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君とさえいればいつだって




「男になりたい」

何の前触れもなく、オレのベッドを占領しつつ枕に顔面をぐりぐりと押しつけながらドスの利いた低い声でボソッと呟いた初音に、ジャンプから顔を上げてそっちを振り向いた。
オレがこのくそ寒いなか暖房の禁止された部屋で少しでも快適に休日を過ごす為に下でホットココアを作って戻ってくる間に、いつの間にかこいつはこの状態でオレの部屋にいた。
それからオレが何を言っても全くの無視状態でいい加減話しかけるのにも飽きてきて手元のジャンプに意識を奪われかけた頃にこの呟き。こいつはオレに何か恨みでもあるんだろうか。そんな訳の解らないかつ意味深(ッぽい?)事を言われたら気になるだろうが。

「なに、何かあったの?」

いっそ体育祭の時のやつを、嫌でもあれは別に男になったってわけでは、とか何とか枕に顔をうずめたままぶつくさと言っている初音に仕方なしに話しかけると、ようやく真っ白の髪の海から橙色の眼がこっちをちらりと見た。

「おなかがいたいの。ついでにきもちわるい。はきそう」
「えっと、…………ドンマイ」

物憂げにぶつぶつと言葉を切って言う初音に、何と言って良いか考えて、結局何も浮かばなくて励ましの言葉を贈ると、心なしかは初音の眼光が鋭くなったような気がした。

「酷い。こんなに苦しんでる可愛い親友に向かってよりによってそれ? 有り得ない、ナンセンスだわ。もう綱吉の存在自体がナンセンス」
「人の存在まで勝手に否定すんな。後本当に可愛い子はまず自分で可愛いとか言わない」

う゛ーう゛ーと唸りながら絞り出すような声でぶつくさ言う初音に、努めて冷静に言い返す。
お前なんて全く眼中にありませんよと言う顔をしながら、ちら、と初音の全身に目を向けた。

正直に言うと、かなり、可愛いとは思う。
顔は小さいしその中のパーツだって1つ1つ申し分のない位置と形だし、背だって160cm以上あって、その長身に見合うくらいすらっと手足も伸びていて、白くて細くて、どことなくふっくらとしているように感じる。
それに、何て言うかその、中1とは思えないぐらい、ええと、ボリュームのある胸をしている、と思うし、ウエストは引き絞ったようにキュッとして、キレイなラインを描いていると思う。

「はいはい、どうせ私なんか京子のあしもとにも及びませんよーだ」
「別にそんな事言ってないだろ。じゃあほら、ココアやるよ。オレの飲み掛けだけど。これでも飲んで身体あっためれば?」

折り畳み式の水色のテーブルの上にあるマグカップを取って、初音の目の前に持って来てやる。
そうすると初音は薄眼を開けて、マグを受け取って口に近付けると、一層顔色を悪くした。

「……………きもい」
「あ?」
「あまいにおいかいだらますます気持ち悪くなった。はきそう……」
「えええっ」

顔色が、色白を通りこして青白い。
流石に心配になって、慌てて初音からマグを取り上げると、膝かけ代わりに使っていたタオルケットを、彼女の腹部辺りにかけた。
初音の顔色がよく見えるように、額にかかる前髪を書きあげて、念のため手を額にやって熱があるか確かめる。

「熱は別にないみたいだけど…どうする? 母さんに言って胃薬持って来てもらおうか?」
「ううん、いい。薬って苦手なの」

相変わらずすべすべの肌をなぞりながら言うと、初音は弱々しくそう言って首を振った。
女の子の腹を撫でる訳にもいかないし、とりあえず体を温めるような何かを持ってくる事にした。本当に吐く事になったら、それこそ大変だし。

「初音、オレカイロ探してくるから、ちょっと待ってて」
「……………綱吉」
「ん?」

呼び止められた声に上げかけた腰をそのままにして初音を見ると、ふらふらと危なっかしく手を持ち上げて、そっとオレの手を握った。と言うよりも、手を添えたという表現の方が正しいかもしれない。
その手をきゅっと握ってやると、初音は枕に半分顔を埋めたまま、嬉しそうに顔を綻ばせた。

「なに? オレはここにいた方がいいの?」
「うん……。一緒にいてくれると、ほっとする」

言葉通り本当に安心しきった顔をする初音に、そう言えば今こいつの傍に両親はいないんだと、当たり前の事に気が付いた。
それを思うと、1人でこっちになんて来なければよかったのにと思うけど、もしこいつがここにいなかったら、オレはこんなに安心できる場所を手に入れる事は出来なかったから、やっぱり、勝手だけど、こいつが今ここにいて、オレの一番の味方でいてくれてよかったと思った。
いつか、いつかだけど、初音のご両親にも会ってみたい。もし出来たら、今の初音と母さんみたいな関係を、オレもその人たちと築きたいなと、たまに思う。
きっとすごく素敵な人達なんだろうなと思いながら、初音のさらさらな髪を混ぜながら頭を撫でた。

「何かしてほしい事とかある?」
「ううん、傍にいてくれればそれでいいや」
「そっか」
「あ、あと………」
「?」

少し恥ずかしそうに目を伏せる初音に不思議に思いながらも先を促すと、少し間を開けてから、桜色の口を小さく開いた。

「そのまま頭を撫でててくれると、うれしい、かも………」

オレの様子を窺うようにちらっと目を向ける初音に、何だか可笑しくなって吹き出した。
途端に不機嫌そうに頬をふくらます初音の頭を、わざとぐしゃぐしゃに撫でてやる。

「いいよ、初音が寝るまで撫でてずっとてやるよ。それで、また起きるまで、ここで待っててあげる」

初音の手を握ったまま、初音の頭を撫でたままにっと笑って見せると、初音は一瞬きょとんとして目を少し丸くすると、それからうれしそうに、まるで灰色の世界にしんしんと降る白雪みたいに、ふんわりときれいに微笑んだ。

もっと、この笑顔が見れればいい。
オレだけに向けられるオレだけのこの笑顔を、ずっとずっと隣で見ていられたのなら、もうきっと、オレは他に何にも要らない。

そんなあほみたいな事を思いながら、初音に応えるように笑って、初音が眠りに着くまで、ずっと頭を撫でて、初音がまた眼を覚ますまで、ずっと彼女の手を握りしめていた。





君とさえいればいつだって
(オレは幸せだよ)(ふふふ、わたしも)





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でもお腹痛い理由がガールズデイっていうねwww










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