太陽の光がジリジリと強く降り注ぎ、岩と砂、少しばかりの植物が点在する荒野。そんな荒野で土煙を上げて車列を組んで進んでいく武装集団があった。
ピックアップトラックのような武器運搬用からオフロード専用の改造車、先頭と後尾には車の上に機関銃のようなものを固定している改造車も居て、ルーフから身を乗り出し銃撃出来るようになっていた。
彼らが目指すその先は、世界でも有名なDr.ワイリーの基地とされる場所。但し、最初からこの人員で攻略する気など毛頭ない。彼らの目的は、周辺を警戒する小型ロボットを狙って回収し、部品を売り捌く事。こういう荒くれ者たちの間では、密かな儲け話として存在している。
だが、儲け話として成立するには目標にした基地にナンバーズが常駐していなければの話であり、常駐せずとも遭遇してしまったならば、瞬く間に死が訪れる。そんなハイリスクに対して荒くれ者たちでも恐れる者は少なくないし、それを馬鹿に出来ないだけの恐怖がある。でもやはり何処にでも例外が居るようで、今回の彼らには当てはまらなかった。段々と基地が近くなっていくにつれ、各車内の高揚感が顕著になっていく。中には愛銃を抱きしめてニヤニヤと笑う者や、酒を煽りだす者まで様々だ。
彼らが話す内容は、既に部品を手に入れた後の事ばかり。随分と気が早い者たちが声を上げて盛り上がっていたが、それらは突然に終わりを告げられる。
何かが爆発したような音と共に地が揺れ、先頭車両の前方50m以上先から土煙が舞い上がる。次々と車両が急ブレーキをかけていくが、急な事で後ろから少しずつ判断が遅れていき、追突するかハンドルを切っても横ばいになり、結局は前の車両と接触して多重玉突き事故が出来上がる。
車両内では呻き声を上げて動けない者も居たが、動ける者が銃を構えて車両から転がり出ると車の影に入って銃を構えた。未だに土煙は舞い上がったまま。何が起きたのか、何が飛んで来たのか、何か爆発したのか、一切わからない。
「何が来やがった!」
「クソ、撃ってきやがったのか!?」
それぞれが苛立ったように声を上げるが、一向に土煙の向こう側の動きが見えない。微かな風に吹かれて、大きな人影のようなモノが見えだした時、ほぼ全員がトリガーに指をかけ狙いを定めたが、次の瞬間にまた別の衝撃を受ける事になる。
「こんにちはー! DWNタップマンとハードマンでーす!!」
この状況で絶対に似つかわしくない元気で明るい声が響き渡った。
荒野と岩場の多い地方にある基地へ武装集団が向かってきていると一報が入る。
基地に常駐しているナンバーズが居なかったものの、即移動可能な者たちが何機か待機していたため、転送ポータルを経由して一報にあった基地へと移動した。
武装集団は、挟撃出来るよう2方向からそれぞれ3グループずつ作って向かって来ているため、それなりに組織力のある集団と予測されるが、構成員がほとんど人間と報告があがると話は別だった。
ロボットの集団よりも脅威度は低いが、人間であるため難解な行動も予測され、ナンバーズ以外に投入しない即時殲滅の作戦が下される。
そこで片方の3グループの殲滅を言い渡されたのは、ハードとタップ。命令に従い、基本的な設備を揃えた移動用トレーラーのコンテナに乗り込むと、作戦地点へと移動していく。
『基地に近づく車列確認、マーク完了。目標、マップで示した6グループの殲滅。順番は、君たちに任せるよ』
『了解』
移動中に今回参加しているメンバーに淡々とした口調でグラビティーが周辺の高低差も含めた分かり易いマップを転送し、6つのマークを示す。
マークは、2方向から少しずつ基地へと向かって移動してるのがわかった。
ハードは、配られたデータと共に自身の機体ステータスを確認して最終チェックしていき、タップは、オフロード用のフットパーツを楽しそうに眺めながら確認し終わると、ハンドパーツの掌部分に使われている特殊素材の滑り難さも確認していた。
2機が各々確認していると、すぐに目標のグループが通ると思われるルート手前の岩山の影へと到着する。それがわかれば、慣れたようにコンテナから外へと降りていく。
周囲は、太陽の光が強い荒野であるが、トレーラーを隠せる程度の岩山などが点在し、大岩や広い岩場なども多い。だからこそ広い荒野でも車両が移動できるルートが限られているし、ほとんど見渡せると言っても死角は存在した。
「よっし、いつでも良いよハード!」
それぞれ周囲を確認していると、タップが思い出したようにハードの前に行くと、ハードを見上げながら笑って両腕を広げた。すると心得たようにハードが「落ちるなよ」と言いながらタップを抱き上げると、自分の左肩へと乗せる。
すると更にタップは、楽しそうに足をバタつかせて笑っていた。
「大丈夫、大丈夫。手は滑り難い素材に変えたし、フットパーツもオフロード用。荒野でも余裕で散歩できるって!」
「……そうか」
ハードの目の前に自分の掌を見せて自慢するように言うタップにハードは、薄っすらと笑みを浮かべた。
それでも万が一を考えて、それとなくタップが肩から落ちないように手を添えてしまうのは仕方がないかもしれない。何故ならハードが「飛ぶぞ」の一言で自前のロケットブースターを点火して飛び上がったからだ。
同時にまるで絶叫マシンに乗ったかのようにタップが嬉しそうな悲鳴をきいてハードは一瞬でも口角を上げたが、視界に目標の車列を見つけると、瞬時に表情が冷たくなった。
この開けた広い荒野での空からの奇襲。
派手な音と共に土煙を上げて着地すると、案の定車列が乱れて追突していく。そして、半分近くの人間が何かしら怪我をしたらしく、転がり落ちるように慌てて車両から出てくる姿も予想より少ない。
風に乗って土煙が完全に晴れる前に、タップは土煙に紛れるようにハードから降りて移動していき、その最中で武装集団に大きな声を発した。こんな場所だからか想像よりも響く。
すると土煙が晴れていく中、銃撃が始まった。怒号なのか悲鳴なのかわからないような汚い声とともに容赦ない攻撃がハードに襲いかかるが、自身の顔や頭を庇いはするものの一切ダメージを受けずに全てを弾きながら少しずつ集団へと近づいていく。
それに対して狼狽する一部の人間たち。けれど更に追い打ちをかけるように側面からタップが独楽と自身の移動能力でもって車両ごと破壊していく。突然の事に瓦解していく武装集団にゆっくりと動いていたハードが一気に距離を詰めた。
程なくして車両は、全滅。人間たちも大半が身動き無く虫の息。個体差はあれど、全てが荒野において致命的な状態に陥っていたので殲滅完了で差し支えない。
「制圧完了!」
嬉しそうに重なり合った車両の1番高い所に立って喜ぶタップ。
するとハードは、顔を少しばかり顰めてタップを車両の上から降ろしつつ、自分の左肩へと乗せた。その間にタップが邪魔された事に騒いでいたが、ハードは、いつも表情に戻っている。
「危ないから駄目だ」
車両には当然燃料も入っているので、いつ誘爆するかわからない。タップやハードの攻撃で小さな炎が離れた車両から上がっているので時間の問題かもしれない。
それを忘れていたらしいタップは、少し不服そうにしながらも騒ぐのを止めて大人しくハードの肩の上におさまっていた。
「じゃ、さっさと次行こうぜ!」
まだ担当するグループは、2つ残っていた。
マップでマークされた動きを確認すると、別方向に向かったメンバーもグループを1つ処理出来たらしく、マップ上にあるマークは、4つになっている。
一番近いグループは、ここから然程離れてない。それでも温存のためにトレーラーへと帰り、気づかれないギリギリまで移動する。そして、再び高く飛んで車列前方への着地を試みるが、先程とは打って変わって車列の先頭がハードたちの存在にいち早く気づき、追突事故を起こす事もなく止まると、すぐに前方側の車両の一部を動かし、バリケード代わりにしていく。なかなか判断力のあるグループだった。
「気づかれたな。タップ、後ろへ回れ」
ハードが伝えると素直にタップが肩から背中側へと器用に移動していく。滑り難いハンドパーツが掴まる事にとても役立っているが、ハードもただ移動させるだけでなく、しっかりとタップを片手で支えていた。
地上を見れば、武装集団が銃を構えて銃撃を開始してるのが見て取れた。それでも大きな筒状の武器が出てこないは、案外ハードたちと近くなってしまい、自分たちにも爆発の余波が及ぶことを危惧しているらしい。
「着地直前にハードナックルを放つ」
「了解」
宣言通りにハードが着地直前にハードナックルを右手のみ発射した。すると先頭車両だった車が爆発炎上し、人間も数人巻き込まれる。間髪入れずにハードが地上に着地した事で少しばかりの振動と音、土煙が上がり、煙幕のようにハードたちの動きを見えなくする。その間にタップは、ハードの背中から降りるとハードの左手に掴まった。そして、ハードは、すぐに振りかぶって何かを投げるように左腕を振り下げた。
その頃、武装集団では爆発とハードたちの着地により動揺が広がっていたものの、銃撃を止めるという選択肢は見つからず、何かを叫びながら狂ったように撃っていたが、土煙が晴れる前にそれを突き抜けるように飛び出し、簡易バリケードの内側へと着地したタップの存在で一変する。
タップスピンで突撃してきたため、全ての銃弾を弾き飛ばし、周辺の人間たちが自爆していくという残念な展開になっていった。その間に最初に飛ばしたハードナックルの右手がハードの元へと帰っていく。
「撃て! 撃て! 壊せ!」
「嘘だろ! なんでこんなロボットがッ!」
バリケードの内側へと侵入され、しかも何一つ攻撃が聞かない事にパニックを起こしているのか、お互いの流れ弾に当たるなど前よりも散々な状態へと陥っていく。
その銃撃を受ける間、タップは主にタップスピンを繰り返し、素早く人間たちの背後を通るように逃げまわり、誤射を狙い続けた。そんなタップに夢中になっている間に、ハードがバリケードにしていた車両に近づいて破壊していく。
そうなれば前のグループと同じくさすがに瓦解し始め、ほぼ全てが沈黙したのを確認して終了となった。
「2つめ制あッ」
「だから危ないぞ」
気づかれないうちにとタップが再度車両の上に上がって高々に宣言しようとした直後、ハードが前よりも早い反応速度でタップを車両の上から降ろすと自分の肩に乗せ、ガラクタになった車両から離れるように歩き出す。
さすがに2回目なので、誘爆の恐れがない車両を選んだつもりだったタップは、ハードに強く抗議したが、ハードは「危ない」の一点張りだった。
「これより危ない事してんじゃん!」
「……」
そう今現在は、任務中。しかも武装勢力をほぼ正面から殲滅中でもある。
今更過ぎる状況だったが、ハードもその矛盾を理解しているらしく、返す言葉に詰まったのか、左肩にいるタップから顔を逸し、無言のまま場所を移動していく。
「無言で逃げるなよハード!」
タップが一生懸命言ったとしても意味がない。諦めて移動は、ハードに任せつつマップを確認すると、マークされた数が2つに減っていた。どうやら他のメンバーとほとんど同じタイミングで殲滅していっているらしい。
そして、今までと違って残った2つが基地に向かって動いていない事に気づく。位置情報への妨害等があるならば、すぐに伝達されてくるはずなので、恐らく4つのグループが潰れた事にやっと気づいて警戒しているようだ。
「次行くぞ」
「了解。次は、こっそり手前でよろしくな! この大岩の影あたり!」
マップを見ながらそんな軽い会話をしながら来た時と同じように飛び上がってトレーラーへと戻る。それから目標グループの警戒具合から、今までよりも距離を取ってトレーラーを停止させた。
そして、空へと飛び上がる。
タップの言ったとおりにハードは、マップで示された大岩の影へと着地した。ギリギリ目標が振動と音を感知しないだろうと思われる距離なので、今までよりも距離がある。
目標に見つからないようにハードの隠れるサイズの岩の影などを利用し、少しずつ距離を詰め、目標と1番近い大岩の陰へとたどり着く。
そして、実際の様子を伺うため、ハードを足場にして大岩へとタップが登り、大岩へ張り付くように身を低く目立たなくしながら様子を伺うと、車両で円を作りバリケードにして、その中央に人間たちが警戒と準備をしているのが見えた。
「あー……、明らかに警戒してるねー」
「面倒くさいな」
タップは、目標を見ながら呟き、ハードは大岩の影から出ること無く、タップを見上げたまま呟く。
今までほとんど奇襲と速さで一方的に撃破してきたので、最初から完全に構えられると脅威度は少ない相手でも面倒臭さは急上昇する。
「対空装備も見えるなー」
ポツリと呟いた言葉にタップの見てない所でハードの表情が曇る。
銃撃程度なら一緒に飛んで移動したとしても今まで通りに行くだろうが、対空装備での攻撃にタップが少しでも巻き込まれれば、余裕など吹き飛んでしまう状況に陥るのは必至だ。
「タップ、俺と一緒に乗り込むのは、止めた方がいい」
「え!? いくら人間相手でも単独で全部処理出来ると思ってんの!?」
驚いた様子でタップは、大岩の上からハードを振り向く。タップを見上げるハードは、真剣な表情で、冗談を言っている訳でも無さそうだった。そのためタップが本格的に戸惑っていると、すぐにハードが言葉を付け加える。
「そこまで自惚れては無い。だからお前は、後ろから頼む」
「あ、なるほど! 了解了解!」
少ない言葉だったけれど、すぐに理解したらしいタップは、戸惑っていた表情を明るく変化させ、迷わずに大岩から飛び降りた。
突然の行動にもハードの予測の範疇だったらしく、慣れたように受け止めて目の前に降ろした。
「気をつけて行けよ! いくら丈夫でも限度があるだろ?」
「心配ない」
目の前で確認するように言うタップに対して、少し嬉しそうにハードがその頭を軽く撫でた。すると一瞬、タップは驚いて嬉しそうな顔をしたけれど、すぐに誤魔化されまいと表情に力を入れてハードの手の下から逃げ出した。
「頭撫でればなんでも許されると思うなよ!」
「なら耐えてみせる」
「約束だからな!」
強く言い放つと、自分の役目のためにタップは、静かにその場を離れていく。そして、身を低くしながら土埃を上げないギリギリの速度で岩の陰を渡っていく姿にハードは、満足そうに見送る。
それからハードの隠れる大岩の向こう側にいる目標を考え、無表情になると黙ってロケットブースターを点火して飛び上がった。
何処から来るかわからない敵に怒りと恐怖を覚えながら、最後になってしまった武装集団は、車の影から極力体を出さないように周囲を警戒していた。
最初のグループからの通信が途絶してから、1時間も経っていない。まるで電撃戦でも仕掛けられているような鮮やかさだった。
そのため少なからず集団内に『アレ』が来たのではないかと恐怖で狼狽し、パニックになる者も少なくなかったが、使えないと判断された者は、既に仲間により沈黙させられている。
そんな中、ついに現れた。
2度に渡る戦闘により青黒くなった巨体が轟音を上げて空を飛び、品定めするように彼らを見下している。
武装集団がそれを確認出来ると、迷うこと無く対空装備を使用した。1つのグループだけでは、それほど数を確保してきた訳ではないが、恐怖が形となって現れた状況に余裕など皆無だ。
そして、それらの対空装備は、確実に恐怖を爆撃した。煙に包まれた恐怖が音を立てて地上へと落下する。すると一瞬でも彼らは、歓喜した。
その恐怖が何事もなく着地し、睨み返してきたとわかるまで。
タップは、ハードの着地する様子を見て、着地地点と真反対になるようにハードを狙う武装集団の後ろへと回り込む。
普通ならば、後方も数人警戒して居なければならないはずなのに、ハードの耐久力に驚いたのか、後方への警戒がほとんど薄れていた。
「あのロボット、硬すぎるだろ!」
「オイ! 小さいのも居たんじゃないのか!?」
「どんどん近づいてきやがるぞ! もっと撃ちこめぇええ!!」
爆発音の合間に武装集団の悲鳴のような声が聞こえてきていた。
そんな反応にタップは、悪戯が成功したように笑っていたが、ふとハードの様子が気になって岩の陰から除くと、大分集中攻撃を受けているのが見受けられた。
確かにハードは、装甲も厚く特殊素材のセラミカルチタンを使っているが、いつまでも攻撃を受け続けていいものではない。
タップは、完全に武装集団がハードへと意識が向いたのを確認してから、独楽を出しつつ素早く滑り寄ってバリケードにしていた車両の上に飛び乗った。
「こんにちは! 失礼しまーす!」
滑り寄る際に偶然気づいた者も居たけれど、タップの速度に人間がついてこれるはずもなく、狙い撃つ前に独楽の餌食になっていた。
そしてバリケード内は、悲鳴と怒号が混ざり合う。正面からハードがジリジリと歩を進め、後ろからタップが奇襲をかけてきたからだ。しかも車両で円を作っていたのも災いした。バリケード内にいるタップを銃撃すれば、当然ながら流れ弾と跳弾の嵐だ。随分とお粗末な集団になってしまっている。
加えてハードが最初に対空装備などを引き受けてくれたお蔭か、高火力の武器が使用される事もなく、銃撃以外ならせいぜい手榴弾程度。
全てタップスピンで弾かれて終わっていた。呆気なく殲滅戦が終了する。
「ハード!!」
周囲がすっかり静かになり、黒煙と粉塵が舞う中で、タップは、急いでハードの元へと向かった。
ハードは、少しずつ歩を進めていたはずだが、今では地面に片膝を着いて屈み込んでしまっていた。その機体は、煤けて一部焼け焦げているのか微かに煙が舞い上がる。
「……終わったか」
「終わったかじゃないよ! 機体は? 大丈夫なのか?」
滑り寄るとベタベタと機体を触って遠慮なく確認していくタップ。それに対してハードは、少し嬉しそうにしつつ薄っすら苦笑していた。
そして、タップの動きを制すると、ゆっくりと立ち上がって見せた。
「さすがに堪えた。動けるなら問題ない範疇だろう?」
「……飛べるのか?」
機体の動きに問題ない事を見せるようにハードは、腕を回し、掌を握って開くを繰り返し、足踏みもしてみせた。けれど目の前に居たタップの疑わしい視線と共に呟かれた言葉に対し、案の定ハードの視線が泳ぐ。
「駄目じゃん!! 無茶するなよハード!」
目の前で騒ぎ始めたタップに少し居た堪れないのか、顔を逸らしてしまうハード。すると尚更タップがそれに対して反応し、ハードのボディをバシバシと軽く叩き始めた。
「無言で逃げるな! こっちみろ!」
「すまん。機嫌直せ」
そう言って騒ぐタップを抑えるように頭に手をおいて撫でた。一瞬だけタップの動きが止まったものの、今回に限っては、更に逆効果だったらしい。
「だから! 頭撫でれば許されると思うなよハード!!」
ハードの手の下からまた抜け出すと、それまで以上にガンガン言葉を上げていくタップ。それに対してお手上げ状態のハードは、黙ってタップが気が済むまできいていた。
でもお互いが嬉しそうだった事は、気のせいじゃ無いようだ。
それから基地への帰還のため、トレーラーが到着するのを待つ間、とりあえず近くの大岩が作る日陰へと移動する事になった。
そんな中で肩に乗っていたタップが、急にハードの背中へと回り込む。ハードにしてみれば、右肩にでも乗り移るつもりだろうと思っていたが、意外にもタップは、ハードの後頭部へとくっついた。端的にいうと肩車の状態に近い。
「ハードの頭は、俺が守る!」
「……タップ」
先程の消耗の仕方と強い日差しを気にしたのか、タップによる予想外の行動に、ハードは、驚きつつもすぐに呆れた様子で手を伸ばす。それから逃げように機体を左右に揺らしていたタップだが無駄な抵抗に終わり、ハードの後頭部から外され、肩に乗せる訳ではなく無駄な動きをさせないように抱き上げる形に収められた。
「俺の装甲は厚い。だから熱が内部まで伝わるのも遅い」
「でもボディの話だろ?」
一方的に外された事で少し拗ねたような表情を作るタップに対し、ハードは少し嬉しさと呆れを混ぜながら、左腕でタップを抱え、右手で太陽から庇うようにひさしを作っていた。それにはタップも「やりすぎだって」とハードの右手を押しのけようとしたが、力で叶うはずもなく、また無駄に終わる。
「お前より丈夫だ。大人しくしてろ」
「俺が大人しく出来るわけが……」
「大人しくしててくれ」
念のを押されるようにハードに強く言われると、さすがに断れなくなったタップの勢いが落ち着いていく。そして、諦めたようにハードに寄りかかって大人しくなった。
「……わかった」
その不服そうでも照れくさそうな言葉にハードは、クスリと小さく笑って、近くの日陰へと足を進めていく。
日陰について一息つけると思った時、タップが異様に静かな事に気づいて確認すると、いつの間にか眠っている姿を見て再度ハードは、笑う。
終
初出 2017.3.20 独楽話