▼ ゴキゲンヨウ
 いつものように海上警備にあたる船の1隻へ一緒に乗り込む。専用の反重力の乗り物に腰掛けたスプラッシュは、お気に入りの槍を片手に水平線を眺めた。

「すぐに出発しますから、気をつけてください」
「はい。お気遣いありがとうございます」

 船内から甲板へとやってきたのはダイブマン。
 これから通報のあった海域へと急行する事になっていた。水ロボでも能力の高い者は限られるので相手によって一緒になる事が多い。

「通報ではパイレーツマンとウェーブマン、そしてバブルマンを確認したそうです」
「……バブル様」

 いつかの海峡近くでのやり取りを思い出して微かに顔が綻ぶ。けれどそれ以上にバブルマンという名前が気になって仕方がなかった。
 その名前は、最近聞かなくなってしまった懐かしい相手のもの。敵同士だとしてもまた相まみえる事が出来る事実に落ち着かせる事に必死になる。

「この頃、1stナンバーズが消えたという話らしいですが、ただの噂でしたね」
「そのようですね」

 ギュッと槍を握りしめて再度水平線を眺めた。




 問題の水域に着くなり、予想よりも戦闘が激しい事にまず圧倒されていた。
 他の水上警備に当たっていた仲間の船が数隻沈みかけていた。今も1隻が爆発など起こしてまさに沈められようとしている。
 そんな中で別の船が居ない場所では水しぶきの爆発が所々で起きてロボット同士の戦闘だとわかった。

「これは酷い……」

 惨状に息を呑むという表現はこの事かと理解できるほど。まるで戦争のようだった。けれどそのまま傍観するために来た訳ではない事は誰もがわかっている。

「早急に漂流者の捜索に当たります。あちらの戦闘をお任せしてもよろしいですか?」

 元々の役目を考えると適任同士。それにはダイブマンも強く頷いて答えた。

「勿論ですよ。あの馬鹿共は私にお任せください。どうせパイレーツマンとウェーブマンの喧嘩でしょう」
「頼もしいですね。それではお気をつけて」
「貴方も気をつけてください。通報の通りならバブルマンも何処かに居るはずだ!」

 ダイブマンが言い終わらないうちに、船の上から海へと飛び込むスプラッシュ。そして、いつものように水中で移動するため槍に腰掛けて速度を上げた。

「(船が爆発しているという事は……船上に今も誰かいらっしゃる……?)」

 スプラッシュが先行すると同様に漂流者捜索のためボート式のロボットたちも追って広がっていく。そして、水中の高速移動を止めて海面に顔を出すと目の前にアチコチで火の手が上がる船があった。
 最後の爆発であたりに瓦礫が飛び散り、船の上から何かが飛び込んで水しぶきを上げた。人かもしれないとスプラッシュがハッキリ確認できるまで近寄るとそこに顔を出していたのは、緑色。

「バブル様?」
「ん? やっと来たんだ。遅くない? ほとんど沈めちゃったよ」

 久しぶりの再会というのにアッサリとした対応で、特別な反応もない。まるで素っ気無い態度に混乱する。けれど久しぶりすぎたからこそ変に目立っているのだと言い聞かせる。
 そして、今までにはない明らかな危険行為は見過ごせない。

「どうしてこんな酷い事をなさったのですか! 貴方らしくありません!」
「なに? どういう意味? 君、何なの?」

 少しは本気であると見せるために槍を身構えた。いつもならこれで何か弁明でもなんでも言葉を選んでくれると予想していた。
 けれど目の前には槍を身構えた事に反応してかバスターを向けて、本来の意味を理解できてないらしいバブルマンが居て、酷くショックを受ける。

「何を仰っているのですか? 私がおわかりになっていないのですか?」
「どう勘違いしてるのか知らないけど、戦うなら戦うでさっさと始めてくれないかな」

 それは冗談を言っている声でも表情でもない。それまで記憶していたモノと一切当てはまらない本気の言葉。それに加えて向けられたこともない苛立ちも感じてスプラッシュは槍を握りしめて耐える。

「何故そんな事を仰るのですか! 私がスプラッシュとおわかりになられていないのですか!?」
「スプラッシュウーマンなら知って……、また来た。しつこいな」
「バブル様!?」

 バブルが振り返る方向には新たな応援部隊が船で乗り入れてきた。するとスプラッシュを無視してバブルは勢いよく潜り高速で移動した。その速さにスプラッシュは言葉を失う。いままで見てきたバブルとは別の機体に見えた。すべてが同じであるのに関わらず。
更には、バブルが海中から勢いよく飛び出して船上に飛び乗ったのが見えた。そこから甲板をかけて争う音が聞こえてくる。

「自力で歩いて……」

 決定的な違いがいくつもわかって茫然とその様子を眺めていた。甲板に出たバブルは陸上用と大差ない動きで暴れていた。今までなら到底信じられない光景。
 そしてまた最後に爆発を起こして海へとバブルが帰ってきた。

「あれ? 君、まだ居たの? どうする? やっと戦うの?」
「今回は、戦いません。バブル様とはお別れのようですから」

 そう宣言してから最後のバブルの記憶を思い出してすべてを理解した。当時、意味がわからなかった言葉も痛いほど理解できる事に悔しさを覚える。

『バブルマン! そろそろ引き上げるぞ!』

 海上に響いた声にDWNの船からいつものウェーブマンが叫ぶのが見えた。バブルマンは手を振って応え、スプラッシュに向き直る。

「次はこの私が討ち取って見せますわ、バブルマン」
「へぇ……、むさ苦しいのに言われるよりいいね。楽しみにしてるよスプラッシュウーマン」

 クスリと笑ってからDWNの船へと高速で移動していく。その様子をスプラッシュは寂しそうに見送っていた。


-----------------
DWNが出揃った後の話。
FCからPSへ移植されるように。
旧型から新型へ。

初出 2013.3.16
修正 2018.1.23
×
「#年下攻め」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -