小説 | ナノ


雪みたいな



標的1綱吉視点



着慣れない制服で、今にも肩からずり落ちそうな鞄を担ぎ、自分が今っ出来る最速の速さで走る。といっても、対して速くも何ともないんだけど。
まだちょっとしか走ってないのに、もう息が上がっている情けない体に、思わず溜息が出る。
今日は入学式で、まだ時間があるからと高を括って先に母さんを家へ出したのがいけなかった。
出発直前に靴が見付からなく、やっとの思いで見付けたけど、履き慣れないせいか早速靴ずれしてしまった。

「…っは、こうなりゃ…ち、近道っ…!」

独り言を言うのもままならないまま、近道の裏路地を突っ切り、その次の角を曲がろうとすると…

「きゃっ…!」
「うわぁ!!」

誰かにぶつかってしまい、情けない声を上げながら尻餅をついた。

イテテ…、と腰の辺りを摩っていると、向こうも同じように腰の辺りを摩っていた。

「あ、あの、大丈夫ですか…?」

慌てて立ち上がり、ぶつかって仕舞った相手に手を差し延べると、初めてその顔をちゃんと捕えた。
その顔に、オレは思わず息を呑んだ。

髪の毛は、雪みたいに真っ白で、でも日が当たると白銀色に光る。
そして日本人離れした整った顔立ちに、不思議と暖かみのある蜜色の瞳…。
その全てに、思わず吸い込まれそうな感覚を覚える。

自分が彼女に見とれていた事に気付いてハッとすると、彼女も同じようにじっとオレの顔を見つめていた。
ただ、オレみたいに見とれていた訳じゃなく、何か凄く驚いたような顔をしていた。

「…? あの…?」

不思議に思って小首を傾げていると、少しして何か覚悟を決めたような顔をして、オレが差し出した手を掴んで立ち上がった。

「ごめんなさい、ちょっと余所見をしていて。あなたも新入生? 私は桜龍寺 初音って言うの。貴方は?」

にこりとその綺麗な顔で微笑まれて、オレも少し吃驚しながら慌てて謝った。

「あ、えっと、こちらこそぶつかってごめんっ!
オレは沢田 綱吉って言うんだ。“も”って事は君も新入生なの?」
「ええ」

そう聞くと、クスッと笑って頷いた。

「よろしくね。私の事は初音って呼んで?」

そう言って手を差し延べられると、オレも慌てて手を差し延べて握手した。

「うん。オレの事は綱吉って呼んで。よろしく、初音」
「こちらこそ、よろしくね」

そう言ってふわりと笑った顔は、柔らかい雪みたいな、不思議な暖かさを持っていた。




雪みたいな
(その笑顔に)(思わず顔が熱くなったのは秘密)





4.12 更新
加筆 2011.8.31