拍手ログ | ナノ

ペチカ



しんしんと雪が降り積もるなか、初音は両手を広げて楽しそうにその雪の降る中庭を駆け回っていた。

「初音、あまりはしゃいで滑って転んでも知りませんよ」
「はーい!」

あまりにも勢いが良いものだから念の為声をかけると、初音は満面の笑みで楽しそうに元気よく返事をして、けれど少しもはしゃぐテンションも走る速度もゆるめずに雪の上をくるくると回りながら駆け回っていた。
ああ全く、本当に転んでしまっても知りませんよ。

「…………楽しそうだな、メフィスト」
「何の事です? ネイガウス」

後ろに立っているネイガウスにちらりと視線を向けると、手に持っていた書類を差し出しながら初音の方を顎でしゃくって示した。

「随分と可愛がっているんだな、と」
「さて、何の事か私にはさっぱりですね」

肩を竦めてそう言うと、お前がそう思っているのなら何も言う気はないが、と宣うネイガウスの方をちらりとだけ見て、そしてまた雪の中を駆けている初音に視線を向けた。
そして彼の言葉を頭の中で反芻して、はっと小さく鼻で笑った。
可愛がっている? 私が?
まさか。初音を引き取ったのもこうしてあの子を側で見ているのも、ひとえに単なる気まぐれに過ぎない。
大体、この私があんなただの小娘に心を割くなど、有り得るわけが…………。

「あ、………っ」

つい先程気をつけろと言ったそばから、初音がただの雪だるまだと思っていたスノーマンが立ち上がったのに驚いたのか、ずるっと滑って仰向けにすっころんでいた。

「あああ…」

そら見たことか言わんこっちゃない。
はあ、と額に手を当ててやれやれと首を横に振ってから、手に持っていた書類をネイガウスに押し付けて初音の元へ向かった。

「ぱ、ぱぱ…びっくりした……」
「まったく。だからあまりはしゃぐなと言ったでしょう。お前は本当に私がいないと駄目ですねぇ」
「えへへへ…」

やれやれと溜息をついて初音を立たせると、ぱんぱん彼女についた雪を払ってやる。
そう。私がこうしてこの娘に構ってやっているのは、これが私無しでは生きられないからだ。それ以上でも、それ以下でもない。
そう心の中で結論づけながら、照れたようにはにかむ初音を見て感じた心の温もりに、そっと気付かぬふりをした。









「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -