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大晦日のはなし。





12月31日。
今年ももうじき終わるという頃。彼らエクストラ陣営のいるマンションの一室で、三人はのんびりと年越しそばを食べていた。

「それにしても、夕食後にさらにそばを食べて良いとは、年末というのは良いものだな」
「君は本当に食い気ばかりだな、少しは年の明ける風情を楽しんだらどうだね。マスターを見たまえ、初日の出を見たいと今から頑張っているんだぞ」
「ん………ん、がんばる、ます。おそば、おいし、し………」
「その努力も空しくもうすでに寝そうになっているが。奏者、寝てもアーチャーが起こすから心配するな。取り敢えず、年越しまで頑張るのだぞ」
「う………としこし、おとし、だま……」
「なぜ私が起こす前提だ。というかマスター、それは既に寝言になっていないか!?」

アーチャーによって手作りされた蕎麦と、その中に入ったカリッと揚げられた海老の天ぷらをもしゃもしゃしつつこっくりこっくりと舟をこぐマスターに突っ込みつつ、アーチャーは眠そうなマスターに苦笑する。
マスターは体力が低いため、普段は電池が切れるのが早いのでいつもは10時には寝ている。それが今は11時半まで踏ん張っているので、既に限界にきているのだが、初日の出はともかく絶対に紅白を見ながら年越しのカウントダウンをしたい、と1週間前から息巻いていたマスターを見ていただけに、彼を寝かせてやりたい気持ちはあるが、そうすると絶対に明日マスターが落ち込むと知っているので、心を鬼にして寝そうになるマスターを起こしてやるアーチャーとエクストラである。
というか、その理由がすでにマスターに甘々であるのだが、それにまるっきり気づいていないサーヴァントズだった。

アーチャーに冷たいお茶を飲まされて、その冷たさに半分強制的に覚醒させられたマスターは、自分が寝かけていたことに気付いてはっとして、慌てて眠気を覚ますためか、丁度紅白で流れ始めたAKB48の「恋するフォーチュンクッキー」を、エクストラと一緒に歌いだした。
といっても、普段エクストラが口ずさんでいるリズムを元にしている為、その音程は散々なものだったのだが。
それでも2人で楽しそうに歌っているのを見ていると、アーチャーの顔も自然と緩んでくる。

「マスター、初めての年越し蕎麦の味はどうだね? というか、君はそもそも蕎麦を食べるのも初めてだったかな」
「うんっ。触感がうどんと全然違うね。ラーメンとも違うし、僕はこの感じ好きだなあ。えびのてんぷらもおいしいし」
「うむ。この天ぷらのさっくりさ加減は文句の付け所がない。実に美味だ。大儀であるぞ、アーチャー」
「それはそれは、光栄の至りだよ」

口々においしいと言い募るマスターとエクストラに、アーチャーはおどけて胸に手を当てて深々と一礼してみせる。
それを見てまた楽しそうに笑うマスターたちに、アーチャーは穏やかな笑顔のまま、席に着き蕎麦に箸をつけ出した。

そうして、時々紅白で流れる歌に合わせて合唱して、アーチャーの無駄にイイ声の低ボイスにマスターとエクストラが爆笑したり、マスターがかわいいと言ったアイドル歌手にエクストラが嫉妬したりしながら、そろって年越しそばを完食した時、どこからか重い鐘の音が聞こえてきた。
聞きようによっては地響きにも聞こえるそれに、ごちそうさま、と手を合わせていたマスターは、それを聞いてぎょっとしたようにそわそわと辺りを見回して、不安そうにアーチャーとエクストラを見上げた。

「な、何だろうこの音。地震かなぁ。ねぇアーチャー、これだいじょう……うわっ」

若干怯えたように肩を竦めて炬燵の布団を肩までかけて身構えながらアーチャーに音の正体を聞こうとしたマスターだったが、それより先にまたボーンという音にびくりと肩を震わせて、怖がってぴゃっと布団の中に潜り込んでしまった。
その様子を見て、思わずアーチャーは噴き出す。
横を見れば、エクストラも同じように頭まで布団をかぶって、その上布団のふちをぎゅっと握りしめるという徹底ぶりだ。
1人けろっとしたままくすくすと笑っているのに気付いたエクストラとマスター両方にじとりと不満げな視線を投げかけられて、アーチャーは笑いを噛み殺しながら、それでもこらえきれていないまま説明してやる事にした。

「ふ……っくく、心配しなくても、これは地震の音でもなければ何かの兵器の音でもないよ。これは除夜の鐘といって、煩悩の数といわれる108回神社の鐘を鳴らすことによって、今年1年の煩悩を払い、また1年まっさらな状態で始められるようにする、日本伝統の行事だ」
「………除夜の」
「鐘、とな?」

アーチャーの言葉に恐る恐る布団から顔を出した2人に、アーチャーは安心させるように頷いて見せたが、しかしその途端また響いた鐘の音に、2人ともぴゃっととまた布団の中にもぐりこんでしまったのを見て、またアーチャーも噴き出した。

「わっ、笑わないでよアーチャー。ほんとに僕びっくりしたんだからっ」
「ふふ、すまないマスター。ほら、エクストラ、君も拗ねてないで顔を出したまえ。お詫びに、元旦のおせちは奮発しよう」
「むっ、それは本当だな!?」

途端にがばりと布団を跳ねのけて食いついたエクストラに、アーチャーは苦笑しながら頷いてやる。

「ならば伊達巻、余は絶対に伊達巻が食べたい!」
「じゃあ僕田作り!」
「はいはい」

意気揚々と庶民的なリクエストを出す2人にまた可笑しくて笑いそうになったが、それでまたへそを曲げられると困るので、アーチャーは何とかその笑いを噛み殺した。

と、そこで、ずっと鳴っていた鐘の音が鳴りやみ、いつの間にか、テレビでは年明けのカウントダウンが始まっていた。
つかの間きょとんとしてそれに3人揃って顔を見合わせて、慌ててそれに合わせ出したエクストラにつられてはっとして、それに続いてマスターとアーチャーもカウントダウンに声を合わせた。
じゅう、きゅう、はち、なな………

3人で声を合わせて言っていくうちに、なんだかおかしくなって、マスターとサーヴァント達は、声を合わせながらそれぞれの顔を見て笑い合う。

さん、にい、いち、ぜろ………

「「「明けましておめでとうございます」」」

言い終えた瞬間、示し合せるでもなく揃ってそう言った3人は、顔を見合わせて、やっぱり幸せそうにふっと噴き出した。

「うん。今年も宜しくお願いします、エクストラ、アーチャー。今年も大好きだよ」
「無論。余だって奏者が大好きだ。仲間はずれは良くないからな、仕方ない。アーチャーにも大好きと言ってやろう」
「はいはい、それは光栄だな」
「「アーチャーは?」」
「は?」
「アーチャーは? アーチャーは僕らのこと、好き?」
「な………」

あまりにもストレートなマスターの問いに暫しアーチャーが絶句すると、それを面白がるようににまにまとエクストラがアーチャーに意地の悪い視線をよこした。

「で? どうなのだ、アーチャー? 好きか? きらいか? ほれほれ、早く答えるがよい」
「…………君という奴は」

にやあっと目を細めて詰問するエクストラを憎々しげに睨み付けて、それでも嫉妬純水にアーチャーを見つめてその答えを待っているマスターにはやはり敵わず、むっつりとしたまましばらく黙って、やがて、絞り出すような声で答えを返した。

「…………嫌いでは、ない」
「嫌いじゃない? じゃあ好きでもないの? ねえアーチャー。アーチャーは僕達のこと好きじゃないの?」
「うっ……………………好、き…だ」

それが精いっぱいで、もうこれ以上は素直になるのは無理だ。
そう思ってぎゅっと目をつむってもう口を開くのを拒否するアーチャーに、マスターたちは顔を見合わせて、ふっと楽しそうに笑った。

「うん、僕らも大好きだよ、アーチャー」
「右に同じ、だっ」
「うるさい………」

じわじわと真っ赤になってうつむいてしまったアーチャーに笑って、マスターたちは年が1つ加算されたしても、やっぱり互い大好きで。素直じゃない弓兵だって、言葉には出さないが2人が大好きなのだ。
初詣にも行こうね、と笑うマスターに無言でうなずいたアーチャーに、やっぱりうれしくなって、マスターとエクストラは、顔を見合わせくすくすと笑った。






2013.12.31 更新





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