短編 | ナノ


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※学パロです。真名ネタばれあります



「何が駄目だったんでしょう……」

学生たちで賑わう食堂のテーブルで、ランスロットは暗い面持ちで組んだ手の上に額を乗せて項垂れる。
それに向かいあって対するディルムッドは、困った顔をして首を傾げる事しか出来なかった。

「何が、と言われてもなあ」

がっくりと暗い面持ちでうなだれるランスロットに、正直ディルムッドは苦笑いするしかない。
ディルムッドは、3人の幼馴染の1人であるである彼を、もっとずっと聡明な男と思っていたのだが、どうやら色恋沙汰に関しては馬鹿になるらしかった。
つい先日、彼らの幼馴染の1人である1人の少女が、ものの見事に彼氏に振られた。
理由は知らない。だがもう1人の幼馴染であるアルトリアが泣きじゃくる彼女の言葉を聞いた途端、鬼の形相で約束された勝利の剣(もとい教室にあったでっかい三角定規)を引っ掴んで、影では「あかいあくま」と名高い遠坂 凛と共にその相手に殴り込みに行って血祭りに上げていたので、きっと聞くのも嫌になるような下種な理由だったのだろう。

しかし、問題はそこからだ。そうしてえぐえぐと涙を流す彼女を見て、ランスロットとディルムッドは勿論真摯に慰めた。誠心誠意慰めた。それはもちろん幼馴染である彼女が心配であったからだし、もし彼女を更に泣かせるようなへまをしてしまったら、我らが騎士王に自分たちも血祭りにされかねなかったからだった。
しかし、何時まで経っても泣きやまない彼女にディルムッドが困り果てていると、ランスロットが行動を起こした。
そっと彼女を抱きしめ、あやすようにそっと背中をさすったランスロットを見て、ディルムッドは思わずおお! と心の中で叫んだ。このまま寝かしつけるという、幼い頃はよく泣いた彼女に彼がしていた術を実行すると思ったからだ。
だが、ランスロットはそのまま一旦身体を離すと、彼女の顔を両手で包みこみ真剣な顔で彼女を見つめた。
そこで僅かな違和感を感じて、ディルムッドはうん? と首を傾げる。

「ねえ、そんなに泣かないで下さい。貴女が無くと、私まで悲しくなる」
「だ…って、好き、だったの……本気だったんだもん……」

ひく、と喉を引きつらせる彼女を見て、ディルムッドは瞬間アルトリア達の元カレ制裁隊に加わらなかった事を後悔した。マジで殺してやろうかと、彼が生まれて初めて本気で殺意を抱いた瞬間だった。
しかしそんなディルムッドなどお構いなしに、ランスロットは苦しそうな顔で、彼女を見つめながら続ける。

「貴女が彼を本気で愛していたのは知っています。………けれど私だって、ずっと貴女の事を、昔から想っていた」
「………………え?」

え? と思ったのは、ディルムッドも同じだった。
ピシリと固まる彼を余所に、ランスロットは尚も続けていく。

「貴女を悲しませる男の事など、忘れてしまって。私を見て下さい。私なら、貴女を悲しませたりなどしない。絶対に、誰よりも幸福にしてみせる」
「ぇ…ぁ、う……その、あのぅ…」

みるみる真っ赤になっていく彼女の目には、もう涙は流れていなかった。というか、いきなりの事態に頭がついていかないのだろう。
呆然とランスロットを見上げる彼女に、ランスロットはとろけるような笑顔を浮かべた。
それは酷く美しい情のこもった、その美貌を最大限に生かすものだった。

「貴女が好きです」

瞬間。
ディルムッドが気付いた時には、もうランスロットは椅子ごと真後ろに倒れていて、彼女は脱兎のごとく逃げ出していた。きっと、色々とパニックになって耐えられなかったのだろう。
そうどこか冷静に事態を推測するディルムッドとは対照的に、倒れたままのランスロットは呆然と倒れた状態から微動だにせず、天井を見たままぽつりと呟いた。

「何が駄目だったんでしょう……」

翌日から、彼は彼女にメール・電話共に着信拒否にされたらしい。

「…………馬鹿だろう、お前は」
「失礼ですね、貴女よりも模試の順位は良いですよ」

いやそういう意味じゃなくて。
思わずそう突っ込んだディルムッドだったが、ランスロットは不思議そうに首を傾げるだけなので、彼は諦めてがっくりと肩を落とした。

「しかし、脈が無いと解っていながらあんな行動を起こすとはなあ……無謀としか俺には思えん」
「はい? 脈ならありますよおもいっきり。彼女は間違いなく近いうちに私に惚れます」
「………は?」

ご愁傷様、というように苦笑いして言うディルムッドに、ランスロットはきょとんとした顔であっけらかんと言ってのける。
そのどこから来るのかも解らない異様な自信に、思わずディルムッドはげんなりした顔で肩をすくめた。

「何処から来るんだその自信は。お前がナルシストだったとは驚きだ」
「違いますよ。そもそも私だって、勝算が無ければあんな事言いません」

憮然として言う幼馴染に、ディルムッドは半分呆れたが、彼が本当に勝算のない事に手を出した事は、今まで一度もない。どんなに無謀に見えても、ランスロットは最後には必ず成し遂げていた。
それを考えると、何だか結局は彼女をものにしてしまいそうな気がしてくる。

「…………まあ、頑張れよランスロット。もしそうなったら祝いに何か奢ってやる」
「おや。では楽しみにしていますね」

では駅前のキングステーキセット(¥1800)奢ってください。と爽やかな笑顔でのたまうランスロットに、ディルムッドは同じく周りの女生徒が卒倒してしまうくらいの爽やかなシャイニーフェイスを浮かべ、「寝言は寝て言え」と両断した。