亜澄の家出騒動が無事収まり、遥花の屋敷にて、理不尽な制裁を下す獄寺&雲雀に、それを受けるディーノと、さらにそれをなんとかおさめようとする綱吉をほほえましく見守りながら、遥花は亜澄にこっそりと耳打ちした。 「亜澄、このドタバタ騒ぎが終わったら、2人で綱吉とディーノさんを連れて遊園地に行っていいか、聞いてみましょう?」 「えっ、でも、またごまかされるかもしれないじゃないか」 「いいえ、逆ですよ、逆。考えてもみて下さい。確かに主と執事1対1では怪しまれるかもしれませんが、そこに部外者が1組加われば、どうです?」 「?? どういう事なの?」 きょとんとした顔で首を傾げる亜澄に、遥花はまるで楽しい悪戯を思いついたように無邪気に笑って説明した。 「要するに、貴女とディーノさんだけでは逢い引きかと思われる可能性が高いですが、 そこに私と綱吉が加われば、令嬢達の遊びを執事2人が見守るという名目の下(モト)、2人の同行が許可されるはず、という事です」 「ああ、なるほどね。流石は遥花」 「いえいえ、それほどでも……♪」 遥花の提案に、なるほどと頷き遥花を称賛する亜澄に、遥花もまんざらでもなさそうに笑うと、2人で顔を見合わせ、ふふっと笑った。 ―――のだが、 「まったく、そのような約束をされるのは大変けっこうですが、貴女はもっとご自分の身体に自覚を持った方がよろしいですよ、遥花お嬢様?」 「……はぃ、ですゎ………」 その翌日、何故か遥花は床にふせていた。 理由は簡単、普段清潔で汚れの一切無い屋敷の中で暮らしている遥花は、こう見えて実は体がとても弱いのだ。 基本的運動能力は、低いどころかむしろとても高いのだか、いかんせん体が弱く、激しい運動をするとすぐに熱を出してしまう。 「ま、朝の5時の、お嬢様の体調が1番不安定な時間帯に適温の屋敷から春とはいえまだ肌寒い外に連れ出し、長時間の走行に体力の低下・崖からの転落・おまけに毒素は無いと言っても得体の知れない果実を食べれば、体調を崩して当然でしょうね」 「うぅ、ゴメンナサイ……」 穏やかだが棘のある言い方をする骸に、亜澄は珍しく素直にしょぼんとうなだれた。 「そ、そんなっ。骸、亜澄は全然悪くありませんわ。 確かに事の元凶は亜澄が子供じみた癇癪を起こしたせいですが、自分の体調の事を考えなかった私も悪いのですから………ケホ、ケホッ」 うなだれる亜澄を気遣い、遥花が必死にフォローを入れたが、全くフォローになっていない。 コンコンと苦しそうに咳込む遥花の背中を、綱吉が労るようにそっと摩った。 「とりやえず、今獄寺 隼人と山本 武がミルク粥作ってますから、コレ飲んで安静にしていて下さい」 聴診器と診察時にだけ掛けるメガネを外しながら言う骸に、遥花は鼻のところまで布団を持って来てコクコクと頷いた。 すると、ずっと気配を消して遥花の傍にいたクロームが、遥花の額にあるタオルをさりげない仕草で取り替えた。 「…………大丈夫。今回の熱は比較的軽い方だから、明日になれば治る。でも、治ってもしばらくは激しい運動をしちゃダメ。ぶり返すと熱は怖いから」 「はい………」 「遥花、何か飲みたい物とかある?草壁に持って来させるから」 「ちょっと雲雀さん! お嬢様を呼び捨てにしないで下さいって何時も言ってるじゃないですか!!」 「そして自分ではなく自分の部下に持って来させるんですね。貴方、それでも彼女の執事なんですか?」 「五月蝿いよ南国果実。これでも執事だけど。何、文句でもあるわけ?」 「いえいえ別に。あとその台詞、どこかの執事マンガと微妙に被ってますよ」 「そんなの関係ないね、咬み殺す」 「ちょっ、2人共! ここに病人いんですよ!!?」 「全く聞いてないね」 「ははは、ツナも苦労してんなー」 「………皆、少し静かにして……」 遥花がいるにもかかわらず何時ものように騒ぎ出す雲雀に骸。 それをなんとか止めようとする綱吉に、傍観するディーノと亜澄、それらを控えめに注意をするクローム。 何時も以上ににぎやかな様子の6人に、遥花はふふっと忍び笑いをもらした。 そこで、亜澄があっと何かを思い付いたように声を出した。 「そうだ!遥花、昨日のお詫びも兼ねて、僕が食後のデザートにゼリー作ってあげる!アレなら喉越しも良いし、痛んでる喉に優しいしねっ」 「「「え゛」」」 にっこり笑ってぽんと手を打つ亜澄に、思わずディーノと綱吉と遥花は声を出した。 「………ねぇ、「え゛」って何、「え゛」って」 「い、いや、その」 「は、ははは」 「あ、あの、決して否定的な意味では無くてですね!?う、ウワーッ、亜澄ノ作ッタババロア食べタイナー」 「白々しい……何なわけ? そんなに僕の作ったババロアが食べたくないって言うの!? ………ってコラ、目を反らすな!」 上から綱吉・ディーノ・遥花と苦し紛れに言い訳をしたが、亜澄の指摘に、3人共目をそらして黙ってしまった。 部屋に気まずい空気が流れ、遥花達が冷や汗をかいていると、ちょうど良いタイミングで部屋の扉が開いた。 「遥花お嬢様! お待たせ致しました!!」 「はははっ、ミルク粥作って来たぜ。デザートにゼリーとミルクセーキもあるのな」 獄寺達の登場に、助かったとばかりに顔をほころばせた3人だったが、山本の放った言葉に固まった。 慌てて亜澄の方を見ると、これ以上無い程の完成度を見せている美味しそうなをゼリーを前にして、そっぽを向いてぶすくれて、完全に拗ねてしまっている。 その状況を理解していない獄寺と山本は、ほかほかと湯気を上げているミルク粥と、キラキラとまばゆい光を放っているゼリーとミルクセーキをそれぞれ別々のトレイに乗せたまま、揃って首を傾げた。 「? どうしたんだ、3人共?」 「もおっ……隼人のバカー―!!」 「は? え?」 「お前等もちっと空気読めよ〜…」 「ん?」 「頼むよ……。隼人…山本……」 「「へ?」」 弱り切った様子の3人に、獄寺と山本はひたすら頭の上に?マークを飛ばしながら首を傾げるしかなかった。 「ま、良く分かんねーけど。遥花、ミルク粥冷めねーうちに食っちまえよ」 「コラら山本! お嬢様を呼び捨てにしちゃダメって言ってるだろ!?」 「執事長のおっしゃる通りです! オイコラ野球バカ! 気安く遥花お嬢様を呼び捨てにしてんじゃねぇよ!!!」 「もお、みんな喧嘩は止めて下さいな。それと綱吉、デスクを出して下さい」 また何時ものように騒ぎ始めた獄寺と山本を、遥花が苦笑しながらやんわりと諌め、綱吉に指示を出したそれを聞いた綱吉は、一緒ハッとした後、直ぐに何時もと同じくにっこりと笑って返事をした。 「あっ。…はい、お嬢様」 「ふふふっ、ありがとう」 慣れた手つきでベッドで食べる用のデスクをセットする綱吉に、遥花は柔らかく微笑んだ。 「ほい、ミルク粥」 「冷めないうちに、お召し上がり下さい」 「はい。では、いただきまーす」 遥花は山本と獄寺の言葉に少しおどけたように言ってから、れんげを手に取り、ミルク粥を一口掬って食べた。 「………ん、美味しい。流石は武と隼人ですね」 「「御褒め頂き光栄です」」 遥花がふわりと笑って言うと、それと同時に、山本はおどけて、獄寺は恭しく頭(コウベ)を垂れた。 と、そこで、骸がその場の句切をつけるように、パンパンと手を叩いた。 「はいはい、盛り上がっているところ申し訳ありませんが、それを食べたらさっさと寝て下さいね。これ以上起きて話しをする事は、君の主治医としては赦しかねますよ。 さっきクロームが言ったように、熱はぶり返しと治りかけが1番怖いですからね、お嬢様?」 「……はぁ〜い」 骸にやんわりとたがきっぱりと言われ、ぷぅっとむくれる遥花だったが、自他共に認める名医である骸にそう言われれば、彼女も黙るしかない。 「あ、それと、お嬢様が食事を終えて薬を飲んだら、皆さん出て行って下さいね」 「「「「「「は!!?」」」」」」 骸がサラっと放った言葉に、綱吉・雲雀・亜澄・ディーノ・山本・獄寺は、異口同音に間髪入れずに言った。 「………ごめん。でも、お嬢様の具合を早く良くする為だから……」 「その通りですよ。此処であなた達のドタバタコントを繰り広げられると、埃等が舞って、お嬢様の具合がより悪く成ってしまうでしょう? ―――ホラ、散った散った」 「ちょっ……俺等邪魔者みたいな言われ方―――!!!」 「「だって邪魔者ですもん/だもの」」 真顔でぴったりと声を揃えて言う骸とクロームに、また叫びに近い声で一人称も普段のものに戻ってツッコミを入れる綱吉に、キレてトンファーを取り出して構える雲雀。 同じくキレる獄寺に、それを笑って見ている山本。 ぶすっとむくれてぐちぐち文句を言う亜澄と、それを苦笑いして止めるディーノ。 結局、何時もと同じくドッタンバッタンと大騒ぎをする我が使用人達に友人と、その執事の様子を、 遥花は只、にこにこと楽しそうに笑って見ていた。 加筆 2011.8.21 ← |