新都のデパート内を、マスター率いるエクストラ陣営は楽しげに練り歩く。 唯一現代風の可愛らしい服に身を包んだエクストラがこれ以上ない程に上機嫌にマスターの腕に抱きついている事以外は、入った当初とほぼ変わらない状態だったが、抱きつかれているマスターもどことなく嬉しそうだ。彼の場合は、エクストラ程の美少女に抱きつかれている事ではなく、人肌を感じられるスキンシップ自体が嬉しいのだろうが。 最初は慣れない膝よりずっと短いミニスカートに恥ずかしがって引っ張って丈を伸ばそうとしていたりもしたエクストラだったが、今はもう慣れたのか、一緒に買ったこげ茶の編み上げのロングブーツも相俟って、むしろ見せつけるように堂々と歩いている。 むしろ何故あんな恥ずかしい武装をしておいてミニスカートで照れるのか全くもって理解不能であったアーチャーだが、敢えてつっこまずにマスターの服を買う為にメンズ服売り場に急いでいた時、それは起こった。 「うっわなにあの人、ほっそ! きもいわー」 「「!!」」 不意に聞こえた、その無遠慮な侮辱に、アーチャーとエクストラはさっと顔を強張らせた。 すれ違いざまに聞こえた、十代半ばらしき少女の声。 今のは恐らく、いや間違いなく、彼らのマスターに向けられた言葉だった。 はっとしてマスターを見れば、彼は歩みを止めて、少し困ったような、気まずそうな顔をして下を向いている。 「うーわ、ホントだ。いくらなんでも、あそこまで細いと気味悪くなっちゃう」 「ねー。あ、拒食症とか? うっは、ウケるんですけど!」 ケラケラという、笑い声。 あまりにも無遠慮なその言葉は、ぶすり、ぶすりと、マスターの身体に突き刺さっていっくような錯覚を覚えさせられる。 そして、全くの無関係な人間に予想だにしない事を言われたサーヴァント達も、あまりの驚きと衝撃で、しばし痺れたように動けなくなってしまった。 きっと彼女達に、その声をマスターにわざと聞かせる意図など微塵もなかっただろう。 けれど、ただの道端の話のタネにするだけに発せられたその何の思慮もない言葉には、隠そうという意図も、ある筈もなく。 結果、あまりにもはっきりと、それは彼らの耳に届いたのだ。 その意味が彼らの身体にようやく浸透した後、次に彼らサーヴァントの身を襲ったのは、これ以上ない程の怒りだった。 何も知らないくせに。 自分達のマスターが、お前たちが想像すらした事がないような、おぞましい、恐ろしい目にあっていた事など、微塵も知らないくせに。 それを、貴様らのような、無知な輩が愚弄するなど…………!! 「止めろ、エクストラ」 「!」 感情に任せて剣を実体化させようとしたエクストラの手を、アーチャーが掴んだ。 「何故だっ、何故あ奴らを………!!!」 「今は、そんな者たちよりマスターの方だろう」 努めて冷静に言うアーチャーは、それに反して、エクストラの手を掴む力がやたらと強い。 元々白い手がますます血の気を無くしていくのを見て、エクストラはようやくアーチャーも同じほど憤っているのだと解って、仕方なしに剣を実体化させるのを諦め、手の力を抜いた。 今まで、マスターは己の容姿について、周囲の目を知る事はなかった。 異常なほどに伸びていたひげや髪に驚く事はあっても、身近にいた男性であるアーチャーの肉体が通常よりもたくましかった事も相俟って、自身の体型が、周囲から見て明らかに細すぎるという事を、マスターは知らなかったのだ。 「(そ…っか。僕のからだは、きもちわるかったんだ)」 呆然と、それだけが彼の頭の中に残って。 ぎゅう、と僅かにしか力の入らない手で来ているスウェットを握りしめて、せめて少しでもその“きみのわるい”痩せぎすの首を周りに見せないように、マスターは襟の裾を上へ引っぱった。 ―――と、そこで、その襟を掴んでいた手が、柔らかい細い手に掴まれた。 「……………ぁ」 横を見ると、傍らには、穏やかな笑みをたたえた、エクストラの姿があって。 思わずきょとんとするマスターに、エクストラは何気ない様子でにっこりと笑って、その手を自身の手で優しく包み込んだ。 「奏者よ。余は、そなたの手が好きだ」 「…………………」 「やわく、細く。けれど、この手は余の髪を優しく梳く。余は、そなたに触れられるのが好きだ。だから、そなたのこの手も、愛おしく思っている」 「……………エクストラ」 呆然と、自身のサーヴァントの名を呼ぶしか出来ないマスターに、けれどエクストラはそれでも満足そうな顔をして、そっと彼の手の指に自分の指を絡ませる。 細い、それこそ骨の形までくっきりと見てとれるほど痩せた、ミイラのような彼の手が、程良く肉のついたしなやかな指に包まれる。 やわらかく、ほのかに温かいその感触に、マスターは知らずこもっていた力を抜いて、ほっと息を吐き出した。 「ただ、握っただけで折れそうなのがちと不満だ。これでは手も繋げんではないか」 「ずっと、寝ている時手をつないでいるじゃない」 「こうして握って、思いきり連れ回せないという意味だ。うむ、だからな、奏者よ。余がそなたをもっと色々な所へ連れ回す為に、さっさともっと肥えるがよい!」 それは、あまりにも自分本位な言い分。けれどだからこそ、何よりも率直に、エクストラのマスターに対する好意を伝えていた。 自分がお前ともっといろんな場所に行きたいから、お前も早く丈夫になれと。 あまりにも我儘で身勝手な言い分だが、それ故に、マスターにとっては、大好きな人が自分を好いてくれているのだと、何よりも実感できた。 「………うん、わかった。じゃあ、もっと太って、うんとエクストラと遊べるからだにならないとね」 「うむ。励むがよいぞ、奏者よ!」 えへへ、とはにかむマスターに、エクストラも頷いて頬を染めて笑う。 その、あまりにも曇りのない、無垢なまっさら笑顔を向けられて、彼らマスターのサーヴァント達は。 ああ、もう。と思うわけで。 俺らのマスターまじ天使と、思わない訳にいかないのであった。 というわけで、一か月以上休んでおりましたが、今回で更新再開です。 あと彼らは常時こんな感じです。 買い物編まだまだ続きますよ! あと1話くらいだとは思いますけど。 聖杯戦争なんのその。暇さえあればいちゃつくぜ! そんなエクストラ陣営です。 これからはなるべくハイパースで更新していきますので、どうぞよろしくお願いします。 2013.2.19 更新 ← |