとう、ウェイバーくん。これは相談料と迷惑料って事で」 「ちょっ、バッ、待てって!」 慌てるウェイバーに構わず颯爽と伝票をひらひらとさせてレジに向かってしまったマスターに、観念してウェイバーはどっかりと椅子に座りなおした。 「ったく……最近あいつ、あのアーチャーに似て来てないか?」 長く一緒にいる奴と似て来るって本当だな、と、呆れたように呟いて大きく伸びをする。 それからふと目線そらすと見えた赤い2人組に駆け寄る彼を窓越しに見て、ウェイバーは微笑ましげに、小さく笑みを描いた。 2013.7.3 更新 |