亜麻色のお嬢様 | ナノ


一難去ってまた一難(シスコン編)





“嵐が来ます”
そう言って電話を切った遥花に首を傾げる山本だったが、その後に聞こえてきた破壊音に、嗚呼成る程といった顔をして頷いた。


「っはは、確かになぁ。この家にあいつらが遊びに来て、何か壊さなかったことなんてねーもんな!
サバイバルごっこでもしてんのかなぁ、あいつら」


遥花の言葉に若干ズレた納得の仕方をしながら、山本はうーん、と大きくのびをした。
それから、さー夕食の仕込みでもすっかなーと独り言を言い、厨房へと歩いて行った。




同時刻 大広間

一方、遥花が山本との通話を終えると同時に、大広間の扉が盛大に壊され、そこからもくもくと大きく煙が立ち上った。
それに驚き、何事かと遥花を背に庇いつつもじっと扉の前の様子を伺う綱吉達(雲雀と骸除く)だったが、煙が晴れ、その中から現れた人物達を見て、更に驚愕した。
煙が晴れた向こうには、戦闘に黒いロングコートを羽織り、その襟元にお馴染みのファーをつけたXANXUS。
そしてその1歩下がった位置でXANXUSの両脇を固める様に、右斜め後ろにスクアーロとレヴィ。
左斜め後ろにフラン、マーモン、ルッスーリアが立っていた。


「えっ、あっ……ヴァ、ヴァリアー6!」

「……綱吉、別に無理してボケなくても良いんですよ?」

「あ、そうですか? 何となく、ここはボケなきゃ、と思いまして」


……と、緊張感があるように見えて全然ないやり取りを遥花と交わすと、綱吉はまた深刻な表情をして言った。


「なっ…何でヴァリアーがここに……!? ここに来るまでまだあと1時間ある筈じゃっ……!」

「……あの、執事長。大変申しにくいのですが、今更もう遅いのでは………」

「しっ、隼人しっ」


ガガーン! という効果音が似合う表情でシリアスな雰囲気を出そうとする綱吉に隼人が小さな声で耳打ちをすると、綱吉の方にも自覚はあるらしく、少し気まずそうな顔をして人差し指を口にあてた。


「………というか、僕も少し驚きましたよ。
いくら自家用ジェット使ってここまで来たとしても、最低40分はかかるとふんでいましたから」

「ヴァリアークオリティーってやつですよー。師匠ー、お久しぶりでーす」


まるっきりコントそのものなやり取りをする綱吉と隼人を放っておいて、骸が顎に手を当てて呟くと、それにカエルの被り物をかぶった少年――フランが応えた。
それによりフランの存在に気づいたのか、骸はフランの方を向き、何とも優雅に微笑んだ。


「お久しぶりです、おちびさん。小さすぎて気づきませんでしたよ」

「うわーひっでー。今か弱い弟子が師匠の心ない1言で傷つきましたー」

「貴方の一体何処がか弱いと言うんですか?」

「………む、骸様……。喧嘩はダメ……」


逢って早々ぎすぎすとした雰囲気になる2人に、オロオロしながら止めに入るクローム。


「よぉ、ひっさしぶりじゃん。エース君」

「………君、馬鹿? 僕の名前はエースじゃないって何回言えば解る訳」

「あらぁーん? 了平ちゃんはどこかしらん。折角会えると思ったのにーい」

「おめーらうるっせえぞ!! お嬢様がお喋りになれねーだろーが! 後オカマはきめぇ! 帰れ!!!」


他そっちのけでほのぼのと会話するベルフェゴールと恭弥。
きょろきょろと了平の姿を探すルッスーリア。
相も変わらずにこにこと笑うハルと京子に、うんざりした顔をする亜澄と苦笑いをするディーノ。
それぞれ好き勝手にも程がある行いをしていた彼等だったが、隼人の若干理不尽な怒鳴り声により一同は黙り、遥花と先程からただならぬ威圧感を放っているXANXUSの様子を伺った。


「おい、てめぇ」

「………………………」

「何とか言ったらどうなんだ。ああ?」

「……………………ま」

「あ゛?」


俯いている小さな少女にメンチを切る恐持ての青年という何ともシュールな絵に、周り…特に綱吉は不安そうに見つめた。
…………が、不意に、遥花はばっと顔を上げると、嬉しそうに顔を綻ばせた。


「…………さま…XANXUSお兄さまっ!」

「(……え?)」


遥花の言葉に、一部を除き全員の心がシンクロした。
それと同時にフリーズ状態になっている外野を丸っきり放って、遥花はXANXUSに駆け寄ると、思い切りぎゅうっと抱きついた。


「え、あ……え?」

「XANXUSお兄様!
わざわざ遥花の為に来て下さったのですか? 遥花はとても嬉しいですっ!」

「…………ったく、人に何の相談もせず勝手に学校先変えやがって」

「ふふふ。だってそうでもしませんと、仕事でお忙しいお兄様は、遥花に逢いに来てくださいませんでしょう?
ですから、転校ついでにお兄様に逢いたいなぁと思いまして!」

「あ、あの、お嬢様………。もしかして、オレに日本行きの件黙ってたのって……」


にこにことXANXUSに抱き着いて笑っている遥花に綱吉が恐る恐る尋ねると、彼女は眩しいくらいの満面の笑顔で頷いた。


「はい! この為ですわっ! 少し前から、亜澄と骸とクロームとで話し合っていたんですの。ね、骸!」

「ええ、作戦は大成功でしたね、お嬢様」

「………よかった。お嬢さま…元気……」


ぎゅうっとXANXUSに抱き着いて笑顔全開でネタばらしをする遥花に、何処からともなく「ドッキリ☆大成!」と書かれた白いプラカードを掲げて微笑む骸に、ほっと息をつくクローム。
きょとんとした顔をする綱吉達に、スクアーロはごほんと咳ばらいを1つして、独り言の様に呟いた。


「……知らない奴も多いがな゛ぁ、XANXUSと遥花は血の繋がってねぇ義理の兄妹だ。
…………ま、どっちも筋金入りのシスコン・ブラコンだな」


そう濁点交じりの独特な喋り方で説明したスクアーロによって、綱吉の本日2回目の絶叫が屋敷に響き渡った。





それから数10分後、大広間には、紅茶の芳潤な香りとスコーンやその他スウィーツの甘い香りが広がっていた。


「うぅ……ウソだ…そんな…そんな………」

「綱吉、知らなかったのですか? 私はてっきり知っているとばかり」

「ああ、それな。
本当はツナが執事長を就任する時に教えるはずだったんだけど、お前の親父さんがわざと教えなかったらしいぜ。
ちょっとしたイタズラだーっつってな」

「おいコラ野球バカ! 遥花お嬢様に向かってなんて口の聞き方してやがる!! つーか旦那様を「親父さん」呼ばわりたあどーゆう事だゴラア!」

「はははっ、そーゆー獄寺だって、とてもお客さんの前でする顔と言葉遣いじゃねーぜ?」

「んだとコラァ!!」

「「隼人、静かに」」

「うっ……はい。すみません………」


こぽこぽと芳しい香りを漂わせる紅茶を丁寧にティーカップに入れるながら怒鳴る隼人。
だが、遥花と若干不機嫌な綱吉にダブルで言われ、少し落ち込んで謝罪した。


「ダメですよ、隼人。お客様の前なのですから、私の執事らしい態度を心得て下さい」

「はい……。申し訳ございませんでした、遥花お嬢様」


ぷりぷりと可愛らしく怒る遥花に、隼人は恭しく一礼した。
それを見て、ベルフェゴールは少し意外そうにふうんと呟いた。


「へー。何だお前、沢田以外にもそんな態度すんだ」

「ったりま……っと、当然、です。私が忠誠を誓うのは、執事長と遥花お嬢様の2人だけです…か、ら………」


頬杖をついてそう言ったベルフェゴールに、隼人は山本に言う様に答えようとしたが、先程の遥花の言い付けを思い出したらしく、つっかえながら敬語で答える。
それを見て更にニヤニヤと笑うベルフェゴールにまた怒鳴りたくなる衝動を抑えつけながら、隼人はそっとティーカップをベルフェゴールの前に置いた。


「しししっ。どーもっ」

「………………」


ニヤニヤ笑って礼を言うベルフェゴールに最後の抵抗とばかりに無言で彼を睨みつけ、隼人は一礼をして下がった。


「しししっ。しっかしまぁ、あいつが沢田以外に懐くとか、王子超意外」

「ふふ、あれでも最初はとってもつんけんしていたんですよ? ベルフェゴールさん」


ごくごくと喉を鳴らして紅茶を飲むベルフェゴールに、遥花が両手でカップを持ったまま微笑んだ。
後ろの、「てめっ、人が折角入れてやったんだからもっと味わって飲みやがれ!」「まーまー」という隼人と山本のやり取りは完全にスルーしている。
ちなみに、今はヴァリアーの面々と亜澄とディーノと遥花は大広間の長テーブルに座ってアフタヌーンティーを味わっている。
綱吉達執事と京子達メイドはお茶とケーキの給仕、骸とクロームは医務室に戻り、雲雀は言わずもがな、何もせず壁にもたれ掛かり、様子を窺っている。


「っにしても、このパンナコッタうめーな! 作ったの獄寺か?」

「あ、いえ。それは骸が作ったものですわ」

「マジか!」


あいつ本当何でも出来んのなーと感心した様に呟くディーノに、どこか誇らしげに胸を張る遥花。
綱吉はまたそんな彼女に胸を撃ち抜かれながら、それを悟られないように顔に笑顔を貼り付けた。


「あ……っ、そういえば。
私、スクアーロさんとバイパーさん以外の方とは、全員初対面でしたわね」


こくこくと紅茶を飲んでいた遥花が突然はっとした様にそう呟いた。
それからするりと椅子から下りると、優雅な動作でスカートの両端をつまんで、お辞儀をしてみせる。


「………申し遅れました。初めまして、私、XANXUSお兄様の義妹の、遥花と申します。以後、お見知りおきを」


そう言ってふわりと微笑む遥花に、XANXUSは少し不機嫌そうに眉間にシワを寄せる。
すると、それに気づいた遥花が、心配そうな顔をしてXANXUSの顔を下から覗き込んだ。


「お兄様………?」

「………あいつらなんぞに、お前が礼を言う必要はねぇ」


そう仏頂面をして言うXANXUSに、遥花はころころと笑ってXANXUSの腕に手を置いた。
XANXUSの逞しい腕にその小さな手を置く事で、より彼女の華奢さが浮き出ている。


「あら、何をおっしゃいますのお兄様。
皆さん常日頃からお兄様のお世話をしていらっしゃるのですから。その方々にお礼を言うのは妹として当然の行為ですわ」

「………別に、あいつらの世話になんぞなっちゃいねぇ」

「うふふ。嘘はダメですわ、お兄様。遥花はちゃんと知っていますのよ?」


そう、口元に手を当てて笑う遥花に、不服そうにしながらも、決して遥花を邪険に扱おうとしないXANXUS。
そんな2人を見て、ふと、フランとベルフェゴールがぽつりと呟いた。


「…………何て言うかー、うちのボスって、意外と妹思いだったんですねー」

「……つーか、シスコンだろ? ありゃあ」


自分達の上司が妹にかまいっきりでこちらに気づいていないのをいい事に好き勝手言い合う彼等に、あの兄妹があの距離に至るまでのいざこざを知っている者達は、ひっそりと苦笑した。

XANXUSと遥花の仲の睦まじさに嫉妬したレヴィ・ア・タンが、要らない事を言ってXANXSに殴り飛ばされるまで、あと30秒。





加筆 2011.8.23