亜麻色のお嬢様 | ナノ


顔を見合わせて





「まずは、何か食べ物を探しましょうね」


遥花は亜澄にまるで小さい子供に言い聞かせるように言うと、キョロキョロと辺りを見回して果物のなってる木を見つけると、亜澄の手を引いててくてくとその木の方へ向かった。

木へたどり着くと、遥花はするするとなんて事無いように木を登り、木になっていた果物を4つほどもぎ取り、
そのままさっきと同じようにするすると木を降りて、はい、と亜澄にもぎ取ったうちの2つを手渡した。


「これ、何の果物なんでしょう? 見た事無い形ですわ」

「さあ? でも色的には問題なさそうだよ。どれ」

「あっ!」


亜澄は先程遥花がもぎ取った果物を見回してから、しゃくっと1口かじった。


「う、わっ、もうちょっと調べてから食べません!? 普通!! 毒だったらどうするんですの!? バカ!!」

「バカって…っていうか、毒かもしれないモノを取って僕に渡したわけ…?」


亜澄は呆れたように溜息をついて肩を竦めると、また果物をしゃくしゃくとかじった。


「ああまたっ!」

「まったく、大丈夫だよ。毒があるようには見えなかったし。それに、結構美味しいよ、これ。遥花は心配性過ぎるんだよ」

「う…亜澄がそう言うなら、間違いは無いんでしょうけど…」


遥花はそう言いつつじっと手に持った果物を見つめていたが、意を決したようにぱくっと果物にかぶりついた。
ぎゅっと目を錘むって果物を咀嚼していたが、口の中に広がる舌触りのいい食感と、爽やかな甘酸っぱい酸味に驚いたように目を見開いた。


「わっ……美味しい…ですわ…」

「だから言ったでしょ? 遥花は心配しすぎなんだよ。てゆうか、自分で取った果物にその反応って……」

「だっだって、見た感じ何か美味しそうだから取っただけですもの」

「へえ? その直感だけで僕に毒かもしれないモノを渡したんだ?」

「むむむむむ……っ」

「っはは、冗談だよ」


ぷうっとむくれる遥花を亜澄は笑い、からかうように遥花の額にでこピンをした。

一通り2人でじゃれあった後(というか亜澄が一方的にからかっただけ)、果物のなっていた木の幹に腰掛け、2人でもう1つの果物を食べた。


「………亜澄、どうしていつもディーノさんの前だとムキになるんですの?」


亜澄が精神的にも落ち着いたところで、遥花は小さい子供に言い聞かせるように穏やかな口調で亜澄に言った。


「…………だって、今までずっと、ディーノに釣り合うような女になれるように、たくさん努力したんだ。
背が低いとディーノが恥ずかしいと思ったから、毎日牛乳とか縄跳びをして頑張って背を高くしたし、子供っぽいままだとディーノにガキ扱いされるだけだから、一生懸命大人っぽくなろうと思った。
でも………結構、ディーノの態度は何1つ変わりゃしない。なんで」


“…なんで、僕はこんな餓鬼なわけ?”


亜澄はいつの間にか果物を食べるのをやめ、体育座りをして自嘲気味に笑った。


「いくら外見が変わっても、中身は餓鬼のまんま。ちっとも変わらない。そんなんじゃ、ディーノの扱いが変わるわけないのにね。
……でも、わかっていてもイライラするんだ。なんで僕はこんなに頑張っているのに気づいてくれないんだ、ってね」


そう言ってふう、と息を吐いて木の幹に寄り掛かる亜澄に、遥花は優しく笑って自分の頭を亜澄の肩に乗せた。


「大丈夫ですわ、亜澄は立派な大人です。
昔、綱吉が言っていましたわ。自分の悪い所を見つめるのは、すごく勇気のいる事だと。
私も、そう思います。
だって、人という生き物は、いつの間にか自分の汚点を他人のせいにしてしまうモノですもの。 ね?」


そう言って、亜澄の方を向いてにっこり笑う遥花に、亜澄は肩を竦めて苦笑した。


「………ま、そうかもね」

「ふふっ、でしょう? ………落ち着いて来ました?」

「うん。もう大丈夫だよ」


亜澄が少し吹っ切れたように言うと、遥花は安心したようににっこり微笑んだ。


「そうですか。じゃあ、そろそろ戻りましょうね」

「もちろん」


最後に2人でくすりと笑いあった後、残りの果物を全部食べてから立ち上がった。

すると、遠くの方から綱吉とディーノの声が聞こえてきた。
それを聞いて若干顔が強張らせる亜澄に、遥花が聖母のように温かい笑みを向けてから、綱吉に向かって手を振った。


「綱吉ー――!!!!」

「ちょっ!」


遥花は焦る亜澄を見えないふりして前を向き、綱吉に手を振りながら走って向かった。


「お嬢様っ!! もう、心配したんですからね!?」

「ごめんなさい。でも、もうしませんから。ね?」


遥花がこてんと首を傾げながら無邪気に笑うと、綱吉はぐ、と何か熱いモノを無理矢理飲み込んだような顔をして眉をしかめていたが、やがて降参とばかりに両手を小さく上げて苦笑いをした。


「分かりました、分かりましたよ。もうこれ以上お咎めはしません。
でも、帰ってから隼人や雲雀さんからみっちり搾られても、いつもみたいに助けてあげませんからね?」

「ちぇー」


遥花が珍しくぷぅ、と頬を膨らませてすねるので、綱吉があたふたと顔を赤らめて慌てていると、パン、と渇いた音が響いた。


「え…………?」


見ると、ディーノが険しい顔をして、亜澄の顔をぶっていた。
それには綱吉と遥花はもちろん、当のぶたれた亜澄でさえ、状況を上手く理解出来ず目を見開いていた。
やがて真っ先に我にかえった亜澄が怒りをあらわにディーノに食ってかかる。


「ディーノ、いきなり何するのさっ!」

「何するの、はこっちのセリフだ。お前こそ何やってんだよ」


いつもより静かな、しかし明らかに怒気を含んだ口調のディーノに、尋常じゃないくらい怒っているのだと直感した亜澄は少し怯んだが、それでもキッとディーノを見据えて噛み付いた。


「何をしようが僕の勝手だ! ディーノにとやかく言われる筋合いはないよ、お前には関係無いだろ!?」


遥花があちゃ〜、とばかりに額に手を当てていたが、亜澄は亜澄で今にも泣き出しそうな顔をしている。


「関係無い? そんなわけ無いだろ。関係大ありだ」

「っ!」


真剣な顔をして怒るディーノに、亜澄はとうとう無理矢理保たせていたしかめっつらを崩した。


「うっ…えっ……うえぇん…」

「!? お、おいお嬢!?」


堪えきれず泣き出してしまった亜澄を見た途端、ディーノはいつものように情けない顔に変わった。


「お、お嬢、オレも悪かったって、な?」


先程までの威圧感がウソのようにオロオロしだすディーノだったが、亜澄はそのまま泣きながら嗚咽まじりにディーノに訴えた。


「だっ、だってっ……! ディッ…ノ、僕のっ…こと、子…供っ扱っ…ばっかでっ…! 僕はっ…頑張って、ディ…ノに、釣り合う女にっ…なっ………」


亜澄が言葉を続ける前に、もういいとばかりにディーノが亜澄を抱きしめた。


「…ごめんな、お嬢。だけど、もういい、もういいんだ」


ディーノがあやすようにぽんぽんと亜澄の頭を撫でてやると、亜澄はディーノの腕の中で、またおもいっきり泣いた。




亜澄が泣き止んだところで、亜澄はディーノと、遥花は綱吉と、そして、空いた手で遥花と亜澄が手を繋いだ。


「いいですか?亜澄。これからは感情に身を任せて行動しちゃダメですからね?」

「……む、わかってるよ」

「っはは、2人ともケンカすんなって」

「あ、うちに帰ったら、隼人にケーキかスコーン焼いてもらいましょうか」

「わあっ、賛成ですわ!」

「ふんっ、そんな餓鬼じゃあるまいし…」

「あら、今回の騒動は、誰が餓鬼だったから起こったんでしたっけ?」

「………」


遥花は笑顔で、亜澄はしかめっ面で睨み合っていると、執事2人が窘めるような視線を向けた。


「「お嬢(様)!?」」

「「む〜〜〜」」


しばらく遥花と亜澄は睨み合いながら唸っていたが、やがてぷいっとお互いそっぽを向いた。
それでも手を繋いだままの二人に、2人の執事は顔を見合わせて苦笑した。




遥花と亜澄帰宅後


「遥花お嬢様っ、ご無事で何よりです!! おい跳ね馬ゴラア! うちのお嬢様に何やってんだぁ!!!」

「まったくだよ。…咬み殺す」

「おっオレのせいかあぁ!?」


過保護な遥花の執事2人に、ディーノが理不尽にボッコボコにされたのは、また別の話し。





加筆 2011.8.21