小説 | ナノ


これぞ本当の…!?





ピピピピピピ……という在り来りな目覚まし時計の音で、目を覚ました。

「ぅ…んーっ……」

上半身だけ起こして、ぐぐーっと伸びをする。
それから、もう大分慣れたベッドから下りて、洗面所へ向かった。

今日は8月31日。

夏休みも残るは今日の1日だけ。
だから、今日は何時ものどたばたとは縁な無い、ゆったりとした日を過ごそうと思った。




………………ん、だけど…。

〔初音ー!! もーヤバい! マジヤバい! どーしよー初音ー!!!]」
「うわっ……と、はいはいなあにー正ちゃん。こんな朝っぱらから」
〔どーしよ初音ー!! 夏休みの宿題が終わらないー!!〕
「えー……っと。どーどー、落ち着いて正ちゃん。大丈夫だって、どうせ残りの宿題って正ちゃんが難しいって唸ってた論文だけなんでしょ? 私がいなくたって十分出来るよ」

朝一にかかってきた正ちゃんの切羽詰まったような声に、ケータイを落としそうになりながらも対応した。
ついでに、残っていた眠気も全て吹っ飛んだ。

〔お願いだよ##NAME1##ー! 僕ん家来て論文手伝って! 資料がどっか行っちゃったんだよ!!〕
「もう…それは正ちゃんが何時もちゃんと部屋の整理をしてないからでしょ? 自分で探しなさい。それに……」

私が正ちゃんを言いくるめようと口を開くと、がらりと乱暴に私の部屋の窓が開いた。

「##NAME1##っ! どーしよ夏休みの宿題まだ終わってない!!」
「………急用が入っちゃった。じゃあね」
〔え、初音ちょっと待……っ〕

慌てる正ちゃんとの通信を強制的に断ち切ると、くるっと綱吉の方を振り返った。

「おはよ、綱吉。……で、ドコが終わってないの?」

それに、正ちゃんが終わってないのなら、綱吉が夏休みの宿題を終わらせてるはずがないんだから。











「………で、ここにこうやってXを代入して解くの」
「あ、成る程ー。すごいね初音。本物の先生よりも解りやすいや」
「あはは、おだてても何も出ないよー」
「そんなつもりは全然無いよ。あ、でもおやつは初音特製のさくらんぼのジャムがたっぷりかかったパンケーキが良いなぁー」
「ふふふっ、はいはい」

問題を教えながら軽口をたたき合い、綱吉の台詞に2人で顔を見合わせて、ぷっと同時に吹き出した。
今、私は居間で向き合った形で、綱吉に勉強を教えている。
ちなみに課題は数学のワーク丸々一冊。
これは授業でも度々使ったり宿題に出たりしているので、真面目に熟(コナ)していた生徒なら残り10数ページ程度だ。
……………が、まあ想像するまでもなく、当然綱吉は全然進んでいない。
授業中では寝て怒られ、家では宿題をせず怒られ、
とにかく年中無休で怒られっぱなしの綱吉のワークは、そりゃあもぉびっくりするくらい進んでいない。

まったく、私が居ない時は綱吉を頼んだよって言っといたのに……。
使えないなぁあの忠犬は。次から駄忠犬ハヤ公って呼ぶぞもう。

「そういえば、宿題はあと何が残ってるの?」
「えっと…国語がちょっとと英語の書き取りが全然……。あ、あと日本史の下調べと「はいストーップ」」

ものの見事に夏休みの宿題の大半をやっていない綱吉に、私は思わず深いため息をついた。
流石に1日でこの量はちょっとムリがあるなぁ……。

「ま、とにかく頑張るしかないね」
「うん……」

半泣きになっている綱吉を撫でて、また2人で問題に向かい合った。

―――ピンポーン

「あ、呼び鈴が…」

額から頬へと流れ落ちる汗を拭って、呼び鈴を鳴らした人に応対をしようと立ち上がった。

「ごめん、ちょっと待ってて。あ、勉強は続けててね」
「はぁーい」

綱吉の暑さのせいか気の抜けた返信に気づかれないようにクスッと笑い、何回もピンポンピンポン呼び鈴を鳴らしているはた迷惑な誰かの顔を見に行った。

「はいはいどちら様ー? 言っときますけどうち新聞は間に合ってます……んで」

何時もこの時間に来る人といったら決まって新聞勧誘のおじさんだったから、何時もの調子で適当にあしらおうと玄関のドアを開けながらそう言ったが、ドアの向こうに居たのはビジネススーツを着たおじさんではなく、我がクラスメート達が立っていた。

「……………へ?」
「ちょっと、別に新聞勧誘しに来てるわけじゃ無いわよ」
「ごめんね、夏休みの宿題、初音ちゃんにも手伝ってほしくて。あっ! コレ、ラ・ナミモリーヌの新商品の「ひんやりババロア」。お茶菓子に持って来たんだー」
「よっす、桜龍寺。ツナん家に行ったら、ツナのお袋さんにツナは桜龍寺ん家に居るって聞いてさ。ツナと一緒に宿題やりに来たんだ。なあ獄寺?」
「っせーよ野球バカ。おい桜龍寺。10代目にオレが来たっつっとけ。きっと両手を上げて喜ばれるに違いねぇ」
「(もろ手を上げて逃げ出したくなるだろうね)」

上から花、京子、山本くん、隼人の順で、口々に好き勝手物を言う4人に苦笑した。

「いらっしゃい、4人共。京子、そのババロアは冷蔵庫に入れておくね。
今日のおやつはさくらんぼのジャムたっぷりのパンケーキにする予定だったんだけど…………」
「え! じゃあ初音ちゃん、私それが良い! ババロアはその後たべよう!?」
「あんまり食べ過ぎちゃダメよ、京子。ってか初音、アンタそんな面倒な事よくしようと思うわね」
「んー、まあ一種の趣味だから」

京子と花と話し込みながら居間へ行くと、そこには汗みずくになってテーブルに突っ伏している綱吉がいた。

「わ、綱吉大丈夫?」
「全然…大丈夫じゃない……。ていうかクーラーはぁ…?」
「クーラー? あ、ごめんごめん忘れてた。それとさ……」

リモコンを手に取ってピピピっとクーラーを操作しながら、居間の入口に親指を向けて言った。

「京子達来たんだけど」

そう私が言うと、……………………………………。と、ちょっと長めに沈黙をおいて。

「…………っはぁっ!!?」

綱吉は驚いたように顔を上げて、私の指差した方を向き、それから顔をサッと青くした。

「きっ、きょっ、京っ…京子ちゃん!?」
「おはようツナくん。初音ちゃんと仲良いんだね」
「え! や! まあ、その、仲は悪く無いんだけど、今日は宿題手伝ってもらう為に家に居るんであって、何時も家に来てるわけじゃ無いからね!? 初音! ちょっとオレシャワー浴びて来る!!」
「へ私ん家の?」
「オレん家の!」

そう言ってダッと走り出す綱吉に比較的大きな声で声をかける。

「私ん家の使えばー? 簡単な服なら置いてあるよー?」
「何でせっかく京子ちゃんがいんのにわざわざだるだるなの着なきゃいけないんだよ!!」

走り去る綱吉に私が声を掛けたが、ビシ、と一刀両断され、また綱吉はドタバタと音を立てながら走って行った。

「あーあ、行っちゃった」
「………アンタ等、ホントに付き合ってないの…?」

綱吉が走り去って行った2階へと続く階段を見て言うと、花が唖然とした表情でそう私に言った。

「有り得ない……よりによって初音とダメツナが…」
「いやいや、別に付き合ってなんかいないって。っていうか、そんなに驚く事?」

花が酷くショックを受けたようにぶつぶつと呟くので、苦笑いしてそう問うと、凄い勢いでガシッと花に肩を掴まれた。

「大有りよ!! 何なのよもぉ最悪!!! 何時も思ってたけど、アンタ等ちょっと仲良過ぎなのよ! 何よあの蜜月通り越して長年連れ添ってきた夫婦みたいな雰囲気は!!」
「え、わ、私に言われても……。それにホラ、綱吉は可愛い弟みたいなカンジで…」
「ウソおっしゃい!!」
「え〜?」

花にガックンガックン肩を掴まれ揺さぶられた状態で必死に弁解したが、花にはものの見事に相手にされなかった。

「っていうか吐くっ……! は、花っ、離して………!! 吐くって!! 良いの!? 吐いてしまうよ私はっ!」
「あ、ごめん初音、ジュース勝手に持って来ちゃっ………てぇえ!?」

ガックンガックン肩を揺さぶられながら花に手の解放を求めていると、人数分のコップとオレンジジュースを持ちながら居間に入って来た綱吉がそれを見て絶叫した。

「わー――――――――!!!? ちょっ! 黒川黒川離してあげて! 初音が死んじゃう!!」
「あー、平気よ平気。初音はたくましいから平気なの」
「いや、全っ然平気そうじゃないんですけど! だってホラ! 顔とか真っ白だもん!!!」

私が意識を朦朧とさせている間に話を着けたらしく、花に肩(その時はもう殆ど首を揺さぶられてる感じだった)を離してもらい、テーブルに手を着いて、ひたすら喉に空気を送り込んだ。

「………殺されるかと思った…」
「へーきへーき。死んでないんだから良いじゃない」
「…いや、謝ろうよちょっとは……!」

こっちは酸欠と吐き気で死にそうだったっていうのに、何て事無いみたいに言う花をキッと睨みつけたが、花はそれをサラっと無視して、勝手にテーブルに宿題を置き始めた。

「ちょっと花!!!」
「別に良いじゃない。ホラ、沢田も早くジュース注いでよ。アンタ達も、早くやんないと終わらないわよ」

………この家の主は私なのに、なんかもう主導権が花に切り替わっている。
流石は生粋の姐御肌。あの隼人までもやすやすと従えて、瞬く間に家に来た来客全員を席につかせてしまった。
そして、ポカンとしている私を見て一言。

「ホラ、早く初音も座んなさい。アンタが居なきゃ始まらないでしょ?」

サラリと私が欲しがっていた言葉をくれる花に、ひそかに尊敬しながらも二つ返事で頷いた。






「――――で、この場合はYを代入してこう解くの」
「あっ、そっかぁ! ありがとう初音ちゃん、教え方上手だねぇ」
「ありがと京子」
「##NAME1##、これはどう解くの?」
「ああそれは……」

再び始まった勉強会。
今度は綱吉だけじゃなくて、京子や山本くん達の勉強も見なきゃいけないから大変だ。
あっちゃこっちゃ歩き回らないといけないしね。

「っていうか、隼人、何で綱吉の宿題終わらせてないのよ。私が居ない時とかはちゃんと綱吉の面倒見てって頼んだし、何より「10代目の宿題はこのオレに任せろ!」って言ったのは他でもない隼人自身じゃない」
「ぐ、………それは…」

私が隼人を軽く睨みながらそう言うと、隼人はくぐもった声で小さく唸って私から目を反らした。

「いや……それはその………」
「…はぁ、まあ良いわ。過ぎた事を何時までもぐちぐち言ってても始まらないし。そのかわり、宿題教えるの手伝ってよね?」
「……………あいよ」

私が隼人の顔を覗き込んでそう言うと、隼人はしぶしぶといった感じだったけど承諾してくれた。
あ、なんか隼人がホントに犬みたいに見えてきた。

「ふふふっ、かぁーわいー」
「なっ、誰が!!」

隼人の顔を覗き込んだ状態でそう言うと、案の定隼人は顔を真っ赤にして私から目を反らした。

「初音ー、獄寺はほっといて、この問題の解き方教えてよ」
「あ、はいはーい」

それを見てクスクス笑っていると、花に呼ばれてまた皆の宿題を手伝い始めた。

こんな風に、お昼にははパンケーキをつまみながら皆でワイワイと楽しくやっていたが、時間が経つにつれ、そんな余裕は徐々に無くなってきた。

「ちょっと! ヤバいわよ、このペースじゃ終わんない!!」
「あっ………! どうしよう初音ちゃん! 私日記の宿題全然やってなかった!」
「え!? そんなのもう、適当にやっちゃいなさい!! 綱吉! 英語の書き取りは終わった!?」
「お、終わったけど、数学が全然進まない……」
「10代目! ですから、ここをこうする事によってですね?」
「え、え? 全然解んないよー!!」

宿題のワークと教科書を照らし合わせながら焦る花に、たった今見つけたらしい日記帳をもって困った顔をする京子。
さらにわたわたと慌てる綱吉に隼人が必死で数学の公式を教えるが、綱吉は焦りのせいか内容が全く頭に入って来ないらしく、完全にテンパっている。

「…何このカオス状態……。ていうか、山本くんは宿題終わったの?」
「ん? おお、桜龍寺のおかげでバッチリ終わったぜ」
「そう……」

そうだった。この人やれば出来る人だった……。
皆がわたわたと慌てている中1人だけ何時もの笑顔を保っている山本をちょっと唖然として見つめていると、今度はけたたましく玄関の呼び鈴が鳴った。

「うるさっ…はいはいどな「初音ちゃぁぁぁぁあぁあん!!!」わわっ…ってハル!?」

ピンポンピンポン煩く鳴り続ける呼び鈴を止めるべく、耳を押さえながら玄関のドアを開けると、ハルが勢い良く飛びついてきた。

「もうっ…ハルはダメです。1人ではとても耐え切れません!」
「は? ちょっ、ハル落ち着いて、ね?」

さらにいきなりえぐえぐと泣き出してしまったので困った。
とりあえずハルの背中を撫でながら居間に入ると、またこのカオスな状態に頭がだんだん痛くなってきた。

「ああ……やだなぁホント…。で、ハルは何? どうせ宿題が終わらないとかでしょ?」
「はひっ、その通りです…」
「そっか。じゃあ座って座って。勉強始めるよ」
「はひ……」

ハルの手を引っ張って席に着かせると、パンパンと手を叩いた。
驚いた顔をして私を見る一同を見渡して、一言。

「ほら、とっとと勉強始めるよ」

まったく、世話のやける友人達だ。




これが本当(ホント)の…!?
(夏の風物詩というモノじゃないだろうか…)(初音ちゃーん!! こっち助けてー!)(はいはい)





おまけ

―宿題全員終了後―


「………ふぅ、なんとか全員終わったわね」
「一時はどうなる事かと思ったけどねー」

日がとっぷりと暮れた頃、やっと全員の夏休みの宿題が終わり、私と京子は初音の家で一息ついていた。
ちなみに、獄寺と山本は宿題が終わった後早々に立ち去り、途中でやって来たハルとか言う子も、もう帰って行った。

勝手に煎れた紅茶を飲みながらぐるりとリビングを見渡すと、額と額を仲良くくっつけ合って寝ている初音と沢田が目に入った。

「あーあー。そんな所で寝て、風邪ひいても知らないわよ?」

そう独り言を言って、2人の顔を覗き込んだ。
まあまあ初音ったら、安心しきった顔しちゃって。獄寺が見たら激怒しそうな光景ね。

「…………沢田も初音も、早く自分の気持ちに気付きなさいよね」

初音を頼んだわよ、ダメツナ。

そんなコトを思いながら、カシャリとケータイで2人の寝顔を撮らせてもらった。


………だって、初音があまりにも可愛かったんだもの。







今日は夏休みの最終日の並森ズを書かせていただきました。
夏休みの宿題ってイヤですよねー。
早めにやろう早めにやろうと思っていても、気づいた時にはもう夏休みあとわずかになってたりするんですもの。私だけかもですが。

ちょっと花が出ばったりしましたが、うちの初音達は何時もこんな風にドタバタして過ごしてます。というはなしでした!





2009.11.27 更新
加筆 2011.10.2