短編 | ナノ


怒声も罵声も飲み干して


ドン・ボンゴレの日々というのは、なかなかに多忙だ。
まず処理しなければならない書類が死ぬ程あるし、最近は滅多に無いけど、傘下のファミリーの弾圧や、その他マフィアの抗争の指揮、又は最前線に立たなくちゃならない。
って言うか、何たってオレの部下、と言うより守護者が一番の問題児ってどういう事だろう。

「はあ………っ、憂鬱だ」
「どうかしたの? つーちゃん」
「え…………」

相変わらずの未処理の書類が山済みになったデスクにいい加減げんなりとして、むだにふかふかした黒塗りの椅子の背もたれにもたれ掛かって1人ごちると、すぐ傍から聞き慣れた涼しげで風鈴みたいにどこか金属質な声が聞こえた。
慌てて身体を起こして横を振り向くと、恐らく珈琲が入っているであろうマグを乗せた盆を持っているはづみがいた。

「っはづみノックぐらいしろよな」
「とっくにしたわよ。ただつーちゃんが気がつかなかっただけ」

もう、これが私じゃなくて敵対してるマフィアだったらどうするの、と少し茶化すようにオレを睨むはづみに、ついとばかりに苦笑をもらす。

「ってか、いい加減その「つーちゃん」ての止めろよな。並盛幼稚園の頃からずっとそれじゃんか」
「あら、良いじゃないの。私にしたら、つーちゃんが幼稚園の頃呼んでた「はづみおねぇちゃま」っていうの、あれ好きだったなぁ」
「っ、それはオレが一生の中で一番忘れたい黒歴史! 今すぐ忘れろ!!」

さらりとオレの古傷を抉るはづみに、思わずデスクをどんと叩いて言うと、まあ怖い、と全く怖がっていない調子で言われた。
くそ、首から上に血が上っていくのがよく解る。顔中が熱い。
それ以上どう反論したらいいかよく解らなくて、顔を赤くしたままはづみを睨みつけると、にこりと笑顔を返された。
…………くそ、可愛いなちくしょう。

「つーちゃんは相変わらず可愛いねぇ」
「………次その名前で呼んだら一生口きかねぇ」
「…………ふーん? 笹川さんが「つっくん」て呼ぶのは良くて、私が「つーちゃん」て呼ぶのはダメなんだ。ふーん」
「は?」
「私の方がつーちゃんと一緒にいるのにね? つーちゃんは私より笹川さんが特別なんだ」
「は、え? な、何でそーなる………」

言いながら彼女が持っている盆の上にあるマグを取ろうとすると、さっと盆を上にずらされた。
その態度と雰囲気がさっきまでと違って、怪訝に思ってはづみの顔をのぞき込むようにして見上げると、彼女は顔をほんのり赤くして、ぷくりと頬を膨らませていて、それが何て言うか…………

「何て言うか………可愛いな、お前」
「へっ!?」

思わず思った事をそのまま口にすると、はづみが顔を赤くしさせたまま素っ頓狂な声を上げてこっちを振り向いた。

「な、何、なに、が、が………」
「はは、そーいやオレ、お前が赤くなってるの結構久々に見たかも」
「つ、つーちゃ……何言って…あぅ………」

からかうようにけたけた笑って言うと、はづみはぱっと顔を赤くしてしゅうっと頷いた。
オレより1つ年上で、何かにつけて姉貴面するはづみのそういう態度を見るのは、なかなかにレアだ。

「ははは、可愛いなぁほんと」
「い、いい加減に油売ってないで仕事しなさい! つーちゃんのバカっ!!」

面白くってついからかっていると、ゆでだこみたいになったはづみに、盆で思いっきり殴られた。かなり痛い。

「ってぇ……」
「もう、つーちゃんのばか」

ぷくぷくと頬を膨らませるはづみに笑って、ちょいちょいと彼女を手招いた。
こいつは拗ねるとかなり面倒くさいけど、反対にそれを上手く宥められるオレは、他と違ってはづみの事をちゃんと解ってると言うちんけな優越感に浸れる。

「はづみ、こっちおいで」
「……ぅ、や、やだ…」
「いーから来いって、ハグさせて。オレはづみ不足で死んじゃいそう」

警戒するように距離を取るはづみに、無垢を装って笑いかける。
それにちょっと絆されたはづみがちょこちょことゆっくり寄ってくるところを狙って、ぐっと彼女の胴に手を回して抱きすくめた。
それに驚いて、ひゃっと小さく悲鳴を上げるのが可愛くて、その耳にちゅっとキスをする。

「好きだよ、はづみ」
「う、うるさ……」

至近距離で見つめ合って、僅かに目線を逸らしながらまた憎まれ口を叩こうとするはづみの唇に、自分の唇を押し付けた。



怒声も罵声も飲み干して
(……リボーンさん、俺死ぬ程恥ずかしいんですけど)(あいつドアの前に俺達がいるってわかっててやってるしな)



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前のサイトで魅空さまからいただいたキリリク、「十年後ツナ夢 ほのぼの、甘夢」でした。




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