※どっちも病み気味 ああ、ああ。どうして解らないんだろう。みんなみんな馬鹿ばっかり。 彼はあんなにも平凡を望んでいるのに。彼の愛する人達は、みんな彼を非日常へと引っ張りこもうとする。 …………いや、解っている人はいるのか。ごく少数だけど。 けど、それはそれで余計に質が悪いよね。何で彼を好きにさせてあげないんだろう。 ボンゴレの為? そんなのしらないよ。彼を苦しめるだけの存在なんて、滅んじゃえば良いんだ。 世界で1番憎くて妬ましい彼の家庭教師。彼が最も信頼していた人間が、彼を絶望の闇に招き入れたなんて、何てマヌケで皮肉な話でしょう。 彼の護りたいモノのせいで、彼が苦しむ。彼が愛する人を護れば護る程、彼は不幸になっていく。 不思議ね、普通なら、幸せになっていく筈なのに。 ねぇ、あなた達は気づいてた? 彼がいつの間にか嘘の笑顔が上手くなっていた事に。真実を煙に巻く事が上手くなった事に。 本当の彼は、ほら。 みんなに見えないように、気づかれないように。 膝を抱えてこんなにも脆くか弱く肩をふるわせているのに。 嗚呼、彼等はなんて腐った眼を持っているのでしょうか。 「っ………く、はづみ…はづみ……」 「大丈夫よ、綱吉。私は解っているから。私だけが本当の貴方を知っている。私だけが、“今”の貴方を愛してる」 肩を奮わせて小さく私を呼ぶ彼を、そっと後ろから抱きしめて囁く。 言葉は甘美な響きを孕んだ麻薬。真綿で包んだような心地の良い快楽に溺れさせる事も出来るけれど、時に甘い甘い猛毒になって、心を甘くどろりと熔かして腐敗させていく。 私が彼に吐いているのはどっちかな? ううん、どっちでも良いの。私達は私達を感じ合えるだけで、狂おしい程の享楽と快楽に身を溺れさせる事が出来る。 私達が2人で2人を愛する事が出来るのなら、もう、ほかのモノはどうだって良い事なんだわ。 だってほら、もう。彼の心はあなた達の傍にはいないもの。 彼の心はね、ほら。私の心が抱いいる。 どんなにあなた達が足掻いたって、もう彼の心は私の心と1つに熔け合ってしまったの。 彼にとっての最愛は私。縋り付く程に私を愛しいてる。愛しい愛しい彼。 中学時代の初恋の女の子? あら、気になるのなら彼に直接聞いてみなさいよ。首を傾げて「はづみの事? え、彼女じゃない? じゃあ誰?」なんて答えるわよ。 彼はあなた達のせいで一度壊れかけてしまった。それを、私が大事に大事に欠片を集めて治してあげたの。 だから、ほんのちょっとの綻びくらい、見逃してちょうだいね。 彼の愛したあなた達は、無自覚だろうと故意だろうと、全員一緒になって、彼を彼が最も恐れ嫌う世界へと突き落とした。 まるでそれが、彼にとっての正しい事であるかのように。彼にとって当然であるかのように。 ふざけんじゃないわよ。全員まとめて地獄へ堕ちるが良いわ。 ねぇ、彼の愛しい家庭教師様。きっと貴方は、今に後悔する。私を彼に近付けた事を後悔する。そして、もう私を殺せない事に後悔する。 だって、私達は貴方が気づくより先に1つになった。 私は彼で、彼は私なの。もう私無しでは生きていけないように、彼をどろどろに愛し尽くして熔かしきってしまったから。あなた達の声は、彼の心の奥底には届かない。届くのは、私の声だけ。 ああ、ああ、でもあなた達がいけないのよ? 彼が壊れかけたてしまったのは、あなた達があまりにも無知だったからなのだもの。 ……もう少し、もう少しよ。 あとちょっとしたら、ボンゴレファミリーは内側からぼろぼろに崩れ堕ちる。 かつて六道 骸が夢見たような、マフィア間から表社会まで引っくるめた、世界大戦が始まるの! なんて素敵なのかしら! あら、心配しなくても平気よ。 昔の事とはいえ、彼が愛したあなた達は、ちゃあんと私が護ってあげる。 ……………けど、他のモノや、“あなた達の大切なモノ”の事は……………………… 知ぃぃらなぁい♪ せいぜい、その短い腕をいっぱいに伸ばして、それらを護れば良いわ。 まあ、きっと無理だろうとは思うけどね? 頑張って、私と彼の為に、不様な舞を披露して頂戴? 私の可愛い、愚かなマリオット。 赤い段幕を引く、 (私達にとっては)(それすら単なる遊戯に過ぎないけど) . ← |