短編 | ナノ


どうやらもう手遅れのようだ



そーれ、なんて言って、きゃっきゃとはしゃぎながら校庭でバレーボールをしている、黒川と、京子ちゃんと、五木さん。
それを屋上から眺めながら、ついさっき購買で買った紙パックのいちごおれにぶすっとストローを突き刺し、じゅーっとわざと音を立てながら飲み込む。
そんな俺の様子を見てかはたまた別の理由か、俺と同じようにボーっと紙パックのマミーを飲んでいた山本が不意に口を開いた。

「なあ、ツナと五木って付き合ってんだよな?」
「ぶっ」
「うおっ」

山本のストレートな物言いに、思わず口に含んでいたいちごおれをぶっと吹き出す。そのままげそれが気管に入った所為でほげほと咳き込んでいると、吃驚した顔をした山本が、背中をさすってくれた。ったく、吃驚したのはこっちだっての。
確かに、オレと五木さんは一週間前に付き合い始めた。京子ちゃんや黒川とよく一緒にいる所を見たり、偶に話したりして、すごく可愛い子だな、って思ってた。
まあそんな子と付き合えるなんてはなっから期待してなかったし、告白しても玉砕して落ち込むだけだって諦めていたんだけど、一週間前に、五木さんに告白された。
それをどもりながらも必死にOKしたんだけど、何でそれをお前が知っているんだ、山本。

「や、だって教室で笹川たちが話してたし」

ウソだろおい。
じと眼で睨んでそれと同じような事言うと、あっけらかんと返された。
しかも獄寺くんまで知っていたらしい。山本の隣にいる彼が申し訳なさそうにしているのを良いよ気にしてないしと苦笑して手をひらひらさせてから、脱力してフェンスに全体重をもたれさせた。
何だよそれ、って事はほぼクラス全員が知ってるってことじゃん。やばい恥ずかしすぎて死にたくなってきた。
撃沈してる俺を見てまあ気にすんなよと山本は言ってるけど、それ絶対他人事だからこそ言える台詞だからな。くそ、こいつに彼女が出来たら絶対にからかってやる。てか何でこいつ彼女作んないんだよ、モテるくせに。

「ツナもみずくせーのな、俺らだち何だから教えてくれたっていいじゃねぇか」
「だって恥ずかしいだろ、それに、言うタイミングってものがあるし」

けらけらとお気楽そうに笑う山本を若干ウザく思いながらそう返すと、山本はふうんと意味ありげに笑った。

「でもさあ、お前ら付き合ってるわりに一緒に帰ってねえなあって思って」
「え」

山本の言葉に、返そうと思って開いた口は何を言えばいいかよく解らなくて、結局閉じる事になってしまった。
確かに、オレ達は付き合ってから、告白されたあの日以来、一緒に帰った事が無い。それはただ単にオレが気恥ずかしいって言うのもあるし、タイミングが合わなくて五木さんが京子ちゃん達と先に帰ってしまうって言うのもある。

「オレもあんまりよく解んねえけど、そう言うのって、女子は寂しかったりするもんじゃねえの?」
「う…そ、そうかな………」
「そーそー」

それは一理あるかもしれない。
そう思って、今日さっそく誘ってみろよ、という山本の言葉に、うんと素直に頷いた。
………けど、そうそう上手くいくもんかなあ。何か実行する前から不安になってきたんだけど。ま、成るようになる、かな。















と、まあ、思っていたんだけど。

「…………………」
「…………………」

……か、会話が無い…………!!
あの後、放課後になって意を決して五木さんを一緒に帰ろうと誘って今に至るわけだけど、最初に二言三言話してからというもの、会話がぷっつりと切れてしまって、そういえはオレってそもそも会話とか広げるのちょう下手じゃん馬鹿じゃねえのオレとか思ったりして、緊張して頭もろくに働か無いし、もうオレどうすればいいの。

「あ、あの、沢田くん」
「は、はいっ」

不意に五木さんに話しかけられて、吃驚して声が上ずってしまった。
気付かれないように眼だけで横を見ると、五木さんは鞄を前の所で両手で持っていて、俯いてオレの方は向いていなかった。
それをちょっと残念だと思いつつ、こうして見ると五木さんて意外と睫毛が長いとかふわふわしててほんと可愛いとか改めて再認識して、結構どきっとする。
え、この人ほんとに俺の彼女なのかな。むしろこんな可愛い彼女がいて大丈夫なのかオレ、多分一生分のモテ期を此処で使ってしまっている気がする。まあそれも本望と言えば本望だけど。
そんな下らない事をつらつらと考えていると、五木さんが顔を赤くして、相変わらず俯いたまま話し始めた。

「そ、その、今日は、誘ってくれてありがとう。えっと……すっごく、うれしかった」
「お、オレの方こそ、あ、ありがとう………」
「ふふっ、なあにそれ」

少し恥ずかしそうにぽつりぽつり話していく五木さんにぎこちなくこっちも返事をすると、どうして沢田くんがお礼をいうのよ、と言ってふっと五木さんが吹き出した。
え、何だこの可愛生き物。うっかり気絶するかと思った。
何か小さい桃の花みたいな笑顔をぱっと咲かせた五木さんにどきまぎしてると、五木さんがちょっとだけこっちを見て、そっとオレの方にある手を差し出してきた。

「あ、あの、もし、嫌じゃなかったら、……道が分かれるまで、手、つないでたいな、なんて………」

え、ちょっと今日サービスしすぎじゃないですか、神様。
かああっと顔を赤らめて言う五木さんのあまりの破壊力にしばし固まっていると、五木さんはどこか悲しそうな顔をして眉を下げた。

「ご、ごめんなさい、や、やっぱり嫌、だよね……」
「まっ、まさか!」

しょぼんとして手を引っこめようとする五木さんに、慌てて五木さんの方を向いてその手を両手で包んで言うと五木さんはきょとんとして眼を丸くした。

「な、何て言うか、オレで良ければ、いつでも手を繋ぎます!!」
「え、は、はい、じゃあ、お願いします……」

勢い込んで言うオレに、五木さんはぱちぱちと数回瞬きしてから、こくんと頷いた。
それからまたしばらく沈黙が続いて、少し気まずくなってから、どちらともなく一旦手を離して、正面に向き直って手を差し出した。

「じゃ、じゃあ」
「う、うん」

そっと互いに手をのばし合って、ぎゅっと手を繋いだ。
所謂恋人繋ぎみたいな奴じゃなくて、本当にただ手を繋いでるだけなんだけど、五木さんの手は指の1つ1つがすごく細くて、何だか折れてしまいそうに錯覚した。
女子の手って、こんなにやらかいんだ。男とは大違いだ。これで本当に同じ種族かよ、って思う。
手を繋ぐと、自然と距離も近くなるというもので、それまで隣り合って歩いていたと言っても人1人分の空間を開けていたし、五木さんの存在をより近くに感じるし何か女の子独特の良い匂いもするから、その、なんていうか、思春期男子としては色々ギリギリだ。

「あ、あのっ、沢田、くん」
「はい。な、何で、しょう」

ぽつりと言う五木さんの口調が移って、途切れ途切れに言うと、五木さんは顔を更に赤くしてしばらく迷う仕草をしてから、オレの方を向いて一息で言いきった。

「こ、これからは、ツナくんって、呼んでもいいかな………っ」
「ぇ……えぇっ!?」

予想だにしなかった五木さんの言葉に驚いて目を見開くと、また五木さんはしょぼんと悲しそうな顔をした。

「そ、そうだよね。嫌だよね、やっぱり……」
「ちっ違うって! ちょっと吃驚しただけだよ! むしろ呼んでほしいくらいだしっ。えっと、じゃあ、オレも、その、五木さんの事、名前で呼んでもいいかな」

混乱と同様でしどろもどろになりながら言うと、五木さんは二つ返事でうんと頷いてくれた。
それから、五木さんは照れ臭そうな顔をすると、オレから視線をはずして地面を見ながらぽつぽつと小さな声で呟いた。

「実は私、京子ちゃんと、……ツナくんが、名前と愛称で呼んでるの、ちょっと悔しかったんだ。今は私、ツナくんの彼女なのに、ずるいなあって」

そう言って自虐的に笑う五木さんを見て、何だかすごく情けなくなった。
オレは五木さんの彼氏なのに、今まで何にもしてなくて、五木さんだって色々悩んだり考えたりしてたのに、オレはそれに全然気づけてなくて。
思わず手をさっきより強く握ると、不思議そうに俺を見た五木さんに、思い切って言った。

「はづみ」
「えっ」

少し上ずりながらも呼び捨てにすると、五木さん…はづみは目を丸くした。その眼には嫌悪感は映っていなくて、それに少し安心して続けた。

「オレは、はづみに告白されて、すごく嬉しかったよ。そりゃ、一時期は京子ちゃんに想いを寄せてた事もあったけど、今のオレは、はづみが好きなんだ」

はづみの眼を、反らさずに真っ直ぐ見つめて言いきると、きょとんとしていたはづみの子顔がだんだんゆでだこみたいに赤くなっていった。
それを何だか新鮮な気持ちで見つめていると、はづみは真っ赤な顔のまま、嬉しそうにほわりと笑った。

「えへへ、嬉しいな」

手を繋いでない方の手で頬をおさえて言うはづみに、今度こそぶっ倒れそうになった。
あーもーちくしょう可愛いな!
顔を赤くしながらにこにこしてるはづみに色んな意味でくらくらしてると、はづみが少しだけ俺の方に寄り添ってきた。

「はづみ、ちょっと」
「え、嫌?」
「嫌じゃなくて、照れる」

素直な感想を述べると、くすくすと笑われた。
くそ、そんなに笑わなくてもいだろ。
そう思いながらも、なんだかんだはづみのこんな顔を、オレは初めて見たわけで。
また段々と顔に集まってきた熱をなるべくはづみに見られないようにしながら、それでも、繋いでいる手はずっと話さないまま、2人で歩いて行った。



どうやらもう手遅れのようだ
(ああああっ)(何かまた緊張してきた…!!)




☆★あとがき★☆

前サイトで魅空様にリクエストして頂いたキリリクです。
付き合いたてのカップルはこんなもんじゃないかなあとか思いながら書きました。
あと綱吉好きの子にとってはみんな京子ちゃんがライバルだよね! みたいなのも意識しながら。
一度こう言う甘酸っぱいのをの書いてみたかったんです。むしろむず痒くなりましたけど………。
これ見ててかゆいかゆい! ってなった人ごめんなさい。





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