「きょうかちゃんきょうかちゃん。いっしょにあそぼう?」 「きょうかちゃんきょうかちゃん。お花つんできたよっ」 「うわっきょうかちゃんきょうかちゃんっ!むっむしだよーっ!」 沢田 綱吉と知り合ってから、一週間が経った。 あれから奇妙なことに綱吉は私にべったりで、さらに奇妙な、ほんとに奇妙なことに、何故か綱吉は京達が私の傍にいない絶妙なタイミングで私のところに来るのだ。 ひょっとしてわざと……?と考えたこともあったが、その可能性はすぐに消えた。 何故なら、京がちょうど私の傍から離れた時に、彼が何故か蜂の大群に追いかけられながこちらに半泣き(むしろ号泣)で走ってきたからだ。 ……いくらなんでも、幼稚園児がそんなナイスタイミングで蜂に追いかけられる訳無いし。 だいたい、歩けば転び、転べば泣き、泣けば虐められるを延々とループような子が、そんな器用なこと出来る訳が無い。 まあそういう訳で、綱吉はここ最近、私にべったりなのだ。 それともう一つ。 私と綱吉との間で、ここ最近の日課になっていることがある。 それは…―― 「はーい。みんな、おふとんきちんと敷けましたか〜?」 ムダに明るい保母の言葉に、園児達は無邪気にはーいと手を挙げて返事をする。 もちろん、私は隅っこでそっちには目もくれず文庫本を読んでいたが。 この並森幼稚園では、この施設の中で1番大きい部屋で園児全員の布団を敷き昼寝をするという決まりがある。 ちなみに私は、その時間一睡もしていない。 別に眠くないし、なにしろ、こんな大勢の群れの中で無防備な状態になるなんて絶対にヤダ。 ……最近どんどん雲雀 恭弥化してきている、今日この頃だ。 「きょうかちゃん、きょうかちゃん」 何時ものように群れに背を向けて布団に潜り込んでいると、遠慮がちに私を呼ぶ声がした。 「――ああ、綱吉か。どうしたの?」 何故綱吉が私を呼んでいるかなんてわかりきってるのに、あえて私は理由を聞く。 だってホラ、なんか綱吉みたいな小動物見てると虐めたくなったりしない?…あ、しない。あっそ。 まあ私がそう返すのもいつもの事。 綱吉もそれを知っているから、あっちも何時ものように少し恥ずかしそうに返す。 「あ、あのねっ。きょうかちゃん。1人で寝るの寂しいから、一緒に寝てもいい?」 その言葉に、私は満足げに頷いて言った。 「うん。いいよ、こっちにおいで」 そう言いながら薄く笑って自分の掛け布団を少し空けてやると、綱吉は嬉しそうに私の布団に入って抱き着いて来た。 うん、可愛い。 布団をかけ直してやると、更に嬉しそうに擦り寄ってくる飴色のふわふわに、頬が緩む。 思わずキュッと抱きしめると、じんわりとした温もりが体全体にひろがる。まさに幸せ絶頂だ。 ――――昼寝の時間に、綱吉と一緒の布団で眠る。 それが、ここ最近の日課だ。 ♭ 「きょうかちゃんっ。いっしょにお砂あそびしよう?」 「うん。いいよ」 昼寝の時間が終わり、再び園児達が庭を駆けずり回っている頃。 私と綱吉は誰も使ってない小さな砂場でのんびり遊んでいた。 と言っても、私はただ綱吉が遊んでいる様を見てるだけなんだけど。(ちなみに、今京と了はドロケイをやっている) 「みてみてきょうかちゃんっ! すなのおしろだよ!」 「……君にとってはそれがお城なのかい?」 綱吉が嬉しそうにそれをぺちぺち叩いているところ申し訳ないが、私にしてみれば、ただ砂を積み上げただけのそれは、どっちかって言うと‘お城’じゃなくて‘お山’だ。 まあ、あの子がこれで良いなら良いのかな、うん。 「あっあのねっ、これからこのおしろのふもとにあなをほって、トンネルつくるんだーっ」 「ふーん……そう、頑張ってね」 おいおい、‘お城’と‘お山’が混ざってるぞー、なんて思いながら呆れ半分に私が言った時、不意に綱吉が造っていた砂の山が踏み付けられた。 「ふえっ」 「…………!」 それには流石に私も目を丸くし、綱吉は自分が一生懸命造っていた物を突然壊されてショックを受けたように涙ぐんでいる。 「………何なの、君」 私が顔をしかめてその犯人を見上げると、そこにはいかにも「ガキ大将」らしい風貌をした少年がいた。 その少年は、綱吉を見ると明らかに馬鹿にしたように鼻を鳴らした。 「へっ、おいダメツナーっ。 おまえ、いつもそこにいるきょうかにまもってもらってるんだって? なっさけねーなー」 ―――…カッチーン ちょっとそこの鼻たれ小僧。 誰の許可とって私の綱吉を馬鹿にしてるわけ? 咬み殺してやろうか、ああ゛? っと、少々不良みたくなってしまったが、それを何やらこの「ガキ大将」っぽいクソガキは、私が彼をじっと見つめたように勘違いしたらしい。 私を見ると、成る程なぁ…みたいな顔をして自慢げに笑って腕を組んだ。 「はっはぁ〜ん、さてはおまえ、おれさまにほれちゃったんだな〜?」 ワオ、子供の想像力ってすごいね。 それをきいた綱吉がバッと私を見たけど、誤解も誤解。ぜんっぜん違うからね? 綱吉。 「なんなら、しょうらいけっこんしてやってもいいぞ?」 「っ! だっダメだよぉっ!」 ふふん、と「ガキ大将」風の少年が鼻を鳴らしてそういうと、珍しく綱吉が食ってかかった。 「お、おれだって、きょうかちゃんとけっこんしたいもん!!」 ………は? ちょっちょっちょっ、何をさらっと言ってるのかな綱吉君。 相手はちゃんと選ばないとダメじゃないか。 顔は無表情のまま、心の中でツッコミをしまくっていると、「ガキ大将」風の少年はムッとしたような顔をして、綱吉を突き飛ばした。 それにより、小柄な綱吉は呆気なく尻餅をつき、涙ぐんだ。 「うっ…い、いたい……っ」 「ふんっ、ダメツナのくせにおれさまになまいきゆーな! だいたいダメツナはダメツナらしく…ぼほぉ!!?」 傍観者を決め込んでいた私も、種類は違えどランボ並(本物に逢ったことは無いけど)にうざったい「ガキ大将」風の少年にさすがにキレて、少年の頬に有りったけの力を込めて平手打ちをかました。 「まったく、調子に乗るのも大概にしてよね。まずそこの君、私は一言も君の嫁に成りたいなんて言ってないから、勝手に綱吉と話しを進めないで。 それに、正直なところ私は君の名前すら知らないし、少なくとも君より綱吉の方が数十倍は好きだよ。 まあそういう訳だから。行くよ、綱吉」 「え、え?」 言うだけ言って、綱吉が戸惑ってるのもほっぽって歩き出した。 ちょうど裏庭辺りに来たところで、後ろで少し息を切らしている綱吉を振り返る。 ……あれ、ちょっと歩くの速過ぎたかな? 「っはぁ、きょうかちゃ……ちょっと…まっ…」 「ごめん、ちょっと歩くの速かったみたいだね。大丈夫、綱吉?」 そう言いながら綱吉のいる位置まで行くと、綱吉の背中をさすった。 すると、綱吉がうつむきながら私の服の裾を握った。 「………? どうかしたの?」 「あ、のね…あのね…。おれ、さっきいったの、うそじゃないからね」 「え、さっきって?」 言葉の意味がよくわからなくて首を傾げていると、不意にバッと綱吉が顔を上げた。 「?」 「きょうかちゃん、おれのおよめさんになってください」 ………うわぁ。 どさくさに紛れて忘れてたと思ってたのに。 しかもそう真面目に言われると、幼稚園児に言われたとはいえ、流石に私もテレる。 「っ、綱吉。君、その意味わかってんの?」 「うん。 いちばんすきなおんなのことずーっといっしょにいたいからするんでしょ?」 「……うん、まあだいたいあってるよ。でもねぇ、それはほとんど半永久的なことなんだ。 一度このヒトと結婚するって決めたら、もうやめたは無しなんだよ、わかる?」 「うん。おれのなかでいちばんすきなおんなのこはきょうかちゃんだもん。……ね、だめ?」 綱吉はそう言って、潤んだ目で私を見上げて来た。 ……うわ、ヤバイ、このままだと押し切られるかも………。 「じ、じゃあ、私の出す条件をクリア出来たら、考えてあげる」 「ほんとっ!?」 私が苦し紛れに言った言葉にキラキラと瞳を輝かせて食いついてくる綱吉に、ズキリと良心が痛むが、たかが子供同士の約束と言っても軽く私の将来がかかっているので、これがこっちの最大限の譲歩だ。 「いい?出す条件は二つ。一つは、私より身長が大きくなること。もう一つは、私より強くなること。 それが出来たら、結婚を考えてあげるよ」 わかった? と聞くと、満面の笑みで頷かれた。 「じゃあじゃあ、おれがんばってぎゅうにゅうとかいっぱいのんで大きくなって、あとがんばってつよくなるよ!」 「……うん、まあ、頑張ってね?」 あれ、ここは頑張ってって言っていいのかな……。 まあでも、所詮子供同士の約束だし。 それに彼が中学に入る頃には彼は京に惚れてるわけだし、別にいいか。 何かこの頃の綱吉君は、純粋故にサラっと「結婚」とか口にしてると私が嬉しい。というか書いてて楽しい。 そして原作時にはその事を全く覚えてないという………うちの綱吉君は幼少期たいへん罪つくりな子です。釣った魚に餌はやらないというか何と言うか。 そして雲雀嬢は結構ウブです。 なにせ前世ではチューもまだですからね。男慣れしてないです。 加筆 2011.8.23 ← |