駒鳥とチワワ | ナノ


またね、





季節は春。桜が咲き、美しく舞う季節。そして、別れの季節。
まあ何が言いたいのかと言うと、今日は私の卒園式なのだ。


「うえぇぇん…恭ちゃぁん…行っちゃヤだよぅ…」

「………もぉ、そんなに泣かないの」


正門の前に立てかけてある「卒園式」と書かれた看板。
その前にいるのは、左胸に赤い造花をつけた私と、わんわんと大声で泣く京と、それを困り果てた顔で見ている了。
そしてそれを微笑まし気に見る笹川家とうちの母。
刀弥(私の父の名前)はというと、カメラを構えたまま苦笑している。


「京子ちゃん、そんなに泣くものじゃないよ」

「ひっ…く。でも、おじさっ…」


刀弥が構えていたカメラを一旦しまい、京の前にしゃがんでそう諭そうとしたけど、京子はえぐえぐと嗚咽を漏らすだけで、あまり効果は無いようだ。


「京子ちゃん、別に最期の別れって訳じゃないんだ。あと数年で君は恭華と同じ小学校に入る事が出来るし、同じ中学校に入る事だって出来る。それでももし、どうしても寂しくなった時は、家にいらっしゃい。泊りに来たって構わない。それで少しでも、君の心が晴れるのならね」


――だから、安心しなさい。京子ちゃん――

刀弥が京を安心させるようににっこりと笑って見せると、京もやっと安心したように、まだ涙は目尻にためながらもふんわりと笑った。


「さて…と。じゃあ京子ちゃんが泣き止んだところで、はい。ちゃっちゃと写真撮っちゃおーねー。並んで並んでー」


刀弥の言葉に、私と京と了が、看板の横に列ぶ。


「じゃー撮るよー。ハイ、チーズ!」


その言葉を合図に、一気に数回シャッターを押す音がする。
それから、私を真ん中にして母と父。京の両親と私。
最後に、通りすがりの人に笹川家と雲雀家
全員を撮ってもらい、撮影は終わった。


「卒園式も終わったことですし、どうしましょうね、雲雀さん」

「そうですねぇ、少し早いですが、お昼にしましょうか、笹川さん」

「……………………………待って、母様」


のほほんと笹川母と談笑する母に、初めてストップの声をかけた。


「恭華さん………?」


私の言葉にポカンとする母に心の中で謝りながらくるりと背を向けて走り出す。


「ごめん、母様。ちょっとだけ、時間を頂戴」


言って、返事を待たずに走り出す。
今日は卒園しない子も強制的に参加させられるから、きっとあの子も来てるはず。
本当は、何も言わずにいなくなるつもりだった。
でも、中学になって再会した時、忘れられていたら、私はきっと、とても悲しい。
だから、最後にもう一度だけ、顔は忘れてしまっても良いから、せめてあの子が何年か後に、ああ、こんな人もいたな、って思ってくれるように。

園内にもう一度を見渡す。いない。
あの子の教室にも、他の教室を見ても、いない。
帰ってしまったのだろうかと若干息を切らしながら思案していると、裏庭の方から誰かの啜り泣く声が聞こえてきた。


「…………また君なの…」

「ひっ…ひぐ?」


声のする方へ行くと案の定。綱吉がいた。
しかも初めて会った時同様しゃがみ込んで泣いてるし。
違う点といったら、綱吉の周りに例のいじめっ子達がいない事くらいか。


「……何、泣いてるの」

「うぅっ……ヒック、グス」


私が呆れ顔で声をかけると、綱吉は慌てて涙を拭った。
そして、小さく、けれど懸命に話し出した。


「きょうっ…そつえんしきで、きょうかちゃんがそつえんしちゃうのみたよ」

「うん。卒園したよ」

「………な、んで…いって、くれなかった…の…?」

「……………」


また泣きそうになる綱吉を見て、私は何も言えなくなった。
言わなかったのはきっと、綱吉に行かないでと言われたら、自分の決意を崩してしまうかもしれなかったから。
自分に対してなあなあになるのは、私のプライドが赦さなかったし、綱吉の為にも、誰の為にもならないと思ったから。

私が黙ったままでいると、綱吉はまた泣き出してしまった。


「きょうかちゃ…おれのこと…きらいに、なった?」

「違う」


綱吉の言葉に、思ったより早く強く言う自分に少しばかり驚いた。
それから少し間を空けて、今度はゆっくりと綱吉に言う。


「………違う。違うの、綱吉。嫌いになんかなってないし、ならないよ。
…あのね、綱吉。私達は大きくなったら幼稚園を出て、小学校って所に行かなきゃいけないの」

「ぜっ…たいに?」

「絶対に。
…………でもね、小学校に入っても、逢いに行く事は出来るの」

「! それじゃあ…」

「でも、私は綱吉に逢いに行かない」


綱吉の目線に合わせてしゃがんでそう諭すと、綱吉は目を輝かせたけど、私が逢いに行かないときっぱり言うと、途端に酷く悲しそうな顔をした。


「……………だから、見つけて。私を」

「え……?」


今にも瞳から涙を零しそうな綱吉にそう言うと、綱吉は涙を引っ込めてきょとんとした顔をして私を見た。
私は立ち上がって綱吉の頬に手を添えると、ギュッと目をつぶって自分の額を綱吉の額の軽く押し付けた。


「見つけて、私を。どんなに時間をかけても構わないから」


私は逢いに行けないけど。
そう言ってそっと目を開けて綱吉を見ると、泣きながらきゅっと私に抱き着いてきた。


「泣かないで…きょうかちゃん……」

「泣いてるのは、綱吉でしょう?」


言って、いつもみたいに笑おうとして、自分の声が涙声なのに気づいた。
……嘘、本当に泣いてる。格好悪いなぁ…。
最後まで、「いつもの雲雀 恭華」でいたかったのに。


「おれ…ぜったいみつけるから。がんばって、ぜったいきょうかちゃんをみつけるからっ……!」

「うん……約束だよ、綱吉」

「うんっ…!」


さらに力強く抱き着いてくる綱吉に、たまらず私も抱きしめた。

またいつ逢えるのか、正確には解らない。けど、きっと、絶対。また逢えるから。




変わらない気持ちで、また出会えたら良いね

そして手を、繋ごう

その時まで、またね








とりあえずは一段落ついた、という事で。
この2人はお互いにちょっと依存し合ってるような節があったので、一度離れてみるのも大事、かなあと思っています。
これから恭華も色々あるんでしょうけどね。
まあ、この数年でわりとメンタル強くなったので、ある程度は大丈夫だと思いますが。どうぞ見といてやってください。
最後の色つきの文章はボカロの“fromYtoY”の歌詞を一部抜粋したものです。この曲大好きなもので…………。





加筆 2011.8.23






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