▼ 穴だらけの挨拶
:波と。
:ほぼ初対面コミュ障



 トレーニングルームは、色々な戦闘データを取れるようにもなっているだけでなく、その名の通りにトレーニングするために色々な標的や訓練用ロボットなども充実。更には防音完備で部屋全体の強度もかなり優秀だった。
 そんな場所であるのに今使われているトレーニングルームは、ボロボロになっていた。床や壁に何か突き刺したような穴が空き、時には鋭いもので削り取られたような跡。
 部屋の中心にはクラッシュが立っていて、部屋の隅を睨みつけていた。

「予想通り過ぎてココに案内して良かったよ」
「バブル……」

 そこへその場に緊張感の無いいつもの調子のバブルが専用のリフト(ボムフリャーの改造)に腰掛けたまま部屋へと入ってきた。そこで初めてクラッシュは、やや戦闘態勢を抑えてバブルを見た。

「慣れそう?」
「俺にはよくわからない」

 その会話の後に二機揃って部屋の隅を見た。そこには怯えたように壁に背をくっつけて隅に収まっているウェーブの姿があった。

「ねぇ、次の任務で一緒になるだけだから慣れてくれないかな?」
「……む、無理」

 バブルが呼びかけるとビクッと反応しながらも、少し大袈裟に首を振った。その様子にバブルは溜息の動作をし、クラッシュは彼なりに不満げな顔をしてウェーブを見た。

「何故だ? 俺は、お前の敵ではないぞ?」
「く、来るな! 近寄るな!!」

 クラッシュが一歩踏み出すとウェーブが過剰反応し、そして更に一歩近づくと悲鳴を上げて銛が飛んできた。バブルもそれには驚いて咄嗟にバスターを構えようとしていたけれど、クラッシュは平然としたままドリルを回転させて弾き飛ばす。その弾かれた銛が壁へと飛んでいき、新たな穴を作っていた。それからクラッシュは、何事も無かったようにバブルへ向き直る。

「こんな調子だぞ?」
「君も君で凄いね。今の攻撃をドリルで弾くとか」

 未だにウェーブは何かを叫んでいる。それでも気にせず会話が続く。
 先ほどの事で少し取り乱しそうになったバブルは、苦笑しながらクラッシュに思った事を伝えたが、クラッシュ自身にとって当然の行動だったらしく首を傾げる。それでもすぐに褒められた事は理解したようで、若干表情が明るくなった。

「水相手にはどうにもならないが、意外と簡単だぞ?」
「楽しそうに言わなくて良いから」

 ギュンギュンと嬉しそうにドリルを少し回転させて喋るクラッシュ。バブルは、少しだけ呆れたように返す。すると部屋の隅のウェーブがいつの間にか静かになっていた。

「……楽しい?」
「あ、反応したね」

 控えめの小さな声だったけれど、バブルは聞き漏らさなかったらしくウェーブを見る。そして、クラッシュもバブルの言葉にウェーブを振り向くとウェーブがビクッと反応して壁の隅に張り付いていた。それでも先ほどよりは落ち着いているようだ。

「やっと来るな寄るな無理以外の言葉を言ったな」
「……怒ってないのか?」

 やっと会話らしい言葉が交わせたが、ウェーブの意外な言葉にクラッシュは首を傾げた。バブルにいたっては呆れた様子でウェーブを見ている。

「怒る? 何故だ? 何か失敗でもしたのか? したなら怒る事もあるぞ?」
「え、あ、銛投げた……」

 既に銛を投げたの一言で済まされない有り様だが、クラッシュはそれでも理解できなかったらしく左右交互に首を傾げて考えこんでしまう。そんな反応に今度はウェーブも戸惑い、再び挙動不審になっていく。それを見かねたバブルが仕方なく会話に入った。

「銛の事だってクラッシュにすればきっと些細な事なんだよ。それよりも怯える君の方が気になって仕方ないくらいだからね」
「……そ、そうなのか?」

 バブルの言葉に安心したらしいウェーブは、隅に収まった状態から一歩ずつ出てきた。その警戒するような近寄り方に、バブルは笑いを堪えながら少し顔を逸らして誤魔化す。そして、クラッシュもウェーブの変化に戸惑いつつも刺激しないよう迎え入れるため少しずつ後ろに下がるとウェーブもその分中央へと歩み寄ってきた。

「よくわからないが、何か通じたのか?」
「みたいだね。これで次の任務も問題なさそうだよ」

 まだ少し警戒してるのか視線が泳いだりしているものの、ウェーブはバブルとクラッシュのニメートル先までやってきて立ち止まる。その微妙な距離感にクラッシュは、また不思議そうにしていたが、バブルは一安心したようだ。

「す、すまん、俺、呼び出されて、何か怒られるものだと……」
「僕の話ちゃんと聞いてなかったの?」

 ウェーブの言葉にクラッシュは驚いてバブルを見た。するとバブルは呆れ果てた事を示すように大袈裟に溜息をしてみせる。するとそれだけでウェーブがビクッと反応していた。

「呼び出された事実で、どうしようかと手一杯に……」
「なるほどね」

 要するにバブルに呼び出されてパニック状態な上にトレーニングルームという戦闘を似合わせる場所に加え、慣れていないクラッシュが突然現れた。戦闘以外にありえないと判断してしまい、今に至ったらしい。バブルは、呆れからか頭を抱えて溜息の動作をしていた。するとなんとなく理解したらしいクラッシュもウェーブを真っ直ぐ見る。

「お前、ハッキリ喋ろよ。俺は、お前の頭の中なんてわかんないぞ?」
「う……、す、すまん!」

 クラッシュに真正面から言われた事で少し後退りしながらも、最後は踏みとどまって謝罪するように軽く頭を下げた。その様子にクラッシュも今までの意味不明な行動も許したらしく、謝罪を受け入れたように頷いた。

「よくわからないヤツは色々居るが、ハッキリ言わないヤツは嫌いだからな」

 それはクラッシュなりの忠告だった。けれど相手が悪かった。ウェーブは、雷に撃たれたかのように硬直し動かなくなり、バブルは顔に両手を当てて、何度目かの溜息を漏らす動作をした。

「なんでよりによってソレを言っちゃたかな……」
「何か悪かったか? ハッキリ言えば良いだけの話だろ?」

 バブルの呆れ果てたような言葉に、クラッシュは動かなくなったウェーブからバブルへと向き直る。けれどバブルは複雑そうな顔をしていた。

「そうじゃなくて……、見てみなよ? あの落ち込みっぷり」

 そう言いながらクラッシュの後ろの方を指さすバブル。それに従うようにクラッシュが振り向くと、ニメートルほど先に立っていたはずのウェーブの姿はなく、最初にいた部屋の隅に今度は張り付かずに膝を抱えるように座り込み、顔を伏せたまま何かブツブツ呟いているようだった。その様子にさすがのクラッシュも少しばかり顔を引き攣らせる。

「前より酷いな」
「でしょ? もう一度頑張ってね?」

 その言葉にクラッシュは、珍しく目に見えて嫌そうな表情で返した。



初出 2014.11.14 壊話
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