▼ 水玉世界
 その日は朝から曇天。降りそうで降らない。

 比較的少数の一団を率いてのグラビティーマンとクリスタルマンによる任務も雨が降る前に終了した。勿論、気象データや周辺の気圧変化から逆算して任務を終わらせている。
 そして、帰還するためトレーラーなど運搬用の機械周辺へとまとまり始めた頃、クリスタルマンが不意に足を止めて空を見上げた。それに反応して近くを歩いていたグラビティーマンも立ち止まり、クリスタルマンを見る。
 空は、いつ雨が降っても驚かない程に暗く重たそうに雲を抱えていた。

「何してるの? 帰るよ?」
「雨が降りますね」

 その一言でグラビティーマンが嫌そうな顔をする。するとまるで示し合わせたかのようにクリスタルマンの言葉通りに雨がポツポツ降り始め、他のロボットたちの足取りも更に速くなっていた。
 グラビティーマンは、少し忌々しげに空を見上げる。任務前に天気がわかっていたので、軽い防水は問題ないが、クリスタルマンの予知したような言葉が気に食わなかったらしい。

「もう少し持つかと思ったけど、気圧がコレじゃ仕方ないか」
「すぐに雨脚が強くなるはずですから、行きましょう」

 クリスタルマンの言葉にグラビティーマンは更にムッとして「僕だってわかってるから」と意地を張ったような言葉を投げて走り出す。クリスタルマンも慣れているのか特に反応も返さずため息のような動作をしてから追いかけた。足の速さは、クリスタルマンが断然上なので少しぐらい遅れてもすぐに追い抜く。
 そして、2機が駆けていると周囲に打ち付ける雨の音が激しくなり、いよいよ本格的に降ってきた事に気付かされるが、2機の機体はそれほど汚れていなかった。強いて言うなら、足元の泥跳ねぐらいなもの。
 ついにクリスタルマンが違和感を覚えて再び足を止めた。するといつの間にか少し後方を走ってたグラビティーマンも足を止める。

「雨が降ってますよね?」
「それがどうかしたの?」

 周囲は、確かに雨が降っている。地面にも雨が強く打ち付けているのがわかる。でも問題は、クリスタルマン自身の機体がほとんど濡れていないという事。更には後ろを振り向き、グラビティーマンを確認しても同じ事だった。

「どういう……」
「何が? さっさと行こうよ。雨って面倒だから」

 そう呟いて進む事を催促するグラビティーマンに首を傾げるクリスタルマン。そして、不意にグラビティーマンの頭上が視界に入り、驚いてまた見上げた。
 そこには大きくなった球体の水が複数浮かんでいて、降ってきた雨を吸収して今も大きくなり続けていた。吸収できなかった雨もグラビティーマンにぶつかる事なく、一定の距離で水の球体となり浮かび上がっていく。まるで絵本のような、おかしな光景が広がっていた。

「立ち止まると支える水の量増える一方だから走ってくれない?」
「……貴方は、いつから水のロボットになったんです? いい加減にしてください」
「変な事言わないで。早く走ってよ」

 クリスタルマンが呆れたように言えば、グラビティーマンも淡々と返すのみ。雨の音だけがうるさく聞こえる。
 何かを諦めたようにクリスタルマンが走り出すと、同じようにグラビティーマンも走り出し、支える範囲が変わったからなのか、大きな水の塊が後方で落下して水しぶきをあげていた。




初出 2013.1.19
修正 2016.11.14/2021.10.5 重力話
×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -