短編 | ナノ


心理テスト



Q. あなたとあなたの恋人は、向かい合って椅子に拘束されています。
その椅子の肘掛けの先には、右に白の、左には橙色のボタンがついています。
右のボタンを押せばあなたが、左のボタンを押せばあなたの恋人が死んでしまいます。
あなた方が助かるには、そのボタンのどちらかを押さなければいけません。
24時間どちらのボタンも押さない場合は、2人を除く2人の大切な人が全員殺されてしまいます。
その場合、あなたはどちらのボタンを押しますか?

A. …………



A. はづみの場合

「迷わず右のボタンを押すだろうし、あの子には迷わず両方のボタンを同時に押してほしいな」
「ほう。それは何故?」

間を空ける事無くさらりとそう答える彼女に、その問いを投げ掛けた張本人は薄く笑みを浮かべて再び問う。
すると、はづみはにこりと笑顔を浮かべ、また間を空ける事無く答えた。

「私は私の大切な人が死ぬのは絶対に嫌だし、綱吉を殺すなんて例え誰が人質にされても無理」
「酷い矛盾ですね」
「ふふふ、まあそう言わないで。つまり、私が死んでみんな助かるなら、別に取り留めて迷う理由も無いじゃないって話」

穏やかな笑みをたたえたままそんな事をさらりと言う彼女は、ひょっとして端から見たら狂っているのかも知れない。
それでもそれは自分が何かを言う権利も必要も無い事だろうと思い、男はそのまま彼女に質問の答えを促す。

「あ、 うん。ええっと、それでね、綱吉は優しい子だから、多分自分の方のボタンを押すと思うの。
まあ、もし私の方のボタンを押されたらすごく悲しいから、そこはあえて選択肢から除くわね。
で、 もしも彼が私より先に自分の方のボタンを押しちゃったら、私1人で残されちゃうじゃない。綱吉抜きの人生なんて想像出来ないし想像もしたくないけど、そうなったら私は抜け殻みたいになっちゅうと思うの。
でも自殺したら普通に死んだ人と同じ所に逝けないって言うし、だから2つのボタンを同時に押してほしいかな。ま、どっちが死んじゃうかの運試しってところね」

そう言ってコロコロと笑うはづみを見て、男は少しばかり苦笑した。

「それにしても骸くんも人が悪いわね。彼がもうすぐボンゴレのボスに就任するって時にそんな事を言うなんて」
「クフフ、それが僕ですから」

淡い、何処か悪戯っぽい表情をして笑う彼女に、骸は質の悪い笑みを返した。






A. 綱吉の場合



「多分オレは左右のボタンを同時に押すだろうし、はづみは自分の方のボタンを押すだろうね」
「おや意外ですね。僕は貴方も自分の方のボタンを押すかと思っていましたよ」
「あ、“も”って事は、やっぱはづみ自分が死ぬ方のボタン押したんだ」

あはは、オレの予感的中ー。などとふにゃふにゃ笑っている綱吉を、骸は思い切り奇妙なモノを見るような眼で見る。
綱吉はそれに気付くと、少し困ったように笑って、表情を穏やかな笑顔に変えた。

「まあでもさ。獄寺くんや山本がそう簡単にやられるとも思えないけど、相手がヴィンディチェみたいなのだったら、アレだよねぇ。多分殺されちゃう」

空想の中だからだろうか、事も無げに「殺される」と言う単語を口にする彼が、何だか別の人間の様に見える。
骸はそう思った自分に若干の苛立ちを覚えながら、それを誤魔化すように、さり気なく綱吉から目線を逸らした。

「はづみもきっと、オレに両方のボタンを押すことを望んだろうね」
「何故、そう思うんです?」
「ん? ああ、だって、オレも彼女に両方のボタンを押してほしいから」

彼の口から思いも寄らぬ言葉が飛び出し、驚いて目を見開く骸を見て、彼はそういう反応をすると思ったと言わんばかりに眼を細めた。

「オレだってね、好きで両方のボタン押す訳じゃないよ。ただ、はづみはどんなにオレや外野が言っても、オレを殺す事に繋がる事はしないから。
別にこれは自惚れじゃないよ。オレは単なる事実として受け止めてるし。でもね、本当はオレだって、はづみにオレをおいて逝って欲しくないんだよ。
でもはづみに左右のボタンを同時に押す事は出来ない。オレが死んじゃう可能性が存在するからね。だったら、オレが両方のボタンを押すしかないじゃない」

妙にズレた論説を至極真面目な顔で言う綱吉に、骸はどういう反応をすれば良いのか模索しながら複雑そうな顔で彼を見ていると、綱吉は不意に、少しだけ悪戯っ子のような笑みを骸に向けた。

「それに、オレらが24時間どっちのボタンも押さないと、困るのは骸だよ?」
「は? 何故です?」
「だって、オレにとってもはづみにとっても、骸は大切な人だもん。だからお前も死んじゃうよ?」

そうあっけらかんと言う彼の言葉により、珍しくぽかんとした表情をする骸に、綱吉は思わず吹き出した。


心理テスト
(そうさオレらは)(似た者同士)







以心伝心。つまりは結局、どっちもお互いの事を嫌って程解ってる。
元は「本空」で使おうと思っていたネタ。待ち切れなくてこっちに書いた。





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